8章 和解と懇願
――★前回までのあらすじ★――
浄は、岩になっていた勇者の解呪に成功した。
元魔王で、メーネ村の村長の娘ハルは、
勇者ゼルギウスに自分が宿敵"元魔王"である事を告白する。
―――――――――――――――
……
「なんと、そのような事が…」
俺の話を聞き、ゼルギウスは驚愕していた。
人間と魔族の戦乱は、勇者と魔王の共倒れで終結した事、そして、ハルがどのように生まれ変わり、人間として生きてきたかを伝えた。
「いくら敵対していたとはいえ、力を失い少女として生まれ変わるとは、哀れな…」
ゼルギウスは、哀しそう表情で、目を瞑った。
本心で、ハルの身の上を憐れんでるようだ。
どうやら、魔族と人間の争いの再燃は防げたらしい。
最悪の事態は回避した。
まずは一安心。
「魔王…いや、ハル殿。私も、力を失いし者。この世界で争う理由も無いようだな」
ハルも頷く。
「はい。勇者様。私は、これから、人間ハルとして生きていきます」
「うむ。私も一老人、ゼルとして、生きていくとしよう」
ここで、ゼルギウスがハルから俺に視線を変えた
「そこで、ジョー様にお願いしたい事が御座います」
神妙な顔つきだ。
「ジョー様…」
ゼルギウスは片膝を地に付け、頭を下げる。
『浄様。戦士が王に忠誠を誓う儀式です』
忠誠を誓う?俺に?
イリスの説明に驚いてしまう。さすがにそれは無いだろ。
だって勇者ですよ。この人
「私を、あなた様の配下にお加え下さい」
え?マジ?…何言ってるの?
「お、俺の配下ぁ?ちょ、ちょっと待って。ゼルギウスさん、あなた勇者でしょ?俺の配下になんて出来ないよ」
俺の言葉に、ゼルギウスは顔を横に振る。
「確かに私は、勇者と呼ばれておりました。しかし、今の私は魔力も力も失った身。ただの老人、ゼルギウスで御座います」
ハルと同じように、力を無くした勇者…か。
「石化から開放して頂いた以上、私の身はジョー様のお役に立てたいと思います。それが私に出来る唯一の恩返し故、老骨の我が身。受け取って戴きたい」
うーん。困ったなぁ。
「とりあえず、村に戻りましょう。ゼルギウスさんの服も必要だし」
「身寄りのない身故、ジョー様にどこまでも付いて行きます」
そうか…ゼルギウスは…独りだ。200年も経っているのだから無理もない。
唯一頼りにしてるのが、ポンコツの俺だもんな。
見捨てるなんて出来ない。
さて、と。村に帰るにしても、バイク…3人乗れるかな?
ハルは、ゼルギウスさんをバイクへと案内している。
ハルは3人で乗る気らしい。しょうがない。
「生憎、このバイクは一人乗りでね、無理して乗れば乗れない事もないが、かなり窮屈だけど、我慢してくれよ」
俺は忠告すると、バイクを発進させた。
ううううう。
狭い…
日本だったら、即警察に止められてるな。マネしちゃ駄目。絶対。
意外にも、バイクは好調に走る。
特に問題無く、村の入り口まで帰る事が出来た。
「私、先に行って、ゼルギウス様の服を用意してきます」
そう言ってハルは家へと走っていく。その後姿は一生懸命だ。
「ジョー様。ハル殿は優しい方ですな」
ゼルギウスは嬉しそうだ。
「あぁ。俺も、あの子の優しさに、随分と助けらた」
ハルの微笑みが頭に浮かぶ。
心安らぐ笑み。
村長の家に着く頃には、ハルがゼルギウスの服を用意して待っていた。
…
……
それから、俺とハルとゼルギウスで、いくつか約束を交わした。
まず第一に、ゼルギウスは勇者を名乗らない事。
力を無くした勇者でも、人々は勇者を、信仰の対象にしてしまう。
特にメーネ村では勇者信仰が強い。
力を無くしたゼルギウスが、人々に頼られれば苦しむ事になる。
