防衛は手短に…
あれから数十分程度戦っている。
上方からもまだ戦っている音が聞こえている。
音的には侵入してきたのは六人程度だろうか。
「なんて強さなんだ……」
俺は十人以上の敵に対してリーリアと共闘して戦っている。
当然ながら敵は数的有利な状況だったのにも関わらず、今はたった三人となってしまっている。
「それにしても、聖剣を持っていないなんてな」
「くっ、聖剣だけでここまでの差があるのか」
「全員致命傷は受けていません。降伏してください」
リーリアがそういうが、目の前の三人は依然として剣を構えたままだ。
まだ戦う意志があるようで、俺の方へと一人が走ってきた。
「ふっ!」
俺はイレイラを一振りするだけで相手の腹部と手首が斬られ、一瞬で戦闘不能に陥る。
「ばかなっ!」
剣に付着した血を払い、俺は鞘に刀を収める。
「もういいだろ。どちらが優勢かは明らかだ」
「……ここは撤退をっ!」
「撤退はさせない」
男の声が聞こえた瞬間に目の前の隊長らしき男が真っ二つに斬られてしまった。
「ひっ! ボス!」
「なんだ? お前も撤退するのか?」
「い、いやしないっす」
「なら突っ込んで死んでみろ」
「あ、はい!」
頭を下げた次の瞬間、高速な移動でリーリアの方へと走り込んだ。
しかし、彼女も相当な実力者だ。あのような単純な攻撃なら簡単に対処することができるだろう。
「ヒャガッ!」
彼女は体を捻り、攻撃を交わした。
そして、柄の部分で男の後頭部を強く叩いたことで意識を刈り取ったようだ。
「ふっ、所詮はその程度の者だったということか」
「感心しないな。味方は大切に扱うべきだろ」
「味方? そいつらは所詮雑魚だ。そんな奴は足手纏いでしかない」
「ここを襲撃させたのは選別か?」
「ここを攻め落とすことができなければ、聖騎士団を倒すことはできない。雑魚には興味ないからな」
男は無感情でそのようなことを言った。
確かに無力な人間を好んで選ぶ奴などいない。だが、選別の仕方はもう少し工夫すべきだ。
例えば自分で実力を見極めるなど色々とあったはずだ。
いや、この男にはそもそも興味なんてないのかもしれない。ただ仲間を鉄砲玉のように扱っている。
「正しく鉄砲玉ということか」
「そういうことだ」
「呆れたな。ディアス」
そう言って現れたのはブラド団長だ。
「団長?」
「リーリア、エレイン。よく耐えてくれたな」
「俺よりも上にいる生徒たちの方がよく頑張ってくれている」
ディアスと呼ばれている男の背後にブラド団長がいることで、今の状況は完全に相手を挟み込んでいると言っていい。
「ブラド、卑怯な戦術でトップに君臨するのは気持ちがいいのか?」
「卑怯、か。それはお前も一緒だろ」
「俺はただ同志を見つけただけだ。そいつらを利用して何が悪い」
「それだから団長になれないんだ……」
どうやら目の前のディアスは聖騎士団の団長になろうとしていたようだ。
とは言ってもどこまで実力があるのかはわからない。
「ふっ、なら試してみるか?」
「いいだろう。どちらが本当の団長か、教えてやる」
そう言って双方が剣を引き抜いた。
ディアスは聖剣を持っているようで、引いた途端に空気が変わった。
「エレイン様、少し離れた方がいいです」
「そうだな」
あの異様は空気、おそらく遠距離まで剣撃を飛ばすことが出来るのかもしれないな。
「相変わらず空力は強力なんだな」
「そうかよっ!」
ディアスの攻撃は明らかにブラドから離れている。しかし、それでも団長は剣を構えて防御の態勢を取った。
シュン!
空気の流れが変わると同時に強烈な音が響いた。
あれが空気の流れを利用した斬撃か。
「空気の流れを最大限に活かす俺の戦い方はもはや今の団長にはどうすることもできねぇみたいだな!」
「くっ!」
遠距離から高速で連続的に剣撃を飛ばしているため、ブラドは自分の間合いに入れることすらできていない。
「ここまで高速だと分身すら作れないだろ!」
「どうだろうな」
「はっ! そろそろ畳み掛けるとするか」
そう言ってディアスは強烈な連続攻撃をさらに強めることにした。
ズウォン!
