研ぎ澄まされる剣士たち
エレインが学院に向かってしばらく経った後、ミリシアである私とアレク、レイ、ユウナは訓練場を借りることにした。
この家の訓練場は一般的なものと比べると広い。四人で戦闘訓練をしたとしても問題ないほどだ。
私たちがどうしてこの訓練場を借りることにしたのかというと、今後来るであろう魔族の襲撃に対して私たちの戦闘力を強化する必要があるからだ。
もちろん、レイ以外は魔族と戦ったことがほとんどない状態だ。
「それで、魔族はどういった戦い方をしてくるのかな?」
アレクがレイにそう聞く。
しかし、彼にそういった戦術的なことを聞くのは野暮と言えるだろう。
彼はそういった知識には疎いからだ。
「俺にもわかんねぇよ。ただ、直感で動いてくるって感じだった」
「直感……。僕も前線で戦ったことがあるけれど、似たようなものだったね」
「型があるようにも見えなかったしよ。とりあえず、力任せに攻撃してくるって感じだったな」
どうやら魔族はそこまで頭がいいわけではないということね。
以前、施設で魔族を誘導させた時も直感で動いていたように思えた。
「なるほどね。私が見た魔族は知恵があるようには思えなかったけれど、それはどうなのかな?」
「中には賢い奴もいるんじゃねぇか? 隠れて奇襲を仕掛けてくる奴もいれば、間合いをしっかりと取って戦う奴もいたからな」
魔族の中には司令塔のようなものもいるのだろうか。
確かに宰相と出会ったあの魔族はそれなりに知恵を引き出せる能力を持っていたように思える。
集団で動く以上、率いるものが出てくるのは当然のことだろう。
「じゃ、指示しているリーダー的な魔族を倒せば千体だろうと瓦解するかもしれないね」
「そうね。ただ、それをどう判別して倒すかだけど……」
「一体一体倒せば問題ねぇだろ」
そうレイが言う。
全員倒せばその中に司令塔がいるかもしれない。とはいえ、私たちが千体を相手にして勝てる保証はどこにもない。
「千体の軍勢に僕たち四人が戦うのはいくらなんでも無謀だよ」
「そうかよ」
レイが言えば本当にそうなりそうな気がする。
とは言っても数の暴力は強力だ。そう簡単に数の差を埋めることはできない。
「まぁこっちだって作戦を組めなくもないからね。四人だと臨機応変に動けるわけだし、色々と動きやすいわ」
「そうだね。簡単な作戦でも相手に有効打を与えることができそうだ」
「……と、とりあえず、訓練を始めませんか?」
アレクがそう言った直後にユウナが口を開いた。
彼女が言うように訓練をするためにこの場所を借りた。話し合いなら地下の部屋でするべきだろう。
「うん。話し合いは後の方がよさそうだね」
「じゃ、まずユウナからね」
「え? 私ですかっ?」
「いいぜ? 俺が相手してやる」
「レイさんが相手なんて……。即死ですよ」
彼がそういうとユウナは涙目で私の方を向いてくる。
確かに訓練相手がレイだと吹き飛ばされてしまうかもしれないわね。でも、魔族相手にはそうは言ってられない。
ここは少し厳しいかもしれないけれど、彼女には頑張ってもらう必要がある。
「頑張って」
私はそういうとユウナは渋々と剣を引き抜いて構えを取る。
「やる気だな? 来いよっ!」
そういうとレイは大きく太い刀身の剣を引き抜いて防衛の構えを取る。
もちろん、ユウナは少し萎縮しているわけだけどそれでも構えが崩れることはなく、剣先をしっかりと相手に向けている。
「い、いきますっ!」
「おうっ」
すると、ユウナが駆け出した。
かなり高速だが、アレクやエレインほどは洗練されていない。
当然レイは得意な弾き飛ばそうとする。
「ふっ」
太い刀身がユウナのショーテルを掠める。
彼女の武器は頭身が大きく湾曲しているため、力を受け流しやすい構造となっている。ただ扱うのは非常に難しい。
「あまいなっ!」
レイの重たい剣が信じられない速度で方向を変えてきた。
「なんでっ!」
もちろん、それを受け止める術がないユウナは横腹に強烈な一撃を受けるのであった。
ゴスッと鈍い音を立てながら、ユウナが吹き飛ばされる。
「大丈夫?」
私は吹き飛ばされたユウナのところへと向かった。
すると、体を起き上がらせて彼女は剣を持った。
「……はいっ、まだ戦えます」
「立ち上がれるの?」
「これぐらい、平気ですっ」
