厳しい試練
朝食を食べ終えた俺たちは家を出て、街の方へと向かう。
このボロ屋があるところは街から少し離れた場所で、周囲にはほとんど民家が存在していない。
だから訓練などは誰にも邪魔されずに済むということだそうだ。
そして、何よりもここは空気がいいと言う。
確かに自然の空気は気持ちがいいと聞くな。まぁ俺はずっと地下施設で暮らしてきたためにそこまで空気の清涼さは求めていないのだがな。
「こっちよ」
冷たくも美しいそんな透き通った声でフェリスが前を歩く。
俺はこの街を知らないため、彼女に案内されている。
周囲を警戒してみるが、前のように俺たちを襲ってきた奴らはいないようだ。
彼女に付いていくと、人通りの多い場所についた。どうやらここが街のようだ。
周囲の煉瓦造りの建物が目立ってくる。
「あそこが新聞を配っている場所よ」
そう言って彼女が指差した先は昨日号外を配っていた場所の近くであった。
「昨日も似たようなところで配っていたな」
「ええ、すぐ奥の場所が新聞を刷っているところだからね」
「なるほどな」
俺がそう返事すると、フィレスが新聞を受け取りに行った。
「一枚お願いするわ」
「はいよ」
店員はそう言って新聞を配る。
この国では新聞は無料で配られるそうだ。
なぜかと言うと収益は他から得られているかららしい。この国の経済についてはどうなっているのかは知らない。
だが、裕福な国であることは間違いないだろう。
「新聞取ってきたわ。帝国のことは……」
ページをめくっていくと、すぐに見えてきた。
『魔族によりセルバン帝国は壊滅! 今後は共和国との合併に』
そう書かれていた。
やはり魔族によりほとんど壊滅してしまったようだ。
そして、読み進めていくと生存者がいたようだが、国としては壊滅状態だそうだ。
どう言った被害があったのかは詳しく書かれていないものの、いくつかの写真でその悲惨さを物語っていた。
建物らしきものが崩れて、さらに中から大量の商品のようなものが溢れ出ている。
「酷いありさまね」
「死者はまだ計算中とのことらしいな」
魔族の具体的な数、死者数などは伏せられたままでどういったことが起きたのかは書かれていない。
第二次魔族侵攻の際は千体以上はいたと記録に残っているため、あれは第三次魔族侵攻だったのかもしれない。
しかし、そこまで大々的に報道されていないところを見ると、どこか不気味さを感じる。
「……私にもっと力があればいいのだけれど」
「仕方ねぇよ。千体以上いたんだろ? 普通は逃げるもんだ」
それほどの魔族がいれば誰でも逃げるものだ。
俺でもそれほどの度胸があるかといえば怪しい。いや、エレインだろうとアレクだろうとそれは同じことに違いない。
「そうね。過ぎてしまったことだわ。次が狙われるのが私たちかもしれないと意識しましょう」
明日は我が身と意識しておくことで本当にそうなったときにうまく対処することができたりするものだ。
それから俺たちは新聞を持って家に戻ることにした。
ボロ屋に戻り、一息ついてからフィレスが口を開いた。
「新聞も取ってこれたことだし、聖剣の試練をやってみましょうか」
「試練って言われてもよ。どう言ったことなんだ?」
「簡単よ。ただ剣の柄を持つだけだよ」
「そんなもんか」
確か、あの黒い剣を持つ時も妙な感覚があったからな。おそらくそれが試練につながる何かなのかもしれない。
「ふふっ、余裕そうね」
「あ? やってもいねぇのに余裕も何もねぇよ」
「とりあえず、聖剣を持ってくるわ。それがなければ何もできないからね」
そう言って彼女は奥の部屋へと向かっていった。
ガサガサと部屋から物を動かす音が聞こえると、すぐに彼女は剣を持ってこちらへと戻ってきた。
「これなんだけど……」
俺に見せてきた剣は刀身がかなり太く人の上半身を超える長さの直剣であった。
柄の形状からして片手で持つことを想定して作られているようだ。
とは言っても普通の人なら片手どころか両手でも普通は持つことができないような大きさの剣である。
それをフィレスが抱えるようにして持ってきてくれた。
