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助け舟は意外なところから

 部屋でゆっくりしていると、扉がノックされた。

 どうやらセシルが入ってくるようだ。


「ベッドがないから今日もそこで寝ていい? アレイシアは説得してきたから」


 どうやらアレイシアの反対を押し切ってここに来たようだ。

 まぁベッドがないのであれば、仕方ないのも頷けるのだがな。


「わかった」


 俺が扉を開けると、そこにはさっき風呂に入ってきたばかりなのか若干の湯気を纏いタオルを巻いた状態のセシルがいた。そして二本の聖剣を手に携えていた。

 頬が染まっていることから少し恥ずかしそうにしているようだ。


「あんまり見ないでくれるかしら。少し恥ずかしいのだけど」

「悪い」


 彼女はそう言って俺の部屋に入ってきた。

 だが、ほとんど全裸に近い女性が一人部屋にいるだけで気まずい空気感になるのは何故だろうか。


「服は……って言ってもないか」

「制服は今洗濯してもらっているわ。今日の戦いで少し汚れてたからね」

「なるほどな。代わりの服はなかったのか?」

「ええ、代わりはあると言って断ったのよ」


 セシルはどうやら代わりの服を借りるのを断ったようだ。


「どうしてだ?」

「……あると、思ってたのよ」


 そう彼女は口を尖らせて呟いた。

 嘘なのは間違いないようだが、なぜそのようなことを言ったのだろうか。


「流石にタオル一枚では寒いだろう。上着ぐらいなら貸せる」


 俺がそういうと彼女は少し嬉しそうに顔をあげた。

 どうやら俺の服が目当てだったようだ。

 にしても、俺の上着がそんなに気になるのだろうか。

 俺はタンスから一枚大きめの服をセシルに着せることにした。


「と言ってもこれぐらいしかないがな」

「ありがとう」


 俺がタンスから取り出した服を受け取ると、彼女は大事そうにそれを抱きしめる。


「ちょっと、向こうを向いてくれるかしら」

「ああ」


 俺はそう返事をして彼女に背を向けた。

 会話などがないためタオルが床に落ちる音、袖に腕を通す音が直接耳に入ってくる。

 色々と妄想を掻き立てるようなそんな音だが、俺はそれを表情に出さずに着替えを待つことにした。


「いいわよ」


 しばらくすると、彼女がそう言ってベッドに座った。


「それにしてもどうして服があると嘘をついたんだ?」

「……わかってるでしょ」


 そう口を尖らせて俺の方を向いているわけだが、本当に俺は何も知らない。

 まぁ言いたくない事情なら答えなくていいのだがな。


「悪いが何も……」

「そう、でも言いたくないわ」

「それで、何か話したいことでもあるのか?」

「特に何もないけど、ただこうしてゆっくり二人で過ごすのってあまりないなって」


 確かに彼女とこうしてゆっくりと過ごしたことは少ない。

 学院では席が遠いためにほとんど会話することはない。実技授業や放課後もそこまでゆったりとした雰囲気ではないし、何よりリーリアがいるからな。

 どうしても二人きりと言った時間が少ないのは明白だ。


 すると、セシルがベッドを叩いて俺も座るように促してくる。

 俺はそのまま彼女の隣に座ることにした。

 座ると、石鹸の心地よい匂いが鼻腔をくすぐる。


「……」


 俺が座った途端、彼女は何かを言いかけようとしたが、すぐに黙り込んだ。


「どうした?」

「なんでもないわよ」

「そうか」


 少し顔を赤くして、彼女は俯き始めた。

 服の裾部分を強く引っ張り、下半身を隠すような仕草をする。


「そういえば、下着がなかったな」

「っ!」


 俺がそういうと彼女は真っ赤な顔をして俺を睨みつけてきた。


「何よ」

「いや、そこが少し気になっただけだ」

「何もいやらしいこと考えていないわよね?」


 自分の胸元を手繰り寄せ、さらに下半身を隠そうと服を引っ張っている。

 そうするたびに体のラインがはっきりと明らかになっている。

 彼女の鍛え抜かれた美しい曲線美を描いた体のシルエットは非常に魅力的なものであった。


「別に何も感じていないから気にしないでくれ」

「……なんか魅力がないみたいに言われた」

「十分に美しい体をしている」

「っ!」


 彼女は布団をかぶって体を隠した。


「どうしたんだ?」

「どうしたってわかるでしょ」


 布団から顔を出して俺の方を睨みつけてくるが、その事情はよくわからない。


「とりあえず、もう寝るのなら電気を消すぞ」

「消すって、まだ心の準備が」

「寝るのにそこまで緊張することがあるか?」


 俺がそういうと彼女は「ふんっ」と言ってベッドに横になった。

