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走り抜けた先にて

 門の上から飛び降りて、俺は霧の中へとゆっくり進んでいった。

 以前の堕精霊による濃霧ほどの霧ではなく、足元にうっすらとかかる程度の霧だ。

 それでも注意して進まなければいけないのは確かだろう。

 それがどういった能力なのか、まだ理解しているわけではないのだから。


「エレインっ!」


 後ろから声をかけてきたのはミリシアであった。

 門を飛び降りてから数分だが、彼女ほどの俊足であれば歩いている俺にすぐに追いつくのも当然か。


「ミリシア、来たのか」

「何よ。来てほしくなかったの?」


 俺がそう言うと彼女は少しムッとした表情をした。


「来てほしくないわけではないがな。少し危険な場所になる」

「どこにいても危険よ。国の外なんだから」


 ここはすでにエルラトラム国外だ。

 この先の平原や森は魔族が潜んでいる可能性のある場所となっている。もちろん貿易のために道が開拓されているものの、夜の今は衛兵がいるわけでもないため危険だ。


「門の外に出てしまったのなら仕方ない。二人で進むか」

「ええ、そうね」


 そう言って俺とミリシアは先に進んでいく。


 門の中に入っていった魔族で最後だったようで、外にはいなかった。

 五〇体の魔族も多い方だとは思うが、それでも千を超える軍勢とは程遠い。

 もしかすると、この先に駐屯していると思われる聖騎士団がなんとか踏み留めているのだろうか。


「北の方に前哨基地があると言っていたな」

「そうよ。確か聖騎士団がそこで魔族の動向を調べるみたいだからね」


 前もって千を超える軍勢と聞いていれば、少しでも相手の情報を手に入れるために調べようとするのは自然なことか。

 だとしても関所のところまで魔族が攻め込んでくることは不自然なことだ。

 五〇体もの団体がいればその基地が気付かないはずがない。


「どちらにしろ、その前哨基地へと向かう必要があるな」

「私たちが作戦を考えている間に魔族が動き出したのなら、大変なことになるからね」


 ここまで早く魔族が動くことは不自然だが、ありえないわけではない。

 俺たちは急ぎ足でその基地へと向かうことにした。

 ミリシアの案内は非常に正確なもので、森の中だろうと迷わずに道を進んでいく。

 彼女の方向感覚は非常に優れている。地図を一度見ただけですぐに覚えることができるのだ。

 人間離れしていると言っても過言ではない。


 それから数十分後、剣撃の音が聞こえてきた。

 それは激しさを増しており、普通の戦いではないことは明らかだ。


「かなり激しいわね」

「そうだな。激戦だな」


 音からして伝わってくるこの迫力はやはり千の軍勢と戦っているのだろうか。


「とりあえず、行くか」

「ええ」


 そう言って俺たちは走り出した。

 森を抜け、視界が晴れるとそこには基地があった。


「動くなっ!」


 すると、木の裏に隠れていた男が飛び出してきた。


「……もしかして、エレインか?」


 どうやら彼はアドリスのようだ。

 以前、学院が狙われた時に応援に駆けつけてきてくれた聖騎士団の一人だ。

 実力の高い人だと聞いているが、今の彼は動きが鈍っているように見える。


「ああ、エルラトラムの北の門に魔族が五〇体ほど来ていたからな。それでここまで来たんだ」

「北の門……。まさか、ここを突破して向かった魔族がいるのかい?」

「おそらくだが、この霧のせいだろうな」


 先ほどから足元に漂っているこの霧が視界や方向感覚を妨げているのだろう。


「あの人たちが関係しているのかもしれないな」

「それより前線はどうなっているんだ?」

「なんとか押し留めている感じかな。でも長くはもたないかもしれないね」


 そう言っている彼だが、持久戦においてはこちらの方が優位に立てていると踏んでいるようだ。

 とは言っても相手は魔族、侮れないのは事実だろう。


「俺たちも前線に加勢しようと思うんだが、大丈夫そうか?」

「ちょうど団長も来ていることだし、許可は取れるはずだよ」


 ブラド団長も来ているのなら俺たちが動いても問題はないか。

 流石に許可なく俺たちが魔族を蹴散らすのは法律違反だからな。


「前線はかなり混戦状態だから、気をつけてね」

「ああ」


 そう忠告してくるアドリスは横腹を押さえていた。

 どうやら深傷を負った状態で前線の背後を見張っていたのか。


「えっと、アドリス隊長だったよね? 怪我の方は大丈夫なの?」


 すると、俺と同じことを考えていたミリシアが彼に声をかけた。


「気にしなくて大丈夫だよ。傷は塞いでもらっているからね」

「聖剣で治せるのは外傷だけだ。すぐに内側まで綺麗に治ることはない」

「そうだよ。あまり無理はしないでね?」


 ミリシアも俺に続いて彼に声をかける。

 もちろん外傷を防ぐだけでも出血は抑えられるが、内側の痛みまでは治るわけではないからな。それに無理に動けば傷口が広がることだってある。


「……心配してくれてありがとう。でも、後衛を任されているわけだからね」


 まぁ任務に忠実な彼ならそういうだろうな。

 あまり負担をかけないためにも俺たちが前線で魔族を押し返す必要があるだろうな。


「気にするな。俺たちが来た以上、後衛が動くことはない」

「そう言ってくれると嬉しいけどね」


 彼は少し微笑んでそう言った。

 その様子を見て俺は急いで前線へと向かうことにした。


「じゃ、ゆっくりしててね」


 ミリシアもそう言って俺の後を追うように付いてくる。


 それから前線に着くと、やはり魔族が押し寄せていた。

 もちろん、聖騎士団が押し留めているためかなり勢いが弱まっている様子ではある。


「ものすごい数だね」


 そうミリシアが言うように見ただけでも数百体ほどの魔族がいる。

 俺は前線で戦っている人たちに目を向けて団長を探してみることにした。すると、右翼に展開している聖騎士団を支援する形で団長が自らの分身を放っていた。


「えっと、団長はあそこだよ」


 ほぼ俺と同時に見つけた彼女は団長を指差した。


「一応、彼に許可は取った方がいいな」

「うん」


 そう言って俺たちは団長の元へと向かった。


「ん? どうしてここにいるんだ」


 俺たちが近づくと彼はすぐに気がついた。


「団長。詳しいことは後で説明するから、私たちに戦いの許可をくれるかしら」

「……ここに君たちが来ることは想定外だったが、いいだろう」


 そう言って彼は戦ってもいいと許可を出してくれた。

 これで俺たちが暴れても問題はないことになった。


「戦ってもいいが、左翼の援護を優先して欲しい。先ほどから魔族の勢いが増しているからな」

「そのようだな」


 俺が音を頼りに聖騎士団の戦況を把握したところ、確かに左翼の防衛が弱まっているのは明らかだ。


「とりあえず、向こうに向かおうか」

「そうね」


 それから俺たちは左翼の援護へと向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


更新が遅くなってしまい申し訳ございません。

この後、エレインとミリシアはどう魔族を退けていくのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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