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学院は混乱する

 団長が議長に向かって『全てを破壊する』と伝えてから私たちは本部へと戻ることにした。

 私たちが議会と対立したのはある思想がきっかけであった。


 聖騎士団は精霊と人類を守るために存在している。対する議会は人類の繁栄を目的としている。その人類の繁栄とはこのエルラトラム国の繁栄を示している。

 双方の考えは似て非なるものである。


「それにしても全てを破壊するってどういうこと?」

「ああ、議会の全ての機能を破壊するんだ。議会軍は自壊したようなものだが、議会軍以外にも彼らの力が行き届いているものがある」


 ブラド団長がそう言おうとした途端、ヴェイスが閃いたように顔をあげた。


「それは、警備隊の人たちのことなのか?」

「よく気付いたな。あいつらがいる限りは影響力が高いままだということだ」


 確かに議会の影響力は議会軍だけではない。

 そのほかにも警備隊や議会の力が及んでいる組織は多く存在している。

 それらを全て破壊することができれば、議会の権力は衰えるに違いない。しかし、そんなことをしてこの国が崩壊しないか心配だ。

 強大な権力で民衆の自由を奪うことは必要なのだ。


「そんなことをして大丈夫なの?」

「大丈夫かどうかはわからないがな。警備隊の役目ぐらいなら俺たち聖騎士団でも事足りる」


 確かに警備隊のことなら私たち聖騎士団でも可能なのかもしれない。だが、それ以外にも破壊するつもりだろう。


「それ以外にも破壊工作はするのでしょ? 警備隊以外だったら……」

「聖剣開発班とかな」


 私の言葉につづけるようにブラド団長はそう話した。

 聖剣開発班、そこは聖剣を開発する部門である。そこでは精霊が宿るための剣を日々開発、研究しているようだ。

 具体的には聖剣を開発し、性能の向上を日々研究しているようだ。

 そして、この聖剣開発班はこのエルラトラムしか存在していない。他国には精霊がいないため、そのような聖剣を開発することはできないからだ。


「流石に、そこを破壊したらいけないと思うのだけど?」

「いや、あの聖剣開発班はそこまで重要な施設ではないんだ」


 そう言ってヴェイスが話を続ける。


「あの施設はただ古い聖剣を集めるだけの組織となってしまっている。組織改革も含めてそう言ったことをしてもいいのかもしれないな」

「組織として今は機能していないってこと?」

「そういうことだ。とにかく、俺たちがするべきことは議会が運営している全ての施設を破壊することだ」


 団長はそう言って話を終わらせることにした。


 それからは本部までの帰路は特に問題はなかった。

 本部に着くとユウナが待っていてくれた。


「お帰りなさい」

「ただいま。何か変なことはなかったかしら?」

「いえ、いつもと変わらず平常運転ですよ」


 本部は何事もなく一日を終えることができたようだ。議会と対立した状況だからいつ何がきてもおかしくないのだ。

 以前、アレクがここを襲撃してきたことだってある。


「それならいいんだけど、この前のこともあるからね」

「そうですね。警戒は皆さんしていると思いますよ」


 どうやら聖騎士団の本部に駐在している人たちも警戒はしているようだ。

 それが普通なんだけど、どうしても気になってしまう。


「そう」


 私が返事をすると、ユウナは私のためにコーヒーを持ってきてくれた。


「今日はコーヒーなの?」

「はい。私、コーヒーを初めて飲んだのですよ」

「そうなのね。お味はどう?」

「えっと……苦い、ですね」


 確かに慣れていないとコーヒーは苦いのかもしれない。

 ただ、それでも程よい酸味であったり、コーヒー豆特有の香りを楽しむものなのだ。

 飲み慣れてくると彼女もその美味しさに気付いてくることだろう。実際私もあの地下施設で娯楽として楽しんでいたのだから。


「こちらが私が再現したものです」


 そう言って彼女は私の前にコーヒーを置いた。

 私も地下施設を出てからは一度も飲んでいない。

 ざっと一年ぐらいは飲んでいないのだから少し久しぶりな気分だ。


「いただくとするわ」


 一口飲んでみることにした。

 味の保証はないが、懐かしむ分には問題ないはずだ。

 そう思って味わってみる。


「ん?」


 口に入れた瞬間、コーヒーの強い香りが刺激してくる。かなり濃いめのコーヒーかと思ったが、そうでもないようだ。


「どうかしましたか?」

「豆が違うせいかしら。少し変わった味がするわ」

「そうなんでしょうか……」


 ユウナはほとんど何も知らないようで、首を傾げるだけであった。

 それにしてもこのようなコーヒー豆があるのだなと思って飲み進めてみると、ざらざらとした粉のようなものが口の中に広がった。


「っ!」

