表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の鎖  作者: 桔梗
始まりの薄紅色
3/63

目撃証言

 鬱々とした雨の日に物思いにふけりがちになるのは、私だけだろうか。太陽が見えないというだけで、1日の気分がこうも変わる。梅雨に入り、ここ数週間はずっとこの調子だ。


 そんな中で、今日は気分を変える兆しが見られた。バースデーカードのことではない。たるとが、放課後家へ来ないかと誘ってきたのだ。


 彼女はその名前のおかげなのか、お菓子作りが得意だった。家に行くと必ず美味しい手作り菓子が食べられるので、私は毎回それを楽しみにしていた。今回ももちろん期待していい様子だ。


 放課後に楽しみができたからか、それとも本当は少し気になっていたのか、いつもより活動的な気分になっていた。バースデーカードについて、クラスメイトに聞いてみようと思ったのだ。


「亜紗美」


 休み時間、1人でぼーっとしていた坂倉さかくら亜紗美(あさみ)に声をかける。彼女は、入学当初から比較的よく一緒にいる子だ。


 彼女は私の声に反応して、ゆっくり振り向く。その目はこちらを真っ直ぐに見ているが、顔には表情らしい表情が見えない。言葉を発する気配もない。


「噂になってる謎のバースデーカードのこと知ってる?」


 私はスカートのポケットから、例の手紙を取り出して亜紗美に見せる。彼女は数秒それを見つめた後、ボブの髪を揺らして縦に首を振った。


「存在は」


 それだけ言うと、再び口を閉ざしてこちらを見る。それ以上待っても何も言わないことは、数ヶ月の付き合いで分かっていた。


 冷たい対応に見えるが、彼女の場合はこれが普通だ。言葉を恐れるような人だった。だから彼女の態度は冷たく見られがちだが、彼女自身は冷たい人ではないと私は思っている。


 亜紗美は、どうしてと問うような視線を向けてくる。


「今朝、私の下駄箱に入ってたの。知らない人からもらうって、なんだか奇妙な感じがして」


 でもなにも知らないならいいや、と続けようとしてやめる。亜紗美は目線を逸らして、何かを考えているようだった。彼女は言葉を発することに対して慎重だ。彼女とうまく会話をするコツは、とにかく辛抱強く待つことだった。彼女の前の椅子に座って様子を伺う。


 やがて、亜紗美は目線をこちらに戻して口を開いた。


「朝、女の子を見た」


「うん」


「髪の短い⋯⋯。昇降口にいて」


「昇降口」


 彼女が時間をかけて話した内容はこうだ。今日の朝早い時間に、先生に用事があって職員室へ向かっていた。そのとき1年3組の、つまり私たちの下駄箱のあたりに、髪の短い女の子がじっと立っていた。背中しか見えなかったが、少なくとも同じクラスの人ではなかったという。


 最初は話のつながりが見えなかった。亜紗美がメッセージカードを指差して、もしかしたら、と言ったのでピンとくる。確かに、怪しい。手紙を入れている瞬間を見たわけではないので、なんともいえないが⋯⋯


「その子、荷物持ってた?」


 ふと思いついたことを聞いてみる。


「手は、見えなくて」


 亜紗美は自分の胸の前で手を組んでみせた。おそらく、後ろから見たらそのような位置に手があったのだろう。でも多分、と彼女は首を振る。高校生が登下校で持つバッグは、大抵、リュックサックか肩にかけるスクールバッグだ。いずれもそれなりの大きさがある。手で前に持っていたとしたら、後ろからでも見えるだろう。


「そっか、ありがとう」


 亜紗美が見た女子は、荷物を教室かどこかに置いてから、わざわざ下駄箱に行ったということになる。ますます怪しい。


 はっきりとした証拠はないが、恐らくその人が送り主だろう。バースデーカードを送っているのが女子だと思うと、少し可愛いなと思えてくるから不思議だ。想像でも犯人像が見えれば、得体の知れないものではなくなる。


朱音あかね


 もう一度お礼を言って立ち上がろうとすると、名前を呼ばれた。何か言いたそうな目で亜紗美が見ている。座り直して彼女が話し出すのを待ってみる。


青鳥あおとり先輩が色々知ってるかも」


「青鳥先輩⋯⋯生徒会の?」


 生徒会はつい先日選挙が行われていた。1年生は朝会った真坂まさか京介と、目の前にいる亜紗美のみ。人数が少ないのは、異例のことではないらしい。一定の投票数を獲得しなければ役員にはなれないのだ。2年生は前年度からの持ち越しになる。会長、副会長は前会長の指名らしい。今回の会長は確か、真田秀という人だった気がする。


 そして例の青鳥先輩とは、2年の生徒会役員の1人、青鳥あおとりみちるのことだ。生徒会の発表は全て放送で行われたが、彼の名は印象的だったのでよく覚えていた。


「聞いてくる?」


 亜紗美が首を傾げて言うが、私は慌てて手を振る。


「ううん、大丈夫。本格的に送り主探したいとかじゃないから」


 それに、言葉が苦手な彼女に仲介をお願いするのは酷な気がする。


「そういえばさ、亜紗美が生徒会って意外だった」


 亜紗美はほんの少しだけ口角を上げ、頷いた。生徒会は前に立つイメージだったが、亜紗美の話に聞くところ、そうでもないらしい。むしろ見えないところでの仕事が多いようだ。彼女も最近は毎日、放課後に生徒会室へ行っているようだった。


「仕事忙しそうだよね。大変?」


「いや⋯⋯楽しいかも」


 亜紗美がそう言うのも意外だ。クラスでの様子を見ていれば分かるが、口下手な彼女は人と馴染みにくい。


「みんないい人」


「それ、集団では一番大事だよ」


 彼女はまた口角を少しだけ上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