誤算は立て続けに……
団長の魔族を使った策で議長が死んでしまった。
きっとこのことに関しては議長も想像していなかったことだろう。重装歩兵の護衛などがいれば対処できたのだが、ここに来た時は一人であった。
団長も自分の立場というものを考えての行動を取ると議長は考えていたに違いない。その結果、ここに一人でくると言った無防備な行動に出たようだ。
だが、これはいくらなんでもやり過ぎだ。
「団長、何もここで殺す必要はなかったように思えるわ」
「ああ、もう少し場所を変える必要があったかもしれないな」
いや、そういう問題ではない。
ここで問題なのは議長を殺す必要があったかどうかだ。
確かに”拒否の権利”を持っているのは厄介だ。ただ、それに関しては作戦を考えれば何か他に打つ手はあったのかもしれないのだ。
「問題はそこじゃないの。あまり人を殺すのは良くないと言ってるの」
「悪いが、俺はこれまでそうしてきた。それが正しいと思っている」
私は帝国でいろんなことを考えた。
あの時、宰相が取った行動は確かに最善だったのかもしれない。
ただ、それでも全滅を前提とした作戦だったことには間違いない。私がもし宰相であったのならもう少し上手く立ち回れたのだろうか。
それは私もわからない。
でも団長が今していることは明らかに間違っていると確信している。
「悪いけど、この一件で団長への信頼は薄れたわ」
「そうか。それならちょうどいい」
「……どういうことよ」
私がそう聞き返すと、扉から男の気配がした。
「っ!」
「驚かせて悪いな。鉄仮面のお嬢ちゃん」
「アーレイク・フラドレッド……どうして?」
フラドレッド家現当主である彼がなぜ聖騎士団本部にいるのだろうか。
「ミリシアさん、この人を連れてきたのですけど、よかったですか?」
アーレイクの巨躯に隠れたユウナがちょこっと顔を出して、私の方を覗き込んできた。
すると、団長が私たちに命令をしてきた。
「最後の命令だ。フラドレッド家に向かえ」
「え? どういうこと?」
「意味はわかるだろう。俺はこいつと二人で話し合いがあるんだ」
そう言って真っ直ぐ私を見つめてくる団長には何かの決意のようなものがあった。
何を意味しているのかはわからないけれど、この私たちにエレインに会ってもいいということなのだろか。
「……わかったわ。その最後の命令、遂行してみせるわ」
「行ってこい」
そう言って私はユウナの腕を引っ張って走り出した。
せっかくの機会なのだ。
エレインに会って、フラドレッド家から離れるよう伝えないといけない。
犯罪を犯しているかもしれない家系なのだ。そんな場所にいては彼に毒よ。
今すぐにでも彼を正しい道に戻してあげないといけないのだから。
それから肌寒い夜の中、私たちは走っていくのであった。
◆◆◆
部屋でアンドレイアとクロノスを話していると、部屋をリーリアがノックしてきた。
「エレイン様」
どこか焦った様子で声をかけてきた。
何かあったというのだろうか。
「どうした」
扉を開けると玄関の方を警戒しながら、俺の方を向いてきた。
「夜遅くに申し訳ございません。訪問者が来てまして……」
「訪問者?」
確かに玄関の方に耳を向けてみると、心音が聞こえてくる。
二人か。
「はい、あの鉄仮面の女性もいます。今はアレイシア様とユレイナで玄関に留めていますけど……」
「俺が出たほうがいいか?」
「ダメです。彼女たちはどうやらエレイン様を狙っているようなのです」
リーリアは真っ直ぐ俺の目を見てそう答えた。
なるほど、目当てが俺だということか。
確かにそれなら俺が出ない方がいいと言うことだろう。しかし、俺もいつまでも守られてばかりいてはいけない。
俺でも少しは役に立てるはずだ。
「流石に守られてばかりでは申し訳ないからな」
俺が前に出ようとすると、リーリアは部屋から出れないように押し返してくる。
「いいえ、ここは私たちに任せてください。エレイン様は一番重要なのですよ」
「俺にとってアレイシアは命の恩人だ。恩は返すものだろう」
「ですが……っ!」
玄関から剣を交える大きな音が聞こえた。
その音が聞こえた瞬間、すぐに俺は走り出した。
「エレイン様!」
当然ながら、俺はその声を無視して走り出した。
玄関の少し手前で様子を見てみることにした。
後ろからリーリアも足音を消して歩いてきた。表情としては少しムッとしている様子ではあるが、別に反感を持っているわけではなさそうだ。
そして、気付かれないように様子を伺うことにした。
するとそこにはアレイシアと鉄仮面の女性が剣を交えていた。
「アレイシア・フラドレッド。エレインを解放して」
「一体なんのことを言っているの?」
あの鉄仮面の女性は喋れるのか。
いや、それに後ろの少女は……ユウナか?