そう言って踏ん張るように彼女は立ち上がった。
その様子を見てレイが口を開いた。
「俺は別にかまわねぇけどよ」
二人がまだやる気ならやらせる方がいいかもしれない。
ユウナはそこまで戦闘に慣れているわけではないが、レイのような好戦的な戦い方を相手に訓練を続けるのは彼女にとって上達の一歩になるだろう。
「いいわ。レイ、もう少し手加減してあげて」
「あれでも手加減したつもりだぜ?」
「そう、じゃあもっと手加減して」
「おうよ」
そういうとレイはまた剣を上段の構えを取った。
「休憩は自由にね。訓練なのに体を壊したら意味がないからね」
「はいっ」
彼女はゆっくりとだが姿勢を整え、剣を構え始めた。
曲刀という変わった武器ではあるものの、姿勢は非常に美しく力が一番入りやすい構えをしている。
そして、またレイに突撃した。
「エレインと似てるわね」
「そうだね。あの構えは非常に似ている」
どうやらアレクも同じことを思っていたようだ。
話によればエレインと同じ訓練を受けていたと聞いていたが、構えまで同じになることは珍しい。
もしかすると、彼女にも私たちに負けないぐらいの才能があるのかもしれない。
「それにしてもアレク、二人でこうして訓練をするのは久しぶりね」
「うん、僕も強くなっているとは思うけど」
そう言って彼も剣を引き抜くと構え始めた。
しっかりと私の弱点を見極めているようなそんな目で私を見つめている。
「相変わらず、相手の弱点を探るのが得意なようね」
「攻撃は一瞬、防御は刹那。そう言ったのは君だよ」
「よく覚えているわねっ」
そう言って私は突撃を始めた。
エレインほど素早くはないけれど、それでも自分の中では今までで一番速いと思っている。
そして、相手の間合いに入ったと同時に剣を引き抜く。
「はっ」
アレクが体勢を低くして、剣を下段に構える。
抜刀での攻撃で一番弱点となりやすいのは下半身、鞘から抜く動作が入るため下段の防御が遅れるからだ。
その刹那の遅れすら、彼は弱点とみなし狙ってくる。
それは地下施設の頃から変わっていない。
「んっ」
私が剣を引き抜くその直前に体を硬直させる。
すると、自然と体が前傾姿勢に入る。
慣性を持たせた上半身だけが相手の間合いに入る。
「っ!」
片手で引き抜いた剣はアレクの脇腹へと、急所へと向かっていく。
もちろん、想定していなかった攻撃に彼は一瞬だけ反応が遅れる。
ガゴォン!
しかし、私の攻撃をアレクは左足を上げて受け止めた。
細い剣だが、分散という能力を用いてハンマーのような強烈な一撃にした。それでも彼の姿勢を崩すことに失敗してしまった。
「その足、どれだけ強いのよっ」
「悪いけど、剣術だけで勝つようなことはしないよ」
以前のアレクとは戦い方が違う。
明らかに勝つことに執着した戦術だ。利用できるものは全て使う。そういった意志が彼から滲み出ている。
「くっ、そうねっ」
私は足を大きく踏み出して、倒れる上半身を支えた。
非常に低い体勢になりながらも体を回転させ、アレクに追撃をする。
「ふっ」
それでも彼に刃が届くことはなかった。すでに彼は宙に浮いていたからだ。
「これでどうかなっ!」
空中から剣を突き立てて、私に突き刺してくる。
しかし、それを私が細い剣先で受け止める。
「剣捌きは変わらないね」
「それはどうもっ」
足の位置を整えて、体勢を戻すとまた振り出しに戻る。
エレインにはまだ届かない。
彼に少しでも近づくためにも私は彼らと共に精進しなければいけない。
何よりも、エレインを危険から守るためにも私が力を身に付けなければ意味がないのだから。
こんにちは、結坂有です。
エレインに少しでも追いつこうとするミリシアとユウナですが、今後どれだけ強くなるのでしょうか。その点も見所です。
さらにレイやアレクも進化していくようです。果たして彼らはどこまで強くなるのか、また今後どう活躍していくのか、気になりますね。
そして、今回にてこの章は終わりとなります。
次回からは魔族との戦闘を中心に話が進んでいきますので、よろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きも発信していますので、フォローしてくれると助かります。
Twitter→@YuisakaYu




