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霧の中の正体

 未だ濃霧が続く中、警戒しながら僕とレイ、ミリシアとで進んでいく。

 ミリシアはどうやらエレインを探しに行く途中だったようで、僕たちが向かうところは精霊の泉へと決まった。


「それにしてもこの霧は収まりそうにないわ」

「何か攻撃の意思は感じるんだが、手出しはしてこないようだね」


 針の先が背中をなぞるような感覚に僕たちは嫌悪感を示しつつも、解決するすべがないまま泉のところへと向かっていく。

 数歩先すら見通しが悪い濃霧の中、真っ直ぐ進んでいるのかわからないほどだ。


 土地勘に優れているミリシアは迷うことなく道を進んでいく。

 僕とレイはそれに合わせるように進んでいくことにした。

 彼女と合流した以上、僕たちが向かうべきところはこの紙に書かれた場所ではないのだから。


「ほんと、霧が鬱陶しい」

「ちっ、うぜぇことしやがるぜ」


 言葉に出るほどの大きな舌打ちをしたレイは相当苛立っているように感じる。

 かれこれ数分はこの霧が続いたままだ。

 気候のそれではないことは確かなため、これは誰かが意図的に僕たちを迷わせようとしているということだろう。


「えっと、この先が精霊の泉のはずなんだけど……」


 彼女がそう言って曲がり角を曲がるとそこは最初にミリシアと合流した場所であった。


「あ? 戻ってきてねぇか?」

「確かにあの看板は見たことがあるね」

「あれ、方向はあっているはずなんだけどなぁ」


 ミリシアは僕とレイよりも方向感覚がずば抜けて優れている。

 もちろん、それは受けてきた訓練が違うからだと本人は言っているが、僕にはどうも訓練の違いだけではない気がする。

 そんな彼女でさえ方向感覚が崩れていることは間違いない。

 この霧はそういった感覚すらも惑わせる力があるのだろうか。


「それよりもよ。足音が聞こえねぇか?」

「……言われてみれば確かに聞こえるわね」

「お互い距離を維持したまま移動を開始しよう。立ち止まる方が危険だからね」


 僕たち三人は手が届く距離まで密集し、再び精霊の泉へと向かうのであった。

 右、左へと進んでいく。

 同じ場所から地図を持たずにミリシアが進んでいく。その道順は先ほどと変わっていない。それに明らかに進んでいるはずだ。

 だが、それでもまた同じ場所へと戻ってくる。


「うーん……」


 ミリシアが唸るように悩み始めた。

 このままでは泉に向かうことは不可能だ。

 なんとしてもこの状況を打破する必要があるだろう。


「闇雲に進むだけでは意味がないね。やっぱりこの霧をどうにかする必要がありそうだ」

「そうみたいね」


 ただ考えても何も思い付くことはない。


「おもいつかねぇならよ。こうするだけだっ!」


 そういってレイは大きく剣を振り上げて、空間が淀むほどの強烈な斬撃を霧に向けて斬り込んだ。


「ちょっと、レイ!」

「あ? こうするしかねぇだろ!」

「斬る以外のことをしてよね。あんたはただでさえ馬鹿力なんだから」

「馬鹿じゃねぇよ」


 そうレイとミリシアが言い合っているが、このやりとりは地下施設にいたときにも毎日のように聞いていた。

 そんな懐かしい記憶を思い返していると、先ほどから僕たちを監視している気配が強まってきた。


「っ!」


 それはレイやミリシアにも感じ取れたようで、すぐに警戒態勢に入った。


「迷いの霧、君たちはもう逃げられない」


 すると、霧の中から老人のような容姿の精霊が現れた。

 この感覚は間違いなく精霊で、こうして姿を現しているということは堕精霊ということだろう。

 その堕精霊は宙に浮いており、僕たちを見下すようにして話しかけてきた。


「てめぇがこの霧をだしたのか!」

「……君たちには何一つ勝ち目がない。ここで死ぬ道しかあるまい」

「あら、それなら実際に倒してから言ってくれるかしら」


 そういってミリシアが剣を引き抜いた。

 僕もそれに倣って戦闘態勢に入る。


