6章 勇者と魔王
――★前回までのあらすじ★――
再びメーネ村を襲うサンドバシリスクの群れ。
その中には、上位種のゴールデンバシリスク
が居たが、圧倒的な浄の攻撃により駆逐される。
再び街に平和が訪れた。
―――――――――――――――
バシリスクの解体が始まり、日が暮れる頃には、肉の焼けるいい匂いがし始めた。
そして、村人達の宴が再び始まった。
連日の宴か…それだけ村人は嬉しいのだろう。
村長によれば、バシリスクの主であるキングバシリスクを討伐したので、もうこの村が襲われる事は無いそうだ。
つまり、この村はバシリスクの脅威から解放されたのだ。そりゃあ、騒ぎになるよな。
そのせいか、村人達の喜びようは凄まじい。
「勇者様、ありがとうございます」
「いや、俺は勇者じゃないんで」
「ははは。またまたー」
勇者じゃないと否定しても、笑って流されてしまう。
…
……
宴も最高潮に盛り上がり始めた頃、俺は見張り台に逃げ出した。
すっかり見張り台が避難場所になってしまったな。
「ふー。参ったな。すっかり勇者にされちゃったよ」
思わず愚痴が溢れた。
「ジョー様…本当に勇者じゃないんですか?」
背後から、ハルが声を掛けてきた。
手には、赤いストールが握られている。
この前と同じように、俺を気遣ってくれたのだろう。
表情は、真剣だ。教会で俺のステータスを見てから、ハルは何か悩んでるようにも見える。
ヒュゥゥ。
風が吹き抜けた。
「あぁ。俺は旅人のジョーだ。勇者じゃない」
「ジョー様。もし本当に勇者様じゃないのなら、私に着いてきて下さい。見て頂きたい物があります」
そう言って、ハルは見張り台を降りて行った。俺も後に続く。
…
……
何だろう。何かを決心したかのように見える。
ハルは、馬を出そうとしたので制止する。
「夜に馬に乗るなんて危険だ。止めた方がいい」
それでも、ハルは馬を出そうとする。
どうしても村の外に行きたいようだ。
「分かったよ。じゃあ、俺が乗せてやる」
イリス、頼む。
『畏まりました。転送します』
ヴォン!!
バイクを出す。
コレならライトもある。少しは安全だろう。
「後ろ乗って。行きたい方向を指示して」
「分かりました」
『タンデムライダー、起動』
そうして、夜の砂漠を走り出した。
冷たい夜風が顔に当たる。
ビュオオオオー!!
「で、俺に見せたい物って何?」
「もうすぐ、お見せします」
…
……
ハルの指示に従い、20分程走った頃、小高い岩山に辿り着いた。
岩山の側面には人が通れるぐらいの穴が開いている。
「さ。コチラです」
ハルに案内され岩窟へ入った。
「ライト」
生活魔法で岩窟内が照らし出された。
壁面には無数の文字。読めない…
『浄様。本来、インストールした翻訳機能で読み書きは出来る筈ですが…これは…かなり特殊な言語と思われます。今すぐ解析します…』
イリスが困惑する位だ、相当特殊な言語なのだろう。
特殊な言語?
『…分かりました。この言語は魔族語のようです』
魔族語…ね。
『解析、起動。魔族語。翻訳開始します』
何なに。
おぉ。読めるぞ。
…
……
壁書かれていたのは、勇者と魔族の闘いの記録だった。
魔族は、人間達の支配に反抗し、戦い、そして勇者と魔王の一騎討ちで、闘いの幕を閉じたらしい。
勇者は岩となり、生き残った魔王も、この岩窟で力尽きたようだ。
「ここが、魔王最後の地か?」
「ジョー様!何で分かったのですか!?もしかして…魔族語が読めるんですか?」
ハルが驚く。
「あぁ。少しは…な」
まさか、ハルも魔族語が読めるのか?
『それは有り得ません。魔族語は暗号化魔法で、本来は魔族以外、読めない仕組みになっています。人間が読むには、魔族語のコーデックをインストールしないと読めない筈です』
どういう事だ?俺は読めるが?
『浄様は今、魔族語をインストールしたので問題ありません』
岩窟の突き当たりの壁に、ハルは手を置いた。
そして高速呪文詠唱。
ハルの口から、キーンとした音が響く。人間の声とは思えない。
『浄様。この言語も魔族語です。しかも、かなり高度な』
魔族語は、魔族しか使えない筈。ハル。お前一体、何者なんだ?
ヴォン!!
詠唱が終わると、突き当たりの岩壁は無くなっていた。
奥にはホール状の部屋があった。
高さ10メートル程だろう。巨大な空洞だ。
そして…
そして…中央には岩となった戦士が立っていた。
岩になった戦士…
伝説で伝えられてる"岩になった勇者"か?
