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運命の鎖  作者: 桔梗
表裏の桔梗色
31/63

Interlude 2

 赤い。


 まだ黒が混じってしまう前の、鮮やかな赤い色。


 ポスターカラーをたらしたような、つやのある赤い色。


 覚えているその時の記憶の半分以上は、おぞましくも美しい深紅で覆われていた。


 追いかけていたはずの父は、その中に埋もれていた。けれど、それは俺の心を大きく動かす要因にはなり得なかった。あの人はどうしようもない人間だったから。あの人にとって、家族はどうでもいいものなのだ。だから俺も、父とも呼べないあの人の事は、どうでもよかった。


 それよりも目を引いたのは、テーブルの中央に座り込んでいる、唯一まだ意思を持った1人の子供だった。ちょうど、俺と同じくらいの歳とみえた。ばらばらに転がったティーセットに囲まれて、おままごとの途中で1人にされたように、茫然と涙を流している。


 周りの赤にも侵食されないような美しく長い黒髪。その髪をひと房結ぶ紅色のリボン。そのリボンだけが赤く染まってしまったような、しかし、目に映るどの赤色よりも鮮やかな色。俺には、それだけがとても崇高な赤に見えた。


 恐怖も何もかもどこかへいってしまうくらい、彼女に魅せられていた。


 あの時以来、俺の脳裏には、常に彼女の影がちらついていた。ずっと忘れられずにいる。


 そしてもう1人、彼女と対照的な白い子供がいた。


 なにものにも侵食されないような純白。


 彼は彼女とは反対に、俺と同じ側、つまり赤色の外側で彼女を見つめていた。子供とは思えないほどの深く悲しみを湛えた目をしていた。彼も俺と同じく、間に合わなかったのだ。


 俺が赤で汚れないようにと守ってくれたのは、彼だった。彼女と同じくらい俺を引きつけ、忘れられない人。


 真逆の彼らは一緒にいても混ざり合うことがなかった。それぞれの美しい色を保っている。それなのに、奇妙に調和していた。


 忘れるはずのない記憶は、しかし、時間と共に頭の隅に流されていった。


   ***


 赤い。


 美しく長い黒髪と、その髪をひとつにまとめる紅色のリボン。


 見た瞬間に分かった。頭の隅に追いやられていた記憶が、一気に鮮明に蘇ってくる。


 あれから何年経ったのだろう。幼い子供だった彼女は大きくなっていた。それでもすぐに分かった。大粒の涙を流していた綺麗な瞳も、変わっていない。何もかもが俺の視線を奪っていく。


 どんな赤にも侵食されないような彼女は、確かに俺の目の前にいた。今度は俺を見ている。赤ばかりが写っていたその瞳には、今は俺が写っている。


 そんなことは望まなかったはずなのに、なぜか胸が疼くのを感じた。

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