4章 メーネ村の少女
――★前回までのあらすじ★――
惑星マリアに降り立った浄。
脳内AIイリスと共に、サンドバシリスク
の群れを撃退した。
―――――――――――――――
メーネ村に向かう道中…
なー。イリス。俺、思ったんだけどさー。
『はい。何でしょう』
俺って、いわゆる改造人間なんだろ?
『はい。そうです』
で、バイク乗ってモンスターと戦ったりしてるじゃん?
『はい』
それって、何とかライダーっぽくない?
ついに、思っていた事を口に出してしまった。
『その作品、ヒルデ様の映像コレクションにありましたね。』
あー。やっぱりなぁ。
ヒルデの奴、俺の活躍を楽しむつもりだ。
俺がカンフー使った時、きっとニヤニヤしながら鑑賞してたに違いない。
そんな会話をする内に、メーネ村が見えてきた。
中世ヨーロッパ風の小さい村だな。異世界モノでよく見る風景だ。
村の入り口は簡素だが、外部の人間をチェックする門番が立っている。
「!!…おいっ、誰か来てくれっ!!」
門番らしき村人が、俺を見るなりギョッ!っとした表情を浮かべ、仲間を呼んだ。
慌てて出てきた男達が3人、俺を囲む。
不穏な空気だ。|言葉は通じるだろうな?《・・・・・・・・・・・》
『大丈夫です。この星の言語は全てインストール済みです』
イリスの言葉を聞き、安心する。
「おぃっ!止まれ」
髭の生えた屈強そうな男だ。手には鉄の槍を持っている。
恐らく村の入り口を守る、門番といった所か。
「な、何でしょうか?」
こんな時は大人しくするのが正解だ。
「全身血塗れで、変な乗り物に乗って、見るからに怪しいな」
ごもっとも。ここは正直に。
「実は、サンドバシリスクに襲われまして」
男達の表情が険しくなる。
「何っ?何処でだ!」
「ここから、20キロ程東で遭遇しました」
あ。やべ。地球の距離単位"㎞"は通じないか?
『浄様。ご安心下さい。単位も適切に翻訳されて伝わります』
イリスの言葉に安心する。
廻りの男達が騒ぎだす。
「奴らの巣と村の中間地点だ、今年も来るのか?」
「避難所の修理は終わってないぞ」
「どうする?逃げるか?」
戦々恐々といった感じか。
髭の男が、俺に話し掛ける。
「アンタ、よく知らせてくれた。この村を狙っているバシリスクに襲われて、よく逃げ延びたなぁ」
さっきの顔付きと違う。温和な表情だ。
「まぁ、運が悪かったな。怪我はどうだ?相当出血してるようだが」
血塗れを怪我の出血と勘違いしたか。
「あぁ。心配ない。これはバシリスクの返り血だ」
「はぁ?返り血ぃ?」
男がポカンと口を開ける。
説明が必要のようだな。
「旅の途中で、12匹のバシリスクに襲われたんだが…」
またしても男達がざわつく。
「12匹だと?」
「多すぎる」
俺は無視して、簡潔に話を続ける。
「危険なので撃退しておいた。まぁ、半分は逃げられたが」
……
周囲が静まり返る。
「バカなっ!バシリスクだぞ。一人で撃退するなんて信じられるか。普通はバシリスク専門のハンターをギルドに数十人要請して、やっと一匹狩れるかどうかだ。嘘に決まってる」
髭男がまくしたてる。
あー。信じられないのか。しょーがねぇな。
イリス。バシリスクの死体、ココに出して。
『畏まりました』
ヴォン!!!
ドスン!!ドサドサっ‼
突然現れるバジリスクの死体。
…
再び村人が静まり返る。
「…ひっ!!」
山積みになったバシリスクの死体を見て、男達は固まっていた。何人かは腰を抜かしている。
「そんな訳で、全身血塗れでね。気持ち悪いんだ。体を洗わせてくれないか?」
俺の言葉に、髭の男がブンブンと頭を縦に振る。まさしく声が出ないといった感じだ。
大勢に囲まれたまま、 俺は村で一番大きい平屋に案内された。
話によると、ここは村長の家らしい。
確かにこの村では一番大きな建物だが、村長の家って割りには、質素な建物だ。
少し高台にある為、村全体が見渡せる。うん。やはりあまり大きな村では無いらしい。あの背の高い建築物は…教会か。
こちらへどうぞ。
俺はまず先に、脱衣場に案内された。
体に染み付いた血液が異臭を放っているからな。
…
……
ジャー。ゴシゴシ。ジャー…
…
……
ふぅ。さっぱりした。
温かいシャワーは無いが、木桶で水を汲み、洗い流す事は出来た。念願の水もたらふく飲めたし。ひと安心だ。
しかし、村長の家でこのレベルの風呂か。残念だな。
それでも、臭いバシリスクの血を洗い流すと、生き返った気がする。
「すみません」
脱衣所から女性の声がした。
「着替え置いときます。兄の服なので大きいかもしれませんが」
「ありがとうございます」
体を流し終え着替える。
目が粗い布地だが、着心地は悪くない。かなり大きくブカブカだ。
いかにも村人って感じの質素な服だな。
俺が着てきた服は洗濯してくれたか?見当たらない。
そんな事を考えながら浴室を出ると、村長と村の男数名が待っていた。
「旅のお方。この度はバシリスク討伐ありがとうございました」
村長の言葉に続き、男達が頭を下げる。
「いえ、討伐なんて…旅の途中襲われただけですから。そんな…頭を上げて下さい」
男達は頭を下げたままだ。
よく見ると、肩が震えている。ん?泣いてるのか?
