引き受けるべき誘い
襲撃してきた魔族の数は全体で一三〇体ほどで、俺はその中で三〇体以上は倒すことができた。
他の聖騎士団の人たちはせいぜい一〇体といったところだが、アドリスは四〇体近くを斬り倒していた。
後から聞いた話では、どうやら彼は団長に次ぐ実力者というらしい。
団長がどれほどの実力なのかはわからないとはいえ、強い剣士であることは確かだろう。
「レイ、と言ったね」
「ああ、あんたはアドリスだろ?」
「そうだね。君に一つ誘いがあるんだけど……」
「あ?」
アドリスはゆっくりと振り返り、俺の目を覗き込んでくる。
その目は俺の本質を見極めるかのような鋭い目だ。
それに近いものをエレインが時々ではあるが、していたことを覚えている。
「聖騎士団に興味はあるかい?」
「どういうことだ?」
興味がない、といえば嘘にはなる。
魔族を蹴散らすのが仕事の聖騎士団は俺にとって相性がいいのかもしれない。
「聖騎士団に入団するには高度剣術学院に入学することが望ましいのだけど、僕たち外国支援部隊は特例で現地の強力な聖剣使いを仲間に加えることができるんだ」
思いがけない誘いではある。
彼が言っているのは聖騎士団として入団するわけではないが、聖騎士団に近い存在として今後付いてきてほしいと言っているのだろう。
フィレスの話によると、聖騎士団に入るのは非常に厳しいそうだ。
高度剣術学院上位で卒業、もしくはエルラトラムの議会軍で何年も実績を重ねることだ。
そのどちらも実力を要するもので、生半可な力では決して聖騎士団になることはできない。
それにエルラトラムの国民でもない俺やフィレスがその議会軍に入隊することなどできない話なのだ。
俺は年齢的に高度剣術学院に入学することができるが、彼女はできない。
つまり、二人揃って聖騎士団に入団することはできないということだ。
正式な団員ではないが、聖騎士団と同じ活動ができるというのは俺たちにとって非常にありがたいことなのではないだろうか。
しかし、それを実現するにはまずフィレスを受け入れてくれるかどうかだ。
「誘いを受けておいて悪いんだが、条件がある」
思い切った言葉をする。
すると、アドリスが驚いた表情で俺の方を見つめる。
「何かな?」
「フィレスも同行させてくれ」
俺がそういうと彼は少し難しそうな表情をした。
「……フィレスというのはあの女の人のことかな?」
「そうだぜ」
後ろの方で彼女は負傷者を手当てしている。
「いいよ。彼女も見ている分には強そうだしね」
迎え入れるかどうかは別として実力がある人は拒まないといったところだろう。
母国を離れて国外で活動するというのはそれだけで非常にリスクが高くなる。現地である程度人員を確保することも必要になるのは当然か。
「そんな即決でいいのかよ。もう少し考えてみていいんだぜ?」
「考える? 食料は十二分にあるし、それに強い人を拒む理由はないよ。それに即断即決は人生に余裕を与えてくれるからね」
訳のわからないことを言っているが、決断が早いというのは俺としても嬉しい。
「フィレス!」
俺は手当てをしていた彼女を呼んだ。
彼女は以前から聖騎士団に入りたいと言っていた。
パベリの自警団を抜け、いつかは聖騎士団に入団して本当の聖剣使いとして活躍したいと言っていたのだからな。
すると、彼女はすぐにこちらへと来てくれた。
「どうしたの?」
「聖騎士団外国支援部隊の助っ人として俺たちが誘われたんだ」
「え……」
俺からの意外な言葉で彼女は言葉を失う。
当然といえば、当然だろう。
思ってもいない幸運が降りかかってきたわけだからな。
「僕はこの隊を率いているアドリスだ。よろしくね」
そう優しい表情で手を差し伸べる彼にフィレスは動揺している。
表情には出ていないものの、足が少し竦んでいる様子から相当緊張しているのだろうな。
「ほら」
「っ!」
俺が彼女の背中を軽く押すとビクッと肩を震わせた。
「突っ立ってるだけじゃ意味ねぇよ」
「……そうね」
我に戻ったのか少し冷静になった彼女はゆっくりとだが、差し伸べられたアドリスの手を取った。
「これからよろしくお願い、します……」
「こちらこそ」
いつもより小声でそう言った彼女はまだ緊張しているようであった。
確かに大部隊の隊長ともなれば萎縮してしまうのは当然か。それに憧れの聖騎士団というのもあるのかもしれないな。
それからは何事もなく、魔族の後処理をした聖騎士団であった。
途中から自警団の人たちが来たのだが、アドリス隊長に怒られていたのは印象的だった。
普段怒らない人が怒り出すと恐いと言うのが理解できたのであった。
今回の件について自警団は避難に率先していたようだが、あの程度の数であれば自警団の戦力でなんとか前線維持できたのは間違いない。
その点でアドリスは怒っていたのだろう。もし、聖騎士団が即座に来なかったら街が半壊していた可能性があるからな。
そして、その日の夜。
一旦、聖騎士団の人たちと解散し、俺とフィレスは自分の家に戻ることにした。
「……」
家に戻るなりフィレスはぼーっと天井を眺めた。
「どうしたんだよ」
「急な展開になったなって思って」
確かに魔族がこの街を攻撃してきたのもそうだし、聖騎士団がすぐに駆けつけてきたのも運が良かったとしか言えない。
最近は自警団の圧力にもうんざりしていたところだからな。
「だけどよ。俺がここにきて一年以上経ってるんだぜ? そろそろ何かが起きないと腕が鈍るだけだ」
「ただでさえレイは強いんだから、もう少し弱くなってもいいと思うの」
そう口を尖らせてそっぽを向いたフィレスはどこか可愛らしい表情をしていた。
今までそのような顔をしてこなかったから少し驚いた。
「あ? 俺も鈍ってるところあるんだから気にすんな」
「全くそうには見えないのだけれど?」
「最近筋力が落ちてる気がすんだ」
「魔族を何メートルも打ち上げておいてよく言うわね」
今日の戦闘で魔族を斬り上げたとき、思った以上によく飛んだのを覚えている。
だが、それは魔族が軽かっただけと魔剣の力があっただけに過ぎない。
「それはこの剣の能力のおかげだって何回言ったらわかるんだよ」
「その能力って”超過”よね? 土台となるレイの力がなかったら意味がないってことじゃないのかしら」
「知らねぇけど、そんなことはないだろ」
「……まぁそう言うことにしてあげる。今日はもう寝ましょうか」
「ああ、そうだな」
それからフィレスは自分の部屋に向かった。
俺はソファの背もたれを倒して、ベッドのようにしてから眠ることにした。
明日待ち受ける何かに期待しながら、俺はゆっくりとまぶたを閉じた。
こんにちは、結坂有です。
正式に聖騎士団として入団するわけではないですが、彼らの活動に参加することが許された二人は今後どうなるのでしょうか。気になりますね。
そして、これから待ち受ける妙な気配とはなんなのか。
それでは次回もお楽しみに。
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