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複雑な事情はどこも同じ

 翌朝、フィレスがいつもより早く起きてきた。

 朝五時とまだ外が薄暗い。


「おはよ。起きてるのね」

「あ? 眠れねぇのか」


 髪の毛の様子などからあまり眠れていないことがよくわかる。

 まぁ眠れねぇ理由ぐらいなら俺もわかる。

 これから聖騎士団と共に働くことになるんだからな。当然、緊張と呼ばれるものが眠れなくさせているのだろう。


「ええ、眠ろうとしたけどすぐに目が開いてしまうの」

「そうかよ」


 俺は掛け布団を畳み起き上がる。すると、彼女は少し疲れ気味に椅子に座った。

 どうやら朝のコーヒーを飲もうとしているのだろう。あまり眠れなかったときはコーヒーでその日の眠気を飛ばすのが彼女のやり方のようだ。


「初日に眠そうにしてたらいけないでしょ?」

「いや、お前の実力はあいつらも知っているだろ。別に気にしなくていい」

「気にするの。私はあなたみたいに強くないからね」


 そう言って淹れたての熱いコーヒーを一気に飲み始めた。

 たまにこう言った日があるのだが、いつにもまして苦そうな表情をした。


「……こう言う日に限って苦く感じるのはなぜかしら」


 それから少し身支度を整えて朝食を取り始めた。




 昨日のうちに聖騎士団に言われた場所で待ち合わせをすると、そこには隊長であるアドリスが一人で立っていた。

 隊長ともなる人物が一人で立っていると言うのは無用心な気がするが、彼も相当な実力者だから問題ないのだろうな。

 そんなことを考えているとこちらに気付いたようで軽く手をあげた。


「一人であんなところに立っていて大丈夫なのかしら」

「まぁ気にするだけ無駄だろ」


 そんなことを呟きながら俺たちは彼の元へと歩いていく。


「意外と早いんだな」


 予定より数分早い到着なのだが、すでに彼はここで立っていた。

 隊長なら部隊の管理や指示など忙しくはないのだろうか。


「部隊のことは副隊長に任せているからね。僕はただ見守っているだけだよ」

「気楽なもんだな」


 ほとんどの指揮系統を副隊長に委ねていると言うことはほとんど隊長は肩書きだけのようなものだ。

 そんなことを考えたところで、どんな体制を取っているかはそれぞれだから俺たちは何も言えないがな。

 すると、堅い表情のままフィレスが少し前に出た。


「アドリス隊長、お誘いいただいて嬉しいのですが……」

「気にすることはないよ。僕も人員が欲しくて勧誘したわけだからね」


 フィレスの言葉を遮るように彼は口早にそう言った。

 確かに国外での活動で死者が出た場合、すぐには補填されないからな。

 現地で人員を調達するのはよくあることなのかもしれない。


「……そう、ですか」

「あと、そこまで敬語とか使わなくていいからね。僕たちの部隊は上下関係なんてほとんどないわけだし」


 少し複雑な顔をした彼女ではあるが、すぐに頷いた。


「わ、わかったわ」

「それでよ。これからどうすんだ? 他の国にも魔族がいるのか」

「その件だけど、部隊と合流してから話そうと思う」


 そう言って彼は歩き始めた。

 どうやらこの道の先に拠点を作っているようだ。

 隊長も何を考えているのかわからないが、魔族を倒すことができるのなら文句はない。


「それにしても魔族は昨日の連中だけだったのかしら」

「あ?」

「自警団の本部に私たちが乗り込んだ時にも魔族がいたわけよね?」


 一体とは言え昨日の時点で魔族が本部にいたのは確かだ。

 それが意味するのはすでにこの街に侵入していたと言うことでもある。


「アドリス隊長」


 俺がそう考えを巡らせていると、彼女は前を歩き出した隊長に声をかけた。


「もしかして、この街に魔族がまだいるかもしれないの?」

「……作戦のことは拠点で話す」

「そう、なのね」


 それからは何も話すことなく、ただ隊長の後を付いていくだけであった。


 臨時で建てられた拠点は案外にもしっかりしており、負傷者を手当てできる場所もあれば食事をする場所も作られている。

 ただ、少し異様なのは聖騎士団の人たちが慌ただしく動いていることだ。


「まだ朝なのに(せわ)しいわね」

「魔族がいるわけでもねぇのにな」


 すると、アドリスが前に出てみんなに聞こえるように声をかけた。


「みんな、作業をしながら聞いて欲しいのだけど」


 そう彼が言葉を発すると、周りで作業をしていた人は一瞬だけ彼に注目した。


「今日から一緒に行動することになったレイとフィレスだ」


 俺たちの名前を話したと同時に彼は背中を軽く押した。


「それから、今朝の件だがもう少し捜索の範囲を広げる」

「捜索?」

「今日は少し大変になるけど頑張って欲しい」


 そう言ってアドリスは軽く頭を下げた。

 隊長である彼が頭を下げる必要はないと思うのだが、おそらくこの命令は彼の独断であると言うことなのかもしれない。


「あんたの独断なのか?」


 俺がそう聞くと彼はゆっくりと口を開いた。


「……そうだね。街中で話すのはよくないと思ってここまで連れてきたんだ」


 まぁ街中では誰が聞き耳立てているかわからないからな。


「それで、聖騎士団は何をしているんだ?」

「街の魔族の捜索だよ。昨日の一件でほとんどの魔族は倒すことができた。でも街中で見たと言う自警団の人が何人もいたからね」

「それなら私たちも見たわ」

「そうなのかい?」


 見た、と言うよりかは戦ったと言った方が正しい。

 自警団の本部に隠れて、俺たちを奇襲してきたのだからな。


「ああ、自警団の本部にな。まぁ一撃で倒してやったんだが、確かに街中に他の奴らがいてもおかしくはねぇ」

「まだ五体ぐらいはいる可能性があるわ」

「……君たちにも話しておくんだけど、おそらくこの件は魔族だけではないと思うんだ」


 そう小声で俺たちに話してきたアドリスは真剣な顔をしていた。


「どう言うことだ?」

「人間か堕精霊かはわからないけれど、何かが裏で動いている可能性があるんだ」

「あ? 魔族なんかに協力するバカがどこにいんだよ」

「君たちは知らないと思うだろうね。でもその可能性もあるってことは知っていて欲しい」


 そう言って彼は歩き出した。


「……隊長の言っていること、本当なのかしら」

「信じられねぇことだが、可能性としてはあるだろうな」

「可能性って、人類が魔族に力を貸すってどう言うことよ」

「流石にそこまではわかんねぇよ」


 まぁ頭が悪い俺でもいくつかは推測できるが、可能性の一つでしかない。


「魔族に協力するなんて、その人も魔族なのよ」


 少し語気を強めた彼女はそう吐き捨てるように言った。

 怒りを覚えるのは俺も同じだ。


「今するべきはそいつらを見つけ出すってことだけだ」

「ええ、そうね」


 俺たちは少し前を歩き出していたアドリスに付いて行った。

こんにちは、結坂有です。


魔族の襲撃だけではなく、人為的なことにも振り回されるのはどこも同じなようです。

果たして裏で動いているのは一体何者なのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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