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学院防衛戦〜前半〜

 腕に矢を受けた生徒を無事に治療した後、俺はリーリアに話しかけた。


「あの集団について知っていることはあるか?」

「いえ、何も知らないですね」


 彼女は窓から少しだけ顔を出して集団の確認をしてからそう答えた。

 議会軍の人たちと一度会ったことがあるが、あの人たちは誰も見たことのない人たちだ。

 もちろん、聖騎士団の中でも見たことはなかった。


「リーリアも知らないとなれば、俺たちは何もできないな」

「どういうこと?」

「相手を攻撃したときに俺たちがどうなるのかわからないということだ」


 正体がわからない以上、俺たちには何もすることができないのだ。


「もし相手が議会に繋がりのある人たちでしたら私たちは退学処分にさせられる可能性があるからね」

「だけど、向こうが攻撃してきたんだろ?」

「矢が飛んできただけだ」


 そう、それだけでは相手に非があるとは認められない。

 学院に直接侵入して何か攻撃をしてきているわけではないのだ。


「ええ、何か連絡があれば私たちも動けるのですけど……」


 すると、校内放送が流れた。


『ただいま、学院内に向けて矢を放った集団が校門の近くにいます。もし侵入してくる場合は教員、学生ともに防衛を始めてください』


 女性の声で、無機質で感情のない声色でそう放送された。


「許可は出たようだな」

「エレイン、私たちも教室に戻った方がいいわね」

「ああ」

「ちょっと待ってくれ」


 俺たちが背を低くして歩き出そうとしたところ、男が声をかけてきた。


「なんだ」

「くれぐれも無茶だけはするなよ」

「それはお互い様だ」

「そうよ。一応、私は入学評価一位なんだからね。そう簡単にパートナーを死なせないわ」


 セシルもリーリアも十分に強い実力を持っている。多少の無茶なら彼女らでも解決できそうなものだ。

 それに俺はもう誰も死なせはしないと決めたのだから。


「それならいいんだけどな。とりあえず、気をつけてくれよな」

「ああ」「ええ」


 そう返事だけして俺たちは教室へと戻った。




 教室に入ると、みんなは当然警戒態勢に入っており扉や窓はもちろん、カーテンも閉められていた。


「エレイン!」


 そう言って俺を呼んだのはアレイとリンネであった。


「どうやらここは無事なようだな」

「うん。でもまだ外に変な集団がいるよ」

「教員がどうにかすると思うけれど……どうでしょうね」


 アレイの言う通り、教員も現役の軍でもないわけだからな。

 すると、ミーナたちも俺たちの会話に入ってきた。


「相手は遠距離の武器を持っているわ。向こうは一方的に私たちに攻撃できると言うことよ」

「そうだぜ? 俺たちはただ怯えるだけしかできねぇ」


 当然、そのこともわかっている。

 近距離においては聖剣の能力でどうにか力押しできるかもしれないが、飛んでくる矢に対しては俺たちは何もできない。


「だが、迎撃しろと言われたわけでもない。学生では何もできないんだ」

「やられっぱなしってことかよ」

「そうとは言っていない」

「じゃどうすんだよ」


 どうするか、放送で学院内に侵入してきた場合は教員、学生共に防衛体制を取れと言っていたな。

 もちろん、そうするまでだ。


「近距離なら聖剣があるしな。あの様子だと学院に侵入してくるだろうから、それまでの間に防衛陣を作っておくんだ」

「防衛陣?」

「防衛しろと放送で命令を受けていただろ。学院内でなら俺たちは防衛するために剣を振るうことができる」

「学院に入ってきてから攻撃する。そのための準備をしておくってことね」

「そう放送で言っていただろ」


 俺がそう言うとミーナは納得したように組んでいた腕を解いた。

 他の生徒たちも俺たちの会話を聞いていたようで、それぞれ話し合いを始めた。


「わかったわ。相手の出方を待つのは私の得意な戦い方だから」

「あ? 俺は攻めるのが得意なんだがなっ」


 ミーナとフィンは二人とも真逆の戦い方をする。しかし、それがペアになっとなれば、どれほど強力で厄介なのかは計り知れないだろうな。

 ただ、不安要素があるとすれば相手がどれほどの実力なのかが問題だ。

 学生を超える実力者、それも聖騎士団に匹敵するような人たちであれば生徒たちはどうすることもできないだろう。


「私たちも何か考えた方がいいわね」


 その様子を見てセシルがそう呟いた。


「そうだな。と言ってもできることなど戦う以外ないのだがな」

「エレインは強いからそう言える……」


 アレイがそう控えめに言った。


「十分に強いだろ。リンネとうまく立ち回ればセシルに匹敵する実力を持っているはずだ」


 俺の見立てではセシル以上かもしれない。

 剣術だけで評価すれば彼女を超えるのは間違いないのだ。


「……エレインには勝てないの?」

「どうだろうな」


 俺がそう言うと、アレイは少しムッとした表情をした。

 無口だが、感情はしっかりとあるようだ。


「それで、私たちはどうすればいいかしら」

「そうだな。とりあえず俺はエントランスまで降りる」

「え? そんな大胆に行動していいの? 他の生徒は階段に隠れるとか言ってるけど」


 他の生徒たちは階段で奇襲を仕掛けたりと話し合っている。

 確かに効果的かもしれないが、それだけでは不十分だ。


