戦うべき相手
僕の聖剣を取りに行ってくれた看護師を横目に医師の人が僕に話しかけてきた。
「君が運ばれてきたときはかなり重傷で、体内の血液がかなり失われていたんだ」
「それがどうしたのかな」
医師の人が少し動揺した様子で僕の方を見つめている。
確かに僕の回復が異常なのは認める。けれど、今起きていることにいつまでも目を背けていてはいけない。
特に医師という職業なのであれば、事実を受け止めて欲しいものだ。
「……元気そうでいいのだけれど、一応検査とか受けて欲しい」
「必要ないよ。自分の体のことはよくわかっているからね」
検査が必要かどうかは僕が判断する。
軽く体を動かしてみても少し痛みがある程度で、特に変わった様子はない。
「そ、それでも自分の体のことは調べた方がいい」
真っ直ぐ医師は僕の方を見つめてくる。
まぁ普通の判断であれば、検査をさせるよう促すものだろう。
とはいえ、僕にはやるべきことがある。
今、検査を受けている場合ではないのだ。
「悪いけど、僕には任務があるんだ。検査で遅れを取るわけにはいかない」
「任務はもうないはずでは?」
そう言って医師は僕に資料を渡してくる。
「これは……」
そこに書かれていたのは議会の解散という内容であった。
詳しく資料を見ていくとどうやら解散は本当のようで、聖騎士団と裁判所が彼らの不正を暴いたことで議員のほとんどが投獄されたと書かれている。
この資料は新聞を元に作られているようで、非常に信憑性の高いものであることは確かだ。
「君の所属していた議会軍はもうないんだよ。その代わり全ての議会軍は聖騎士団が運営している自衛軍に所属することになっている」
「……僕が眠っている間に一体何が起きたんだ」
僕はこの事実を正直に受け止めることができなかった。
先ほど僕が言った言葉を自分ができていない。僕も医師のことを悪くいえないな。
「議会の暴走だよ。私も色々と思うところがあったからな」
そうしていると看護師の一人が僕の聖剣を重そうに運んできてくれた。
「こちらで間違いないでしょうか?」
「ああ、助かったよ」
彼女から大聖剣ハンセクルスを受け取った。
この聖剣には”増幅”と呼ばれる能力を持っている。
その能力は限られた剣撃に対して無限大に斬撃の力を引き上げると言った能力だ。
そのため一瞬にして相手の剣を破壊したりすることが可能だ。とはいえ、増幅できる攻撃はごく限られている。
だが、僕の連続的な攻撃にうまく組み込むことでその弱点を補っているのだ。
「ほ、本当に大丈夫なのか」
「平気だよ。治療してくれて助かった」
改めて僕を治療してくれたであろう医師に軽く頭を下げる。
「せめて検査だけでもって言っても受ける気はない、と?」
「ああ、そうだね。任務以外にもするべきことがたくさんあるからね」
議会軍がなくなったとしても魔族に対する脅威がなくなったわけではない。
以前から怪しいと思っていた議会だったが、本当に悪いことをしていたとは思ってもいなかった。
「まだ完治はしていないから、無理はしないように」
「忠告ありがとう」
僕は着替えを始めて、聖剣を腰に携えた。
看護師の方が僕の世話をいくつかしてくれたようだけど、全て自分でできることだ。
それから僕は病院から出た。
この病院は議会軍や聖騎士団にむけて作られた高度な医療施設のようだ。
確かに医療に関しては本当に凄いのだと思う。
怪我をしていたと思われる箇所には傷痕一つないのだ。それほどに高度な治療技術が高いということだ。
そんな病院を出て、十分ほど街道を歩いている。
今考えてみれば、魔族を倒すと言っても何から始めればいいのだろうか。
確かに戦うための聖剣を持っている。だが、一人で魔族を滅ぼすことができるほど、僕は強くはない。
せめて、仲間がいればいいのだけれど……
と、考えていると妙な気配が二つ感じ取れた。
「……何かに隠れるような移動、誰だろうか」
僕からはかなり距離があるから、僕を付けているわけではなさそうだ。
しかし、怪しい行動をしているのは明らかだ。
僕も少しは調べてみてもいいだろう。
しばらく隠れている人を気配だけを頼りに追いかけていく。
この先は聖騎士団本部のある場所だ。
彼らはそこに用があるのだろうか。だが、そこに入るにはそれ相応の理由が必要だ。
必要がなければ本部に入ることはできない。まさかとは思うが、僕が以前したように奇襲でもかけるつもりなのだろうか。
「てめぇ、俺らを付けて何をっ!」
「っ!」
十分に距離を取っていたつもりだが、男女二人組の男の方が振り向いてきた。
そして、その顔には見覚えがあった。
「レイ?」
「あ? お前、アレクか!」
どうやらレイは僕の顔を覚えていたようだ。
確かに何年も地下施設で一緒だったから当然か。
ゆっくりと近づいてくるレイは刀身の太い剣を携えている。そして、それからは尋常ではない何かを感じる。
ただ、それよりも彼が生き残っていたというのは衝撃が走った。
