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運命の鎖  作者: 桔梗
始まりの薄紅色
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確実な証拠

「そう思った理由を述べてください、師匠」


 千翔くんは面倒くさいとでも言うかのように、ため息をついた。しかし口は開く。


「転校だよ」


 至ってシンプルな答えだが、こちらには何が言いたいのか分からない。千翔くんはもう一度ため息をついて話し出す。


「手紙に書いてあった言葉を思い出せよ。"好きでした。今までありがとう"。これ完全に諦めムードじゃないか。でも最初の手紙は5月24日に送られてる。その時点でまだ入学してから1ヵ月半ほど。そんなに早くに諦めるか?俺からしたらそんなに早く人を好きになるとか有り得ないけど」


「師匠、師匠の目線から話さないで下さい」


 たるとが手を挙げて批判する。千翔くんは苦い顔をした。


「それに中学からの知り合いって可能性もあります」


 私も手を挙げて言う。


「そうだな。一瞬で惚れてしまうほどの何かがあったのかもしれないしな。だけど、もしそうだとしても、そもそも入学早々こんな目立つことしないだろ普通。いくら自分の名前を書かないとはいえ、こんな大きな計画リスクが高くて普通はやろうと思わないね。実際下駄箱で怪しいと思われる人物は目撃されてるし」


「確かに⋯⋯」


 千翔くんは手紙の文面を見た時点でここまで考えていたのか。


「そこで考えた可能性の一つが転校だ。自分が長くここにいないことが分かっていれば何をやっても怖くないし、別れっぽく書いてる文章も大掛かりな計画も納得いく。ま、これも入学早々ってことを考えたら可能性は低いとは思ってたけど、まさか本当にいるなんてな。しかも1年2組でバスケ部。これで一気に可能性は高くなった」


「どうして?」


「みっちー先輩が言っただろ。送られた人は2組とバスケ部が多いって」


 確かに言っていた。しかし、


「それは偶然の範囲なんじゃないの?」


「まあ確かに片方ずつ見ると多くはない。それぞれ3人ずつ。普通はスルーするところだな。むしろそこに目をつけたみっちー先輩を褒めたいね」


「千翔ちゃん生意気」


 さっきから黙って聞いていた満先輩が、自分の悪口を聞きつけて文句を言う。


「じゃあなんで⋯⋯」


「お前たちはさっきからなんでどうしてって、なんでなんで星人か。少しくらい自分で考えろ」


 冷たい視線をくらう。このあいだから感じてはいたが、千翔くんは口と態度が悪い。


「考えても分からないから聞いてるんじゃん」


 たるとがムキになって言うと千翔くんは口をへの字にしたが、それ以上は何も反論しなかった。


「2組とバスケ部の人が3人ずつ、合わせると6人。つまり9人中6人が加藤とよく面識があるってことだ」


「なるほど、そう考えると多いね」


 京介くんが頷く。


「さらに言えば、その人たちは加藤が容易に誕生日を知り得たことになる」


「そうか、同じクラスにいればいくらでも知る機会はあるし、バスケ部もメンバーの誕生日祝うのは恒例のことになってる⋯⋯」


「それじゃあ、千翔くんとあーちゃんとあともう1人は?」


 たるとが冷静に質問する。


「アリスは当然個人カードを見られたから。たぶんそれがこの計画を考えたきっかけだろうしね。時期が丁度合う。で、あとは俺ともう1人⋯⋯最初に受け取った井上晴香って人だけど、これは簡単な話」