 まぁ何も話すことがないのなら別にいいのだがな。


 それから俺は電気を消して、そのまま寝ることにした。

 セシルは掛け布団を完全に独占してしまっているため、俺は何も掛けないで寝ることにした。




 翌日、まだ早朝なのだが誰かが扉をノックしてきた。


「エレイン様、起きていますか?」


 どうやら扉の向こうにいるのはリーリアのようだ。

 俺はセシルを起こさないようにゆっくりと起き上がり、扉を開けた。


「朝早くになんだ」


 俺が扉を開けると学院に行く時の服装で彼女は立っていた。


「朝早くに申し訳ございません。ユレイナがどこかに向かったようでして」

「そうなのか。気になるな」

「ええ、昨日のこともありますし、何かに巻き込まれていないか心配で」

「なら探しに行くとするか」


 俺はすぐに制服に着替えて、聖剣と魔剣を携えた。


「……」


 その様子を見ていたリーリアは唖然としてこちらを見つめていた。


「何か変か?」

「いえ、いつもかっこいいと思っただけです」


 そう言って彼女は顔を染めて呟いた。

 扉を閉める瞬間、セシルが寝返りを打っているのを見たが、起きる様子もなかったため俺とリーリアはそのまま家を出てユレイナを探しに行くことにした。


 まだ日が出ていないため外は薄暗く、空気がひんやりしている。


「それにしてもこんな時間にどうしたんだろうな」

「まだ昨日のことも片付いていないようですから気になりますね」


 確かに商店街はまだ聖騎士団に封鎖されたままだからな。何かを買い出しに行ったことでもないだろう。

 俺たちは商店街とは別の方へと向かった。


「エレイン様」


 歩いているとリーリアがそう言って足を止めた。


「何かあったか?」

「何かあったわけではないのですけど、ユレイナは聖剣を持って外に出ていないのです。もし誰かに襲われたりしたら対処できないと思います」


 なるほど、聖剣を持っていないわけか。

 だが、彼女もそれなりに体術は心得ているように見えた。とは言っても聖剣相手ではどうすることもできないのは明らかか。

 そんな話をしていると、奥から剣を交える音が聞こえた。


「っ! これって……」

「とりあえず、行くとするか」


 それから俺たちはその現場へと走り出した。


 剣の音が聞こえた場所にはユレイナともう一人男が立っていた。


「あれはアーレイク様ですね」

「そうだな。それで戦っている相手は誰だ」


 アーレイクはユレイナを守るように立っており、その前に立っているの男は黒い服を着て何か妙な剣を持っている。


「わかりません。とりあえず、行きましょうか」

「そうだな」


 俺が走り出すと、アーレイクは俺の方を向いた。


「エレインか、久しぶりだなぁ」

「ああ、何か問題か?」

「問題ってほどでもないんだが、こいつが妙なことを言ってきてな」


 目の前の黒い服を纏った男は無言で俺の方を見つめている。


「うちのメイドを連れ去ろうとしたのは当主として許されんな」


 アーレイクがそういうと男は剣を収めて立ち去った。

 人数不利だから逃げるのは当然だろうな。


「逃げたか。それにしてもエレイン、何か変わったことはないか?」

「いや、特には」

「エレイン、様。どうしてここに?」


 倒れているユレイナに手を差し伸べると彼女はそう聞いてきた。


「私がエレイン様を呼んだのですよ」


 リーリアが俺の代わりに答えると「そうですか」と言って俺の手を取った。


「まぁしばらくは家に帰れないからな。またアレイシアによろしくと伝えておいてくれ」

「わかった。色々と裏で何かをしてくれているようだな」

「これもフラドレッド家のためだ。気にすることでもない」


 そう言ってアーレイクはその場からゆっくりと立ち去った。


「ユレイナ、一体何があったんだ?」

「ふと窓の外を見たら誰かが立っていたので、追いかけたのです」

「剣も持たずにですか?」


 リーリアがそう聞くとユレイナはメイド服の中から小さなナイフを取り出した。


「護身用ですが、武器は持っていました。聖剣使いではないと慢心してしまいましたね」

「なるほど、今度から気をつけることだな」

「お手数をおかけしてしまい申し訳ございません」


 そう言ってユレイナは深く頭を下げた。

こんにちは、結坂有です。


色々と裏で何かが進行してきているようです。

果たしてこれからエレインたちの生活にどう関わってくるのでしょうか、気になるところですね。

それにしても議会が考えていることが少し気になります。


それでは次回もお楽しみに。



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