蠢く魔の存在
その日の夜、俺はこの魔剣リアーナのことについて考えていた。
この剣が他の聖剣と違って魔剣であることはフィレスから説明された。
確かにリアーナが自分のことを堕精霊だと明言していたことから魔剣であることが確定した。
魔剣は聖剣と違い、様々な恩恵を受けることがあるようだ。
聖剣はあくまで剣の能力を引き上げるものだ。どれだけ強いものだろうと使用者の実力までは影響しない。
しかし、魔剣は所有者の能力すらも引き上げることができるようだ。それは堕精霊が所有者に半分憑依するからだそうだ。
この剣の鍔の部分に俺の血で作られた結晶がある。それがどうやら憑依していることの証だという。
「まさか、私が預かっているものが魔剣だなんてね」
「知らねぇのによく預かっていたな?」
「聖剣の類なのは触れただけでわかるわ。でも実際に鞘から抜いてみないとわからないわよ。私には引き抜くことすらできなかったけれど」
そういえば、俺もこの剣を引き抜く時に何か引っ掛かりのようなものを感じた。
あの瞬間に俺に資格があるかどうかを見定めたのだろうな。
「まぁ俺の剣についてはまたあいつに聞いてみることにするぜ。今度はフィレスのことだ」
「え? 何かしら」
「あいつらとの関係だよ。まだ懲りてねぇみたいだぜ?」
「そうね……」
それから彼女は少し考えこむ仕草をした。
どこから話したものかと悩んでいるようだ。確かに複雑な関係であるのは俺でもわかる。
彼女があいつらの団体に所属していたのはわかっているが、どうして嫌われることになっているのかは不明だ。
「私はエルラトラム聖騎士団に入団したいというのはわかっているわよね?」
「ああ」
「それでパベリ自警団に所属したわけだけど、思想の違いと言ったらいいのかしら。私は彼らに反発してしまったのよ」
帝国を助けに行こうとした時に反対されたと聞いた。
その点で色々と思想にズレがあることは聞いていてわかっていた。
「それが上層部の人の逆鱗に触れたみたいで……でも私の実績も高かったからすぐには処分できなかったようなの」
彼女に初めて会った時にわかっていたのだが、確かに強い人だ。
魔族に対しても冷静に立ち回れたのだからな。
実力の高い彼女をすぐに切り捨てることができないのはよくわかる。
「昨日は脱退すると言っていたが?」
「ええ、今まで地位を維持するために所属していたようなもの。あなたを匿うと決めたのだからそう意思を表明したのよ」
「あ? 俺のためにってか? 別にそこまでしなくていいだろ」
俺がそういうとフィレスは大きく首を振って否定した。
「自警団は帝国の人間を忌み嫌っているわ。差別的なほどにね」
「そうみてぇだが、何も脱退するほどではないだろ」
「色々あったのよ。帝国のこと以外にも魔族に対してのこともね」
そう言って少し語気を強めた彼女は真っ直ぐに俺の方を向いた。
魔族に対してのことは俺も知らない。
「自警団が聖剣を集めているのは魔族を倒すためではないの。力の誇示、それだけよ。魔族が攻めてきた時があったのだけど、その時は派遣されてきた聖騎士団に全て任せていたの」
市民を守ることが自警団の役割であるはずなのだが、彼らはそれを放棄していたということらしい。
聖剣は持っているだけで強さを示すことができる。
しかし、力だけでは支配することはできない。
「あ? 腰抜けの集まりというわけか?」
「あなたからすればそう見えるわよね。魔族を倒せないのなら自警団の意味はない」
「へっ、今度魔族が攻めてきたらどうすんだよ」
「その時は私たちが対処しましょう」
そう言ったフィレスの目は非常に鋭く、俺の心の奥まで突き刺してきた。
「俺も魔族には腹が立っていることだ。自警団の奴らもしばらくは襲ってこないだろうしな」
正直、魔族を早く倒したいというのが俺の望みだ。
まぁどうなるかはわからないが、しばらくはここで過ごすことができるだろう。
◆◆◆
セルバン帝国が襲撃されて一年半後……
聖騎士団外国支援部隊の隊長を任されている僕、アドリス・ヴェルボルトはエルラトラムを離れてエルラトラム以外の国の魔族防衛に向かっていた。
国内はブラド団長に任せている。団長だけでもかなりの戦力になるのだが、それにプラスして下位の騎士団も何人かいる。
一度しか会っていないが、エレインという人もいる。
魔族千体斬りの偉業を成し遂げた彼と団長となら、あの国はほぼ無敵のようなものだろう。
「隊長!」
僕が今いるマリセル共和国の首都には聖騎士団外国支部が建てられている。
その隊長室で僕に声をかけてきたのは周辺の魔族の調査をしてくれていた調査員のメリクだ。
「何かあったのかい?」
「マリセル共和国を攻めようとしていた魔族が一斉に進路を変えたみたいです」
「っ! どこに向かっている?」
今までにないことが起きた。
マリセル共和国が以前から狙われているということは知っていた。そのため僕たちがここに派遣されてきたのだ。
そのための防衛線は築き上げている。
準備を整えていたが、魔族が進路を変えたとなればそれは意味をなさなくなるのだ。
「それが……エルラトラムの隣接都市、パベリに向かっているようで」
「パベリ? あそこには僕たちの部隊がいないな」
「隊長、どうします?」
「全部隊をパベリに向かわせる」
僕は当然のようにそう指示した。
「ですが、今から向かうにしてもパベリに先回りすることはできませんっ」
「それはわかってる。でもこうするしかないんだ」
パベリを完全に守れるかどうかはわからない。
それでも向かわないわけにはいかないからだ。僕たちがするべきことは人類を守ること、それができないのなら聖騎士団である意味がない。
「……わかりました。全部隊にそう伝達します」
そう言ってメリクが走り出した。
僕も準備をして、すぐに進軍できるようにしなければいけないだろう。
僕たちが到着するまでにパベリが耐えられるかが問題だ。
少なくともあの帝国と同じような結末にしてはならないのだから。
こんにちは、結坂有です。
更新が遅れてしまいました。
本日の夜にも更新しますのでよろしくお願いします。
レイの物語もどうやらエレインに深く関わってきそうですね。
果たしてこれからどうなっていくのでしょうか、気になるところです。
それでは次回もお楽しみに。
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