脳の奥底から感情が溢れ出すような感覚だ。
なんて言葉を出せばいいのかわからず、僕は彼の腰にある剣のことを聞いてみることにした。
「……それは聖剣かい?」
「聖剣っつうか、魔剣って言うらしいぜ」
すると、女性の方も僕のところへと歩いてきた。
「私たちを付けていたようだけど、どうしてかしら」
「ああ、怪しい人がいるなと思っただけだよ。気にしないで欲しいな」
僕がそういうとその女性はレイの方を向いて口を開いた。
「知り合いなの?」
「そうだぜ、あの帝国で一緒に訓練してた一人だ」
「帝国の? 生き残っていたのね」
「そうだね。僕も手足を失ったけど命は助かったみたいだよ」
この腕には最初は苦労した。
しかし、慣れてみると本当の手足のように操れる。そして何よりもパワーがある。
そのおかげもあってか、聖剣との相性は非常に良い。
「その腕、義肢か?」
「うん。帝国の技術を使ったみたいだけど、詳しくは知らないね」
「なるほどな。まぁ昔のことはまた話すとしてよ。聖騎士団に用があるんだが、手伝ってくれるか?」
レイは頭をかきながら、僕にそう聞いてきた。
やはり襲撃するのだろうか。
「荒事でなければ協力するよ」
すると、横に立っていた女性が口を開いた。
「助かるわ。この国に来たのは初めてで、とりあえず聖騎士団の服を来た人を付けていたってことなの」
だからあのような怪しい気配を放っていたというわけか。
確かにこの国に初めてきたとなれば、本部の場所などわからないだろう。
「その程度のことなら別に構わないよ。でも、僕は少し嫌われているかもしれないけど」
「うん。それでも助かるよ。あと、私の名前はフィレスよ。紹介が遅れたわね」
「ああ、僕の名前はアレク。これからもよろしく」
軽く自己紹介を済ませた後、僕たちは聖騎士団本部に向かった。
当然、僕は周りから嫌な目で見られたが、すんなりと本部の中へと入ることができた。
そして、レイとフィレスの目的というのは外国支援部隊として私たちを迎え入れて欲しいと団長に直談判しに来たとのことだった。
これから団長と話し合いをするそうなのだが、この案内されている時間がとても長く感じられた。
◆◆◆
朝食を食べ終えた俺はそのまま自分の部屋でミリシア、ユウナと話をすることにした。
帝国での話はアレイシアやリーリアには聞かせない方がいいと思ったからだ。
それにしてもどうしてミリシアやユウナが生き残ったのか、気になっていた。
「気になっていたのだが、よく生き残っていたな」
「この前も言ったけど、食料庫に落ちたのよ。しばらくそこで過ごしていたら団長がやってきたってこと」
「はいっ。色々と刺激的でしたよ!」
「刺激的……ちょっと語弊があるわよ」
ミリシアがそう言ってユウナの方を向いた。
「どうして食料庫に?」
「えっと、施設の自爆シーケンスが発動してしまったの。当然の処置だと思うけど、それで私たちがそこに落ちたってことね」
「なるほど」
確かに思い返してみれば、轟音が聞こえた記憶がある。
あれが施設の自爆だったのだろうな。それに食料庫なら数日間、生き抜くには十分だったようだ。
「それからしばらくは団長の元で議会の調査を?」
「そうね。たまにエレインの身辺調査もしていたけれど」
「はいっ。直接エレイン様に会わずに情報を集めてました」
俺を探し回っている気配などがなかったのだから周りの人から調査していたのだろうな。
それにしても色々と彼女らは俺のことを知っている。
周囲を調べるだけでもかなりの情報を集めることができるようだ。
「そうか、それでこれからはどうするか決めているのか?」
「特に考えていないけれど、魔族の襲撃に対応する部隊を私たちで作る予定よ」
「というと?」
「聖騎士団内部で別働部隊として作りたいと思っているの」
確かに聖騎士団からも独立した部隊があれば今後の自由度も上がることだろう。
俺も聖騎士団に入団したいと思っているのはそう言った自由が効くからだ。
「将来、世話になるかもな」
「エレインも入って欲しいけれど……」
ミリシアがそういうとユウナも同じく入ってきて欲しいと俺の方を見つめてくる。
俺がその部隊に入れば戦力としてはかなりのものになるだろうな。
「まぁその時まで考えておく」
「それって断るときの決まり文句よね」
「ミリシアさん、そうなんですか?」
「ええ、そうよ」
俺はあえて否定も肯定もせず、将来のことを少し考えるのであった。
こんにちは、結坂有です。
これからは人類同士戦うことはないようです。
いや……どうでしょうか。何か悪いことを考える人が出てくるかもしれませんね。
果たして、四人は合流するのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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