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入学への準備

 翌日、フラドレッド家に聖騎士団団長であるブラドが訪れた。

 あの魔族侵攻から定期的にブラドがフラドレッド家に訪れているが、今回は通常の様子見ではないようだ。

 俺の学院進学についての話をしに来ているようだ。


 面談室でブラドとアレイシア、そして当人である俺はその説明を受けていた。


「学院進学については議会の方ですでに通過している。無事進学の方は可能だそうだ。しかし、入試に関しては平均に合わせることにした」


 アレイシアが質問する。


「平均にしてはエレインは強過ぎるのでは?」


 そしてブラドは一呼吸して俺の方を向いた。


「その点なんだが、エレインには平均を演じてもらう必要がある」

「エレインの実力が認められないってこと?」


 俺の回答を待たずにアレイシアが発言する。


「正確には違う。入学からしばらくは実力を隠して欲しいということだ」

「俺は別に問題ない。だが、聖騎士団への入隊に影響がなければいい」


 実力を周りに合わせることは慣れている。その点に関しては不自由だとは思っていない。しかし、俺の目標である聖騎士団への入隊に支障が出ることはできるだけ避けたい。

 魔族に対しての攻撃や防衛は聖騎士団と議会が管轄しているからだ。俺もエルラトラム国民になった以上はその国の法に従わなくてはいけない。

 もし俺が聖騎士団や議会に所属せずに魔族と戦った場合は違法討伐と見做みなされるからな。


「入隊に関しては厳しいだろうな。正式に聖騎士団の地位を獲得するには最低でも学院評価上位一〇位以内。そして、その中でも自由に行動ができる地位を得るには首位のパートナーでなくてはいけないからな」

「平均だったら、一〇位以内には入れないね」

「そうなるな」


 平均であれば、俺は議会が指示する魔族討伐軍への参加になってしまう。到底精鋭がいる聖騎士団には入れないのだ。

 続けてブラドは話す。


「さらに付け加えるなら、その議会が管轄する魔族討伐軍にも参加して欲しくないんだ。誠に自分勝手な事だが、議会の管轄にエレインが入ってしまうと議会が何をするかわかったものではないからな」

「それって、議会がエレインを使った対外交渉をするかもしれないってこと?」


 もちろんその話に関しては以前から話していた。魔族千体斬りを達成した俺は軍事的にも優位な交渉手段でもある。俺を使ってエルラトラム議会は自分の利益になるようなことを企んでいると以前ブラドが言っていたな。

 俺もそのようなことは避けたい。利益度外視で世界を守ると決めた以上、俺は自由に行動して魔族の攻撃を防ぎたいと思っている。


「俺もそれはやめて欲しいところだ」

「じゃ、実力を平均を保ったまま上位に入るってこと? 相当難しいと思うんだけど」

「そう言えばなぜ俺が実力を隠さないといけないんだ?」


 俺は質問する。なぜ俺が学院で実力を隠さないといけないのか、大隊予想はつくが、俺が思っている以上の事態があるのかもしれない。


「それは議会がエレインを狙っているからだ。お前の正確なデータを議会が欲しがっているんだ」

「悪いことなの?」

「ああ、俺が知っているデータだけを見ても異常を極めている。今は隠し通しているが、もしそれが議会に知られたらどうなると思う?」


 まぁ当然手駒に入れたいと思い始めるだろうな。そして、そのためならあらゆる手段を使うはずだ。


「俺へのアプローチは激しくなる、か」

「そういうことだ」

「それって私がいるから大丈夫だよ。私だってフラドレッド家の次期当主だし、そんなことお父様だって許さないと思う」

「いくらフラドレッド家の当主だとしても議会の決定を覆すことはできない。今は黙認してくれてはいるが、今後自由な活動ができなくなる可能性だってある」


 議会には権力が集中している。そんな議会に一個人が対抗するなんて無理な話だ。それにフラドレッド家は今は議会に参加していないしな。

 今は影響力にものを言わせて権力に勝っているが、議会が本気を出せばそんなことお構いなしに俺に干渉してくだろう。


「そうかぁ……なら聖騎士団の奥の手、使うしかないかな」


 ブラドがアレイシアの目を見る。本気で言っているのかを見定めているのだろう。俺にはなんのことか全くわからないが、切り札があるようだ。


「まさか、例の部隊を使うのか?」

「それしかないわ。()()()()はそのためにあるのでしょう?」

「だが、一個人に対しての前例がない」


 アレイシアが少し考えた後に口を開いた。


「……前例がないと動けない存在だったかしら?」


 その言葉を発したアレイシアの目はは剣士のように凛々しく光っていた。


「本気ということだな。最近は騎士然としていなかったが、エレインのためならそれが真意なのだろう」

「では、その方向で、お父様には私から連絡します」


 一年ぶりに見たアレイシアの剣士としての姿はとても強い存在に感じられた。


「よし、それで行こうか。手配に関しては俺が調整する」

「ええ、お願いね」


 アレイシアはお茶を一口飲んだ。ブラドも一呼吸おいて俺の方を向いた。


「なんのことかわからないと思うが、後々説明する。学院のことだが、入学時は試験を受けていないため平均以下からのスタートになる。そして実力は隠さなくてもいいが、できる限り避けて欲しい。議会のこともあるが、学生の混乱を招く可能性があるからな」