「え、どうかしましたか?」


 理由がわかった。

 これはコーヒー豆の粉末だ。

 当然、濃くはないのに香りが強いわけだ。そして、何よりも苦味が強かった。


「そのままお湯で溶かしたのね?」

「はい! 今日、聖騎士団の方がそうして飲んでいたので……ちょうど、この部屋にコーヒーと書かれた袋がありまして、それを使いました」


 おそらくインスタントの方と間違えてしまったようだ。


「そう、普通はこうした紙を使って注ぐのよ」


 私はタンスの中から濾紙を取り出して彼女に見せた。


「それを使うのですか? ごめんなさい。使い方間違えてましたよね?」

「そうね。でもこうした飲み方もあるみたいだから飲んでみるわ」


 本の中でしか知らないが、この淹れ方は健康に良いなどと聞いたことがある。

 それでも私には馴染めそうにない味わいだ。

 飲んだ後は、彼女にドリップの仕方を教えるのであった。


   ◆◆◆


 俺は学院で昼食を取ろうとしていた。

 朝の授業は普通に終えることができたが、何か不穏な空気が学院を包んでいる。

 商店街のそれとはまた違った空気だ。

 セシルとリーリアとで食堂に向かおうとしていたところ、セシルが話しかけてきた。


「エレイン、これって殺気っていうのかしら」

「それに近いものだな」


 ただ、この学院は授業の関係上、戦いを強いられる環境にある。

 当然ながら中には戦うことばかりを考えてしまう生徒もいることだろう。


「エレイン様、それにしても妙です」


 そう言ってリーリアが窓の外を指さした。

 俺もその先を見てみると確かに怪しい人集(ひとだか)りが集まっていた。


「知っているのか?」

「いえ、私は……っ!」

「きゃっ!!」


 集団の中から一本の矢が放たれた。それがちょうど俺たちの歩いている廊下の上に飛んで行った。


「攻撃してきたな」

「はい。これは明らかに敵意を持っていますね」


 だが、その集団は学院の領内に入ってくることはなく、ただ外から矢を射ってくるだけであった。


 それから俺たちは上の階へと向かった。

 そこには腕に矢が突き刺さった女性と、壁に隠れている数人の生徒がいた。

 教室は全部ドアが閉められており、外から攻撃されないようにしていた。

 俺たちは背を低くして彼女らに近づくことにした。


「何があったの?」

「せ、セシル様?」


 さっと振り向いて俺たちを確認した男は学級が違うが同学年の生徒だ。


「その呼び方やめてくれるかしら。それで何があった教えて」

「廊下で駄弁っていたら外から矢が飛んできたんだ」


 まぁ不意からの攻撃だ。

 気付いていなければ避けるのは難しい、か。


「あの集団について知っているか」


 俺は外にいる集団について聞いてみることにした。

 しかし、男は首を振って否定した。


「いや、知らないな」

「ちょっとこれ、血が止まらないんだけど……」


 すると、治療している女性が焦った声で俺たちの方へと声をかけてきた。


「見せてみろ」


 俺が怪我をした女性のところへと向かう。

 矢は完全に腕を貫通している。だが、神経にはほとんど影響がないようで痛みで指先が震えているのがわかった。


「いっ!」

「痛むか?」

「痛いわよ!」

「私、治癒系の聖剣使いだけど、血が止まらなくて」


 横でその様子を見ていた女性がそう話しかけてきた。


「この矢は特殊な形状だな。少し待て」


 俺は魔剣を引き抜き、彼女の腕に振り下ろした。


「ひっ!」

「どうだ?」


 俺の行動に目を背けていた女性だが、ゆっくりと目を開けて驚いた表情をした。

 俺は魔剣の力を使って彼女の痛みの時間を緩やかにしたのだ。これでほとんど痛くはないはずだろう。


「……痛く、ない」

「それはよかった。治療を続けてくれ」

「ど、どうすればいいかな?」

「矢を引き抜いて止血……俺が引き抜く」


 無理に引き抜いては神経を損傷する可能性がある。

 ここは少し人体について知っている俺が引き抜いた方が良さそうだ。


「見てると痛くなるぞ」

「大丈夫」

「わかった」


 俺は矢を剣で綺麗に半分に切り、そのまま押し込んで行った。

 そして、矢はそのまま床に落ち、それと同時に大量の血がこぼれ落ちる。


「任せて」


 すると、治療をしていた女性が聖剣を引き抜き、美しい緑の光を放って治療を開始した。

 これでどうやら大丈夫そうだな。

 それにしてもいきなり攻撃を仕掛けてきたのは妙だな。

こんにちは、結坂有です。


少し遅くなってしまいました。


学院を襲ってきた手段は一体何者なのでしょうか気になりますね。

そして、団長の作戦は果たして成功するのか。


それでは次回もお楽しみに。



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