「大きいな」
「ええ、そうね。数十年も前からパベリにあるみたいなんだけど、誰もこれを手にした人はいないのよ」
「それはなかなかな代物だな」
何十年もあって、それを誰も手にしたことがないと言うのはなかなか興味深いものだ。
そのような聖剣は他にないのだろうな。
まぁ俺もそこまで詳しいわけではないから何もいえないのだが。
「一応私が預かっていたわけだけど、渡すわ」
「大事なもんではないのか?」
「持ってても仕方ないもの。それにこの聖剣も使って欲しいだろうし」
そう言って彼女は剣を渡してくる。
「……まぁ何も持ってねぇよりかはいいか」
「何よ、その言い方」
フィレスはほんの微かに頬を膨らませて反抗の意を示すが、そのまま剣を俺に渡してくれた。
「で? どうすればいいんだ?」
「普通に剣を引き抜けばいいのよ」
「そんなことでいいのか。簡単だな」
俺は言われた通りに柄を持ち、剣を引き抜く。
最初は固かったが、すぐに引っ掛かりが外れるように鞘から引き抜くことができた。
「すごい……」
そうフィレスが声を漏らした瞬間、体の平衡感覚が失われた。
そして、視界から光も失われていく。
「っ!」
「レイ?」
心配するフィレスの声を最後に俺は気を失ってしまった。
目が覚めるとそこは大平原であった。
「……あ? どこだよ」
「目が覚めたようだね」
俺の背後から子供のような声が聞こえた。
「誰だ?」
俺はゆっくりと後ろへと向くが、そこには誰もいなかった。
「へー、ゆっくりだね」
また後ろから声が聞こえる。
「ふざけてんのか!」
また振り返る。
今度は非常に素早い速度で振り向いたため、俺はその正体をみることができた。
「おっ! 結構速いじゃん」
そこに立っていたのは綺麗なブロンドの髪をした碧眼の少女が立っていた。
口調はどこか男勝りな感じで、活発な印象を受ける。
「てめぇ、俺をからかってんのか?」
「違うよ? ボクを引き抜けるなんてそこまでいなかったからね」
「あ? 聖剣のことか?」
「そうそう、聖剣ね。ちなみにボクの名前は”リアーナ”」
そう言ってリアーナは俺の前にゆっくりと歩いてくる。
俺は向かってくる彼女に立ち上がって話すことにした。
「ほっ」
彼女がそう言って俺の腹部に拳を突き出してきた。
ズンッ!
鈍い音が平原を轟かせる。
「がっ!」
子供にしては強力すぎるその拳に俺はただ吹き飛ばされるだけだった。
「ははっ! 強い人なんだね?」
「……どう言うことだ?」
「ボクの力は所有者に依存するんだ。君の力を進化させたのがボクなんだ」
そう説明した子供はどこかステップを刻むようにこちらへと駆け込んでくる。
当然、さっきの攻撃のことがあるため俺は防御体制に入った。
「ほっ」
そして、また軽々しい声で拳を突き出してくる。
腕を曲げ、その攻撃を防ぐことにした。
強烈な一撃を受けた腕からメリッとひび割れるような音が聞こえ、電気が走るような激痛が襲う。
「くっ!」
「お? 耐えるんだ」
「何のつもりかわかんねぇけど、敵ってことでいいんだな?」
「ボクが欲しいのならボクを倒せるぐらいじゃないとね? ま、君にボクは倒せないと思うけど」
なるほど、これが聖剣の試練と言うやつか。
確かに面倒な試練だ。
自分を超えた力を持つこいつと戦う、それは明らかに不利な戦いだ。
「聖剣なんだったら、俺に従え」
「へぇ、意志は強そうだね。これは楽しめそ」
そう余裕そうにリアーナは微笑んだ。
馬鹿にしているかのようなその目で彼女は駆け込んできた。
いいぜ、こいつを手に入れて俺が魔族を滅ぼしてやるんだからよ。
こんにちは、結坂有です。
レイはかなり難しい試練に挑むことになりましたね。自分を超えた力との衝突、果たして彼は試練に合格できるのでしょうか。
そして、この聖剣にはどのような秘密があるのでしょうか。
気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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