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運命の鎖  作者: 桔梗
浅葱色の新月
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Interlude 1

 誰もが胸を踊らせる高校生活のスタート、入学式の日は、桜が満開だった。まるで私たちを祝福するかの如く。新入生は緊張しながらも、校門で出迎えるその美しい花に目を奪われる。


 私もまた、そのうちの1人だった。


 私は知り合いに教えてもらった、桜が最も綺麗に見えるという場所に来ていた。そこには人がおらず、少し寂しい感じがした。しかし、それが逆に桜の美しさを際立たせている。


 一瞬で、その淡い色に見惚れていた。


 だから、自分以外に人がいたことには、すぐに気づかなかった。しかし、気づいた瞬間、思わず唾を飲み込んでいた。桜の花びらがゆらゆらと舞い散る中で、突然、真昼の月が現れたようだった。


 1人の男の子がたたずんでいた。


 その美しさが尊くて、見てはいけないもののような気がして、すぐに目を逸らす。


 桜が、私を見てとでも言うように、目の前を散っていく。


 目の奥に、一瞬だけ見た横顔が思い浮かんできて、私は再び視線を正面に向ける。もう一度、唾を飲み込む。

 

 神様がこれほどまでに美しい人間を造れるとは、思っていなかった。


「綺麗⋯⋯」


 気づいたら、言葉を発していた。


 桜のことを言ったのか、彼のことを言ったのか、それとも両方か⋯⋯自分でも分からない。


 しかし、すぐに後悔する。美しかった景色の中に、自分も割り込んでしまったことに気づいたのだ。


 綺麗な男の子はゆっくりと振り向き、黒目がちの瞳をこちらに向けた。彼との距離はそれほど近くなかったが、その薄く赤い唇が開かれる様子に、目を釘付けにさせられた。


「桜が美しいのは、花が咲き誇るのが一瞬だからだと思うか?」


 心地よく響く声が、思ったより冷たく真っ直ぐに飛んできた。はっとして目をしばたたくと、目の前の男の子が、自分と同じ、ただの新入生だと気づく。


「そういう考えも、あるかと」


 私は桜に惑わされただけなのか。


 高まっていた気がいくらか静まり、綺麗なものだけを映していた目が、先程よりもはっきりとする。


「俺が思うに、それは後付けの理由だな」


「そうなの?」


「何かが美しいことに理由はない」


「なるほど⋯⋯」


 頭はぼんやりとしたままで、曖昧な言葉しか出てこない。それでも、彼の唐突な言葉は、はっきりと私の胸に入り込んできた。


 神様に直接造られたような彼が美しいと思うものは、何なのだろうか。彼は言葉を発している間、ずっと私の方に目を向けていたはずなのに、私を見ていなかった。私を通して、何か別のものを見ているような気がした。


 彼が友達か誰かに呼ばれて去っていった後でも、私はそれが何なのか、気になって仕方がなかった。

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