そんな音と共にディアスが駆け出すとブラドの腹部に剣が突き刺さっていた。
「防御に夢中で腹がガラ空きなんだよ」
そう言って強く深く剣を突き刺す。
「いったい誰と戦っているんだ?」
そう言ってブラドは別のところから現れた。
どうやらさっきまで真剣に戦っていたのは彼の分身だったようだ。
彼は魔剣の柄に手を掛けてゆっくりと歩いてきた。
「なっ! お前!」
そう言ってディアスが剣を引き抜こうとすると、分身のブラドが引き抜く腕を引き止める。
「クソがっ!」
「卑怯か?」
「ったりめぇだろ!」
「自分の強みを活かしただけだ。お前も俺も本質的には同じことをやっている」
ブラドの言う通りだ。
ディアスは自分の考えに賛同する人たちを集め、彼らを利用した。対するブラドは自分の分身を魔剣の力を使って生み出し利用している。
本質的な戦術としては同じことだ。
「っ! 俺をどうするつもりだ!」
「選択肢をやる。聖剣を手放すか、このまま殺されるか。どっちがいい」
ブラドは感情のないそんな言葉でディアスに投げかける。
「ブラド団長、それはいくらなんでも……」
「リーリア、これは戦争なんだ。議会と聖騎士団のな。お前は口を出すな」
そう言って俺の横に立っているリーリアに鋭い視線を送った。
その言葉に彼女は何も抵抗できなかったようで、それ以降は口を開くことはなかった。
「団長、いくらなんでも殺すのはよくないだろ」
「エレイン、お前も何を言うんだ」
俺は団長のところへと歩いて行った。
リーリアも俺の背後から付いて来てくれている。
「見たところ強力な剣士であるのは確かだ。生かしておいて損はないだろう」
「ああ、こいつは遠空流剣術の正統後継者だ。しかし、こいつは聖騎士団を何人も殺している」
「新たに死人を増やす必要はない」
殺された人は戻ることはない。かと言って復讐したところで死人が増えるだけで全体的な戦力が低下するのは目に見えている。
「綺麗事か。さっきも言ったが聖騎士団と議会は戦争しているんだ。こいつら警備隊出身の奴らも破壊対象なんだ」
「警備隊、ここに倒れている奴らは全員そうなのか?」
「ああ」
どうやらこの人たちは警備隊の人たちのようだ。
道理で対人の戦い方をしてくるわけか。
「お前ら、ちんたらやってんじゃねぇ!」
そう言ってディアスが溜め込んだ空力で突き刺した分身を吹き飛ばし、俺の方へと剣を向けて来た。
「エレイン様!」
「遅ぇ!」
リーリアが双剣で防ぐよりも早くディアスの攻撃が俺へと向けられる。
キュィィンッ!
すると、目の前に細い糸のような光の線が出来ていた。
「は?」
ディアスはそう言うとゆっくりと血飛沫を上げずに両腕が落ちていく。
「……っ!」
まだ痛みを感じていないようで、落ちていく腕を見るとその目はだんだんと恐怖に染まっていく。
「あっ! がぁああ!」
腕が落ちたと同時に強烈な痛みが彼を襲った。
気絶するような痛みだろうが、致命打にはなっていないはずだ。
「エレイン、何を?」
音速を超える速さで引き抜いたイレイラを音が鳴らないように丁寧に鞘へと戻した。
そしてゆっくりと魔剣を取り出し、落ちたディアスの聖剣に突き立て破壊した。
「これでいいだろう。聖剣の能力も彼の剣士生命も奪った」
「……殺した方がそいつは苦しまずに済むはずだ」
「悪いが俺はそうは思わない。腕はきれいに切断した。うまくいけば義手などでまた剣を振るうことが出来るだろう」
とは言っても、今のように聖剣を取って強力な一撃を繰り出すことはできないがな。
それでも知識と技術があるのなら誰かに教えることはできるはずだ。
「なるほどな。殺すのではなく、力を奪うと言うことか」
そう言ってブラドは大きくため息をついて、話を続けた。
「まぁいい。今回はエレインの考えを尊重しよう」
すると彼は何か合図を出すと階段から聖騎士団が入って来た。
「上の階の鎮圧はうまくやったようだな」
「ああ、学生の奮闘もあってかなりすぐに片付けることができたよ」
走って来た聖騎士団の男によると、どうやら上の階の鎮圧は成功したようだ。
それにしても聖騎士団がここまで早く動いてくれるとは思ってもいなかった。一体ブラドは味方なのか敵なのかわからない存在だな。
「こいつらは負傷しているが、ほとんど生きている。拘束の後、治療を開始してくれ」
「そのようだね」
「リーリア、エレイン。学院のことは任せた」
そう言ってブラドはエントランスから立ち去った。
こんにちは、結坂有です。
どうやらブラド団長は何か目的があって行動しているようですね。
そして、裏で動いている組織も気になるところです。
それでは次回もお楽しみに。
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