「相手の戦い方、あそこで待っている理由を考えればわかることだ」

「どう言うこと?」

「あの集団は待っているんだ。学院内に潜伏している集団の合図をな」


 矢で牽制すれば、当然学院内の生徒は防衛体制を取る。そうなってしまえば正面から力押しすることは難しい。

 しかし、それを内部から攻撃されれば混乱が起きる。

 そんな中、集団で攻撃を仕掛けられたら簡単に防衛陣は瓦解するだろう。


「内部に敵が?」

「いるかもしれないな。もしそうなれば、簡単に防衛陣が崩壊する」

「え、じゃあ生徒たちを止めないとっ」


 そう走り出そうとしたセシルを俺が引き止めた。


「いや、相手を誘うにはちょうどいい」

「それって彼らを囮にするってことでしょ?」

「確かにそう聞こえるかもしれないが、少し違う」

「何が違うのよ」


 本当の目的は相手の正体を掴むことだ。

 このまま相手が逃げられては正体を掴むことができない。フィンの言っていた通り、やられっぱなしと言うことだ。


「俺たちがここで妙な動きをすれば、相手だって警戒する。そうすれば逃げられるだろう」

「つまり?」

「相手の策に乗じて、俺たちが実力で押し切れば問題ないと言うことだ」


 俺がそう言うと、リンネが少し得意げに胸を張った。


「実力で押し切るなんて、さすがはうちのエレインね」

「わ、私のエレインよ」

「いいえ、私のご主人様です」


 そう言って三人が睨み合っているが、俺はそれを無視して教室を出ようとした。


「ちょっと、私たちはどうすればいいのよ」

「セシルは防衛陣の混乱を最小限に抑えてくれ。俺は正面から来る集団を迎え撃つ」

「エレイン様、お供します」


 すると、リーリアがスカートの中から双剣を取り出して俺に付いてくる。


「……わかったわ」

「なんか、負けた気分ね」


 そう言ってセシルとリンネは肩を落とした。

 まぁ彼女ら三人がいれば侵入してきた敵はなんとかなるだろう。




 階段を降りてエントランスに向かった。

 すでに扉は閉め切られており、シャッターまで下ろされている。

 エントランスは広く、あの集団と戦うには十分な広さだ。

 監視カメラがいくつか点在しているが、もうそれは気にしなくてもいいだろう。


「エレイン様、ここで戦うのですね」

「ああ、ここから集団と戦うのは少し骨が折れそうだな」

「そうですね。ざっと十人以上はいましたからね」


 そう話していると、学院の上の方から爆発音が聞こえた。


「どうやら始まったようだな」


 あれが合図だったようで、正面から人が走ってくる音が聞こえ、上の方からは剣を交える音が聞こえた。

 やはり想定していたことが起きたようだ。

 集団を全滅させることはできなくとも、ある程度勢いを失わせることができれば問題ないだろう。


「エレイン様、扉が破られます」

「リーリア、俺の背中は任せる」

「はい」


 すると、シャッターが斬り破られ集団の人たちが入ってくる。


「ちっ、いないものと思っていたんだがな」

「相手は二人っすよ。やっちゃいましょうよ」

「そうだな。お前ら、あの二人を殺せ」


 そう言ってまずは四人が俺たちに攻撃を仕掛けてきた。

 俺は聖剣イレイラを引き抜いた。

 相手はそれぞれ戦斧、サーベル、レイピアに大鎌だ。


「せいっ!」


 サーベルの男は俺に向かって切り込んでくる。

 俺はそれを止めるのではなく、受け流すようにして攻撃を躱した。


「おらっ!」


 続いて戦斧の男が殴りかかるように攻撃をしてくるが、それを体をそらして避ける。


「ふっ」


 避けた方向に立っていたレイピアの男の足に俺は斬り込んだ。


「がっ!」


 脚を斬られた男は立つことができず、その場に倒れた。


「ふざけんなよ!」


 大鎌を持った男が大きく振りかぶって回転するように斬り付けてくる。


 シュキィィン!


 俺は大鎌を切り上げて、その制御を奪った。


「嘘だろ!」


 切り上げられて胴が無防備になったところを俺は致命傷にならない程度に斬った。

 そして、落ちてくる大鎌を俺は手に取りレイピアの男に鎌を回転させずに投げ飛ばした。

 大鎌は内側に刃があるため相手を斬る事はできないが、それでも鉄の塊が飛んできているのだ。

 十分に効果的だろう。


 レイピアの男はそれを止めようとするが剣先が曲がってうまく止めることができずそのまま直撃した。


「お前!」


 すると、サーベルの男が上段の構えで斬りかかってくる。

 なんともわかりやすい攻撃だ。

 俺はその剣を絡め上げて相手の剣を天井に突き刺した。


「素手で戦うか?」

「くっ!」


 聖剣イレイラを突きつけられた男はそのまま降参した。

 それにしてもこの程度か。

 もっと強いと思っていたが、そこまでのようだな。

こんにちは、結坂有です。


激しい戦闘が始まりましたね。

学院へと仕掛けてきた人たちは一体何者なのでしょうか。

そして、エレイン以外の生徒たちも気になるところです。


次回は後半と続きますので、お楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

感想などもコメントしてくれると励みになります。


さらにTwitterにてアンケートを実施していますので、答えてくれると助かります。

Twitter→@YuisakaYu

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