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議会は崩れ始める

 私、ミリシアは聖騎士団の本部にいた。

 ユウナと昼食を食べていたところなのだが、ブラド団長が見当たらなかった。


「団長、どこにいったんですかね」


 ユウナが本部の中を探しながら、そう呟いている。


「そうね。どこにもいないみたいだし」

「それに騎士団の人もいつもと比べて少ないように思います」


 言われてみれば確かにそう感じる。

 団長に言われて何か活動でもしているのだろうか。


「私たちに何も言わずになんて珍しいですね」

「何か緊急事態でもあったのかしら」


 昼過ぎのこの時間帯に一体何があったのだろうか。

 そんなことを考えながら、窓の外をみていると遠くから馬車がやって来た。

 収容車としても機能しているその馬車はどことなく不気味なもので、ゆっくりと聖騎士団本部へと入ってくる。


「何かあったみたいですね」


 その様子を見てユウナがそう呟いた。


「そうみたいね。言ってみましょうか」

「はい」


 それから私たちは階段を降りて、馬車のところへと向かった。


 本部に入って来た三台の馬車からは怪我をした警備隊の服を着た人たちが続々と降りてくる。

 その数は十数人はいるだろう。


「何があったのでしょうか」

「あの怪我からすると、どうやら人と戦って来たようね」


 彼らの腹部、腕などに致命傷ではないが行動を封じるには十分な裂傷ができていた。

 何か鋭い剣で斬り裂かれているみたいだ。

 その中でも暴れながら降りて来た人は手首が完全に切断されているようだ。


「それでも団長は見当たらないですね」

「いえ、あそこにいるわ」


 馬車には団長がいなかったのだが、少し離れた場所から団長が戻って来ていた。


「ミリシアさんは目がいいのですね」

「そんなことないわ。何があったのか聞きましょう」


 団長のところへ向かうと、少し疲れた表情で私たちの方を向いた。


「団長、何があったの?」

「学院が襲撃されたと報告があってな」

「それなら私たちに言ってくれれば、すぐに行動できたのに」


 そう、私が言うと少し団長は言うのを渋った。


「私たちに言えないことでも?」

「あの学院にはエレインがいるからな。鉄仮面を着けたミリシアでも流石に気付かれてしまうだろう」


 確かにエレインと一度剣を交えたときに気付かれそうになった時があった。

 いや、正確にはほとんど気づいていると思っている。

 おそらく団長は彼に私が生きていると言うことを伏せておきたいようだ。


「……私の正体がバレて何か問題があるの?」

「問題、問題だらけだ」

「どこが問題なのですか?」


 ユレイナが私より早く質問する。


「今の状況を考えてみろ。エレインはあの国の唯一の生き残りなんだ。それが彼にとってどれほどの重圧なのかをな」

「でも、私たちが生きているとわかれば少しは解消されるのではないでしょうか?」


 すると、団長は思い出したくない昔の思い出を話すようにゆっくりと重い口を開いた。


「……俺は魔族十体に囲まれたことがあってな。移動に遅れた俺は敵に囲まれてしまった」


 団長がまだ新人だった頃の話だろう。


「まだ聖剣を持って間もない俺は彼らを見て恐怖を覚えた。彼らを倒すと言う意志ではなく、逃げたいと言う意志が強かった。だが、エレインは千体以上の魔族を見ても屈しなかった」