「自分が置かれていることすら認識できていないとは、愚かな人間だ。いや、人間が愚かだということか」

「さっきから俺たちを馬鹿にしてよ!」


 レイが太い刀身の剣を斬り上げるようにして浮いている堕精霊を攻撃し始めた。


「クックック……。所詮、人間にはそれしか出来んわい」

「っざけんな!」


 そして、その堕精霊は高く宙に上昇すると、僕たちの視界から消えていった。


「んだよ! あいつはっ!」

「っ!」


 僕の背後から強烈な攻撃の意思を感じた。

 それを避けるように僕は体をそらすと急に目の前に先ほどの堕精霊が飛び出してきた。


「ほう、今のを避けるとはの」

「悪いけど、僕たちはそう簡単には倒せないよ?」

「とはいえ、人間には変わりないようじゃな」


 確かに僕たちは人間だ。

 しかし、聖剣を持っている。

 それに技術だって最高の施設で僕たちは習得しているのだ。


 そんなことを考えていると、その堕精霊はまた姿を消していった。

 相手が何を考えているかはわからない。

 ただ明確な敵意があることだけはわかる。


「相手は霧の中から攻撃を仕掛けているみたいだね。だったらいつも通りで行こうか」

「あ、あれね」

「おうよ」


 当然、僕たちには連携するための作戦なども考えていた。

 今はエレインがいないけれど、三人でも十分に機能するはずだ。

 そのために二年近くもこれに研究を重ねてきたのだから。


「ミリシア、お前の後ろは任せろ」

「ええ、お願いするわ」


 そういってレイがミリシアの斜め後ろに移動した。

 そして、僕はミリシアの前に立つ。


 一見すると僕が一番危険な位置にいるのだが、素早い移動ができるミリシアがすぐに僕の援護に入れるような陣形になっている。

 さらには一番威力の高いレイを後ろに配置することで断続的な攻撃も可能な陣形となっている。

 もちろん、背後のレイが攻撃されたとしてもミリシアがすぐに援護に入れるのも特徴の一つだ。

 エレインがいればこの陣形は完璧なものになるのだが、相手は一体だ。特に問題はない。


「知恵を絞ったとしてもその程度か。人間とは愚かだ」

「どうかな」

「じゃあ試してみたら?」


 僕とミリシアが挑発的な言葉を放つ。

 すると、霧の中で空気の流れが変わった。先ほども感じた攻撃の前兆なのかもしれない。

 僕は目を閉じ、周囲の空気を肌で感じとる。

 相手は左後ろ、さっきと変わらず刺突の構えか。


「ふっ」


 僕に向けられた刃が左後ろから矢のように真っ直ぐ向かってくる。

 だが、僕はそれらを事前に察知していた。

 空気の流れは全てを教えてくれる。そんな攻撃では僕に傷は付けられない。


「なっ!」


 突き出してきた槍を難なく弾き、相手の体勢を崩した。


「ミリシアっ」


 僕がそう合図を出すと素早い移動で追撃を行う。

 彼女の攻撃は堕精霊の腹部を完全に切り裂き、そしてその追撃に合わせてレイが大振りの大胆な攻撃を繰り出した。


 ズヴォン!


 空気が震えるような強烈な斬撃でその堕精霊は光に包まれていく。


「人間は愚かだって言ったね。だからこそ人間の技術が向上していくんだよ」

「う、嘘だ。こんなはずでは……」

「僕らはそんな愚かな先人たちの上に生きているんだ」


 そう、誰も考えつかなかったことでも直向きに研究し続けた人たちのおかげで技術というものは進化していく。

 もちろん全くの無意味ということだってある。

 それでも愚直に研究し続けることで新たな技術が生まれてくる。それが何百年も繰り返されることでより洗練され、強力なものへと進化していく。

 だから、僕たちはこうして戦うことができるのだ。


 そして、堕精霊は光と共に消えていき、その場所には剣だけが地面に突き刺さっていた。

こんにちは、結坂有です。


霧の中には方向を惑わすことのできる堕精霊がいたようですね。

それでも三人は難なく打倒することができたそうです。やはりこの三人に攻撃を仕掛けてくるなど、無謀なようですね。


それでは次回もお楽しみに。



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