「ああ、なるほどね」


 京介くんは何か思うことがあるようで、納得したように頷く。彼も頭の回転が速いと思う。私にはさっぱり分からない。


「千翔はそもそも送りたい人だから、当然どうにかして調べたんでしょ。知ろうと思ったらいくらでも知る方法はあるからね。井上晴香に関しては目立つからね」


「目立つ?」


「うん、噂にうとそうな朱音ちゃんは分からないかもしれないけど、井上さんちょっと派手なことで有名だよ。そういう目立つ人なら誕生日は知りやすいかもね」


 京介くんに軽くバカにされたようか気がするが、確かに納得のいく理由だ。


「そういうこと」


 千翔くんが頷く。


 あれ、と思う。しかし、今の話の順序だと、おかしい。


「そもそも、あの変な質問はどこからきたの?必然って言ってたけど」


「少しは頭働いてきたな、アリス。たぶん、あんた自分から誕生日言うことなかっただろ」


「うん、確かに高校に入ってからは誰にも言ってないけど⋯⋯」


 高校以前も自分の誕生日をいう機会は少なかった気がする。


「バースデーカード受け取った日、アリスは自分の誕生日忘れてたから。そのアリスの誕生日を知るのは困難なはずなんだよ。で、中学から同じ人っていう可能性を考えたけど、いなかった。だから、2組のバスケ部と仮定して、違うクラス違う部活で接点のあるやつがいるか聞いたんだ」


 そういえば誕生日の朝、すぐそばに千翔くんと京介くんもいたのだった。よくこちらの会話を覚えていたものだ。


「ま、以上、俺が加藤だと思う理由」


「待って」


「なんだよ京介。さっきも言った通り、本人には確認済みだからな」


「どうして朱音ちゃんに質問する時点で、2組のバスケ部って絞っちゃったの?さっきも言ってたけど、同じクラスなら誕生日知る機会はそこそこあるよ。アリスちゃんの誕生日知ってる人から絞ろうとするのは非効率的じゃない?」


 千翔くんは首を竦める。


「一番確実な証拠⋯⋯目撃証言を忘れたか?いやまあ、確実じゃないかもしれないけど。”朝早く”、”荷物持たずに”、”じっと立っていた”時点でかなり可能性はかなり高い。それで、アリスと同じクラスの坂倉は、その人は同じクラスではないと言った。それに、アリスの部活、弓道部は人数が少ないから後から絞れると思った。だから、違うクラスで違う部活って聞いたんだ」


 一気に言う千翔くんに、京介くんも納得したようだ。


「そっか、髪の短い女の子。女子にモテるほどのクールな彼女も、心は普通の乙女だってことだね」


 全て聞き終わった後、皆千翔くんの頭の回転の速さに感服するしかなかった。もちろん私も。千翔くんは、顔が良くて運動ができて頭の良い特権を本当に持っていた。性格には問題がありそうだが。

 

 正直私は彼に見惚れていた。心地いい声に耳を傾けながら、形のいい口から滑らかな言葉が溢れてくるのを、凝視せずにはいられなかった。


 千翔くんはこちらの視線に気づいたように、ふと振り向いた。涼し気な瞳と目が合ってどきっとする。それがいい意味でなのか悪い意味でなのかは、自分でも分からない。ただ、その瞳に私自身が写っていることに、違和感を抱いた。


「今は、違うだろ⋯⋯」


「え?」


 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな呟き。だが、確かにその唇は動いていた。私が尋ねなおす前に、千翔くんは目を逸らしてしまう。


「ちょっと来い」


 今度ははっきりと聞こえる。千翔くんがもう一度こちらを向いた。


「何ぼーっとしてんだ。飲み物買いに行くからアリスも来い」


 名前を呼ばれてはっとする。自分に言われているとは思わなかった。


「飲み物?」


「あ、千翔気が利くねぇ。俺、コーラで」


 京介くんがすかさず言う。


「師匠、サイダーお願いします!」


「千翔ちゃん、サイダーもうひとつね」


「お茶を」


 後に続いてたるとと満先輩と、真田先輩までもちゃっかりと言う。


「はあ?まあ、たまには買ってきてやるから感謝しろ。アリス、財布持って来ってこいよ」


「えっ」


「うっわ千翔くんサイテー、あーちゃん、行かなくていいよ」


「いや1人で全員分持つの無理だから。行くぞ」


「ええっ」


 千翔くんは皆に批判の言葉を浴びせられながらも、私の腕を引っ張って外に出た。

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