新たなメイドと入学時評価
翌朝、予定通りにユレイナとブラドが派遣して来た俺の専属メイド、リーリアが来た。
アレイシアはユレイナにこの家の案内をしてくれているが、リーリアはそれを断り、直接俺の部屋に来た。
「今日からエレイン様のお世話を担当することになりました。リーリア・ユーグラシアと言います」
部屋をノックして入って来たリーリアはそのように挨拶した。
セミロングの茶髪で垂れ目が特徴的な女性だ。俺よりも一段低い小柄な体格だが、どこか大人らしさを醸し出している。
今はフラドレッド家の指定しているメイド服を着ているため美しい姿であるが、服装によっては可愛らしさに変わるような顔立ちをしている。
そんな美しい所作と容姿をしているが、どこか不自然さがある。俺や観察力に優れた人でなければ気付かないであろう小さなことだ。
気になっているだけでは何もわからないので、俺は聞いてみることにした。
「元は剣士か?」
剣士かどうかは行動を見ればわかることだ。それにユレイナよりも荷物が多かったことも判断材料だ。
手はよくきれいに保っているため、今は剣をあまり握らないのだろうか。
「……はい。メイドということで美しく綺麗に見せれるよう練習してみたのですが、やはり不自然でしょうか」
リーリアは少し申し訳なさそうにこちらを見つめた。
「いや、不自然ではない」
「それはよかったです」
すると笑顔でそう答えた。
「今も剣士として活動したりしているのか?」
「お聞きになられたと思いますが、ブラド団長主導の公正騎士として活動しています。こうしてエレイン様のメイドに扮することで議会からの保護を目的としています。どうかご理解のほどよろしくお願いします」
そこまで詳しく聞かされていなかった。アレイシアが言っていた手段ということはこの公正騎士ということなのだろう。
議会の権力による圧力から俺を守ってくれる存在として派遣されて来たということだ。
その点に関してはとてもありがたいことだ。
「悪いが、まだ詳しく聞いていないんだ」
「ブラド団長から説明を受けていないのですか?」
「ああ」
「そうでしたか」
そういうと、リーリアは大きなスーツケースから二対の短剣を取り出した。
「これはエレイン様の剣と同じで魔剣になります。私たちは議会の権力や決定によって人類が不利益にならないよう議会に対抗するという立場です。エレイン様を不当な目的で利用しようとする議会から守るために私、公正騎士が派遣されました」
どうやら議会や聖騎士団から独立した騎士がいるということ、そしてその騎士は議会に対抗するために行動している。
強い権力には強い抑止力が必要になってくる。その抑止力となっているのが、この公正騎士ということなのだろう。
「なるほど、確かに聖剣に対しては魔剣が一番有効な手段だな」
「ええ、魔剣を持っているのはこの国で私とエレイン様を含め、あと一人います。その人も公正騎士として活動していますよ。ただ、それも私が知っている限りですが……」
このリーリアという女性は信用しても良さそうだ。団長主導ということもあり、議会から俺を守るようにと命令されているのだ。ブラド団長には俺も信頼している。そしてアレイシアもこの人を信用しているとなれば、俺も信じなければいけないだろう。
人を信じなければ頼ることもできないからな。それに彼女が知らないだけで、俺が持つ魔剣が他にもあるとのことらしい。まぁあったとして手にすることができる人がどれだけいるかは全く想定できないが。
「そうか、信用する」
俺はそう言ってリーリアの目を見る。
「……信用してくれて嬉しいです」
リーリアはそう言っているが、その目はこちらの真意を見抜こうとする目をしている。
「それならよかった」
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか」
ずっと疑問に思っていた何かを直接聞くようだ。
「答えられることであれば答える」
俺はそう返事すると、リーリアは一呼吸置いて口を開いた。
「エレイン様はどこまでお強いのですか?」
「どうしてそんなことを聞くんだ」
「議会がエレイン様を調査していることは知っています。ブラド団長もそれに気に掛けておられることも知っています。ですが、私にはエレイン様にそこまでの価値があるのかわかりません」
俺にどこまでの価値があるのか、それを知りたいようだ。それは俺にもわからないことだ。議会がどのように評価し、俺を手駒に加えようとしているのかは第三者からはわかりようがない。
「すまないが、俺にも自分にどれほどの価値があるのかわからない」
