全てを破壊する
ユレイナをなんとか見つけ出し、助け出すことができた俺たちはそのまま家に帰ることにした。
家に帰ると二人はすぐに朝食の準備に取り掛かっていた。
「エレイン様、私たちは朝食の準備をいたします。アレイシア様の様子を見てきてくれましか?」
「本来は私たちがする役目なのですが、朝食が間に合いませんのでお願いします」
そう言って二人が頭を下げて俺にお願いする。
とは言っても断る理由がないため俺は軽く頷いてアレイシアの部屋へと向かった。
アレイシアの部屋は俺の部屋の目の前だ。
俺は軽くノックすると、すぐに扉を開けてきてくれた。
「あ、エレイン」
「すまないな。遅くなった」
「いいのよ。いつもこの時間帯に起きているんだから」
外は日が出てあたりが明るくなり始めている。
まぁ朝の六時半となれば起きている時間か。
「それよりも足は大丈夫なのか?」
「うん、杖がなくても短い距離だったら歩けるよ」
どうやらリハビリが効いてきているのだろうな。
ベッドからここまでの距離は二メートルほどだ。それぐらい歩けるのであれば戦闘でもうまく立ち回れることだろう。
「でも、片足だけどね」
「それだとあまり意味はないな」
それを聞いた俺はすぐに杖を取ってアレイシアに渡した。
「ユレイナとリーリアが朝食を作ってくれている。リビングの方へ行ってくれないか?」
「ええ、わかったわ」
そう言って彼女は杖をついてリビングの方へと向かって行った。
それを見届けた俺は自分の部屋へと戻った。
自分の部屋に入ると、だらしなく服を見出したセシルがまだベッドで眠っていた。
「んっ? もう朝?」
そう言ってゆっくりと起き上がった彼女は俺の方を向いた。
「ああ、今六時半ごろだな」
「そう……」
彼女はそう言って綺麗な足を地面につけた。
「ん?」
「こっち見ないでくれるかしら」
どうやら自分の今の姿に気づいたのだろう。
顔を真っ赤にして乱れた服を掛け布団で隠した。
「わかった。後でリーリアに服を手配させる」
「……ありがと」
それから俺たちは無事に朝食を食べることができた。
そして、朝食の後は制服に着替えて学院に向かうことにした。
セシルの制服も無事に洗濯ができており、心地よい香りが漂っていた。
「……リーリアと同じだと、妙な気分ね」
「そうか?」
「ええ、私もセシルが同じですね」
どうやら二人は妙な気分になっているようだ。
俺は特に気にしていない。むしろこの香りは鼻に馴染んでいるため、心地よいものなのだがな。
商店街に入るまではリーリアとセシルはお互いに目を合わせることはなく、少し気まずい雰囲気になりながら歩いて行った。
商店街に入ると、やはり昨日の影響なのかまだ店が開いていなかった。
「静かですね。学生の方もいますけど、店の人は一人もいないようです」
「ええ、ここで買い物をする学生は多いのだけれどね。私もここで色々と食材を買ったりしてたから」
確かにここは学生寮と学院の間にある場所だ。当然ここで色々と買い物をする人が多いのだ。
だが、今となっては閑散としているため誰もここで買い物はできない状況だ。
「まぁ少し離れた場所にもお店はあるからね。みんなそこで買い物をすると思うわ」
そう言ってセシルは小さくため息をついた。
ここからその店まで歩いていくのが億劫といった様子だ。
「仕方ないですね」
確かに仕方のないことだ。
しばらくは少し離れた店にお世話になることだろう。
学院に入ると、学生たちはあの商店街のことで話題となっていた。
「エレイン、商店街の様子見たよね?」
そう話しかけてきたのはリンネだった。
「ああ、店は一つも開いていなかったな」
「うん、昨日何かあったのかな?」
リーリアとセシルは俺に詳細は話すべきではないと目で訴えかけてきている。
俺もここで話して不安を煽るようなことはしたくないからな。
俺は首を振って何も知らないと示した。
「悪いが何も知らないな」
「そっか、私たちはすぐに帰ったから本当に何も知らないのよね」
どうやらリンネとアレイは放課後に訓練することなくそのまますぐに帰ったようだ。
すると、遅れて教室に入ってきたのはミーナとフィンだ。
彼女たちもどうやら商店街の違和感について気になっているようだった。
「あ、エレイン」
ミーナは俺を見つけるなり、すぐにこちらに歩いてきた。
