強いと言う証明
聖騎士団の拠点は慌ただしく動いている。
壁にはパベリの地図が貼り出されており、そこには魔族らしき物や怪しい人物などの目撃情報が書かれていた。
どうやら聖騎士団はこの国に魔族が侵入してきたと考えているらしい。
俺もそう考えているし、フィレスも同じ意見のようだ。
確かに自警団本部に魔族がいたのだからな。
それにしても、俺たちはただ魔族をぶち倒すだけだ。
聖騎士団がどうだとか、自警団がどうだとか俺には関係のない話。魔族がいなくなればこれ以上何も悲劇など起きない。
「アドリス隊長、私たちは一体何をすればいいのかしら」
拠点の中に入ってアドリスは隊長室に入っていった。
当然、この部屋にもこのパベリの地図に何やらメモ書きがされていた。
見た限りだと先ほどのものとほとんど変わりない。
ただ、外のものと違うのは地図にルートが描かれている点だ。
その地図を見ながら彼はゆっくりと口を開いた。
「俺の部下たちがいくつかルートを探しているところなんだ。それで君たちはこのルートを探して欲しい」
そう言って彼が指したルートは黄色のラインで描かれており、短いルートであった。
それに今いる拠点から遠くはない。
「そこに俺たちが行けばいいってことだな?」
「そうね。でも、ここなら私たちでなくてもいいのではない?」
「いや、ここは君たちに任せたい。僕たちも全てを処理し切れているわけではないからね」
確かにそうだろう。
聖騎士団と言っても人員が少ないため、多くを捜索隊として出動させることは難しいだろう。
かと言って捜索を怠ると隠れている魔族や裏で動いている何かを特定することはできない。
「まぁ近いところだしな。別に俺たちだけでも捜索はできねぇわけでもないぜ」
「……そうね。二人だけだとしたらこれぐらいがちょうどいいのかもしれないわ」
どうやらフィレスも納得してくれたようで、俺たちはすぐにそのルートを場所まで向かことにした。
最後にアドリスは無理だけはしないで欲しいと言っていたが、別に大した脅威でもないだろう。
それから装備を整えた俺たちはパベリの中央広場から少し離れた倉庫群の場所に向かった。
ここからちょうど東側には聖騎士団外国支援部隊の臨時拠点がある。そして西側には俺たちと同じように残党を探している部隊もいるという。二人でどうしても解決できなかった時は逃げることも可能だろう。
ただ、問題は俺たちが逃げれるかどうかという点だけではない。
この場所は唯一の聖剣生産国であるエルラトラムと一番近い場所であるということだ。
普段は自警団が封鎖しているのだが、生憎と今は機能していない。
当然、魔族の襲撃があったということで今は市民の安全を確保するのに大変だそうだ。
まぁあいつらのことだ。ただ単に面倒なことを押し付けられたくないということだろうな。
「それにしても人がいないだけでこんなにも静かなのね」
捜索する場所についた俺たちはすぐに異様さに気が付いた。
この倉庫街はいつも物の出入りが激しく、常に騒音の耐えない場所であった。
だが、今は緊急事態ということで誰一人としてここにいないのである。
「ったりめぇだろ。魔族が攻めてきたってのにそんなことをしている場合ではないからな」
「ええ、わかっているわ。それでもいつもと違う景色が広がっていたら違和感しかないわよ」
確かにフィレスの言いたいことはわかる。
実際に俺も違和感しかない。
「まぁなんでもいいけどよ。とりあえず、探してみようぜ」
俺がそういうと彼女は歩き始めた。
それに続くように俺も歩いていく。
音や空気の流れにも注意を向けながらも俺たちは進んでいく。
今のところ魔族や俺たち以外の人間がいるようには感じられない。とは言いつつ、どこかで息を潜んでいたとしたら、奇襲を受ける可能性がある。
「おい、もう少しゆっくりと進んだ方がいいじゃねぇのか?」
「ゆっくりとしていたところで何も変わらないでしょ? 先に進んでみないことにはわからないのよ」
「そうだけどよ。奇襲を仕掛けられたら面倒だ」
「ええ、わかっているわよ。あなたがいるからこうして落ち着いて歩いているの」
まさかと思うが、フィレスは俺がなんでも対処できると思っているのかもしれないな。
今までの自警団の件を考えてみれば、確かに俺は奇襲の対処能力はかなり高いのかもしれない。
それでも全てが完璧というわけではない。俺はエレインでもなければミリシアでもねぇんだ。
「過信し過ぎだろ。別に俺がなんでも……っ!」
すると、倉庫の屋上から妙な足音が聴こえた。
「レイ!」
「オラァ!」
急いで剣を引き抜いて、俺は上方から襲いかかってくる何者かに対処することにした。
シュンッ!
