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奇襲に気付くのは難しい

 俺がパベリに来てからもう一年半も経った。

 何をしていたかというと特に何もしていなかった。

 いや、実際には自警団の奴らを追い払ったり、フィレスの訓練に付き合ったりと色々あったのだが、目立って何も起きていなかった。

 そんなことをしていると一年というのはすぐに過ぎ去った。


「レイ、起きてるわよね」


 今日もいつものようにフィレスが奥の自分の部屋から起きてくる。

 日常になりつつあったことなのだが、彼女の表情は少し強張っていた。


「ああ」

「ほんと、いつも朝が早いのね」

「これに慣れていたからな」


 生まれて今日までずっとこの時間帯に起きていた。

 時間に厳しい地下施設であったから当然と言えば当然だ。


「帝国でどんなことがあったかわからないけれど、疲れたりしないの?」

「いや、訓練してた時は毎日過酷なものばかりだった。別に何も感じねぇよ」


 疲れたりと言った感覚はもう俺にはないのかもしれない。

 自警団の奴らの攻撃が激しくなってきているが、それでも訓練時代に比べれば簡単なものだ。


「そうなのね」

「それで、今日はいつにも増して険しい顔してるが?」

「ええ、この空気感……嫌な予感がするわ」


 彼女の直感は非常に鋭いものだ。

 俺でもわからないようなちょっとした異変にもすぐに察知する。

 自警団が仕掛けてくる日はだいたい怪訝そうな顔で起き上がってくる。

 それほどに彼女は直感に優れていると言えるだろう。


「訓練の時から思っていたが、直感は鋭いよな」

「そう、なのかしら。私にはわからないわ」

「嫌な感じがするっていうのは今日も自警団の奴らが来るってことか?」


 俺がそう聞くとフィレスは眉を(ひそ)めた。


「そんな感じではないのよ。魔族の動きが活発になったみたいな感じ、かな」

「どう言ったもんかは知らねぇけど、魔族の気配がするってことか?」

「そうね。以前もこんな感じがしたからね」


 どうやら魔族の気配がするようだ。

 まぁ俺にはその気配というものは感じないわけだが、彼女が言うのならきっとそうに違いないだろう。

 一年半も彼女と過ごしていると、自ずと彼女のことに関して色々とわかってくる。


「魔族か、自分の手でぶっ倒す時が来たって感じだな」

「レイは十分に強いからそう言えるだろうけどね。私たちやこの国のほとんどの人たちは恐怖でしかないのよ」


 人間を超えた力を持っている魔族に対して恐れを感じることは誰でもあることなのかもしれない。

 しかし、怖がっているだけでは何も解決しないのは確かだ。

 自分の力を信じて、立ち向かうことこそが重要だと俺は考えている。


「自警団の奴らのことか? あいつらはただ単に腰抜けなだけだ。戦っているとよくわかる」

「それでも毎日訓練している人たちよ。一般の人よりかは強いわ」

「そんなの関係ねぇよ。俺からすれば腰抜けの集まりだ」


 いくら訓練をしていようが、自分の力を信じて攻撃してこない時点で腰抜けだ。


「……ほんと、レイは規格外なのね」

「あ?」

「何でもないわ。とりあえず、朝食にしましょ」

「おい、そんな悠長にしていていいのかよ」


 魔族の気配がすると言っていたのは彼女の方だ。

 もし魔族が近くまで来ているのだとしたら、今すぐにでも行動に出たほうがいいのではないだろうか。


「警報が鳴っていない時点でまだ魔族がこの国に来ていないってことよ」

「警報?」

「ええ、この国の魔族察知能力はそれなりに高いのよ」


 昔に魔族が攻めてきたと言っていたからな。自衛のためにも魔族を見つける能力を上げるは当然か。


「……フィレスがいいって言うなら何も言わねぇよ」

「それじゃ、朝食を作りましょ」


 そう言ってキッチンの方へとフィレスは向かう。

 最近は俺も料理を覚えてきている。

 彼女からは大胆な料理だと言われているが、俺はこれでも変わらないと思っている。

 結局混ぜれば同じなのだからな。

 いや、どうなのだろう。俺もまだ料理について知らないことばかりだ。

 結論付けるのはまだ早いだろうか。




 朝食は野菜をメインにしたサラダだ。

 ドレッシングはフィレス特製のもので、酸味の効いた美味しいものだった。


「お昼前だけど、警報はならないわね」

「本当に魔族が来ているのだとしたら、遅い気がするがな」

「……嫌な予感はずっとしているのだけど」

「まさかとは思うが、察知できないものだったりするのか?」


 いくら魔族察知能力が高いとは言え、見逃しがないわけではないだろう。

 絶対というものがない以上、そう言ったことは考慮しなければいけない。


「そうね。自警団に反発しているわけだけど、向かいましょうか」

「あ? あいつらと共闘するってか?」

