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運命の鎖  作者: 桔梗
表裏の桔梗色
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合わさる音

 水着でなかった千翔くんは、思う存分水をかけ合った後、思い出したように不満を私に向けてきた。服が濡れたのは私のせいだと。そして今、私は彼にパシリにされて飲み物を買いに来ている。


 太陽がまだ真上に来ていないとはいえ、砂浜は十分にあたためられていた。そのため、海に入っていた時より熱気を全身で感じていた。私も不満しかなかった。


朱音あかねさん」


 自動販売機と睨めっこをしていた私は、可愛い声に振り向く。小さい小銭入れを胸の前で持った佐々白先輩が、近づいてきていた。


 彼女はビキニではなかった。むしろ肌をあまり見せないような格好をしていた。元々白いから焼けたくないのかもしれない。しかし彼女にはこのくらいの清楚な水着が似合っていた。


 昨日の今日とはいえ、名前を覚えられていたことが嬉しい。しかし朔とのやり取りを見られているので、少し気まずい思いもある。


「生徒会の人たちも、今日は海で遊んでるんですか?」


「ええ。私はあんまり海好きじゃないんだけど」


 手をひさしのようにして眩しそうに海の方を見る彼女に、思わず見とれてしまう。まつ毛が長い。


 早くしないとと思い、見とれたまま適当に自販機のボタンをピッと押してしまった。ゴトリと落ちてきた飲み物は、パシリにした千翔くんに変な飲み物を買って行こうかと、ふざけて選択肢に入れていたやつだった。


 音に反応したように彼女がこちらを向き、薄い唇が弧を描く。

 

「柳が来ているか気になる?」


「いえ、いえいえ。全く」


 彼女は何か勘違いをしているのかもしれない。美味しくなさそうな飲み物を取り出して、自販機の前を開ける。


「昨日は仲良さそうにしていたじゃない」


「仲良くないですよ」


 実際に話してみても、彼女は独特な雰囲気を持っている。からかうように笑ってくる彼女に、私も強くは言えない。話題をそらそうと、こちらから口を開く。


「佐々白先輩は朔、先輩に何を頼まれてたんですか?」


「今日たぶんイベントが起こるから、その他大勢の注目を集めてって」


「イベント?」


 私は眉を寄せる。


「何が起こるんでしょう」


「さあね。柳の考えていることは、いつもよく分からないわ」


 彼女はつまらなそうに言って、躊躇いなく自販機のお茶のボタンを押した。


 意外な気がした。彼女は分かっているから、あのような態度をとれるのかと思っていた。しかし、彼女が朔の意図を知らないということは、他の生徒会の人も知らないのかもしれない。


「柳は司令塔だから私たちは従うのみよ。でもあの人は結局、自分が望む結果に導いてしまうのよね。不思議だわ」


「そうですね」


 確かにそうだ。今日も、イベントが起こる、ではなく、自分の思う通りに事を起こす、という方が正しいのかもしれない。


 朔の目的は裏サイトの信用がどうなどと言っていたが、そのために京介くんを利用しているとも見える。しかし、彼が他人を傷つけるようなことをするとは思えない。朔がどう動こうと、京介くんの悪いようにはならない気がした。


 ならば、こちらはこちらで自分の思うように動くのみだ。


「あなたは、真坂くんの噂のことどう思っているの?」


「私は⋯⋯」


 突然聞かれて口ごもる。そう、一番の悩みは、自分がどう思ってどうしたいのかが分からないということだった。


 最初は単純に、書き込みは嘘だと思っていた。京介くんがそういう人には見えなかったから。しかし、先輩たちに対する態度や楽しくないと笑わないという言葉を聞き、よく分からなくなった。


 それから井上さんたちと話して、噂の真偽は分からないのだと気づいた。そもそも、自分も京介くんのことを何も知らない。だから結局、彼に直接話を聞き⋯⋯


「書き込まれたことが本当であってもそうでなくても、それが良いことか悪いことかは、あれだけでは判断出来ないと思いました。だから、女の子たちが京介くんの悪口を言ったり、私がそれに反論したりするのはあまり意味のないことではないかと。少なくとも私にとって重要なことは⋯⋯」


 はっとして口をつぐむ。


 ここからは京介くんのプライベートなことであり、私にとっても確かなことではないから、あまり口にするのは良くない。


「やっぱり、あなたは賢い子ね。柳が重宝する気持ちも分かるわ」


 佐々白先輩は言葉の続きは聞かず、微笑む。


「今回のことには興味ないけれど、朱音さん、あなたには興味が出たわ」


 彼女は人形のような顔で笑って、買ったばかりのペットボトルに口をつける。キャップを開ける瞬間に、カチッと気持ちのいい音がした。私の頭の中でも、何かがカチッと合わさっていた。


 人に話すことで考えが整理されることは、これまでも何度か経験していた。自分がどうしたいのか、今はっきりとした。


 私は浜辺を見回す。この気持ちを忘れないうちに、京介くんともう一度話したかった。


「生徒会って、みんな一緒に行動してますか」


「そんな協調性がある人ばかりだと思う?」


「ですよね⋯⋯」


「真坂くんなら、1人であっちの方行ってたわよ。詳しくは知らないわ」


 彼女は私の考えを読み取ったように、右の方向を指さした。


 1人でいるなら好都合だ。しかし、まずはこの手に持った飲み物を千翔くんに届けなければならない。


「ありがとうございます、佐々白先輩」


 深々と頭を下げて彼女に別れを告げた。

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