「この村は、バシリスクとの戦いで疲弊しきっておりました。特にここ数年は、奴等は毎年の現れ、多くの村人が奴らの餌に…」
村長の目にも涙が浮かんでいる。
「儂の息子も、バシリスクと戦い、死んでしまいました」
村長の肩を、少女が擦る。
少女も泣いていた。
風呂に着替えを持ってきた少女か。
「娘のハルと言います。息子を失ってからは、男手の代わりに働いております」
兄の服って言ってたが。
…そうか遺品か…。
平和な日本で、兄を"喰われた"経験がある人は、ほぼ居ない。
それを、こんな少女が…どんな思いで生きてきたのだろう。
他の村人もそうだ。多くの人が身内や友人を"喰われて"きたのだ。
「そんな中、あなた様が現れ6匹ものバシリスクを倒して頂いた。儂らにとって、あなた様は英雄です」
英雄とまで言われると、恥ずかしくなってくる。
「いえ。そんな大袈裟な」
村長は、小さな布袋を取り出した。
「大袈裟ではありません。間違いなく、我々にとって英雄です。さっ、ご遠慮なく"これ"を受け取って下さい」
袋からは金属音。金銭だな。
「なにぶん、貧しい村ですので、この程度のお礼しか出来ませんが…」
この世界の金銭は、とても欲しいが、この村の状況を知って、受け取れる訳がない。
「いえ、結構です。あと迷惑でなければ、先程出したバシリスクも差し上げます」
村長が驚愕の表情を浮かべ、顔を上げる。
「なんと…言いましたか?」
「良かったら、バシリスクの死体を差し上げます」
村長の目がカっと開かれる。
「バシリスクの体は高額な素材ですぞ。しかも、あなた様は巨大な魔法袋持ちでいらっしゃる。私共に与えなくとも…買い取りに持っていけば…」
俺は言葉を遮る。
「ぜひ。村の復興に使って下さい」
「うっ、うぅぅぅぅ…なんという…方だ…」
村長は泣きながら、その場にひれ伏した。
どよどよとした村人たちの反応が、歓喜へと変化していく。
「おぉー」
「おぉぉー!」
「おぉぉぉぉぉー!!」
歓声が上がる。
「自己紹介が遅れました。私は旅の者で、橋越 浄と言います。浄と呼んで下さい」
「ハシゴエ・ジョー様、なんとっ。家名持ちでしたか」
「どこかの貴族様かもしれないぞ」
「いや、高名な武家の出かもしれん」
またしても村人たちが騒ぎ出す。
あー。苗字持ちは珍しいんだな。
「家名持ちとか気にしないで下さい。俺の生まれ育った地では、平民も家名持ちなんで」
俺の言葉に、皆がホッとしたようだ。
階級社会なのだろう。俺が貴族だと面倒があるのかもしれないな。
「そうでしたか…余程遠い"お国"なのでしょうなぁ」
村長は安堵の笑みを浮かべている。
俺は、大歓迎を受け、数日間村に世話になる事になった。
…
……
その夜。
村長は、解体したバシリスクの肉(不用部)を使い、盛大なバーベキューを開催してくれた。
目の前には、肉汁たっぷりのバシリスク肉がッ。って…
これ、うまいのか?
村人がチラチラとコチラを見てる。注目の的だな。食べ方がいいだろう。
デカイとは言え、トカゲなんて喰った事ないぞ。えーい。儘よ。
思いきって噛じる。
ジュワワー。
え、何これ?
肉汁が口内に拡がる。香草と塩で味付けしてあり、素朴な味だが美味い。素材が良いのだろう。
「う、うまっ!」
思わず言葉に出てしまう。
歓声をあげる村人達。
女達はハイタッチをしている。
「村の女共が英雄に食べさせるって、腕によりを掛けたんだ。そりゃあ旨いさ。ガハハ」
門番をしていた髭の男が、豪快に笑った。
粗野だが不思議と優しさを感じる笑顔だ。
あぁ。この笑顔…あの時の笑顔と一緒だ。
UFOを見に行った時に世話になった、コテージの管理人。
作り笑いとは違う、満たされた笑顔だ。
祝杯が、あちこちで上がり始めた。
「英雄ジョー様に乾杯」
「救世主ジョー様、万歳」
やっぱり照れ臭いな。
俺は、火照った体を冷やす為、眺めのよい見張り台へ登る。
ヒュゥゥ。
冷えた風が心地いい。
昼間はあんなに暑いのに、夜は結構冷えるな。砂漠の気候のせいか。
『浄様、みなさん喜んでいましたね』
村人達と話す間、大人しくしていたイリスが話し掛けてきた。
あぁ。だけど、バシリスクは全滅した訳じゃない。いつか又、この村を襲うかもしれない。
なのに、この村の喜びようは何だ?あの笑顔は?不安にならないのか?
