答え合わせ
もうここに来ることはないだろう、と思いながら生徒会室を出た翌々日、早くも行く予定ができた。もちろん望んで行くわけではない。たるとと共に、千翔くんに呼ばれたのだ。
あの日は最終的に何の話をしていたのか、分からなくなっていた。しかし、カードの送り主を探したいと言っていたのだと、家に帰ってたまたまあったみかんを見て思い出した。所詮あの場のノリで言っていただけで、本当に探せるとは思っていないだろうと、少なくとも私は思っていた。しかし、他の人は違ったようだ。
「本当に千翔くん送り主が分かったのかな?」
「どうだろうね。自信ありそうに笑ってたけど」
生徒会室に向かうたるとは楽しそうだ。
確かに満先輩の情報はすごいとは思ったが、それでもたったあれだけの情報からいったい何が分かったというのだろうか。
「俺が間違えるとでも」
いきなり後ろから声が聞こえて、振り返る前にパシリと何かで頭を叩かれた。
「師匠!」
例の手紙を持った千翔くんが見下ろしていた。たるとがむっとしたように叫ぶ。
「あ、いや⋯⋯」
私は頭に手をやって苦笑いする。
千翔くんの頭が良いという話は、たるとから聞いていた。しかし、顔も良くて運動も出来て頭もいいなんて特権を、千翔くんが持っているとはどうにも信じ難いのだ。この、陰気な雰囲気を漂わせている彼が。
それにたとえ分かったとしても、面倒くさがり屋の彼が、皆の前で謎解きの真似事をするようなタイプだとは思えなかった。
千翔くんは冴えない反応の私を不満そうに見下ろして、肩をすくめた。
「まあいい。答え合わせはこれからするんだから」
そう言って生徒会室へ入るように促す。ドアを開けると、思っていたとおり京介くんと満先輩がいた。予想外なことに会長もいた。彼は呼ばれたわけではなく、普通に仕事をしにきたのだろうが。
「また君たちか」
目が合うと案の定すぐに冷たい言葉が飛んできた。
「す、すいませ⋯⋯」
「まあまあ、先輩、今日は答え合わせするので、勘弁してください」
千翔くんは理由にならない理由を適当に述べ、堂々と入っていく。たるとと私はそれに隠れるように続く。
「やっほ〜」
真田先輩が何か言う前に、満先輩が手をひらひらと振った。今日も飴をくわえている。真田先輩は苦い顔をしてため息をつく。
「くれぐれも静かにするように」
私たちは肩をすくめながら京介くんたちのほうに行く。珍しく晴れた今日は、冷房がよりありがたい。しかし普通の教室はまだ冷房をつける時期ではないのに、生徒会は随分と高待遇だ。
「で、誰なの?送り主」
全員が座ると、京介くんが急かすように言った。
「バカなのお前。答えを先に言っちゃ面白くないだろ」
「いやいや、じれったいから先に言っちゃってよ」
「で、すぐに本人に確認しに行く、と」
たるとと満先輩もにやにやと笑いながら促す。千翔くんは少し考える素振りを見せた。が、次の瞬間にはあの面白がるような笑みが浮かんでいた。
私はそれにはっとさせられる。まだ何も言葉を発していなくても分かってしまう。感じてしまう。この人には全てが見えているのだと。
「送り主は加藤優樹だよ」
さっと顔の中で何かが通るような感覚があった。恥ずかしいことがあったときに、恥ずかしいと頭で思うより先に身体が変化しているような、そんな感じ。その理由も分からない。自分にはほとんど関係のないことなのに、表情が正常に動かなかった。
「えっ」
「うそ、あのイケメンが?」
「そう、あのイケメンが」
千翔くんはさも当たり前のように頷く。突然の答えに皆が驚きを隠せなかった。
加藤優樹。
確かに一昨日、私が廊下でぶつかった話をして話題には出たが⋯⋯
「それはこのあいだの話に引っ張られてない?」
京介くんが言いたいことを言ってくれる。
「このあいだ加藤の話が出たのは必然だ。俺がそういうふうに質問したんだからな」
確かに、千翔くんが途中から意味分からない質問をし始めて、話が逸れたのだ。
「ええっでもなんで?なんでそう思ったの?」
たるとが身を乗り出して言う。
「本人に確認しに行くんじゃないのか」
「だ、だってそんなぁ、まさか」
「どうしてありえないなんて言える?」
千翔くんは意地悪そうな笑みを浮かべたまま言う。
そうはいっても、加藤優樹のそのような話は聞いたことがなかった。聞いたことがあるのは、女子に人気があり、色恋などには興味がないということだけだった。それに千翔くんのような人は、友達としても一番合わなそうに見える。
「でもやっぱ微妙な気分だよ。女の子たちからなんて呼ばれてたか知ってる?王子様だよ」
「それはすごいね」
私はたるとの言葉に素直に驚く。現実で王子様と呼ばれる人がいるのか。満先輩も、それは姿を拝みたい、とつぶやいている。
「まあ恋愛は自由だけどさ」
「ていうか、千翔の考えが間違ってるってこともあるよね」
京介くんが疑わしそうに口を挟む。
「はあ?俺が確証も持てないことをこんな堂々と話すと思うか?」
「まあ確かに、千翔の性格上、事前に本人に確かめるくらいしてそうだけど⋯⋯」
「よく分かってんじゃん」
千翔くんは不敵な笑みを浮かべている。楽しんでいるようにも見えた。
「えっじゃあ本当に⋯⋯」
「さっきからそう言ってるだろ」
再び一同がざわつく。信じ難くても、すでに事実と証明されてしまっていたのだ。