「仕方ないわ。こうなった以上は立ち向かうしかないのだから」


 確かに彼女のいう通りだろう。

 もし魔族が攻め込んできているのなら、人間同士で争っている場合ではないのだからな。


「そうかよ」

「じゃ、早速行きましょう」


 そう言って彼女が剣を携えて玄関に向かう。

 俺も魔剣リアーナを腰に通して、彼女の後を追う。


 いつもなら活発になっているはずの市場は閑散としている。

 そんな異変を横目に俺たちは自警団の本部へと向かうことにした。

 一度だけ彼女と行ったことがある。良く言えば威厳がある、悪く言えば悪趣味と言ったそんな門構えであったことを覚えている。


「……この時間帯なら訓練をしているはずなのだけど」

「どういうことだ?」

「あそこ、訓練場になっているのだけど閉鎖されているみたいね」


 そう言って指差した方を向くと確かに扉も窓も閉め切られている。

 訓練をしているのであれば、人の出入りがあってもいいはずではある。


「異変が起きているってことか?」

「そうね。いつもとは違うってことだと思うわ」

「そうかよ」


 それからフィレスはゆっくりと門をくぐる。

 すると、一気に冷たい空気が流れ込んできた。外のはずなのに洞窟の中のように冷たい。


「この感じ……魔族がっ!」


 フィレスがそう叫んだその瞬間、建物の屋上から魔族が降ってきた。


「ブギャァ!」

「オラァ!」


 俺は魔剣を引き抜き、上部から降ってきた魔族に対して斬り上げてみせる。

 太い刀身を持った俺の剣は一瞬にして、魔族の胴体を切断した。


「ギャブッ」

「きめぇ声上げるな」


 俺は半分になった魔族にとどめをさした。


「……ごめんなさい。油断してしまったわ」

「気にすんな。明らかに奇襲だったからな」


 あの奇襲は確かに対処が難しいだろう。二人いて良かった。


「それにしても、ここに魔族がいるってことはどういうことかしら」

「全滅したか、逃げたかのどちらかだろうな」

「そうね。とりあえず奥へ進んでいきましょ」


 そう言ってフィレスは剣を引き抜いて警戒しながら自警団の本部へと入っていく。


 本部の中に入るが、何も痕跡がなく食事などがまだ残っていたことからすぐにここを抜け出したことがわかった。

 幸いなのが、誰も死んでいないということだ。

 魔族が攻め込んできたと同時にうまく逃げたということなのだろう。


「本当に逃げ出したみたいね」


 残された資料を見つけたフィレスは内容を読んでそう呟いた。


「どういうことだ?」

「記録によると、今朝の段階で魔族が発見されていたみたい。でも警報がすぐに壊されて街に報告することができなかったようなの」


 ここを攻められたのは急な出来事だったのだろう。

 それに、すぐにここを逃げ出したということはすでに別のところへと避難している可能性がある。


「その際に都市部の人たちを優先して避難させるようにと書かれているわ」


 なるほど、だから都市部から一番離れていた俺たちに何も連絡がこなかったわけか。


「それでよ。魔族ってのはどこにいるんだ?」

「最後に発見されたのはパベリの北西部ね。ちょうどそこは共和国との連絡通路に当たるところね」


 俺は地図を確認しながら彼女の説明を聞く。


「この辺りか」


 俺は場所を確認すると、急ぎ足で歩き出す。


「ちょっとどこに行くの?」

「あ? ここに向かうんだよ」


 顎を地図の方へと突き出して俺はそう言った。

 どういうことをするのか、すぐにわかったようでフィレスは俺の方を向いた。


「だめよ。数は少なくとも百体はいるそうよ?」

「どれだけいようが関係ねぇよ。ただぶっ倒すだけだ」

「……わかったわ」


 少し考え込んだ彼女は小さくそう呟いた。


「来るのか? 来ないのか?」

「一緒に行くわ。私も自警団の一人だったからね」

「へっ、今は違うだろ」


 俺がそういうとフィレスは近くに掛けられていた自警団の上着を着込んだ。


「似合っているでしょ?」


 白を基調としたその上着は確かに似合っている。

 美しいドレスとまではいかないが、いつにも増して綺麗に見える。


「そうだな」


 俺は視線をそらしてそう言った。


「ふふっ、行きましょ」


 そうドヤ顔を決めてフィレスは歩き出した。

 まぁやる気ならいいのだがな。

 それから俺たちはその連絡通路の方へと向かうのであった。

こんにちは、結坂有です。


どうやら魔族は真っ先に自警団本部を制圧しにきたようですね。

ですが、すぐに逃げられてしまったみたいです。

果たしてレイとフィレスは魔族の襲撃を止めることができるのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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