5章 急襲!サンドバシリスク
――★前回までのあらすじ★――
砂漠から、メーネ村に到着した浄は、
サンドバシリスクの群れを撃退した事により、
村人たちの熱烈な歓迎を受けた。
―――――――――――――――
ふぁー。よく寝た。
『おはようございます。浄様』
あぁ。イリス。お早う。
ベッドから、もぞもぞと起き上がる。洗濯を済ませた、俺の服が畳んで部屋の入口に置いてあった。ハルが洗ってくれたのか?
…コンコン…
手早く着替えていると、ノックの音がした。
「ジョー様。朝食の支度が出来ました」
ハルだ。
「ありがとう。今行くよ」
…
……
顔を洗い、村長達と朝食を済ませる。
教会は、村の一番奥にあるらしい。食後の散歩がてら、案内してもらう。
「ジョー様の服って、変わってますね。凄く伸びるし、色も綺麗。異国の服ですか?」
ハルが、俺の服を洗ってくれたらしい。
「あぁ。俺の住んでた国の服だ。動きやすくて気に入ってる。血塗れになった時は落ちるか心配したんだが、ハルが綺麗にしてくれて助かったよ」
「いえ。そんな。大した事じゃありませんから。その服、ジョー様にとても似合ってます」
ハルは顔を赤らめた。こっちまで照れそうだ。
「着きました。ここが教会です」
「へぇ。結構大きくて、立派な建物じゃないか」
うん、かなり見栄えがいいぞ。観光地に出来るレベルじゃないのか?
「辺境の村ですが、勇者様が復活する地と言われてますから、それなりの教会を作ったみたいです」
なるほどね。ここでも勇者様か。
「さぁ。魔法契約はコチラです。神父さんが待ってます」
ハルに手を引かれ、教会に入る。
うわぁぁ。
壁には巨大なステンドグラス。図案は魔王と勇者の戦いか?
ってか、信仰の対象そのものが勇者なのか?
教会内の神像は、全て勇者を象っていた。
『浄様。この教会が異質なのです。この世界にも信仰心や神がおります。ただ、この教会だけは勇者を神として信仰してるようです』
まるで、勇者に依存してるみたいだ。
白髪の神父が、俺に近付いてきた。
「ジョー様。よくお越し下さいました。勇者様の教会へようこそ」
神父は、俺の両手を握る。そして、にこやかに微笑んだ。地球の牧場で見た、受付の男性と同じ笑みだ。
「歓迎ありがとうございます」
「本日はどのような御用向きで?」
「あの…魔力契約をお願いしたいのですが…実は、契約は初めてでして…」
「契約が初めて?なんと!魔法を使わず、あれだけのバシリスクを倒したのですか?」
「えぇ。まぁ」
「そうですか…村人達が言っていた話は、本当かもしれませんね」
『浄様。神父は浄様を勇者と勘違いしそうです。否定した方がいいかと』
分かった。
「俺はただの旅人ですよ。勘違いしないで下さい」
神父はさらにニコリと笑う。
「分かりました。そういう事にしておきましょう」
あ。勘違いしたままだな。これは。
ハルは、そのやり取りを楽しそうに見ている。
神父は大きな鏡の前に立つと、コチラに振り返った。
「まずは、ジョー様のステータスを確認して、それから契約となります」
ステータス確認だと?
やばい!
一億越えのステータス出したら大騒ぎじゃ済まないぞ。
『浄様、ステータス偽装しますか?』
あぁ。頼む。うまくやってくれ。
『フェイクデータ、起動』
「さぁ、鏡の前に立って下さい」
俺は鏡の前に立った。
「なんと素晴らしい。このステータス。まさしく勇者様そのもの!」
神父が興奮している。
どれどれ。イリスさんは、ちゃんと、偽装してくれたかな?
…
えーと。レベル99の攻撃力、5000…と。
……
………どうすんだよ…これ…
確かヒルデが、この世界最強の戦士が攻撃力5000程度、と言ってたから…これじゃまるで、俺…最強の勇者じゃん。
おいぃぃ。イリスさんよぉ。やってくれたなぁ。
『浄様より強い戦士が、この星に居るという設定が許せなくて…』
何言ってるの。この子。もしかして、痛い子なの?
みんな勘違いするぞ。こりゃあ。
神父に至っては、顔を真っ赤に紅潮させ、手はブルブルと震えていた。彼にとって、信仰の対象者である勇者が、目の前に居ると勘違いしてるのだ。
ハルは、俺をジッと見つめている。
浮かれる神父をなだめ、簡単な生活魔法と、攻撃魔法、ファイヤ系と、アイス系。それと水不足を補うウォーター系を取得した。これで移動が楽になる。
神父の興奮は治まらず、教会を去る時には俺の靴に、"ベーゼを…"とか言い出しキスしようとする始末だ。
神父の浮かれようとは逆に、ハルは真面目な顔で俺を見て、何か考えているようだ。なんだろう…違和感を感じる。
後でハルと話した方がいいな。
教会を出ると、鐘の音が鳴り始めた。
カンカンカン!カンカンカン!