「怪我人相手に本気は出したくないわ。早くここを通して」
「この家は私の家よ。あなたをエレインに合わせるわけにはいかないわ」
「あなたが犯罪に関わっていることは知っているわ。エレインを巻き込まないで欲しいの」
「一体なんのこと!」
そう言ってアレイシアが振り払うと、鉄仮面の女性はすぐに姿勢を立て直し剣を構える。
アレイシアが犯罪に関わっている? それは初耳だ。
それどころか犯罪をする理由がどこにもない。
「私はフラドレッド家次期当主、そこまで言われるのは名誉毀損に当たるわ」
すると、彼女は騎士のように凛々しい目で鉄仮面を睨みつけた。
確かに犯罪者と決めつけるのは名誉毀損に当たるだろう。
「エレイン様、危険ですよ」
リーリアが心配そうにそっと耳打ちしてくる。
「危険かどうかは俺が判断する」
そう返事をして俺は玄関に目を向ける。
あの後ろにいる女性が本当にユウナであれば、その誤解を伝えたいところだ。
「あくまで認めないわけね」
「もしかして……」
少し考えたアレイシアが視線を一瞬だけそらした。
「議会を調査したことかしら」
「調査?」
「ええ、議会の不正を訴えた時に私も少し危ない橋を渡ったの。そのことを犯罪と言っているの?」
「どう言うことなの」
鉄仮面はそう言って切っ先を突きつける。
「確かに犯罪に近いことね。盗聴したのだから」
アレイシアは昔を思い出すように話し始めた。
「でも、結局は議会が悪いことをしていたのよ。もし議会が不正をしていなかったら、逆に訴え返されたでしょうね」
「なんのためにそんなことを?」
「もちろん、エレインを守るためよ。ブラド団長は犯罪には変わりないだろと言っていたけれど……」
犯罪に近いことはしたが、議会が悪いことをしていたとのことでお咎めなしだったと言うことだろう。
まさか、アレイシアがそのようなことをしていたとはな。
俺の知らないところで、色々と動いてくれていたようだ。
「そんな……」
「ふっ!」
「っ!」
鉄仮面に隙が生まれた瞬間、ユレイナがさっと剣を引き抜いて美しい姿勢で切り上げた。
「ミリシアさんっ!」
鉄仮面が半分に切られ、女性の正体があらわになる。
後ろの女性がそう叫ぶように、彼女は明らかにあの時のミリシアだ。
そうか。俺に会いたかったと言うことか。
俺はゆっくりと立ち上がり、玄関の方へと歩いていく。
「くっ!」
姿勢を整えて反撃してくるミリシアを俺は軽くイレイラで崩した。
「へっ?」
一瞬にして宙に浮いた彼女は突然の出来事に反応できず、そのまま地面に腰を強打した。
「少しは落ち着け」
「……っ!」
ミリシアは俺をみるなりすぐに視線を逸らした。
今更恥ずかしがる必要はないだろう。
「ユウナ、ミリシアを起こしてやれ」
「え、あっ、はい!」
そう言ってユウナはミリシアをゆっくりと立ち上がらせた。
「エレイン、一体これはどう言うこと?」
アレイシアが俺に話しかけてくる。
「話が長くなるが、一言で言えば古い友達だ」
「そう……まさか帝国の?」
「ああ」
「あの惨状で生存者がいたと言うの?」
まぁそこで驚くよな。
だが、アレクが生きていたように彼女たちも生きている可能性があったわけだ。
別に驚くことはない。
「食料庫に落っこちて助かったのよ」
ユウナに起こされたミリシアが渋々と事実を話してくれた。
「はいっ! いろいろ楽しかったですよね?」
「楽しいかどうかはわからないけれどね」
「どちらにしろ、生きていて本当によかった」
俺がそう言うとミリシアは目を逸らして顔を真っ赤に染めた。
ユウナはいつも楽しそうにしているのは変わらずだ。
「エレイン、少しいいかしら」
「どうした?」
すると、ミリシアが俺に抱きついてきた。
「ちょっとっ!」
アレイシアが俺たちを引き剥がそうと向かってくるが、足を絡ませて転んでしまう。
「大丈夫か?」
「ダメよ」
俺がアレイシアに手を伸ばそうとするとミリシアが強く抱きしめて俺の行動を止める。
「アレイシア様、大丈夫ですか」
「ちょっと、いきなりここにやってきて私の大切の義弟に抱きつくとか、どう言うことよ!」
「いつ、あなたが姉になったの? 私は何年もエレインと一緒にいたのよ」
「っ!」
ミリシアとアレイシアはお互いに睨み合っていた。
剣を交えるような関係にならずに済んだのならよかった。
ただ、俺からしてみればこの二人が生きてくれていたのは嬉しいことだ。
もう二度と、失わないよう俺は最善を尽くすべきだろう。
こんにちは、結坂有です。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
お詫びと言っては変ですが、本日中に新章の方も投稿いたします。
Twitter等で心配の声がいくつかあり、本当に申し訳ないです。
これからは毎日更新できそうですので、ご安心を。
それでは、いつものまとめです。
無事にミリシアとユウナがエレインと再開できたようです。
対立することなく、平和的に再開できたことは本当に良かったですね。
果たしてこれからどうなっていくのでしょうか。気になるところです。
今回でこの章は終わりとなります。
次章は一変しますので、お楽しみに。
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