再会する者たち
堕精霊を倒した後、俺はアドリスに声をかけることにした。
襲撃が起きる前に彼が誰かを探している様子だったからだ。それと何か関係があるのかもしれないと思ったのだ。
「誰かを探している様子だったが、関係はあるのか?」
「……鋭いね。でも堕精霊とは何も関係がないと思うよ」
「そうか」
関係がないと断言していない。
まぁ何らかの繋がりがあったとしても俺には関わりのないことだからな。
すると、服飾店からリーリアが飛び出してきた。
「エレイン様、この騒ぎは一体?」
「ああ、堕精霊が暴れていただけだ」
「すみません。私が離れたばかりに……」
そう言ってリーリアが視線を落とした。
「っ! エレイン様、お怪我を?」
彼女は地面に膝をついて俺の左腹部を観察し始めた。
とはいえ、すでに止血を終えており魔剣の力を借りて治癒を早めているからな。
「これぐらいすぐに治る」
「それでも大切な人が傷付くのは嫌です」
「そうか」
「ほんと、リーリアは変わったね」
「……アドリス、またいるのね」
そう言って立ち上がった彼女は少し嫌そうな表情をした。
彼女とアドリスは聖騎士団時代の同期だったと聞いている。
良好な関係であったらしいが、今となっては俺のメイドだ。
当然、知り合いに見られるのは少し嫌な気持ちになるだろうな。
「たまたまここを通りかかっただけなんだ」
「そう、襲撃はどうなったのかしら」
彼女が聞くと、アドリスは道の奥の方を指差してそれに答えた。
「他の聖騎士団の人たちが先ほど襲撃された人を治療してくれているみたいだね」
「そうなのね。それならよかったわ」
「じゃ、僕も応援に駆けつけるよ」
「気をつけてね」
リーリアがそういうとアドリスは爽やかに頷いて奥へと走っていった。
一体誰を探しているのかはわからない。
だが、それでも聖騎士団としての職務は遂行しようとしているところから別に何か悪いことを企んでいるわけではなさそうだ。
「どうかしたしたか?」
「いや、少し考え事だ。買い物は済ませてきたのか」
「はい。服を新調してきました。いつも同じ服装ですから、少しはバリエーションを増やしたいと思っていましたので」
彼女はメイドだ。
普段、家の中ではメイド服に着替えているのだが、学院に向かう時は少し地味な服装をしている。
スカートは大きく開いているとはいえ、色味はそこまで派手ではない。
「おしゃれをしたいのだな」
「……だめ、でしょうか」
「何も強制しているわけではないからな。リーリアの自由にしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
そう言って彼女は小さく頭を下げた。
それから歩いてこの店が並んだ地区を離れた。
堕精霊についてはここの聖騎士団に任せておいてもいいだろう。
彼らにも魔剣を持っている人が少なからずいるだろうからな。
◆◆◆
僕たちは団長に言われた通り地図に書かれた場所へと向かった。
フィレスはしばらく聖騎士団本部を見学したいと言って付いてはこなかったが、レイはミリシアと会えるとのことで楽しそうにしている。
それに僕自身も楽しみにしている。
「ところでよ。どうしてあいつがそのフラドレッド家にいるんだ?」
「僕もそこまでは知らないよ。そのあたりは彼女に話をした方がいいかもしれないね」
ミリシアが生きているということは僕にとっても嬉しいことだ。
また地下施設の人たちで集まれることができれば、僕たちはなんでもできると信じている。
「ただよ。エレインがいてくれたらもっといいのにな」
「ミリシアが生きているのなら、彼も生きていてもおかしくはないね」
確かに帝国の人は全滅したと聞いていたが、実際はそうではなかった。
それからしばらく歩いていると何か妙な気配を感じた。
これは人ではない異質なもの、夢の中であった精霊と同じような感覚がする。
「アレク、どうしたんだ?」
「何か気配を感じないかい?」
「あ? 特に何も感じねぇけどな」
人よりも気配や空気の違いを感じ取りやすい僕だからわかるのだろうか。
ただ、それよりもこの異様な気配からは何か強烈な悪意のようなものが感じ取れる。
