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人々魔旅  作者: 影打
第一章 肉の国
8/21

7話 勇者

 目が覚めた。

 微睡みボヤける視界でボーっと天井を見上げている。

 体が痛い。

 何時間寝たのだろうか。


 目だけで時計を見れば、既に夕方になっていた。

 これ以上寝たら更に体が怠くなりそうだ。

 グゥッと伸びをして体を起こす。


「んっ?」


 体を起こす。


「あれっ」


 思いっきり体を起こす。


「……」


 動かない。

 よし。慌てる前に体の確認だ。

 一度深呼吸して、まずは右手……問題なし。

 左手、右足、左手、頭……うん、五体満足。

 体に異常はないようだ。


「あっ!? 体戻ってる!」


 なんだか手足が軽いなと思ったら、ブヨブヨの脂肪がきれいさっぱり削ぎ落とされている。

 皮も残っておらず、肉を食べる前のスタイルの私になっていた。

 よかったぁ……と体の力が一気に抜ける。


 ズボッ


「おぐぅ」


 力を抜いて体が縮んだせいか、何かに沈んだ。

 慌ててもがいて無理やり回りを見れば、何か大きな柔らかいものに挟まれていた。

 まるでサンドイッチみたいに。

 どういう状況だこれ? 首を傾げたが、意識が途切れる前に何か割れた音がしたのを思い出す。

 ベットに倒れ込んだと言うことは……。

 バッキリとド真ん中から割れて、無惨な姿になった寝具は恨みと言わんばかりに私をガッチリ挟んでいた。

 うん、お布団が離してくれない。(物理)


「修繕費どのくらいかなぁ……」


 せっかく増えた懐が寂しくなりそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ご飯を食べよう。

 無事にベットから脱出して始めに考えたのがそれだった。

 この町の料理は美味しいから仕方がない。

 だが肉料理はダメだ。また太りでもしたら堪ったものではない。


 結局、無事に目が覚めたことで肉が呪われているのか、茶薬が呪われているのか分からなくなってしまった。

 だがこの状況なら呪われているのは肉だと思う。

 茶薬は店員の行った通りの効果があった。

 呪いと言われるレベルの効果だったが、悪いものではなさそうだ。

 とは言え、そうなるとクロイドさんの残したメモと、無痛耐性の説明がつかない。

 彼ほどの人が忠告するくらいなのだ。何かあるのは確実だが……。


「じゃあどうしろっていうんだよ~」


 結局原因の元も解決策も分からず、私は解呪薬を飲まずに料理が来るのを待っている。

 飲んで呪いが解けたとしても、どこで呪いを貰っているか分からない以上、無駄遣いは避けるべきと判断した結果だ。

 痩せただけでそれ以外の症状は今のところ出ていないし、出る様子もない。


「お肉が呪われてたとしても、茶薬で解呪する意味が分からない……」


 結局どう考えても矛盾が発生してしまう。

 何故呪うのに解呪してしまうのか? 何故呪うのに無痛耐性を付与するのか?