なら、ただの一市民で居るのがいいだろう。俺を追いかけてきた従者"ゼル"として名乗らせる事にした。俺もこれからは、ゼルギウスをゼルと呼ぶ事にした。
第二に、ハルは魔王の生まれ変わりである事を公言しない。これは今まで通りだ。彼女は再び魔王になる事は無い。ハルはただの少女だ。
余計な面倒に巻き込まれない為にも、他言無用で問題するべきだ。
第三に、二人には、俺の正体を明かす事にした。
…
……
別の惑星から来た事。
体を改造され、"この星を観測する者"になった事。
全てを話した。
ゼルとハルは、驚きはしたが、妙に納得したようだ。
俺の未知の力が、この星のモノで無い事に、安心したようにもみえる。
頭の中に存在する相棒、イリスの事も伝えておいた。
頭の中に別の人格が存在する事は、この星では良く有る事らしい。
悪霊や、生霊が憑く事に似ているそうだ。
…うん。
思ってたより、二人は俺の事を理解してくれた。これは有り難い。
「ジョー様、これから、どうされるのですか?」
ゼルの言葉に、俺は即答出来ない。
とりあえず、バシリスクは殲滅し、村の危機は脱した。
ここに残る事も出来るが、俺はもっと、他の世界も見てみたい。
「…そうだな。旅に出るか…」
俺の言葉に、反射するように、ハルが応えた。
「ジョー様。邪魔になるのは判っていますが、私も旅に連れていって下さい」
ずっと決めていたような口調だ。
平和になった村の生活を捨てて、俺達に付いていこうとするなんて…余程の覚悟なのだろう。
「ハル、どうして旅に出たいんだ?」
納得できる理由を聞きたかった。
「私の…兄は、勇者様を崇拝していました。自分も、いつかこの世界を救いたい…兄の口癖でした。…そして、村を護って死にました…」
ハルの眼は、決意で輝いていた。
「私が、兄の意思を継ぎたい。何も出来ないかもしれない…だけど、ジョー様とゼル様の旅のお手伝いぐらいは出来ます。それに…魔王だった頃の記憶も役立つかもしれません。改めてお願いします。私を…お供に加えて下さい」
しかし、ハルはただの少女だ。
これから先、どんな危険があるか分からない。
そんな旅に連れていって、大丈夫なのだろうか?
ゼルの顔を見ると心配そうに、俺とハルを交互に見ていた。
『浄様…少しいいですか?』
イリスが進言してきた。
『ゼルは元勇者ですし、力を失っても、頼りになる事もあるでしょう。しかし、ハルは違います。ただの少女を連れて旅をするのは…正直、足手まといです』
だよなぁ。冷静なイリスならそう答えると思っていた。
『しかし…』
ん?しかし?
『しかし、浄様の実力であれば、少女の一人や二人連れて旅をしても、問題無いでしょう。塵や埃レベルです』
そうきたかー。
『さらに、魔族に精通する者が一人居るのは、心強いですし』
まぁ。そうだな。よし。決めた。
「分かった。ハルも一緒に旅に出よう」
…プルプルプル
ハルの肩が震えた。
ハルは泣いていた。
「ヒぐっ!エぐっ!ありがとうごじゃいまふ」
ゼルもどことなく、嬉しそうだ。
「流石、ジョー様。やはりハルを見捨てなかった。私の思った通りのお方だ」
こうして、俺達は、この村を旅立つ事に決めた。
…
……
物語世界
ハルとゼルを連れて、世直し旅に出ます。水戸黄門ですな。かっかっか。
現実世界
バイトの面接も終わり、健康保険や年金の変更に右往左往してました。
本当は退院後2-3週は安静なのですが、そうも言ってられないので、眼帯して動き回ってました。
毎日、悪夢ばかり見ていた時期です。数日後バイト先から採用の連絡が来ました。
とりあえず生きていけそうです。ほっ。