堕ちた感覚
私はミーナとフィンとで、侵入して来た二人を倒した。
しかし、他にも戦っている音が聞こえる。
どうやらまだ侵入者がいるようだ。
「ミーナ、ここは任せてもいいかしら」
「ええ、セシルは?」
「私は他のところへ向かうわ」
「……ここは俺たちに任せるってかよ」
すると、フィンが少し嫌そうな表情で話しかけて来た。
「こうなった以上、作戦はないようなものよ。各個撃破する方がいいわ」
「確かにそうね。わかったわ。頑張って」
そう言ってミーナは拘束した二人を休憩所の隅に連れて行った。
私はそれをみた後、すぐに剣が交わる音を頼りに移動した。
私が走り込んでいると、また窓から何者かが入って来た。
「っ!」
とっさに剣を構えるとそこに立っていたのは聖騎士団の制服をきた男性であった。
「あなたたちは?」
「救援要請があって来たんだよ」
聖騎士団の男性はそう言って、剣を引き抜き音の鳴っている方へと走っていった。
ちょうど彼と同じ方向であったため、私もすぐにそこへと向かう。
「セシル!」
廊下を進んでいくと、リンネの声が聞こえた。
「どうしたの?」
「まだ奥の教室で戦っている人がいるの。援護お願いできるかな」
すると、聖騎士団の男性が私の前に立って返事をした。
「案内してくれるかい?」
「え? 誰?」
「聖騎士団の人よ。案内してあげて」
「そうなのね。こっちよ」
少し動揺した状態であったが、すぐにリンネは案内をしてくれた。
案内してくれた教室ではリンネと他の生徒たちが、三人ぐらいの侵入者と戦っていた。
相手は聖剣を持っていないが、それでも互角の戦いだ。
実力だけで見れば、圧倒していると言っていい。
「くっ!」
「ここは僕に任せて」
そう言って聖騎士団の男性は刀身が非常に太い直剣を取り出した。
そのまま駆け出すと、まず一人の剣を切断ではなく粉々に破壊した。
「なんなんだ! こいつ!」
当然破壊された相手は酷く動揺し、殴りかかってくる。
しかし、その攻撃も単純なものですぐに躱されて取り押さえられてしまう。
「ふざっ!」
背後から襲って来た敵もすぐに反応し、剣でその攻撃を受け止める。
そして、その太い刀身に触れた途端に剣が粉砕される。
「は!?」
誰もがそのような反応をするだろう。
ただ防がれただけであのように剣が破壊されるのは予想すらできないことだろう。
おそらくあの聖剣の能力なのかもしれないが、一体どう言ったものなのかは予想できない。
破壊と言った類の能力ではないのだから。
「ふっ!」
さっと体を回転させて三人目の敵もすぐに無力化、拘束した。
なんとも一瞬に場を制することに成功した聖騎士団の男性は私がみたことのないほどの強さであった。
「えっと、あなたは一体?」
剣を構えていたアレイがそう彼に聞いた。
「ああ、紹介が遅れたね。僕は聖騎士団外国支援部隊隊長のアドリスだ」
聖騎士団外国支援部隊、エルラトラムではない他国の魔族防衛を支援する目的で結成されたもう一つの聖騎士団だ。
エルラトラム聖騎士団から選ばれた精鋭のみが所属する最高の部隊とされている。
「支援部隊隊長って、嘘?」
「あんまり強くはないけどね。他に侵入者はいるかな」
「後ろの教室に一人確保しているけど、それ以外はいないよ」
リンネがそう説明すると、アドリスは剣を収めて立ち上がった。
「そうか。よく頑張ったね」
そう言って甘いルックスの男は下の階へと向かっていった。
下の階ではエレインが戦ってくれているはず、私も援護できるなら向かう方がいいだろう。
そう思って私も付いて行こうとすると、拘束されている男が暴れ出した。
「きゃ!」
「暴れないでよ!」
どうやら大男のようで、簡単に封じることはできなかったようだ。
仕方ない。エレインの方は彼に任せて私はここを維持した方が良さそうだ。
◆◆◆
エントランスでディアスを完全無力化した後、ブラドは学院を立ち去った。
それから俺とリーリア、そして聖騎士団の人と倒れている人たちを拘束具で取り押さえることにした。
「エレイン、だったかな? 君は強いんだね」
「どうだろうな」
「僕もセルバン帝国に向かった一人なんだけど、覚えてないかい」
「その剣は見覚えがある」
確か、馬車の中で一瞬だけ見た覚えがある。
その独特な刀身は印象的だったからな。
「よく言われるよ。この剣の形状は独特だからね」
そう言って彼は笑いながら自分の剣を触れていた。
すると、リーリアが話しかけて来た。
「アドリス、遠征はどうなったの?」
彼女はまるで知り合いかのようにそう彼に問いかけた。
「ああ、団長から要請があってね。急いで戻って来たんだよ」
「どう言った要請?」
「議会が怪しいことをしているって。君たちを利用しようとしているなんて全く信じられないよ」
どうやらこの男はアドリスというようで、俺のことを知っている聖騎士団のようだ。
