久しぶりの学院生活
一日空いただけなのだが、なぜか学院生活が久しく感じる。
以前ここに自警団が襲撃してきてから一日で復旧できたようだ。
割れた窓ガラスや剥がれたタイルなどは一見すると見当たらない。
すると、担当の教師であるルカが教室に入ってきた。
「昨日は少し奇妙な事件が起きたが、聖騎士団のおかげもあってか被害が少なく済んだ」
そう言って彼女は教壇に立った。
確かに聖騎士団の援護がなければ、もう少し怪我人が増えていたことだろう。
「それにしてもエレイン、お前は本当にすごいな」
「……」
「あの二〇人ほどの集団を一人で倒すとはな」
「「っ!」」
ルカのその一言で教室の雰囲気が一気に変わった。
生徒たちが一斉に俺の方を向く。
あまり言って欲しくはなかったのだが、こうしてみんなの前で言われてしまっては隠しようがない。
「さすがはフラドレッド家の養子といったところだな」
このルカという教師は俺のことをどこまで知っているというのだろうか。
まぁそのことに関しては考えるだけ無駄だ。
真相はいくら考えても意味がないからな。
「監視カメラか?」
「ああ、そうとも。後ろのメイドも頑張っていたようだが、前衛で相手にしてたのはお前だろ?」
「……確かにそうだな」
「ただな。実力は発揮しなければ意味がない。わかるな?」
力があるのにそれを使わないでいるのは無意味だからな。
俺も隠したいからそうしているわけではないのだが、まぁ教師であるルカにはわかりようがないことだ。
「……」
「まぁどちらにしろ、他の生徒たちにもエレインを超えるような実力を持った生徒がいると嬉しいのだがな」
ルカがそういうと他の生徒たちは騒ぐのをやめた。
多少頑張ったところで俺を超える実力を持った生徒が出るとは思えないが、きっかけとしては十分かもしれないな。
「では、午前の授業と行こうか」
そういうと彼女は黒板に授業の内容を書き始めた。
今日の内容はどうやら型の相性についてのようだ。
そして、授業が終わるとすぐにリンネが話しかけてきた。
「あんた、本当にあの集団を片付けたって言うの?」
「……まぁそうらしいな」
「そうらしいって、自覚ないの?」
「そこまで意識することはないだろ」
俺とて全てを把握しているわけではない。二〇人ほどいたのは確かだが、正確な数まではわからない。
それにリーリアも何人か倒していたことだしな。
「そうだけど、あんたぐらいなら数えながらでも戦えるでしょ」
「できるかもしれないが、無駄なことだろ」
そんな会話をしていると他の生徒たちも近寄ってきた。
「エレインってほんとすごいんだね!」「我流だからって侮れないな」「それによく見てみればかっこいいよねっ」「どうしよ、セシルと付き合ってるのかなぁ」
周囲の生徒たちはいろんな想像を膨らませながら俺たちの会話に混ざろうとしている。
しかし、どう話しかけたらいいのかわからないでいるようだ。
確かに今までほとんど話してこなかったからな。無理もないだろう。
「エレイン、ちょっといいかしら」
そう言ってセシルが話しかけてきた。
「どうしたんだ?」
「お昼、一緒にどうかしら」
「別に構わない」
「そう、じゃいきましょうか」
俺はゆっくりと立ち上がり、セシルの元へと向かった。
それに合わせるようにリーリアも付いてくる。
生徒の視線を避けるように俺たちは食堂へと向かっていく。
食堂に向かうとすでに何人かの生徒が食事を楽しんでいた。ここも襲撃の際に荒れた場所だったのだが、何事もなかったかのように復旧されている。
俺とリーリアは弁当だが、セシルは食堂で定食を頼んでいた。
それから席が空いている場所へと向かった。
「はぁ、私も知っていたことだけど、本当に集団を一人で倒すなんてね」
「それに関してはリーリアも戦っていた」
「私はエレイン様の後ろを守っていただけに過ぎません。事実、八人程度しか倒せていませんから」
リーリアは俺の戦績を誇るようにそう言った。
「それはそれですごいけど……。ほんと二人には驚かされてばかりだわ」
「そうなのか」
「だって、普通集団を一人で相手にするのって難しいことなのよ?」
対複数戦では敵の数が増えるほど手数が減っていく。そのため、乗数的に難しくなっていくものだ。
しかし、俺はそれを無視することができるからな。
「難しいことかもしれないが、特に気にしていない」
「……ほんと、例外ってあなたのことを言うのね」
それは自覚していることだ。
すると、周囲の生徒が俺の方を向いてはひそひそと会話を始めた。
まぁどういった内容なのかは想像できなくもないがな。
「ほんと、変な噂とかされたら困るでしょ?」
「逆に俺がそう聞きたいと思っていた。さっきの話で俺たちが付き合っているのかと想像していた人がいたからな」
