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新しい議会に向けて

 私たちは団長と共に他の組織にこれらの証拠を送りつけることにした。

 当然、反応はどれも怒りを含んでいた。

 議会が精霊を奴隷化させようとしているのはどこの組織も否定的な意見であった。

 精霊にも人権のようなものがあると主張するのは裁判所で、すぐにでもこれらを発案した現議長を処分しようと動き出すつもりらしい。

 ただ、現状の議会は権力の頂点に位置している。それは簡単に覆すことはできない。


「団長、私たちが集めた証拠はすべて組織に伝達したわ。あとは私たちに賛同してくれるかどうかね」

「そうだな」


 団長は少し浮かない表情をしている。


「何か問題でもあるの?」


 私がそう質問してみる。しかし、団長は何も答えてくれない。

 私とユウナが今していることが最善なのかどうかまだ考えているのだろうか。


「問題だらけだ」

「……そうなの?」

「本来俺たち聖騎士団はこんなことをする役割ではないんだ。だから俺は力尽くで権力に抗おうとした」


 それから団長は小さくため息を吐いて、言葉を続けた。


「お前たちのしていることはすべて公正騎士が行うべき役割、聖騎士団としてやるべき内容ではないんだ」


 確かに言われてみればそうだった。

 聖騎士団はあくまで魔族に対して戦う存在、国政については何も役割は与えられていない。あったとしてもそれは魔族防衛に関することだけであった。

 それが今は議会の不正を暴こうと資料を集めている。まるでスパイのような活動をしているのだ。


「それでも私たちは正しいことをしたいの」

「それはわかっている。だからこうして容認しているんだ」

「……ありがとう」


 私は少しだけ団長の立場のことを考えた。

 こんなことをして後でどうなるか、彼の地位に問題が起きることだってあるのかもしれない。

 すると、団長は立ち上がり窓の外を見た。


「まぁ、何にせよ今していることは正しいことだろう。俺の考えていた方法とは別だが、最終的に議会を崩すという目的は変わりない」

「そうね。でも私たちのせいで団長が不利な立場に立たされるのなら謝罪するわ」

「気にするな。保身に走ると正常な判断ができなくなる。しっかりと事情を説明すれば、他の団員も認めてくれるはずだ」


 そう言って彼は窓の外を見つめたまま、コーヒーを一口飲んだ。




 それからは淡々と時間だけが過ぎていった。

 私たちに賛同し、議会を追及しようという組織が多くなって来たのだ。


「警備隊に裁判所、地方の役所からも賛同してくれるそうね」


 議会の不正を電信で伝えた私たちはすでに様々な組織から信用を勝ち取っていた。


「なるほど、となればあとは……」


 団長が何かを言おうとした途端、扉が開いた。


「戦争状態となってから色々と証拠を集め回っていたようだな」


 扉を開けたのは聖騎士団の人ではなく、ザエラ議長であった。


「やはり来たか」


 団長は椅子に座ったまま、険しい表情をしたまま議長を睨みつけている。

 そのさっきの混じったような視線に議長は少しだけ怯んでいるが、それでも怒りが勝っていた。


「聖騎士団なんて組織はもうこの国には必要ない。わかっているだろう」

「……必要かどうかは世界が決めることだ」

「エルラトラムはやがて世界を征服する。我々議会こそが世界の総意となるのだからな」

「どうだろうな。魔族はそう簡単に王座は譲ってくれないと思うがな」


 そう言いながら団長は余裕そうにコーヒーを飲んでいる。

 確かに今のザエラ議長は前のように重装歩兵を連れて来ているわけではないようだ。

 それにしても何か武器を仕込んでいてもおかしくはないのだ。


「聖剣があれば何も問題はいらない。精霊も魔族もすべて支配してやるのだからな」

「お前如きにできるわけがないだろう」

「今更何を言っているのだか……貴様には俺を倒すことができない」

「ああ、俺にはな」

「っ!」


 すると、ザエラ議長の胸部が破裂した。


