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運命の鎖  作者: 桔梗
表裏の桔梗色
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笑顔の本音

 水族館を出た後は、すぐにたるとたちと合流することが出来た。


 たるとは一緒にまわれなかったことを残念がっていたものの、梓馬くんと圭貴とそれなりに楽しんでいたようだ。双子がはしゃいで梓馬くんが暖かい目で見守っているところを想像すると、ほっこりする。


 一方で、清浦くんは私と千翔くんを見ると、ぎこちない笑顔を浮かべた。他の人には何も言われないので、誤解は彼の胸の内のみに留まっているようだった。井上さんたちは少し気まずそうにしながらも、今まで通りに話しかけてきた。


私は旅館に戻ってから、京介くんと話す機会を伺っていた。生徒会が今日何をしていたのかは分からない。しかし、満先輩がご当地と書かれたパッケージの飴をくれたので、普通に観光していたと見える。


 やっと京介くんの姿を見たのは、温泉から出たときだった。ちょうど周りには誰もいない。


「京介くん」


「あ、朱音ちゃん。昨日のぼせちゃったみたいだけど、今日は大丈夫だった?」


「うん。少し早めに出たから」


「そっか、良かった」


 ベンチに座った京介くんの前から立ち去らない私を、彼は不思議そうに見上げてくる。


「ちょっと外散歩しない?」


彼はやはり不思議そうな顔をしていたが、すぐに笑顔で頷いた。


一緒にいるところを見られるのは少し面倒だと思いながら、早足で外に出る。昨日1人で歩いた道へと進む。私は無意識に、ずっと先へと続く堤防を見ていた。その上に登っているような人は、今日はいない。堤防の上でなくとも、相変わらず出歩く人はいないようだった。


「夜の海っていうのもロマンチックだね」


「ここからだと見えないけどね」


「見えるよ?⋯⋯あ」


 堤防よりも頭ひとつ分以上飛び出している京介くんは、私を見下げて、誤魔化すように笑う。


「⋯⋯おんぶする?」


「遠慮しとくよ」


 私も苦笑いを返しながら、前後に並んで歩いていく。


 2人きりになれたはいいが、どう切り出そうかと迷っていた。


「何か話があるの?」


 察したような彼が優しく言ってくれた。私は振り返るが、彼の顔は暗くてよく見えない。


「うん。そうなんだけど⋯⋯」


 日向くんと千翔くんとの会話で、男子に質問するのは難しいと思っていた。そうでなくとも、どう聞くかは重要だ。2年の先輩がしていたような、どうして笑っているのかという質問は、なんだか意味のないことに思える。


 私は何が聞きたかったのだろう。


「じゃあ、俺が先に話していい?」


 私に話すことなどあるのだろうかと不思議に思いながらも、頷く。


「昨日さ、朱音ちゃん、俺のこと楽しそうって言ってくれたでしょ?あれ、本当はすごく嬉しかったんだ」


 京介くんの顔がよく見えないのが惜しかった。笑みを含んだ声だったから。私も嬉しくなる。しかし、彼はそのあと何も言わない。


「それだけ?」


「あはは、それだけ」


 彼が少し近づいてくる。光加減が変わって、満面の笑みがちらりと見える。はっとした。怪しい紫色だと思っていたものが、違う色に見えた。


「どうして?」


 思わず聞いていた。


「さあ、楽しいって言葉がしっくりきたのかも」


 彼は深く考えていないように言う。


「次、朱音ちゃんの番」


 軽く首を傾げてくる。


 私が聞きたいこと。はぐらかされてしまうような質問の仕方はだめだ。そして、本質でなければ、意味がない。


「京介くんは優しいって言われるの嫌い?」


 思いきった質問のつもりだった。彼はすぐに答えないが、よく見ると俯いて震えている。怒ったのだろうか、と急に不安になってくる。


「あは、あははは」


 突然彼が笑い出して、ぎょっとする。


「ど、どうしたの」


「ははは、いやぁ、そんなこと言う女の子、朱音ちゃんくらいだよ」


 私は大真面目に質問したつもりだったが、的外れだったのだろうか。


「やっぱ、千翔を動かさせる子は違うね」


「千翔くん?」


「こっちの話。楽しいなぁ。いや、こういう時は嬉しい、かな?」


 京介くんのやわらかい笑顔が見えた。


 嬉しい。彼が笑う時は、楽しい時と、嬉しい時⋯⋯。


「大嫌いだよ」


 彼が最も言わなそうな言葉に、どきりとする。その口調には力がこもっていたような気がした。しかし、彼の笑顔は全く変わらないままだ。


「俺はみんなと大差ないことをやってるのに、女の子は顔につられて勘違いするんだ。俺の何を見てそんなこと言うんだろうね」


 笑顔も雰囲気も、京介くん特有の優しい感じのままだ。しかしその口から出る言葉は、私を唖然とさせるのに十分だった。


「こんなこと言うの、印象と違うって思う?」


「ま、まあ、印象とは違うかも」


「やっぱそうだよねぇ。でも、勝手に勘違いしているのは周りの方なんだよ。俺はいつだって自分の気持ちに正直に振舞ってるし、あの人たちのために愛想笑いしたことは、一度もない。最近になってやっと気づいてきたようだけどね。あの反応、面白くて仕方ないよ」


 留めていたものが流れ出すように、彼は本当に面白そうに一気に言った。私は何も言えない。まず、理解が追いつかない。”周り”とは、”あの人たち”とは、何を指しているのか。”あの反応”とは?


「こんなこと話すことないから、少しすっきりしたかも。朱音ちゃん、ありがとう」


 私の心中を知ってか知らずか、彼は爽やかに笑いかけてくる。


 私はどう返事したらいいかも分からずに、ただ頷く。


「幻滅した?でも元々俺、周りの反応なんてどうでもいいから。朱音ちゃんが俺を嫌な奴だと思ったなら、今後話しかけなくていいよ」


 京介くんは半ば一方的にそう言うと、背を向けて宿の方へ戻っていってしまった。


 最後の言葉に、胸がずきりと痛んでいる。私は呆然と立ち尽くすしかなかった。

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