「付きあっ……。付き合っているわけではない、わよね?」
顔を真っ赤にしながらもそう聞いてきた。
「付き合ってはいないんじゃないか?」
「そう、よね。そうだよね」
何か自分に言い聞かせるようにセシルはつぶやいた。
お互いが告白し合ったわけでもないからな。別に付き合っているわけではないだろう。
いや、告白がなくても付き合うことはあるか。
俺もそのことについてはよく知らないからな。今後、学院生活を通してゆっくりと学んでいけばいい話だろう。
「……もしかしてだけど、リーリアと付き合ってるの?」
「っ!」
「彼女はただのメイドだ。そういった関係ではない」
俺がそう言うとリーリアは少し悲しそうな表情をした。
好きでもない人と付き合っているなどと言われたら彼女も困るだろうに。
「それならよかったわ」
「……よかった、それはどういうことですか?」
「なんでもないわよ。意識し過ぎじゃないかしら」
そう言ってリーリアとセシルは睨み合っていた。
別に喧嘩をしなければどんな話をしても構わないのだがな。俺も立場上、巻き込まれたらアレイシアに色々と追及されそうだからな。
「よお! セシル」
「……馴れ馴れしく呼ばないで」
俺が知らない人がいきなり俺たちに話しかけてきた。
「知っているのか?」
「隣のクラスで上位だった人ね。名前はミゲルよ」
「おい、無視すんなよ」
そう言って俺とセシルの間にミゲルが割って入ってきた。
「近寄らないでくれるかしら。私はあなたとは相性が悪いの」
どうやら以前に話をしたことがあるようだ。
もしかするとパートナー探しの時に知り合ったのだろうか。
「相性なんてもんは付き合ってから決めるもんだろ?」
「悪いが、俺から見ても悪そうに見える」
セシルが困っているように見えたから、俺はそう否定して見ることにした。
「あ? お前に何がわかんだよ?」
「ほとんどわかる。足捌きからして下段を主体とした戦い方をしているのだろう。そして、携えている剣の形状からしておそらくは奇襲型の剣術、正面で正々堂々と戦う彼女の闘い方とは全く違う」
「っ! 俺のことを調べてやがったのか?」
「いや、今見てそう判断した」
相手の武器はダガーだ。下段で短剣を使うとなれば、奇襲型の剣術になるの容易に想像できることだ。
「なぁセシル、こんな嘘つきに付き合ってる暇なんてないだろ」
「嘘つきではないわ。それに、彼は先日の襲撃で二〇人ほど倒しているのよ。それでも嘘つきだと言い切れるかしら」
「たまたまに決まっているだろ。所詮、集団戦なんてもんは混戦になってしまえば運が絡んでくる」
「確かにそうかもしれないわね。けれど、無傷だったのは強いということよ」
セシルがそう言ってみるものの、確かに運が良かったと言ってしまえばそれまでだ。
「じゃ俺と戦ってみろよ。間抜け」
「エレイン、こんな相手と戦うのはやめておいた方がいいわ」
「セシル、俺と戦うのが怖いのか?」
「いいえ、怖くないわ」
「なんで断るんだ? 怖くないなら受けてみろよ」
そう挑発してくる彼は何か確信のようなものを持っているようだった。
まるで自分が絶対に勝てると言ったそんな自信が彼の目から窺える。
「まぁ受けてもいい」
「へっ、この勝負に受けた時点でお前らは負けたも同然だがな」
一体何のことだろうか。
そう言って彼は満足そうに踵を返した。
「だったら明日の放課後でどうだ?」
「……ええ、いいわ」
セシルが俺の方を向いて確認しながらそう答えた。
「決まりだな。じゃまたな」
彼は何か悪そうな笑みを浮かべたまま歩き出していった。
何を企んでいるのかはわからないが、気にすることはないだろう。
「本当にいいのかしら。あの人はどんな手段を使ってくるかわからないわよ?」
「奇襲型、だったな。どんな奇襲だとしても俺は負けることがないからな」
「……エレインのその自信はどこから来るのかしら」
「事実だから、だな」
俺がそういうとセシルは小さくため息をついて頬杖を突いた。
彼女に足りないのは自分に対しての自信だからな。
自信が付けば、彼女はより早い剣撃を繰り出すことができるだろう。それもミリシアと同等の速度を身につけることになる。
今のセシルの実力からしても決してあり得ない話ではないのだ。
それから、俺たちはゆっくりと昼食を楽しむのであった。
こんにちは、結坂有です。
これから学院での勝負が始まるそうです。
一体どういった戦いになるのでしょうか、それにミゲルは一体何を企んでいるのでしょうか。気になりますね。
それでは、次回もお楽しみに。
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