「なっ!」

「団長!」

「ウガァ!」


 議長の背後にいたのは魔族であった。

 それも大型で強力な力を持った魔族、それがなぜか聖騎士団本部にいたのであった。


「団長! これはっ」

「なんだ?」

「……」

「どうしてっ……ここに!」


 ザエラ議長の胸部は完全に開かれており、このままでは出血死してしまう。いや、もう助かる方法はないのかもしれない。


「魔族がエルラトラムに侵入して来たようだな。そこで運悪く議長が殺された」

「団長っ! それはいくらなんでも」


 魔族に殺されたとなれば、それは事故死の扱いになってしまうようだ。

 確かに魔族の襲撃を災害のように捉えていることからこの国ではそうなっている。


「……っ!」


 ザエラ議長の目から生気が失われていく。

 そして、魔族はその死体を地面に放り投げて、こちらへと走ってくる。

 私はとっさに剣を構えたが、その次の瞬間黒い影が魔族へと駆け出した。


「愚かにも聖騎士団団長の部屋に迷い込んできたか」


 その黒い影は魔族の腕を二撃で切り落とした。


「ウボォォ!」

「この国に混乱は要らぬ」


 そう言って団長は立ち上がり、聖剣を引き抜いて魔族を完全に殺した。

 その全てが無駄のない動きで型の演舞でも見ているかのようなそんな気分にさせてくる。

 魔族が力を完全に失い、頽れる。

 すると、奥の廊下から聖騎士団の警備の人たちが走ってくる。


「なんとか誘導できたみたいだな」

「誘導って、まさかこれがあなたが考えた作戦なの?」

「議長は殺す以外方法はなかった」

「どうして! 他にもっ」

「こいつは”拒否の権利”を持っているからだ」


 私の言葉を遮るように団長はそう言った。


「拒否の権利?」

「ああ、証拠を議会に持って行った時のことを覚えているだろ」

「確か受け取り拒否したわね。それって議長の権利のこと?」

「そうだ。その権利は証拠以外にも使える」


 私たちがどれだけ頑張ったとしても、それを受理しなければ議長の座を引きずり下ろすことはできないということなのだろう。

 それにしてもあり得ないことだと思う。

 議長はあくまで決定権を持つべき存在であり、それを拒否する権利はないはずだ。


「もしかして、この国の議会って独裁的なの?」


 団長の話がそうであるのならこの国は独裁的な手法をとっていることになっている。

 よくもその状態で不満が出ないものだと思う。


「議長に権力が集中するところだけは独裁と言っていいだろうな。だから、議会を崩したいんだ」


 不満を持っていてもそれを気付かせないようにしていたのなら、議会に不満を持つ国民は少ないはずだ。

 何せ、やっている風に見せるだけで維持できるのだ。

 国民は最低限生きることができれば、問題ないのだから。


「……殺すしかない。その話を聞いていたらそうなのかもしれないわね」


 私も権力が集中した人を倒す方法までは考えられなかった。あくまで議会の信頼を崩す目的だけを考えていたのだからだ。

 私の作戦であらゆる組織が私たちの味方をしてくれた。それは議会の不信を表したことになる。だが、権力までは奪うことはできていない。


「だから言っただろ。全てが最善なのかどうか、俺にはわからないとな」


 それから聖騎士団の人たちがそこに倒れていた議長と魔族の死体を運んで行ってくれた。

こんにちは、結坂有です。


まずは謝罪からです。

色々と訂正を繰り返していたら一日が終わってしまいました。

今後の物語の展開で訂正する箇所がいくつもあったのでこんな時間になってしまいました。本当に申し訳ございません。


では、気を取り直してまとめに入ります。


議会という組織の信用を完全に失い、議長もいなくなってしまいました。

これから新たな議会が形成されていくのですが、一体どのようなものになるのでしょうか。気になるところですね。


そして、次でこの章は終わりとなります。

それでは次回もお楽しみに。



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