「……レイ、人の気配が少なくなっているのは気のせいではないよね?」
「言われてみれば、確かに変だな」
僕は振り向いて、先ほどから視線を送ってきている何者かに声をかけた。
「僕たちに張り付いて何をしているのかな?」
「……」
その何者かはすぐに返事をしてこない。
普通に考えて返事をするのはおかしいか。だが、この悪意に満ちた視線は僕たちに向けて攻撃の意思があるということだ。
すると、レイが剣を引き抜いて戦闘態勢に入る。
「そっちがやる気なら来いよ!」
相変わらず好戦的な彼の態度は変わっていないようだ。
「……」
言葉は発していないが、明らかに攻撃の意志を感じられる。
僕もレイと同じく臨戦態勢に入った。
「見えねぇところで何をしてるんだ!」
「レイ、声を荒げても意味はないよ」
「でもよ!」
そんなことを話していると濃い霧が立ち込めてきた。
数歩先も見えないほどだ。
この状態では相手を視認して戦うことが難しい。
とはいえ、空気の流れなどで相手の動きを把握する必要がある。
僕は幼い頃に訓練を受けていたから問題はないのだけれど、レイが心配だ。
「このままでは僕たちは不利だね」
「霧ぐらいなんとでもなるよ!」
そう言ってレイは剣を大きく振り回した。
その直後、大きな風が発生し一瞬だが霧が晴れた。
「ちっ、面倒な相手だな」
大きく舌打ちをしたレイは少し苛立っている様子であった。
確かに風を起こした程度では意味がないかもしれない。
それにただの霧ではないようだ。
すると、霧の奥から足音が聞こえてきた。
「来たか?」
「女性の足音だね」
その走っている音は次第に大きくなってきて、僕たちの方へと向かってきている。
「っ!」
「来いよ!」
僕とレイは防御態勢を取った。
「え? アレク? レイ?」
そう霧の中から現れたのはミリシアであった。
「おおっ! ミリシア!」
レイはいつも通りに接しているが、あの帝国の悲劇を目にした僕からすれば冷静ではいられなくなってしまう。
「レイ……なのよね?」
「そうだぜっ」
彼はそう胸を張って言った。
「本当に、よかったわ」
ミリシアは目元に涙を溜めてそう絞り出すように言った。
「アレクは怪我は大丈夫なの?」
「……」
心の準備が整っていないため、すぐに返事をすることができない。
「ん?」
「ああ、完治はしていないけど大丈夫だよ」
「そっか、アレクは知っていたのよ。一回剣を交えたわけだしね」
そういって人差し指を立てた。
思い返してみれば、聖騎士団本部を襲撃した際に戦ったあの手強い鉄仮面の女が浮かんだ。
戦ったときになぜか懐かしさのようなものを感じた。
「あ……」
「思い出した? あの時は仮面を着けていたからわからなかったと思うけど」
「確かに戦ったことがあるね」
「でしょ」
そうミリシアは元気よく話してくれるが、まだ妙な気配は感じたままだ。
「ところで、どうしてミリシアがここに来たんだい?」
「エレインを探しに走り回ってたの、緊急のことがあってね」
「今、なんて……」
「あれ、知らなかったの?」
聞かされていないため僕は何も知らない。
団長はミリシアがいるとだけしか伝えていなかった。僕がエレインのことを知るのはできなかったのだ。
いや、団長と話をしたときにその可能性を聞くべきだったのかもしれない。
それほどに自分に余裕を持てなくなっているのが現状だということだろう。
「ごめん、何も知らないんだ」
「それで、どうしてここだけ霧が?」
周囲を見渡しながら彼女はそういった。
彼女の言い方からするにここだけのようだ。
そのことからも僕たちを攻撃する意志で何者かが仕掛けていることがわかる。
どちらにしろ、狙われていることには変わりないということだ。
こんにちは、結坂有です。
果たして霧の正体は一体何なのでしょうか。
そして、再会した三人がどうそれらに対処するのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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