 真っ直ぐ私たちの方を見て団長はエレインのことを強調した。


「どう言うこと、ですか?」

「彼はおそらく怯えているんだ。自分が守れなかったものに出会うのをな」

「……」


 今や私たちは彼にとって幽霊のようなもの、それが彼にどう影響するのか考えたことがなかった。

 ただ、私は彼に会いたいとばかり思っていた。いつも自分の感情だけで動いていたのだ。

 彼の心情など一度も考えたことはなかった。


「あの、私たちは彼のトラウマみたいなものなのですか?」

「そうだろうな。だからエレインと会ってはいけないんだ」

「……そもそもの原因は私たちじゃないわ」


 だけど悪いのは私やユウナでも、帝国の宰相でもない。この状況を生み出したのは議会なのだから。


「ミリシア、どうした?」

「あの帝国の自衛力をなくしたのは、すべては議会が悪いのでしょ?」

「だが、それとこれとは全く……」

「同じよ。エレインが苦しむきっかけを生み出したのは議会。そして議会を潰せるのは私たちだけなのよ」


 そう、エレインが苦しむことになったのはすべて議会が悪いのだ。

 だから私はそれを断ち切る。そのための力なら持っている。


「ミリシアさん?」

「議会を潰すわ。エレインのためにね」

「それがどう言う意味なのか、わかっているのか?」

「ええ、問題ならすべて解決できる」


 私はエレインのように剣術が強いわけではない。

 だけど、頭を使うことなら彼と同等だと思っている。

 私は踵を返して、本部の部屋に向かおうとした。


「一体何を考えているんだ」


 すると、団長が呼び止めて来た。


「議会を潰すのよ。ユウナ、話に乗ってくれるかしら」

「はい。ミリシアさんは賢いですから」


 そう言ってユウナが私の後ろについてくる。団長も少し遅れて付いてくるのであった。


 本部の団長室に着くと、私はまず今までの議会の資料を取り出して来た。


「ミリシアさん、それをどうするのですか?」

「これを使うのよ」

「どう使うんだ。違法なことを見せつけたところで意味はない」


 確かに議会にこれを見せつけたところで、受け取りを拒否すれば彼らは逃げられる。

 しかし、彼ら以外の組織ならこれの正体がわかるだろう。


「議会が無理なら他の組織に見せるのよ。さっき捕まえて来た人たち、警備隊の人たちでしょ?」

「ああ、だが彼らは操られていたんだぞ?」

「あの人たちは自分が正しいことをしたと思っているのよ。それを正すことができれば、議会を失脚させれるわ」


 人は誰かに利用されて生きることに抵抗を感じる生き物だ。誰しもが自由に生きたいと思っている。

 自分たちが議会に捨て駒のように扱われているとわかれば、議会に反抗しようとするだろう。


「この資料なら、議会がどれほど邪悪な存在か一目でわかるわ。警備隊の人にこれを見せましょう」

「……ああ、そうしよう」


 そう言うと団長はまとめられた資料を手に団長室をでた。




 それから私たちと団長はその資料を持って警備隊を説得させるために向かった。

 警備隊の人たちは本部の地下にある少し大きめの牢屋に全員閉じ込められており、そこのリーダー格と思われる人は手首を綺麗に切り落とされていた。


「ディアス、お前らはこんな奴らに操られていたんだ」

「……」


 団長が手首を切り落とされた人に資料を見せながらそう話した。


「お前が聖騎士団を嫌っている。その感情を議会は利用したんだ」

「人間の屑みたいだな」


 ディアスという人は怒りを含んだ言葉でそう返事をした。

 他の隊員たちも多くはその資料に対して怒りを覚えている様子で、これなら彼らの大半を味方にすることができることだろう。


「ああ、そう言った奴の集まりだ」


 団長がそう言うとディアスは何か決意したような目をした。



 これで、警備隊を味方につけることができた。

 他の組織にもこれらを見せつければ、同じような反応をするだろう。

 この調子で味方を増やしていけば私たちの勝機は見えてくる。

こんにちは、結坂有です。


どうやら議会は崩れ始めていきそうですね。

彼らの悪行は信頼を崩すには十分だったようです。

さて、議会は一体どうなってしまうのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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[気になる点] 「ミリシアさんは目がいいのですね。そんなことないわ。何があったのか聞きましょう」 2人のセリフが混じってる それから私たちと団長はそれらの資料を警備隊の人に見せつけた 「見せつける」…
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