コント「プロレス入門」
ツッコミ「あのー。素人でもOKっていう、プロレスの練習生に応募した者ですが」
ボケ「ああ、ワイがお前のコーチ兼選手や! ほら、はよリングに上がってきい」
ツッコミ「ええっ? もうリングに上がっていいんですか⁉」
ボケ「ええから、ええから。ウチの方針はな、なんでもリングの上で完結や!」
ツッコミ「は、はぁ」
ボケ「ほな、早速練習や。グズグズせんと、はよ脱ぎい」
ツッコミ「えっ、今ここで⁉」
ボケ「男のクセに、なに恥ずかしがっとんねん。それにこの練習場は、ワイとお前以外誰もおらへん。二人だけの、借り切り空間や」
ツッコミ「ちょ、ちょっとヤバそうな所来ちゃったかなぁ……」
ボケ「ウチが事前に渡した、ショートタイツは下に履いて来とるんやろ? 手間取るなら、ワイが脱がしたろか?」
ツッコミ「うわわっ、自分で脱ぎますから! はいっ、脱ぎましたよ。しかしこのタイツ、少しサイズ小さくないですか」
ボケ「はみ出しそうなら、そのスリルを楽しみながら動くのもええやろ」
ツッコミ「楽しくないですっ!」
ボケ「まあ、もしハミ出たらハミ出たで、それはその時や! 度胸の練習にもなって、一石二鳥やで!」
ツッコミ「んなアホな!」
ボケ「そういやお前は、柔道やってるそうやな。受け身は出来ても、柔道には打撃は関係ないやんか。だから打撃練習からや。まず、軽く一発いくでぇ~。ハアッ!」
ツッコミ「いてえええええ‼」
ボケ「おお~っ、想像以上のオーバーアクションな痛がり方やな! レスラーの資質あるで!」
ツッコミ「いっ、いやっ、マジで痛かっただけですっ! 無理無理無理っ!」
ボケ「なんや~。こんなええ体しとんのに、意外と打たれ弱いやっちゃなあ。まあ、最初はこんなもんや。じゃ次は、今度はワイが受けるやさかい。お前が攻めをやってみるんや」
ツッコミ「もう、僕が攻める練習ですかっ? 早っ!」
ボケ「プロレスってのはな、一方的になったら塩や。相手の技も受けて、受けきってから反撃する所にカタルシスがあるんやで!」
ツッコミ「じゃあ、いきますよっ! ハッ!」
ボケ「ウッ⁉ なっ、なかなか、ええでぇ……。よ~し、十分や! なにせ、ワイが気持ち良かったくらいやからな」
ツッコミ「気持ちいいかどうかが判断基準ですかい」
ボケ「よし。次は、ワイをおもいっきり抱きしめてみいや」
ツッコミ「ええっ⁉」
ボケ「なに考えとんねん。ベアハッグや、ベアハッグ!」
ツッコミ「ああ、なるほどっ。じゃ、いきますよ。フンッ!」
ボケ「おお~っ! かっ、快感っ……!」
ツッコミ「ちょっ、ちょっと! なんか、カマっぽいコーチだなぁ。こんなんで、大丈夫なんかな~」
ボケ「よっしゃ! ま、こんなもんやろ。それじゃ、そろそろ本番の練習に入るで」
ツッコミ「本番の練習? 今のも、練習じゃなかったんですか?」
ボケ「なに言うとるんや。ワイらはプロレスをやるんやで、プロレスを。普通の格闘技とは全く性質がちゃう、別次元の存在やで」
ツッコミ「別次元?」
ボケ「そうや。本気で格闘して相手を倒すのが目的の、普通の格闘技をするわけやあらへん。プロレスってのはやな、台本通りに試合っぽいものを演じる『肉体演劇』やで。だからワイらは、格闘家ではあらへん。言うてみれば、スタントもこなす役者や」
ツッコミ「ええっ⁉ プ、プロレスって、そういうものだったんですかっ⁉」
ボケ「なんやっ、知らへんかったんか? 昔ならともかく、今ではプロレスの関係者ですら暴露して久しいんやで。暗黙の了解や」
ツッコミ「そ、そうだったんですか……。本当に知らなかった……」
ボケ「むしろ、ワイの方がビックリや。大体、ロープに振ったら跳ね返って技受けたりするやん。あれ、疑問に思わへんかったかいな?」
ツッコミ「そ、そう言われてみれば、そうですね……。いや~、参ったなあ。ハッハッハ」
ボケ「そいでやな。もう一つ言えば、ここはプロレス団体ですらあらへん。ワイが社長兼タレントとして開いた、個人の芸能事務所やで」
ツッコミ「ええっ⁉」
ボケ「たまたま最初の出し物として、プロレスをやったろかな~と、ワイが適当に思い付いただけや。ネタが切れたら、漫才なりコントなりに切り替えるだけやで」
ツッコミ「ああっ! だから、ここには他に誰も居なかったのか!」
ボケ「ワイはピン芸人でやっていこうと思ってたんやが、プロレスだと相手が必要やさかいな。それで、今回の募集をしたんや。それじゃとりあえず、これがデビュー戦の台本や」
ツッコミ「どっ、どんな内容なんですか⁉」
ボケ「ワイが梅干しマスクで、お前が塩辛マスクや。試合開始直後、二人もつれて場外転落! そのまま両者リングアウトで、引き分けや!」
ツッコミ「しょっぱーーーっ!」