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不条理な感情論

 ボロ屋の玄関前で三人と戦うことになった俺とフィレスだが、こいつら相手ならはっきり言って俺一人で十分だ。

 それは見ていてよくわかる。


「フィレス、俺に任せておけ」

「え? この人たち、強いよ?」

「こいつらが? 笑わせるな」


 俺は背負っていた大剣を振り上げて構えることにした。


「囲め!」


 目の前の男は部下にそう指示をして、俺を囲むように配置させる。

 だが、囲んだところで意味はない。


「全方位から攻撃されれば、どんなに強かろうと意味はない!」


 そして、その指示で俺の周りから三人がかかってくる。


「っ!」


 フィレスが前に出ようとするが、俺はそれを制止させ大剣を振り回した。


「オラァ!」


 俺の強烈な回し斬りに対して、男たちは反応できずにいた。


「こ、こいつ!」

「おい! 来いよ!」

「くっ、回転は遅い! タイミングを見ろ!」


 そのようなことを指示しているが、それでは不十分だ。


「はっ」


 左方向から斬りかかってきた人が見極めて突撃してきた。

 だが、それは甘いものだ。


「オラァ!」


 俺の大剣が急に方向転換し、斬りかかってきた男をなぎ飛ばす。


「うがぁ!」


 続けて右方向の男も回転の勢いを殺さずに攻撃する。


「嘘だろっ!」


 攻撃を防ぎ切ることができなかったようで、そのまま吹き飛ばされる。

 そして、前方の男をみるとそいつは構えを崩していた。


「い、一旦撤退だ!」


 そう言って三人は一斉に逃げていった。

 なんとも弱い奴らだったな。

 俺の足元でしゃがんでいたフィレスがゆっくりと立ち上がった。


「あなた、本当に強いのね」

「これでも厳しい訓練を受けてきたんだ。当たりめぇだろ」

「……どんな訓練かは知らないけれど、すごいわ」


 そう言って彼女は身嗜みを整えて、玄関へと戻る。


 俺も周囲を警戒してから家の中に入る。


「それにしてもあいつらはなんだ?」

「自警団みたいなものよ。この街の治安維持のために働いているの」

「そいつらに目をつけられたら厄介だな」

「治安維持なんて建前よ。裏では聖剣を集めているって聞いているわ」


 聖剣が豊富にあるエルラトラムとは違い、この国ではそこまで潤沢に聖剣があるわけではない。


「じゃ、あいつらにとってあんたがいなくなるのは痛手だってことだよな?」

「そうね。私も聖剣を持っているわけだし」

「感情だけが全てじゃねぇのにな」

「違うの。あの人たちは帝国の人間が嫌いなのよ」

「どう言うことだよ」


 俺はまだ世界の情勢のことを知らない。

 簡単な歴史程度なら地下施設の資料で読んだことがあるが、それでもよくわからないことばかりであった。


「パベリって国ができた当初はエルラトラムとセルバン帝国の中間地点だったの」


 確か、昔は貿易をしていたって言っていたな。


「それがどうしたんだよ」

「帝国の技術をエルラトラムに伝える、そんな渡し船のような立ち位置だったのが魔族の出現で変わった」


 フィレスは落ち着いた口調でそう言った。

 魔族の出現で世界の関係性が大きく傾いたと聞いた。

 それは歴史の資料を見ていてもよくわかる。聖剣がない人類は魔族に対して何も抵抗することができなかった。


「どう変わったんだ?」

「エルラトラムは帝国の技術のおかげで剣を作ることができた。でも出来上がった聖剣をなかなか帝国に渡さなかったの」

「つまり独占か?」

「ええ、利益を重視したエルラトラムは帝国に聖剣を渡さなかったのよ。確かに魔族のせいで情勢が不安定になっていたから理解できないわけではないのだけれど」


 その話を聞いている限りだと、帝国を嫌いになる理由はひとつもないように思えるがな。

 それから少し頷いてからフィレスが言葉を続けた。


「利益が上がったエルラトラムのおかげでパベリは非常に裕福な国になったの。それでエルラトラムに対して贔屓するようになった」

「帝国が嫌いになる理由はねぇように見えるがな?」

「ええ、そうよ。帝国は何もしていないのよ。魔族が現れてから今までね」


 当たり前だろ。

 技術を提供したのに聖剣を渡さないんだからな。


「つまんねぇ理由だな」

「そうでしょ。だから私は帝国を助けるために動いたの」

「どう言うことだよ」

「魔族に襲われているって聞いて、私は真っ先に向かったの」


 それからフィレスがどう俺を助けにきたのかを聞いた。


 帝国が魔族に狙われていると言うニュースを聞きつけた彼女は真っ先に聖剣を取り出して向かった。

 当然国を出れば逆に魔族に襲われる危険がある。

 そこで少し遠回りをして、帝国に向かおうとしたところ山から二人が走って逃げるのを見つけた。

 魔族に襲われていると確信した彼女は山の方へと向かって、あの洞窟にたどり着いたようだ。


「それで俺を見つけたってことか」

「そうよ。あの二人はものすごい速さで帝国に帰っていったけれどね」


 あの二人は俊敏だからな。足で追いつける気がしねぇな。


「それにしても自警団を辞めるってかなり思い切った決断のように聞こえるがな」

「でもいいのよ。私、聖騎士団に所属したいと考えているから」

「自警団はそのための訓練だってか?」

「みたいなものだと考えているわ。特に思い入れはないわけだし」


 冷たい口調で彼女はそう言った。

 自警団の勝手な思想に従う必要はないのは確かだが、人間には生きる場所というものがある。

 それを捨てる必要は今のところないわけだ。


「それでいいならいいけどよ。少しは自分の立場も考えたほうがいいぜ? 俺を助けている場合ではないだろ」


 俺がそういうと、彼女は決意を決めているかのように真っ直ぐな目で俺を見つめてきた。


「人を見殺しにするような人間にはなるな、私の父が言った最後の言葉よ」

「へっ、綺麗事か」


 まぁ目の前で人が困っていたら助けたくなるものだ。こんな俺でもそう判断するだろう。


「綺麗事だけど、いいの」

「……それでこれからどうするんだよ」


 俺がそう彼女に聞くと、少し考えて彼女が答えた。


「まずはあなたに聖剣を渡すわ」


 まるで俺を試すように目を向けて彼女はそう言ったのであった。

 俺にぴったりな聖剣と言っていたな。どちらにしろ、考えるだけ無駄なことだけどな。

こんにちは、結坂有です。


自警団の身勝手な感情に振り回されていたフィレスは少しだけ苛立ちを覚えていたようです。

そして、レイはこれからどう言った聖剣を受け取ることになるのでしょうか。気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



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