 ……絶対に何か理由がある筈だ。


 とりあえず明日は牧場に行こう。

 その後は新勇者に会いに行ってみよう。

 会えるかは分からないが、少なからずクロイドさんの最後(偽造)を餌にすれば会話くらいはできるかもしれない。

 王様にも会いに行ってみたいな。

 特産とか聞いたらもしかしたらぼろを出してくれるかも。


 明日の予定を頬杖を付きならが考えていると、「お待たせしましたー」と料理が運ばれる。

 大皿に乗って来たのは海鮮の盛り合わせ。

 肉が特産品のこの国も、流石に肉以外がないと言うわけではない。

 肉より数段高いが、もうこの国の肉は食べたくないので仕方なくだ。

 ただ、海鮮を囲うように薄切りのハムがあるのが非常に不愉快だったことだけ報告しておこう。


 因みに海鮮は臭みが一切取れておらず、普通に不味かった。



ーーーーーーーーーーー



 あまり眠れないまま夜が明けた。

 あれだけ気絶してれば当たり前か、と思いながら、朝早くから宿を出た。

 滞在期間も限られているため、時間を悠長に使っている暇はない。

 昨日一日潰れたのはノーカウントだ。


 さて、こんな朝早くからどこに向かっているかと言うと、牧場である。

 国には住宅街、商店街、貴族街、王城が主に占めている。

 国によってはスラム街なんて所もあるが、地図にありはすれど、スラム街と明記されることはない。


 基本的にギルドが配る地図は観光用の物で、観光地や有名どころ、それと主要な街しか書かれていないのだ。

 勿論、牧場も例外ではない。


「不親切な地図だなぁ」


 現在は朝の4:30分。こんな時間に外に出ている人もおらず、静かな街を一人で歩いている。

 夜が明けたと表記したが、まだ日は昇っていないので街全体が薄暗かった。


 とりあえず、どこにあるかも分からない牧場へ向かってまっすぐ歩いているのだが、考えなしに歩いているわけではない。

 大体牧場や畑は街から離れていることが多い。

 それと、国には大体国全体を囲う城壁があるのだが、その近くにある事も多い。

 つまり、城壁の上に登らせて貰えれば、自ずと畑や牧場が見つかる筈だ。

 まぁ、そんなことをしなくても朝番の兵士さんに聞けばいいだろうけどね。


「でも登れるなら登りたいじゃない」


 高いところは好きだ。国全体が見えるし、下からでは見えない景色が見える。

 しかも今なら綺麗な朝日が見れるかもしれない。

 旅をしていると、綺麗なもの、神秘的なもの、幻想的なものが沢山見れる。

 今まで見えなかった、もしくは見慣れてしまった物が自然の一部になっていると思うと、非常に愛おしく思えてしまうのだ。

 人間の世界でまだ新しいものを見てみたい。

 母からは馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われたが、これを見れない者達は損だ。

 だからこそ、城壁に登ろう、なんて子供じみた発想ができたのかもしれない。


「すいませーーん」


 入ってきた門とは別の門の前に私は辿り着いた。

 地図を見る限り、どうやら3つ程この国には入り口があるようだ。

 声を上げれば、門の端にある小さな窓口から声がした。


「なんだい? こんな朝早くから出立か旅人さん」


 姿は見えないが、声は非常にダンディなおじさまだった。

 頭の中で白髭の映える執事のようなおじさまを想像しながら口を開く。


「いえ、まだ」

「なら、どうしてここに?」

「城壁に登る許可をいただこうと思いまして」


 目的を素直に言うと、一泊おいて笑い声が窓口から聞こえた。


「城壁に登る? 何を子供じみた事言ってるんだい。一応聞くが、何でだい?」

「朝日が見たくて」

「はっは、旅人さんらしい答えだ。だが残念ながら一般の人を入れてやる訳にはいかなくてね。今は勇者様以外立ち入り禁止なんだ」


 私は「ん?」と首を傾げる。

 勇者の名前がここで出るとは思わなかったのもあるが、私はてっきり兵士は城壁に登れると思っていたのだ。

 何故兵士まで立ち入り禁止なのだろうか?


「なんで勇者様だけなんです? 貴方達兵士は見回りとかしないんですか?」

「あぁそうか、旅人さんはこの国のこと知らないもんな。えぇと……そうだな、勇者様が長いことこの国を守っているのは知っているかな」


 私は少し思うところがあったが、ここは話に合わせて頷いておく。

 確か城壁の上から勇者様が弓で魔物から守り続けているとかそういう話だった筈だ。


「勇者様の弓の腕は凄まじくてな。自身の身長より大きな弓を巧みに使いこなす。しかも百発百中だ! 勇者様の使う光の弓はどれだけ狂暴で大きな魔物だって、かすっただけで死んじまう強力な武器。マジックウェポンかなにかなんだろうが、それで長年、この国を守り続けてる」

「大体どのくらいの期間で?」

「先代勇者が亡くなってからだから……今年で18年になるか?」


 なるほど。つまりクロイドさんは先代勇者の時から存在自体を隠されていたのか。

 王様はクロイドさんの死を知った時、明らかに悲しんでいたが、嘘の可能性もありそうだ。

 そうなると王様、かなり演技派だなぁ……。考えすぎだろうか?


「勇者様おいくつなんです?」

「今年で確か42だよ。この国では勇者様は死ぬまで勇者様だからね。それでだ。勇者様はどうもあまり人と一緒にいるのが苦手みたいで、いつも一人で依頼をこなしていたよ」

「あぁ、他の国にもそういう方はいましたね」


 コミュ症ってやつだな。

 だが、そういう人は何かに秀でいている事が多い気がする。

 その勇者様だって、誰にも頼らずコツコツ積み上げた結果が勇者なのだ。何をしていたかは知らないが。


「それで、国を守るのは俺一人で十分だ、と鼻を高くして城壁を私有地みたくしたんですか?」

「後半はあってる」

「前半は?」

「勇者はただの兵士とつるみたくない、とさ」


 もっと悪かった。

 まぁ今まで一人だった奴が急に日の目を浴び、頼られ感謝されるようになれば調子にも乗るか。

 とりあえず印象は最低だな。


「でも一人でこの広い国を守るなんて可能なんですか?」


 城壁をぐるっと回るだけで1日以上は確実にかかるだろう。

 それを一人で見回り、異変があれば撃退するなんて考えられない。勇者様サボってませんか。

 そもそも異変を見つけるのですら、砂漠から針を探すようなもの。

 根気や努力などではどうしようもないだろう。

 だが、おじさまは割と流暢に答えてくれた。


「勇者様の索敵能力と、マジックウェポンの能力のひとつ、矢飛びでそれが可能なんだ」


 聞けば勇者様は国を覆うほど巨大な索敵結界を設置しているらしく、敵を見落とすなんてことはまずないらしい。

 そこまでの大きさとなると、凄まじい空間能力使いだ。

 情報も悪意ある敵に限定されているらしい。


 矢飛びは、マジックウェポンの能力で、殺害以外の理由で矢を射ると、着弾地点に自身がテレポートすると言うものらしい。

 武器ですら空間能力付きだったか。


 この二つを使って、国全体を一人で守ることが可能になっているようだ。

 やはり勇者様は規格外だな。


「じゃあ勇者様以外は20年近く城壁に入っても登ってもいないってことです?」

「まぁそうなるな。俺も入ったことねぇよ」


 ふむ……クロイドさんが追放された理由を見つけれると思ったが、そう簡単にはいかないか。

 今の勇者も相当強いらしいが、話を聞く限りはクロイドさん程ではないように感じる。

 そして20年近くも城壁に誰も近づいていないとなると、少し気になるよね。中身。


「なるほど、まぁ城壁に入れないって理由はわかりました」

「当てが外れたようですまんな」

「いえいえ、代わりに聞きたいこともできましたので」

「なんだい? 答えれる範囲なら答えよう」

「牧場を見に行きたいんですよね。どっちに行けばありますか? キューカウ見てみたいんですよ~」


 最初の目的に戻っただけだが、割と今見たいものNo.1なので早く行きたい。

 マップにも載っておらず、聞くしか行く方法が無くなったので丁度良かった。

 さ、おじさま。どこにあるんですか?


「ぼくじょう? なんだそれは?」


 ………えっ。

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