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もう一人は目覚める

 翌朝、俺は妙な空気感に目が覚めた。


「んっ……。おはよ」


 そう言って起き上がってきたのはミリシアであった。

 昨日、彼女は俺の部屋ではなくリビングに敷かれた布団で眠っていたはず。

 俺はそれを確認して自分の部屋に戻ってきたわけだが、どうして朝になってここにいるのだろうか。


「おはよう。それで、どうしてここにいるんだ?」

「どうしてって、扉が開いていたからに決まっているでしょ?」

「いや、俺は鍵を閉めておいたはずなんだがな」

「あ、アレイシアがここに入っていくのを見てたからね。少し話をしたらすぐに合鍵を渡してくれたの」


 そう言って彼女はポケットの中から俺の部屋の鍵と同じ形状のものを取り出した。

 どうやら俺の知らない間にアレイシアは合鍵を作っていたようだ。それは別に構わない。

 彼女がこの部屋に入ってきたとしても魔剣のことも知っているわけだ。何も問題はない。

 だが、ミリシアやユウナがこの部屋に入ってくるのは色々と問題があるような気がする。


「別に悪いことを企んでいるわけじゃないよ? 魔剣のことも知っているしね。でもユウナにも黙っててあげるから」

「とりあえず、その鍵はアレイシアに返しておく」


 俺はそう言って彼女からその合鍵を取り返した。

 すると、少しだけムッとした表情で俺の方を見つめてきた。


「なんだ?」

「なんでもないわよ。すっかりあの人に慕っているのね」

「ああ、命の恩人でもあるからな」


 聖剣がない状態であのまま戦っていた場合、俺は魔族を倒すことができず力尽きていたことだろう。

 しかし、アレイシアが魔族を倒してくれた。

 さらには俺に生きる意味を与えてくれたのだ。アレイシアを慕うようになるのは当然のように思えるがな。


「ふーん。まぁ私がこうやって合流できたわけだし、アレイシアばかりに目を向けていたらダメよ?」

「それはどういうことだ?」

「……教えないわよ。さ、朝食食べるのでしょ?」


 そう言ってベッドから出た彼女はどこか楽しそうな表情をしていた。

 確かにこうして同じベッドから起きたことがなかったからな。少しでも本人が楽しんでくれているのならいいことだろう。

 そんなことを考えながら、洗面台で顔を洗いリビングに向かう。

 そこではすでに朝食の準備が始まっており、皿を出すのをユウナが手伝っていた。

 こうした光景はいつにも増して新鮮な感じがする。

 いつもならリーリアかユレイナが料理を作ってくれて、それをアレイシアと俺は待っていた。

 だが、今はユウナが加わったこともあって賑やかになっている。


「いつもこうして朝食を食べるの?」

「そうだな」

「エレイン様、おはようございます!」


 ユウナが俺に気付くとそう言って声をあげた。

 その声がリビングを響かせるとリーリアが少し嫌そうな目を彼女に向けた。


「おはよう。以前と変わらず元気なんだな」

「元気が取り柄ですからっ」


 そう言って胸を張って自慢げに答えた。

 彼女とはほんの少ししか会話したことがなかったが、元気な印象が強く残っている。


「エレイン様、おはようございます」


 少し遅れて奥からリーリアが俺の方へ歩いてきた。

 すると、ユウナに聞こえないぐらいの小さい声で耳打ちしてきた。


「ユウナさんとはどう言った関係なのですか? 彼女、朝からずっとエレイン様のことを話していました」

「……話せば長くなるが、簡単に言うと幼なじみと言ったところだな」

「そうなのですね」


 そう言ってリーリアはユウナを警戒した目を向けながら調理場へと向かっていった。

 まぁ喧嘩にならないだけいいとはいえ、今後のことを考えると仲良くなってほしいものだ。

 その様子を見ていると、廊下からアレイシアがゆっくりとこちらに歩いてきた。


「エレイン、おはよ」

「おはよう。合鍵、返しておくよ」


 俺はミリシアから取り上げた鍵をあえて、本人に見えるように渡した。


「うん、ありがと」

「……それ、見せてるの?」

「特に意識していないがな。ところで、どうして鍵を渡したんだ?」

「えっとね、ミリシアからエレインのことを聞いて一日ぐらいならと思って渡したの。迷惑だったらごめんね?」


 どうやら俺とミリシア、ユウナの関係に同情してくれたのだろうか。

 まぁ確かに地下施設で共に育ってきた人だからな。家族も同然のような関係だろう。

 それがあの事件をきっかけに生き別れになった。優しいアレイシアなら情が移っても不思議ではないか。


「別にただベッドの中に入っていただけだから気にするな」

「そう、なのね」


 俺がそういうとミリシアは少し不服そうな表情をこちらに向けてきた。

 どうやら俺からこの家に泊まってもいいかどうか聞いてくれるのを待っていたようだ。

 だが、俺からはそんなことは言わない。

 それにこの家に六人もの人が住むのは無理があるだろう。


「はぁ、アレイシアさん」

「ん? どうしたの?」


 改まった表情でミリシアはアレイシアの正面に立った。


「ここに泊まってもいいかしら。団長に追い出された身で、まだ居場所がないのよ」

「そう、いいわよ」

「二人は流石に住めないだろ。部屋もあまりないことだしな」


 すると、アレイシアは俺の方を向いた。


「地下室のこと知ってる? あそこなら二人ぐらい泊まれると思うの」

「ここ以外にも部屋があるのか?」

「ええ、ここは分家の持ち家だったって言ったでしょ。ここの地下にはここより少し広めの部屋があるのよ」


 地下に空間があるということは家の構造から察してはいたが、倉庫のようなものだろうと思っていた。

 だが、しっかりと人が住めるような部屋があるのだろうな。