「この人が…勇者なのか?」
俺の言葉にハルが頷く。
『浄様。この人物は岩の状態に強制変換されてるようです。復元可能か調べてみます』
あぁ。イリス、頼む。
『畏まりました』
それにしても、伝説は本当だったのか。
「ハル。お前は一体…何者だ?」
「浄様。正直に言います………私は…魔王の生まれ変わりです」
へ?生まれ…変わりって…魔王の?
えぇぇぇぇぇぇぇ!!
「魔王って、勇者を岩にした魔王?」
ハルはコクリと頷く。
「じゃあ、なんで魔王が人間に生まれ変わってるの?」
「私にも分かりません。私自身、去年…16歳までは魔王の記憶はありませんでした」
つまり16歳までは、村長の娘として普通に育っていた訳か。
「去年兄が、バシリスクに殺された時、モンスターや魔族に対して、憎しみと怒りが爆発しました」
悲しそうな表情で、ハルは話を続けた。
「化け物全て、滅べばいい。そう考えるようになった時、私はこの場所を見つけました。多分、導かれたんだと思います」
『浄様。ハルの声質に変化ありません。嘘はついてないようです』
イリスは話の真偽を測定したようだ。本当の話らしい。
「壁の文字を見た瞬間、彼らに対する憎しみが消え、魔王だった記憶が甦ったのです」
魔王の生まれ変わりの少女…か…
さて、どうする?
ハルの話をもっと聴くべきだな。
「で、ハルはどうしたい?魔王として再び人類と闘うのか?」
ハルはブンブンと顔を振った。
「私は村長の娘、人間のハルです。魔王じゃない。もう、魔族も人間も争う必要は無いと思ってます」
『浄様。補足説明致します。モンスター災害や、凶悪な魔族による犯罪を除き、ここ200年、この星では人間と魔族の戦乱は発生しておりません』
イリスの的確な説明。
魔王と勇者が消え、戦乱が治まったのか。皮肉なものだな。
「そう言えばハル?」
「何でしょう?」
「魔王の生まれ変わりなら、バシリスク倒せたんじゃないのか?魔法とかでさ、ドカーンって」
「残念ながら、私の魔力は、勇者様の石化と、自身の転生に殆んど使い果たしてしまいました。今の私は、魔王の器を持っていても、中味は空っぽだから…何も出来ない普通の村人です」
ハルは勇者を"勇者様"と呼んでいた。魔王としてじゃなく、人間として、勇者を尊敬しているのだろう。
『浄様。勇者の復元は可能です。どういたしますか?』
へぇ。戻せるんだ?勇者。
復元した途端、ハルと戦うとかは…ないな。
ハルは既に、無力な村人だ。そもそも元魔王とバレなきゃいいし。
「ハル。勇者を復元してもいいか?」
「勇者様を戻せるって…そんな事…出来る訳ない…いえ…そうね…ジョー様なら出来るかもしれません」
ハルは決心した表情になる。
「はい。この時代、もう魔族との戦乱は起こらないでしょう。なら、彼が永久に呪われ続ける必要はありません。ぜひ勇者様を元に戻して下さい」
優しいな。ハルは。
魔王の記憶があるなら、多少なれど、恨みや憎しみもあるだろう。
しかし、全て水に流して、勇者に手を差しのべていた。
『浄様の魔力を、勇者に還元します。恐ろしい程の、莫大な魔力が必要ですが、浄様なら塵や埃程度の量です』
またそれか。
『魔力増減と、変換固定の作業は、私が行いますので、浄様は、集中して魔力放出を行って下さい』
あぁ。分かった。
「ハル。下がってろ」
俺は魔力放出を始めた。
『マジックパワーフルスロットル、起動』
大量の魔力が、石化した勇者に吸い込まれていく。
莫大な魔力が吸い上げられていく。
同時に勇者の岩が光りだす。
岩から人へ、激しい光と共に変化していった。
くっ‼結構キツイぞ。頭が痛ぇっ‼
「戻って来い。勇者ぁぁ‼‼」
…
……
いよいよ『勇者』と『魔王』の登場です。
とは言っても、普通の勇者や魔王にする気はさらさら無かったです。
なので、こんな形になりました。
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ぜひぜひ宜しくおねがいします。
この時期は、退院直前のベッドで書いていました。
ハルが魔王とバラすタイミングは別に考えていたのですが、キャラが動いて勝手に告白してしまい、思わずベッドで、「なんで今言うのかなぁ」って呟きましたね。
自分の場合、キャラが勝手に動いてしまう事が、結構あったりします。