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運命の鎖  作者: 桔梗
浅葱色の新月
20/63

明るい光

さく先輩のこと、どう思う?」


「え?」


「あいや、本人が学校来ないから、土曜日のこと聞けないなーと思って」


 隣の席の梓馬くんが、勢いよく振り返った私を見て、慌てたように早口で言った。


 朝から、昨日会ったサングラスの元カノと同じことを聞くものだから、驚いてしまったのだ。私は誤魔化すように笑顔を浮かべる。


「そうだね。気になるよね」


「朔先輩が学校来ないのって、本当に偶然かな」


 梓馬くんは神妙な顔をして言う。


「どういうこと?」


「はっきりとは分からないけど、なんていうか、新月の日のこととか赤い染みとか、関係あるんじゃないかな」


 朔に普段とは違う何かが起こっているのは、確かだと思う。しかし私としては、梓馬くんがそこまで気にするのが不思議だった。妙なものを見てしまったら、気になるのも仕方ないかもしれないが。


「梓馬くんはどう思うの?」


「俺は⋯⋯」


「なになに、面白そうな話してるね!」


 梓馬くんの言葉を遮って、たるとが近づいて来る。このあいだから、たるとには朔のことを聞かれそうになるので、若干避けていた。彼女もそれを分かっていながら、私に聞く機会を伺おうと近づいてくる。


 しかし、私が誤魔化す前に梓馬くんが答えていた。


「朔先輩が心配だねって」


「それ!」


 たるとが勢いよく机に手をつく。座っていた梓馬くんが少しのけぞる。


「思ったんだけどさ、師匠に意見聞いてみない?」


千翔ちかに?」


「うん、師匠自分からは言わないけど、何か気づいてそうなんだよね」


 部活で話しているときに、ちらりとそんな様子を見せたらしい。確かに、千翔くんなら既に何か分かっているかもしれない。この間も、加藤優樹さんの件で頭のキレに感嘆させられたものだ。


「そうなら話聞きたいな」


 梓馬くんが力強く言うものだから、私も同意せざるを得なかった。昼休みに、隣の4組へ行こうということになった。



 千翔くんは予想に違わず、面倒くさそうな態度で私たちを迎えた。


「あ?朔先輩?俺関係ないし何も知らないけど」


 机に突っ伏して目だけこちらを向いてそう言う。場所が変わろうと、態度は変わらないようだ。それでも千翔くんのそばに行くと女子の視線を感じるので、顔がいいとは罪だと感じる。


「関係なくても、師匠なら何か気づいたことがあるんじゃないかと思ったの」


「はぁ」


「千翔、分かりやすくため息つかない」


 千翔くんと一緒にいた京介くんがすかさず注意する。彼は今日も楽しそうだ。千翔くんと一緒にいて苦労することも多そうだと思っていたが、案外好きで振りまわされてるのかもしれない。


 そして、京介くんもいることにより、より一層教室中から視線を感じる。隣のクラスから3人が訪ねてきたので、尚更だろう。


「俺も気になるな」


 当の本人たちは、視線を気にする様子もなく話を続ける。


「そのうちふらっと顔出すだろ」


「どうするの、危険な事件に巻き込まれてる、とかだったら」


 勢いよく言うたるとに、千翔くんはだるそうな視線を向ける。


 私はたるとの言葉で、彼女たちがこれだけ気にしている理由に納得する。私は朔の女癖の悪さや、メールで無事なことが分かっている。しかし、彼女たちからしたら、行方不明状態なのだ。


「あの人はそう簡単にくたばらないだろ」


「どうして?」


 千翔くんがよく知っている人のように言うので、思わず聞いていた。彼は意外そうにこちらを見る。


「別に、そう見えるだけ」


 目を逸らされた。そのまま黙るかと思ったが、彼はため息をついて口を開いた。


「このあいだ、梓馬が夜に学校来たとき、新月だったって言ってたよな」


 渋々ながらも話す気になったようだ。相変わらず体は机に突っ伏したままだが。私たちは揃って身を乗り出す。


「じゃあ、月だと見間違えたのは何か。丸くて明るいもの。影ができ、満月と思うほどの明かり。ただ、光源が見えたら月と見間違える可能性は低い。だから、恐らく光源は直接目にしていなくて、よって形はある程度丸くなくてもよくなった。それと、その時の梓馬の状況を考えると、普通に見たら月よりも明るく感じるくらいの光と考えられるな」