聖騎士団は外国に支援している人たちがいると聞いており、俺を助けてくれた人たちのほとんどはその支援部隊の人が大半だそうだ。
「それにしても来るのが早い気がするがな」
ここが襲撃された時間はせいぜい一時間ほど前の話だ。
外国からここに来るとなれば一時間では来ることができないように思える。
「団長からは昨日のうちに来るように言われたんだ。そして、本部に着いた途端に呼ばれたって感じかな」
「なるほどな」
「上を制圧できたのもあなたのおかげのようね」
「ああ、リーリアでも彼らには対処できただろうに」
「私はエレイン様のメイドだから無理よ」
彼女がそういうと、アドリスは驚いた表情をした。
どうやらリーリアが俺のメイドをしているということは知らなかったようだ。
リーリアが来たときはアレイシアも驚いていたのだ。彼女を知っている人からすれば驚くのだろうな。
「あの無敵娘がメイドか。君がうらやましいよ」
アドリスが俺の方を向いてそう呟くように言った。
「ちょっとどういうこと?」
「リーリアが副隊長なら僕たちは苦労しないのになってことだよ」
「何それ……」
アドリスがそういうとリーリアは少しムッとした表情をした。
こう言ったやりとりをする彼女はどこか新鮮だ。
いつも敬語を使っているからか印象がかなり変わっている。
そんな彼女をみているとこちらを向いて来た。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
「あのリーリアが敬語とは……」
「ちょっと!」
アドリスの反応から彼女は聖騎士団時代は相当男勝りだったことが窺える。
全く、今となってはそのような面影は一つもないものだがな。
それから三人で全員を拘束具で捕らえてディアスを軽く治療した後、聖騎士団の本隊が到着した。
アドリスが彼らを誘導して、ここに攻撃を仕掛けて来た人たちをどこかの収容所へと移送するようだ。
彼らは今や犯罪者なわけだからな。
当然の扱いだろう。
警備隊として活動していた人たちが議会の命令で犯罪を犯すことになるとはなんとも嫌な気分になる。
皆はそれぞれ自分の意思で警備隊に入隊したはずなのにいつの間にか議会の駒にされてしまっていたのだからだ。
俺ももし議会軍に入隊することになっていたら、彼らのように操られてしまっていたのかもしれない。
「エレイン様」
「なんだ?」
「彼らは確かに悪いことをしてしまいました。ですが、それは議会のせいです。権力を盾に自由なことをしている議会は許されないです」
「そうだな」
まぁ今の俺にはリーリアという心強い公正騎士がいるのだ。
権力に屈することはないだろう。
すると、少し遅れてセシルたちがやって来た。
「上の方はどうだった?」
俺は彼女にそう声をかけた。
「ええ、少し危なかったけど大丈夫だったわ」
彼女の服をよくみてみると肩の部分が斬れていた。
切り口はかなり鋭く、素早い攻撃を受けたことがわかった。
「怪我はなかったようでよかった」
「ちょっと斬られたけどね。でもすぐ治療したから傷跡も残ってない」
「そうか」
そう言ってまっすぐ俺を見つめて言った彼女はどこかほっとした表情をしていた。
「セシル、傷跡がないことを強調しなくても大丈夫ですよ」
「っ! 別にいいでしょ?」
顔を真っ赤にして彼女はそう言った。
確かに女性にとっては傷跡は残って欲しくないのだろうが、別に俺はそのことについては特に気にしていない。
「それにしても警備隊がこうして学院に攻めてくるとはな」
「……そうね。議会だからって安心していたらいけないのね」
少しだけムッとした表情でセシルが言う。
「セシルも気をつけて欲しいのですけど、最近の議会は権力を乱用しています」
「はぁ、権力を持つと人は狂うって聞くけど本当のようね」
確かにそうだ。
力に溺れてしまった人は何をするかわかったものではない。
常識的な感覚が薄れていき、何もかもがどうでも良くなっていく。そして最終的には誤った権力の使い方をしてしまう。
今の議会はまさに権力を乱用してしまっていると言っていいだろう。
こんにちは、結坂有です。
まとめの前に報告です。
Twitterのアンケートありがとうございました。
幕間も出来次第投稿いたしますので、もう少し待っててくれると嬉しいです。
学院の防衛はなんとか成功したようでよかったですね。
それにしても外国の支援部隊の方達が戻って来たようで、本当に議会と聖騎士団は戦争状態のようです。
果たして議会はどうなってしまうのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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