 議会のことではなく学院の混乱という意味での避けろということだろう。まぁ学院の内は魔族千体斬りを自ら公開することはないと思うがな。


「わかった」

「それでは早速手配を始めてくる」


 そう言ってブラドは面談室から出た。

 お茶を飲み干したアレイシアは俺の方を向いた。


「なんか難しいこと話してごめんね」

「いや、俺のことで色々と問題が起きるのはわかっていたことだ。迷惑の原因は俺だからな」


 アレイシアは俺の頭を撫でる。そして優しくささやいた。


「いいのよ。変なことを企んでいる議会が悪いんだから。エレインは自分自身の道を歩いていけばいいだけよ」


 フラドレッド家に養われている以上、ここは甘えるしかない。今の俺には権力も影響力もない。いざとなれば議会は本気で俺を手駒にしようとするだろうからな。


「ありがとう」


 俺はその言葉しか出なかった。

 するとアレイシアは撫でている手を止めた。


「わ、私はエレインの道に一生付いていくつもりだからね」

「一生は付いてこなくてもいい」

「ダメだよ。義姉(おねえ)さんの言う通りにしなさい」


 さすがに家族関係を持ち出されてしまっては反論することはできない。


「……わかった」


 別に悪い気はしない。こうして大切な人がずっといてくれるだけで幸せなのはよく実感している。

 仲間というのはこういうことを指すのだろうな。


「お利口ね」


 一つ不満を言うとすれば、この子供扱いに関しては訂正してもらいたいものだ。




 そして、四月の入学式に迫った三月。

 俺とアレイシアは学院近くの家に学院生活中は住むことになった。小旅行のような道のりを馬車などを使ってアレイシアとゆっくりと歩いた。そして目的の家に着いたのが夜であった。夕食はすでに外で済ませていたため、あとは寝るだけだ。学生生活中の二年間お世話になる家は以前よりも小さい家であるが、使用人を含めた俺たち四人にはちょうどいい大きさなのかもしれない。


 使用人に関しても二人付いて来てもらうことになっている。アレイシアが最も信頼しているメイドのユレイナとブラドが派遣した人でリーリアという名のようだ。

 アレイシアはリーリアは面識があるようで、信用してもいいとのことだ。その使用人は俺たちの家で住み込みで世話をしてくれるようで、家事のあらゆることを手伝ってくれたりする。


 その中でリーリアは俺の専属のメイドでなんでも言うことを聞いてくれるようだ。

 その話を今日の朝、ブラドに説明を受けていた。そしてアレイシアのメイド、ユレイナと俺の専属メイドのリーリアは明日この家に到着する予定のようだ。


 俺とアレイシアは家に入る。初めての家は違和感を感じるが、その辺りは追々慣れてくるのだろう。

 すると彼女は口を開いた。


「今日からここで住むんだね。なんか新居に越して来たみたいね」

「新居ではないのは確かだがな」


 この家は確かにきれいではあるが、所々人が住んでいた事がわかる傷などがある。


「それは補完して新居でいいでしょ?」

「まぁ俺らにとっては新居だろうな」


 そう妥協して応えてみる。少しアレイシアは不服そうではあったが、すぐに奥の部屋に向かった。


「ここがエレインの部屋ね。学生だから大きい部屋にしたよ。私は動くこともないし反対側の小さな部屋で十分だし、ここだとすぐにエレインの部屋に行けるからね」

「来るときはノックしてくれ、俺がいるときは鍵をかけておくからな」


 アレイシアはさっきよりも増してムッとした表情をした。そして、少し考えた後、顔を染める。


「と、年頃の男の子だし。それぐらいの配慮はしてあげるわよ」


 アレイシアはそう言って対面の部屋に向かった。どうやら荷物などはすでに送られているようだ。

 と言っても俺の荷物はせいぜい私服程度だがな。


 俺も自分の部屋に入ると、以前の部屋よりかはひとまわり大きくなっている。学生のためこれから増えるであろう荷物などを収納するにはちょうどいい。そして、これならアンドレイアとも健全な距離で話ができると言ったところだろう。

 そう思っていると腰に携えていた剣からアンドレイアが姿を現した。


「さっきの小娘、やはり夜這いしようとしていたの。それはワシの特権じゃから近づいて来て欲しくないものじゃ」

「お前の特権にした覚えはない」

「じゃが、ワシの存在力を維持するにはその方が効率がいいじゃろ?」

「効率がいいかもしれないが、今でも十分だろ」

「お主はいけずじゃの」


 アンドレイアはそっぽを向いてまたしても俺のベッドに座った。


 俺はタンスの中にある服を確認して、今日は寝ることにした。

こんにちは、結坂有です。

いつもより少し早めの投稿となりました。


入学のために別荘に住むことになったエレインたちですが、これから少し面倒なことになりそうです。

学院にはどのような生徒がいるのでしょうか。その辺りも気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。


Twitterもやっていますのでフォローしてくれると嬉しいです。

Twitter→@YuisakaYu

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