俺なら怖くて寝れなくなるね。
『本当にギリギリを生きているんですよ。だから少しでも不安が無くなれば、あんなに喜べるんです』
ギリギリを生きる…か。
地球では、俺もギリギリを生きていたつもりだったが、ココの人達はレベルが違う。文字通り命懸けなんだな。
「ジョー様。こんな所に居ると、風邪を引きますよ」
後ろを振り替えると、村長の娘ハルが、真っ赤なストールを持っていた。
「これ、肩に掛けて下さい。冷えますから」
柔らかい毛糸のストールを俺の肩に掛ける。
「あぁ。すまない。ありがとう」
返事の代わりにハルは微笑んだ。
「村の皆は大騒ぎですよ。伝説の勇者が復活したって」
救世主やら英雄と祀り上げられて、次は勇者か。凄い呼ばれ方してるな。俺。
『浄様なら当然です』
イリスが茶々を入れた。
そんな事を知らずにハルは話始めた。
「この村の伝説なんです。勇者ゼルギウス。…200年前に魔王を滅ぼした勇者」
「魔王を倒した勇者か。この村とどんな関係が?」
「勇者ゼルギウスは、魔王を滅ぼす際に、魔王の呪いを受けました。岩にされ、この"死の砂漠"のどこかに眠っているそうです」
ハルは続けた。
「いつか、世界の終わりが近付いた時、勇者は再びこの地に現れる。それが、この村に伝わる伝承です」
「岩にされた勇者かぁ。見てみたいな」
「残念ながら、私達はどこに勇者様が居るか知りません。あくまでも伝承、伝説の類いですので」
信憑性もない、ただの伝説って事か。
「でも、村の人達の一部は、ジョー様が復活した勇者様じゃないかって、言ってる人も居るんです」
ハルが真っ直ぐ、俺の目を見る。ブルーの綺麗な眼だ。長い髪がサラサラと揺れ、大きな胸に掛かっていた。
ドキドキ。
『浄様、血圧が上がりすぎです。緊張しないで下さい』
イリス、こんな時に、茶化すなよ。
「本当にジョー様は、勇者ゼルギウス様ではないんですか?」
冗談言える雰囲気じゃないな。真剣に答えよう。
「残念だが違うよ。俺はずーっと遠い国からやって来た、単なる旅人さ」
「旅人…そうですか…」
何故だろうハルは残念そうと言うより、ホッとしたように見えた。
「そうだ。ジョー様。明日、村を案内します。どこか行きたい場所はありますか?」
「そうだなぁ」
『浄様。教会へ行く事を進言致します』
教会…村長の家の近くで見えた建物か。
イリスの言葉を思い出す。
そうだ、魔法だ。
「ハルさん。じゃあお願いしていいかな?」
「"さん付け"は止めてください。ハルでいいですよ」
「俺の事をジョー様って呼ぶ癖に。じゃあ、俺の事ジョーって呼んでよ」
「ジョー様を呼び捨てなんて出来ません。周りに怒られちゃいます」
立場というものがあるのだろう。
「分かったよ。じゃあ、ハル」
「ふふふ。はい。ジョー様。何でしょうか?」
何故かハルは嬉しそうだ。
「教会はあるかな。魔法の契約をしたいんだが」
「えっ?ジョー様は、魔法契約してないのですか?」
魔法の契約をしていないのは、かなり珍しいらしい。
「あぁ。まだ魔法は使えない」
「おかしいですね。だってストレージの魔法だって使ってたじゃないですか」
「あれは、魔法じゃない。科学だ」
「科学?」
科学の意味は通じないか。
「魔法の代わりになるモノだよ」
「ジョー様の居た国って、変わってるんですね」
「あぁ。本当に変わった国だったよ」
これは本心だ。必死に生きるこの世界の人々と、俺の居た世界の人々。かなり違ってる気がする。
「分かりました。明日、村の教会にご案内します。でも…」
「でも?」
「建物は立派ですが、こんな辺境ですから、低級魔法の契約しか出来ないのです。それでも良ければ…」
「構わないさ。ぜひ、お願いするよ」
暫くして、宴はお開きになった。
酔っ払った村人達の、熱烈なハグの嵐から解放された俺は、村長の家に宿泊させて貰った。
…
……
色々ありましたが、ようやく村に到着です。
私事で恐縮ですが、この時自分は片目が病気で失明寸前(原因不明のぶどう膜炎)で、職も失って(会社倒産)精神的にギリギリの生活でした。そんな状態で書く物語は、村人達がギリギリで生きてる世界で、生きる意味を深く考えさせられました。
これからどうなっちゃうんだろうと、ブルブル震えながら、入院先のベッドでスマホポチポチで書いてました。その不安が作品の内容に反映されています。
今は辛うじて生きているよ!
今辛い人達、きっとトンネルは抜けるからね。一緒にがんばろー。
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