何の鐘だ?
ハルの顔色が変わる。
「警告の鐘!ジョー様、何か起こったみたいです」
ハルは走り出した。
俺もハルの後へ続く。
『浄様、失礼します。村にモンスターが接近中です。恐らくサンドバシリスクです。数は8匹。間もなく村の入口に到達します』
イリスのセンサーがバシリスクを捉えたようだ。
またしてもバシリスクか。
6匹まで減らした筈なのに、増えてやがる。
仲間を連れて来やがったか。
「ハルは村長達と隠れろ」
そう言って俺は、村の入口へ走り出した。
…
……
村の入口は、騒然としていた。
「サンドバシリスクです。コチラに向かってます」
「ジョー様が減らしたのに、現れるなんて」
「女子供は、すぐ避難だ!」
周りは大騒ぎだ。
「大丈夫。みんな落ち着いて」
俺の言葉に、村人たちは少しだけ落ち着いた。
「あ。ジョー様だ」
「ジョー様が来てくれたぞ」
絶望的だった雰囲気が、希望に変わる。
あぁ。そうか。
今、俺の存在は、彼らの希望になっている。
彼らを絶望させてはいけない。
いや、俺が絶望させたくないんだ。
失業し絶望したまま、バイクで旅に出た自分を思い出す。
「皆。下がっていろ」
前の闘いとは違う闘志が、ふつふつと沸き上がる。
「おぉぉ。ジョー様が戦って下さるぞ!」
「あの方はやっぱり…勇…」
「みんな下がれ!」
本当にギリギリを生きてきた人達なんだ。
この村は俺が護る。
俺は構えた。
そう。護るんだッ!!
『カンフーマスター、起動』
『浄様。魔法は使わないのですか?』
さっき覚えた低級魔法じゃ、バシリスクは倒せないだろ?それなら、この前の続きだ。
さぁて‼ボコボコにしてやんよ‼
両拳をガチンと当てる。
バシリスクへ向かい、全力で走る。
『スプリンター、起動』
グンっ!!!
凄まじい急加速。
知らないソフトが起動していく。
一瞬で、バシリスクとの距離を詰めた。
目の前はバシリスクの額。
強化された俺の拳が、バシリスクの額にめり込む。
スバン!!!メリメリっ!!
ズバシュゥゥ!
血飛沫と脳漿が飛び散る。
「1つ」
力強い拳と腕が、バシリスクの頭を四散させた。
特徴的な剛拳と漲る力…
これは…龍拳か?
バシリスクは、単体の攻撃が通じない事を悟ったのか、三匹で俺を取り囲んだ。
ふむ。知能は高いようだ。
バシリスクの口が開き、火炎が溜まる。三匹同時の火球攻撃だ。
『ボクサー、起動』
バンっ!バンバンッ!!!
グルリとした回転と高速フットワークで、3つの火球を中心に捕らえ、連続で弾き返す。
さらに追撃。立ち上がったバシリスクのボディーに、文字通り突き刺さるリバーブローを放つ。
ドンっ、スブブっ!!
ボンっ!!
衝撃は内部で炸裂し、バシリスクの腹部が爆裂。
内臓を撒き散らしながら、バシリスクはくの字に屈む。
目の前には下がった頭部。
よしっ!!届く!!!
下からアッパーで粉砕する。
ボンっ!!
バシリスクの顎から頭頂部にかけて爆裂した。
「2つ」
俺を取り囲んだ残り二匹は、あまりの高速な入れ替わりに、全く付いてこれない。
『柔道マスター、起動』
二匹の足下を蹴りあげる。
バランスを崩したバシリスクは、同時に倒れ込む。
二匹同時の空気投げ。
ズシン!!ドドド!!
15メートル級のバシリスクが、人間に投げ飛ばされた。
投げ終わりに拳を握り込む。
ギュムっ。
『空手マスター起動』
仰向けに転がった、バシリスクの心臓を目掛けて…真下への振り下ろし!!
瓦割りっ!!
スボンっ!
ブシュュュュュッ!!!
二匹のバシリスクの心臓が破裂した。
「3つ、4つ」
これで4匹。
グォンっ!シャーっ!!
一際大きいバシリスクが、威嚇音を鳴らしつつ立ち上がった。
あれ?