「では、私はエレイン様の何を信じればいいのでしょうか」
「それはこれからわかってくることだと思う。今は団長に言われた通りに信じてみるしかないだろうな」
簡単に人を信じることは難しい。しかし信じてみるということなら誰でもできることだ。
「そうですね。私もまだまだわからないことだらけですし、エレイン様のことは接していくうちにわかってくることなので気長に待ってみます」
「そうしてくれ」
「わかりました。私はこの隣の部屋にいますので用がありましたらお声掛けください」
そういうと、二対の短剣をスーツケースにしまい、部屋から出ようとする。
「それでは、失礼しました」
一礼して、リーリアは部屋を出る。
こうして接している分には問題ないように思えるが、俺の何かを探ろうとしているのは事実だ。これが議会から派遣された人ではないからその点は大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、美少女が俺のベッドに座り込んだ。アンドレイアは真剣な顔をして俺の方を向いた。
「殺気は感じられなかったな」
「そうじゃな、しかし要注意人物なのは確かじゃ」
アンドレイアの言う通り、要注意人物ではあるか。公正騎士といえど、人間には変わりない。リーリアを介して議会に情報が漏れる可能性もないわけではない。
「スパイのような人には見えなかったがな、用心しておいて損はないだろう」
「お主以外信用していないわけではないが、リーリアは特に信用できないのじゃ」
「どうしてだ?」
「あの魔剣はスレイルと呼ばれるものじゃ。そいつは人の精神につけ込むような奴でな。それを扱っていると言うことはリーリア自身も相当な精神力を持っていることになる」
どれも同じだが、聖剣などを扱うにはその剣の性質に耐えられる強さがあると言うことだ。それは魔剣でも変わりはない。
魔剣の場合は少し特殊だが、基本的には聖剣も魔剣も精霊に自分の強さを認めさせる必要がある。
「まぁ考え過ぎるのも良くないからな。今は様子見だ」
アンドレイアは軽く頷いた後、俺の部屋をみた。
「それにしても、この部屋は住み心地がいいの。特にこのベッドは二人にはちょうどいいではないか」
「お前は剣の中で十分だ」
「ワシとて外で伸び伸びと過ごしたい気分だってあるのじゃよ? こんな美少女の悩みぐらい聞いて欲しいものじゃの」
アンドレイアはそう呟く。
その言葉を聞いて俺はため息を吐いた。
「イレイラを見習ったらどうだ? 俺はこっちの方が好きだ」
そう言って俺はもう片方の聖剣を両手で大切そうに持つ。それをみたアンドレイアは唇をぎゅっと結んだ。
「そやつは頑愚な奴じゃ。内心では尾籠なことを考えておるに違いない」
「そうだとしても言わないだけマシだ」
俺がそう言うとアンドレイアは不満げな音をあげる。
「……まぁこうしてお主と触れ合えるのはワシだけじゃからの。ゆ、許してやることにしようかの」
俺の腕を掴むと、そう自慢そうに言う。
なんとも正直で面白い精霊だ。アンドレイアはこうして話をしてわかることがあるが、イレイラは姿を見せていない。それは精霊の掟を破ることではあるが、気になることは確かだ。
それからエルラトラム高度剣術学院への入学の準備が始まる。入学には初めに評価を決めるための試験があるそうなのだが、それに関しては受けなくてもいいと言うことになった。試験を受けたことで俺自身の情報が他人に漏れることを危惧したからだ。
そして与えられた評価は平凡以下、全学生一二〇人中、一〇八位のと言う低い順位に決まったようだ。
高度剣術学院は四つの学級に分かれており、それらは順位に関係なく属性によって振り分けられている。
俺が振り分けられた学級はBクラスだ。この学級は直剣の聖剣を持っている生徒が多くいる。そして、珍しいとされている二本の聖剣使いもここに振り分けられるようだ。
俺の剣で主に使うと登録しているイレイラは曲刀に分類されるのだが、もう片方あるため順位が低くてもこの学級になったようだ。聖剣の二刀持ちはごく一部の人にしかできないと言われている。しかし、一部だからと総じて実力が高いことはない。
そして、俺はフラドレッド家の養子ではあるが、フラドレッド流剣術を学んでいたわけでもない。
それなら俺のこの順位は不自然なことでもないようだ。
こんにちは、結坂有です。
入学時の順位が確定したようです。
エレインにとっては低い順位のように見えますが、周りの目からすればそうでもないようです。
それでは次回もお楽しみに。
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