相手の剣は最悪なことに大剣、その膨大な質量を伴った強力な一撃が俺に降りかかってくる。
だが、俺のこの剣には”超過”という能力がある。
とは言っても完全に受け止めるには相当な力が必要だ。
強烈な金属音が周囲を轟かせ、地面に足がめり込む。
「くっ……」
相手は全体重を剣先に移動させているようだ。
ギャリィン!
俺は体を捻ることなく、剣を傾けることで攻撃の重さをそらすことにした。
その際、相手は一瞬にして体を捻流ことで俺の方へと追撃を行った。当然俺は体を固めていたため避けることができない。
「っ!」
だが、攻撃を受けたのは腕をほんの少し斬られただけだった。
「はっ!」
追撃を行った相手に対して、フィレスが間髪入れずに攻撃を加えた。
その瞬間、相手の体が急に変化した。
「なっ!」
腕は俺のように隆起し、体格も巨大になっていく。
攻撃を行おうとしていたフィレスもすぐに体を止めて、距離を取る。
「てめぇらのことはよくわかった。だがな、ここは一旦引かせてもらうぜ?」
「あ? 何言ってんだ!」
「へっ、俺はお前だからな。当然勝てるわけがないだろ?」
「やってみるか?」
こいつ、俺のことを真似しているようで妙な感覚がする。それにしても体を変化させる魔族なんて聞いたことがない。
フィレスも同じようで彼女も神妙な目で相手を見つめている。
「やめておくぜ。お前は俺に勝てないし、負けもしない」
あくまで実力は拮抗していると言いたいようだ。
だが、そんなことはやってみなきゃわかんねぇことだ。
「ふざけんなよ!」
俺がそう前に出ようとすると、脳内に聞き覚えのある声が聞こえた。
『待って、ボクの言葉を聞いて。相手の能力は”模倣”だね。君の実力を真似しているってことだから気をつけて』
「あ?」
模倣、か。
聖剣か魔剣かのどちらかだろうな。
まぁとりあえず、相手の情報がわかれば全く問題はない。
俺がするべきはただ一つ、こいつをぶっ倒すだけだ。
「オラァ!」
俺は迷いなく超過の能力を使って、剣を振り回した。
しかし、相手の剣は大剣だ。それだけでは簡単に相手を崩すことはできない。
バギャンッ!
鉄板が裂けるような音がした。
「っ!」
「どうだ? これでも強いって言えるのかよ!」
「ふざけ……」
俺の剣はそこまで大きい剣を持っているわけではない。だが、それでも俺が押し勝っている。
理由はただ一つ、こいつが俺自身を完全に模倣できていないということだ。
こいつは魔剣のことまで模倣できていない。
「ふっ!」
「っ!」
すると、横から別の男が俺を斬りつけてきた。
「あ? 何すんだよ!」
「模倣はできたな。さっさと逃げるぞ」
「どういうことだよ!」
そう言いながら、目の前の男は逃げ始めた。
「レイ! 逃してはだめよ!」
「っかってるよ!」
だが、俺の実力を模倣したと言った男が剣を地面に叩きつけて、強烈な砂煙を巻き上げた。
「くっ!」
砂煙の中、突撃するのは危険だ。
数秒後、砂煙が晴れるとそこには誰も立っていなかった。
「……逃げられた、か」
「そうみたいね。早く拠点に戻ってアドリス隊長に知らせましょう」
「ああ」
それから俺たちは急いで聖騎士団の拠点に戻るのであった。
こんにちは、結坂有です。
やはり相手はあの面倒な堕精霊だったそうですね。
これからレイがどうエレインと関わってくるのか、気になるところです。
そして、次の回でこの章は終わりとなります。
それでは次回もお楽しみに。
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