 千翔くんは一気にぺらぺらと話すので理解が大変だ。


「俺の状況?」


「ああ、そのときのお前は、朔先輩に目を奪われたと言ったな」


「言ってないけど」


 千翔くんは面倒くさそうに梓馬くんを見る。


「言わなくても、その時のこと話してる様子見りゃ分かる」


「まあ、確かにそうだけど⋯⋯」


「それなら周りの事なんて気にならないはずだ。目に入ったとしても、後から思い出すとき、強烈な印象は中心である朔先輩がもっていく。だけど梓馬はわざわざ明かりの話もした。お前が月にこだわりを持っていることは知っている。だけどそれにしても、その日新月のはずだということも忘れて満月だと俺たちに話すにしては、月の印象が強すぎる」


 千翔くんはやっと体を起こした。遠くを見ているが、眼差しはしっかりしている。私はその目に何が映っているのか、無意識に読み取ろうとしていた。


「確かに⋯⋯なんでか分からないけど、明かりのことはよく覚えていたな」


「それに、月城つきしろ神社とお前の家は静かなところにある。夜になると真っ暗になって月が良く見えるよな。普段から明るい月を見てるってことだ」


「ああ、だからその時の水戸くんにとっては、ちょっと明るめの光が月に見えるのか」


「そう。これが前提」


 やっと千翔くんのいう前提がそろったわけだが⋯⋯


「じゃあその光って何?」


「まず考えられるのは、生徒会室前の廊下を隔てて、学校の外の住宅街から明かりが入ってきた場合。だけど夜はシャッターやカーテンが閉まって、家の中の明かりは見えない。他には懐中電灯。ただ、これは明る過ぎるし、明かりがピンポイントなんだよな。で、それよりももっと条件に合って、月に見えるものがある」


「なに?」


 千翔くんは京介くんの問いに答えることなく、宙を見つめた。


「でもそれは他に条件が出てくるから、実際に見てみないと」


 もう終わりというように、また机に伏す。私たちは呆れてそんな千翔くんを見るが、彼に感心してしまうのも事実だった。


「明かりひとつでよくここまで考えるねぇ」


 たるとが私の気持ちを代弁してくれる。彼はじとっとたるとを見る。


「当たり前だ。光が何か分かったら、状況が一気に見えてくるからな」


「というのは⋯⋯?」


 恐る恐る尋ねると、たるとに向けたのと同じ目で見られた。


「お前ら前回から学習してないよな。少しは自分で考えろ」


 何も言えない。


「まあまあ。人がいたかもってことだよね」


 京介くんが千翔くんをなだめるように言う。


「ああ。さらに言えば、人が見てる前でキスするやつがいるか?」


「そっか、じゃあ生首とキスしてるわけじゃなかったんだ⋯⋯」


 幾分ほっとしたように肩を下ろすが、千翔くんは苦い顔をした。


「まだ人がいたかは分からないけどな。でもまあ、その生首ってのも十中八九見間違えだろ」


「そりゃあそうだよ」


 たるとがすかさず言う。たるとは昔から怖い話が苦手なのだ。


「もしかしたら、朔先輩を探すより、一緒にいた可能性のある人を探す方が早いかもな」


「心当たりあるの?」


「ない」


 梓馬くんの問いに千翔くんは即答する。しかし、私は心当たりと聞いて、1人気になる人が頭をよぎった。


「まあそれは明日の昼休み、生徒会室で考えてみようよ。千翔も実際に見たいんでしょ」


 梓馬くんが時計を見て言った。私も目を向けると、ちょうど予鈴がなり始めた。


「そうだね。京介くん、明日師匠連れてきてね」


「了解」


「だるー」


 相変わらずな2人に別れを告げて、私たちは急いで自分たちのクラスに向かった。

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