「どうした?」
「商店街のことよ。何か知っているかしら?」
「いや、何も知らないな」
「そう」
そういって彼女は不安そうに何かを考え込んだ。
「だけどよ。ここで何かを考えたところで答えはでねぇんじゃねえのか?」
「フィンのいう通りだ。憶測だけでは何もわからない」
「……そうよね。でも商店街があんなことになるっていうことは何か事件があったってことよね? あそこが狙われたとなれば学院も次に標的にされそうかもって思ったのよ」
ミーナの予想は当たっているだろう。
もしあれが何者かによる襲撃事件だとして、商店街の次は学院に何かを仕掛けてきてもおかしくないということだ。
とはいっても議会がここを襲うようなことをするとは考えられないからな。
今のところは大丈夫だろう。
「あ? 俺たち聖剣使いが集まっているんだぜ? そんなところに襲撃なんかするかよ」
「まぁそうだろうな。だが、警戒しておいていいかもしれない」
俺はそれ以降のことは何も言わなかった。
◆◆◆
私、ミリシアは団長とともに議会に向かっていた。
「団長、本当に議会にいくの?」
「学院を狙う可能性が高いからな。それだけはなんとしても止めないといけないだろう」
確かに学院が狙われたら問題だらけだ。
「でも、だからって直接議会に行くのは危険よ。私たち戦争状態なんだから」
「議会は今、軍を持っていない。大して戦力はないだろう」
この前の重装兵士の練度を考えてみればそこまで戦力は高くないと思える。
「それに今はこいつもいることだしな」
そう言ってブラド団長が後ろを向いた。
私たちの後ろには議会軍からスカウトしたヴェイスがいた。
「議会軍の人をどうするつもりなの?」
「今は聖騎士団の団員だ。実績もある」
「うーん、それがどう関係しているのかわからないのだけれど……」
私がそう聞くが、団長は目を伏せて何も話すことはなかった。
それから議会に堂々と三人が入り込む。
すると、議会の議員たちは一斉に私たちの方を向いた。
「今日は何のようだ」
「商店街の次は学院を狙うのか?」
「答える義理はないな」
そう言って議員の一人は呆れたようにそう答えた。
「学院を攻撃するということがどう言ったことなのか、わかっているのか? 未来の戦力となる人たちが多くいるんだ。特に今年の学生は実力が高いやつが多い」
「それがどうした。剣術というものは学ぶ場所があればいいのだろう?」
議員がそういうとヴェイスが前に出た。
「俺は議会軍の隊長だった。剣術は学ぶだけでは意味がない。実戦し、それを活用する場がなければいけない。学院は生徒同士が戦い自ら進化し続ける場として最適なんだ」
「学院がなくてもいいではないか。エレインという人間が一人でもいれば我々の戦力は十分なのだからな」
議会の人間はまだエレインのことを諦めていないようだ。
「まだエレインのことを狙っているのか。諦めていたと思っていたのだがな」
「エレインは精霊族族長を魔剣に宿している。味方にいるだけでどれほどの戦力かわかっているだろう」
そういえば、確かにそんな話をしていた。
エレインが族長と契約を結び、魔剣に宿したようだ。
すると、ザエラ議長が重い口を開いた。
「もともと我々がなんとかして契約を結びたかったんだが、エレインに先を越されてしまったからな」
議会軍があの剣を守っていた時点で何か怪しいことを企んでいるのはわかっていた。
まさか、議会が族長を操ろうとしていたなんてね。
「ふむ、エレインをどうしても手に入れたい、そう考えているのだな?」
「そうだ。こちらもそのための戦力を集めているところだ」
「それなら俺たちも考えがある」
「どういうことだ?」
「全てを破壊してやるだけのことだ」
一体、団長は何を破壊するつもりなのだろうか。
少し不安はあるものの言ってしまったものは仕方ない。私と同じ不安を感じていたのかヴェイスも何か歯を噛み締めていた。
こんにちは、結坂有です。
どうやら色々と事態が大きく動きそうですね。
団長は一体何を考えているのでしょうか、気になるところですね。
果たして学院はどうなってしまうのか。
それでは次回もお楽しみに。
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