コイツ、普通と違うぞ。全身が金色だ。
『浄様。上位種の"キングバシリスク"です。恐らく群れを纏める主かと思われます』
王様ね。強いのか?
『いえ。浄様と比べたら、塵か、埃レベルです』
前にもそんな事言ってたな。
俺は近くに転がっていた、ボール大の岩を拾う。
『メジャーリーガー、起動』
いやいやいやw
メジャーリーガーは格闘技じゃないだろ。ヒルデめ。
思い切り振りかぶり、キングバシリスクの心臓を狙い…
放った!
ポンッ!
間抜けな音とは裏腹に、キングバシリスクの胸に、凶悪な大穴が開いていた。
「5つ」
ウォォォォォォォォォォ!!!!
村から歓声が上がる。
これは…勝鬨だ。
残りのバシリスクは、逃走し始めた。
駄目だ!
逃がしたら、また来るかもしれない。
逃がすかよ!
しかし、結構な距離がある。岩を投げるか?
『浄様。ここは魔法を試しましょう』
魔法ったって、俺が使えるのは低級魔法だぞ。
『いいアイディアがあります。私の言う通り、頭でイメージして下さい』
分かった。
イリスを信じよう。
『使う魔法は、ウォーターです。なるべく高圧で細く広がらないよう糸のように放出して下さい。水分内に砂を混ぜると、いいかもしれません』
細く。高圧で。糸のように…っと。砂も混ぜてっと…
「ウォーター」
シャァァァァァー!!
『ウォーターカッター、起動』
ウォーターカッター?
金属すら切り裂く工作機械を思い出す。
あぁ。そんなイメージか。しかし距離があるだろ?
周囲の埃や砂を混ぜ合わせ、高圧な糸のような水流。
手に掛かる反動が強い。段々と威力が高まっていくのが分かる。離れた場所でも水圧が落ちないよう想像する…むしろ距離が伸びると加速していくようなイメージで…
よし‼今だ。
離れていくバシリスク達を指差し、横に凪ぐ。
指先から、細く強く射出された水が、刃となり近くの岩場ごとバシリスクをまとめて切り裂いた。
「6つ」
周りから見たら、逃げるバシリスクが突然止まったように見えるだろう。
「7つ!」
ズルっ!
バシリスク達の上半身だけが、ズルリとズレた。
周辺の岩を巻き込み、バシリスクが倒れていく。
ドシン!! ズズンっ!!
真っ平らになる大地。
「8つ!!」
『浄様。8匹全て討伐完了です』
村人が静まり返った。
…
……
静寂。
圧倒的な強さに、驚愕してるのだ。
そして誰かが叫んだ。
「勇者様だ!」
同時に火がついたように、村人達が歓声を上げる。
「勇者様が復活したぞ!」
いや。俺は勇者じゃねーし。
さらにに爆発するような歓声が挙がった。
ウォォォォォォォ!!オォォォォォ!!
沢山の歓声で、もはや地鳴りのようにしか聞こえない。
『浄様。お疲れ様でした』
イリスは、俺の活躍が嬉しいようだ。
さて、どうやって勇者と勘違いされた誤解を解くかねぇ。
『いいじゃないですか。浄様が勇者で』
えぇー。いいのかよ。
『浄様、皆が見ています。拳を上げて下さい』
こうか?
言われた通り、拳を上げると歓声はさらに大きくなった。
…
……
はい。再びの戦闘シーンです。
バシリスクってトカゲとか鳥とか色々ありますが、この作品では巨大な火を噴くトカゲの設定です。
今回の戦闘で、浄君の頭にインストールされた様々な格闘技やスポーツが起動しました。
これらの格闘技やスポーツはヒルデの知識や、映画やアニメから、生成された能力ですので、実際の格闘技やスポーツとは違う場合があります。(当たり前ですがw)
評価・感想・ブックマーク大歓迎・大感謝です。
「おっ、ちょっと面白そうやんけ、ちょっと応援してやらぁ」という方、ぜひぜひお願いします♪
---製作時のお話---
この時は、まだ眼の手術が終わりましたが、入院中で7日で退院出来る予定が、10日に伸びてガックリしていた時期です。
又、勤めていた会社の保険が退院まで使えるのか分からなくて、電話で問い合わせたり、給料が振り込まれず真っ青になったりしていました(結局出ず)。
絶望と恐怖の中スマホで書いていた記憶があります。
会社や知り合いに裏切られと思い、全てに不信感一杯で、誰も信じられない、誰も頼れない。と考え、心が壊れかかった状態で製作していました。
健康・安定ってホント大事ですねぇ。しみじみ思いました。
いや、今も仕事見つかってないんですけどね。あうあうあー。