 当然ながら駄目元で聞いてみたミリシアは驚いていた。


「本当にいいのかしら」

「今は私の家だからね。構わないわ」


 すると、ミリシアは一安心したのか胸を撫で下ろした。


「ユウナ、ここにしばらくは住めるようになったわ」


 彼女がそういうと皿を並べ終えたユウナがこちらの方を向いて目を輝かせていた。


「え! 本当ですかっ」

「本当よ」

「ありがとうございますっ!」


 そう言って彼女はアレイシアに向かって深く頭を下げた。


「いいのよ。エレインの旧友なんだから歓迎するわ」


 本当に優しいのだな。


「アレイシア様、本当によろしいのですか?」


 ユレイナがそう聞くと彼女は大きく頷いた。


「エレインの旧友なのよ。悪い人ではないからね」

「そう、ですか」


 心配そうにアレイシアの方を向いているが、ユレイナはすぐに朝食を盛りつけ始めた。

 すると、アレイシアは俺の方を向いてウインクをした。

 もしかして、俺がそう願っていると思ったのだろうか。まぁ彼女のことだ。俺のことならなんでもするというぐらいだからな。


「おいしそうですねっ」

「ああ、ユレイナの朝食は非常に美味しいからな」

「そうなんですね。楽しみにですっ」


 そう言ってちょこっと椅子に座った。

 それからはいつにも増して賑やかな朝食を皆で食べることにしたのであった。


   ◆◆◆


 暗闇から声が聞こえる。


「ア…レク。…レク」


 うっすらとだが僕の名前を呼んでいるようだ。

 だが、その声に聞き覚えはない。


「誰なのかな? 真っ暗で誰なのかわからないよ」


 僕は優しい口調でそう何者かに向かって声を発した。


「アレ…ク。アレ……」


 しかし、返事は僕の名前だけでそれ以外は何も起きない。

 少なくとも敵ではないことは確かだ。

 とはいえ、今僕が立っているこの永遠に続く暗闇をどうするかが問題だろう。

 異世界にでも迷い込んでしまったようなそんな不安感に駆られながらも僕はゆっくりと前に進んだ。

 一歩一歩、確実に前に進んでいく。


「アレク……。アレク…」


 暗闇を進んでいくと次第に声が大きくなっていく。


「君は、誰なんだい?」


 正体のつかめないまま僕はそう質問した。

 すると、僕の名前を呼ぶ声が止んだ。


「……私、アレクが好き」

「僕のことが好き? でも姿を表さない限り、誰なのかわからないよ」

「アレク、好き」

「悪いけど、誰なのかわからないから好きと言われても僕にはどうすることもできないね」


 僕はそう言って再び歩き始めた。

 すると、僕の足が何かが絡み付いてくる。


「っ!」

「待って」

「これは、君がしたのかな?」

「……怒ってる?」


 怒るも何も、相手の目的がわからない。


「怒ってないよ。君の目的はなんだい?」


 僕は暗闇に向かって優しくそう言った。

 しばらく沈黙が続いた後、空気の流れが変わった。


「アレク。私、聖剣……」

「聖剣、どういう意味かな?」

「私、アレクの、聖剣」


 そう片言で言った。

 その声は幼く、何かに怯えているのか今にも消えそうなそんな声をしている。

 彼女の言葉から僕の聖剣と言った。ということは、彼女は僕が持っている聖剣の精霊なのだろうか。


「君は精霊、なのかな?」

「……」


 言葉で聞き取れなかったが、おそらく小さく頷いたように感じた。


「そうなんだね。それで、僕のことが好きってどういうことかな」

「好き、好き」

「君が僕のことを好きなのはわかったよ。君は僕をどうしたい?」


 僕は必死に彼女の言葉に耳を傾けた。

 聖剣を使っていく以上、彼女とはこれからも関わっていくことになるからだ。

 これが一日だけのことであれば、僕は迷わずこの暗闇を進んだことだろう。


「……力、貸したい。でもできない」

「別に僕は力に困っているわけではないからね。そこまで力はいらない」

「……」

「ただ、これからも僕の聖剣であり続けるのなら僕はそれに応えるよ」


 僕がそういうとまた空気の流れが変わった。


「アレク、好き。好き」

「好きなら僕に付いて来て欲しい」

「うんっ。アレク、大好き」


 すると、暗闇が一気に晴れた。




 電子音が鳴り響く部屋の中、僕はベッドの上で目が覚めた。


「……ここは?」

「っ! 先生っ!」


 横で何かメモを取っていた女性が廊下へと駆け出していった。

 おそらくここは病院か何かなのだろう。

 確か、僕は何者かに斬られた覚えがある。


「そんな、そんなはずがないっ」


 廊下から駆けつけてきた医師らしき人物が僕を見て驚いている。

 何がそんなに不思議なのだろうか。

 僕はゆっくりと起き上がる。


「だ、大丈夫ですかっ?」

「何が、かな? 僕は正常だよ?」

「……」


 医師と看護師らしき二人は僕を不思議そうな目で見つけていた。

 体も義肢の感覚も違和感はない。少し傷が痛む程度で、それ以外は正常だ。


「とりあえず、僕の聖剣はどこかな?」


 僕は看護師にそう言った。

こんにちは、結坂有です。


文字数が多くなってしまいましたね。

少し詰め込み過ぎたと反省しています。


ミリシアとユウナはエレインと同じ家に住むことができるようですね。

そして、アレクも聖剣と契約を果たしたようです。

これからどうなっていくのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここでは紹介しない情報やちょっとした”呟き”も発信していこうと思っていますので、フォローしてくれると助かります。

Twitter→@YuisakaYu

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