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運命の鎖  作者: 桔梗
表裏の桔梗色
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根拠のない噂

 私は不思議な気持ちで女子4人の会話を聞いていた。たるとは慣れているようで、自然に会話に混じっているが、私は必要に応じて相槌だけうっている。自分の周りにはいないタイプだと感じたのは当たっていたようで、会話の内容もまた、新鮮なものだった。


 その内容は、人の噂話が多かった。その中でも、恋の噂。誰が誰を好き、誰が誰と付き合った⋯⋯。中学生の女子の会話を聞いている気分になってくる。


 会話の中心になっているのは、井上さんだ。正直、彼女の存在がどういうものか、私はまだ分かっていなかった。良くも悪くも目立つとは聞いていたが、確かに彼女には人の注目を集めるはながある。


 しかし私個人としては、何か違和感のようなものを感じていた。時々こちらにも話を振ってくれるが、本当に仲良くなりたくて話しかけてきているようには見えなかったからだ。どこかうわべのような感じがする。


「里見くんまた告白されたらしいよ」


 知っている名前が出てきて、ようやく内容が頭に入ってきた。


「それで、また断ったの?」


「らしいね。恋人なんて一生作る気ないんじゃない」


「もったいないなぁ。里見くんならいくらでも遊べそうなのに」


 よく知らない人が知っている人の話をしているのも、また、新鮮な感じだ。


「あの性格で遊び人だったら、千翔くん欠点だらけになっちゃうよ」


「たるとちゃんは里見くんに厳しいよね」


 鈴木さんが笑って言う。


 そういえば、千翔はモテるらしかった。私はたるとに同意だったので、鈴木さんとその言葉に頷く井上さんと高橋さんの方に驚いていた。やはり、顔がいいというのは罪だ。あの性格で顔がよくなかったら、ただの嫌われ者だっただろう。


「だって、同じモテるって言っても京介くんの方がまだ分かるよ」


 たるとが笑ってそう言った時、その場の空気が変わった。廊下の向こうに座る3人から笑みが消えたのだ。


真坂まさかくんは最低だよ」


 井上さんが呟くように言う。その目が宙を睨んでいるようで、怖い。私は彼女の言葉と異様な空気に眉を寄せる。


「どうして?」


 たるとも驚いているようだった。こちらを見てくるが、私は首を傾げることしかできない。京介くんに近づきたい女子はいても、遠ざかりたい女子は見たことがなかった。


「たるとちゃんたち知らない?最近、真坂くんの噂が学校の裏サイトで流れてて⋯⋯」


 鈴木さんが携帯を取り出して、何かを表示し、こちらに差し出してくる。私とたるとは揃ってのぞき込む。それは、ネットの掲示板のようだった。


『ラブ:1年4組のM・Kサイテー』


『リョー:Kくんの悪口書くあんたがサイテー』


『ラブ:あんたもKに騙されてる可哀想なファンの1人なんだね』


『a5u1i1:どういうこと?』


『ラブ:みんなあの笑顔に騙されてるんだよ。あいつ裏ではサイテーなこと考えてる』


『リョー:なんでそんなこと分かるのよ』


『ラブ:見ちゃったから。Kが失恋した女の子見て笑ってるの』


『まさやん:は?』


『mm:どういうこと??』


『ラブ:あの笑顔は優しさじゃなくて私たちを嘲笑ってんのよ!!』


『リョー:それは最低、、、』


 そのあとは、Kのファンだと思われる人たちの驚きとショックの声が続いていた。もちろん反論する声も上がっていたが、悪く言う人が多い。


「何これ⋯⋯」


 たるとは、このような書き込みを始めて見たのだろう。気分悪そうな顔をしている。私も、くだらないとは思うが、気分はよくなかった。


「これが京介くんのことなの?」


「1年4組のM・Kって1人しかいなかったから」


「私、真坂くんのファンだったけど、これ見てから信じられなくて⋯⋯」


 井上さんが、悲しんでいるというよりは怒っているような表情で言う。鈴木さんと高橋さんは何も言わないが、同意するように暗い顔をしている。


 私は、彼女たちがこの書き込みを鵜呑みにしていることに驚いた。確かに私も、実は京介くんは千翔くんと同じ人種なんじゃないかと疑っているところはあるが。


「失恋した子を笑うなんてことは、しなさそうだけど」


 思わずぽつりと呟いていた。


「私たち、きっとそう思わせられてるんだよ」


「そうだよ。ちょっとかっこいいからって女心バカにするのはサイテーだよ」


「ちょ、それ言い過ぎ⋯⋯」


 あの書き込みを本気で信じている人がどれだけいるのだろうか。根拠のない噂は、話題性というだけで広がることがままある。彼女たちも裏サイトで噂するような人たちと同じかと思うと、少し冷めた気持ちになる。


 何にせよ、悪戯いたずらか何か知らないが、ひとつの書き込みが原因で、京介くんに対するイメージは悪くなっているようだった。この事実は、いいものには思えない。


困ったようなたるとと顔を見合わせる。


「私、京介くん信じたいな」


 たるとが私を真っ直ぐ見て言う。この子のこういう所が好きだ。


「うん、私も。きっと何かの誤解か悪戯だと思う」


「2人とも、京介くんと仲良いの?」


「仲良いっていうか、最近関わることが多いかな」


「真坂くんは最低だよ」


 井上さんが、先ほどよりも京介くんに対する敵意をあらわにして言う。彼の肩を持つ私たちに対しても、若干とげのある視線を向けているようにも感じる。


「そんな、最低とか言わなくても」


朱音あかねちゃん、京介くんのこと好きなの?」


「え?いや⋯⋯」


 私は驚いて、慌てて首を振る。そう、とこちらから視線を外して真顔で言う井上さんが、少し怖い。


 鈴木さんやたるとが、ぴりぴりとした空気を払うように別の話題を話し始めた。そのあとは、井上さんも普通に笑っていた。


 私は、なるほど、と思う。彼女に感じたやりづらさと、良くも悪くも目立つという評判。彼女は悪い顔ですら、目立つと分かっていてやっているように思えた。

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