3章 汝の名はマリア
――★前回までのあらすじ★――
UFOにさらわれ、体を大改造された浄。
ヒルデというロリ少女に説明を受け、惑星マリアへと送り込まれる。
彼の運命は…
―――――――――――――――
うーん。痛ぅ。いってぇなぁ。
……どこ?…
目覚めると俺は岩の上で寝ていた。あちこちが痛い。
ヒルデとの最後の会話を思い出す。
ふいの口づけ。
無意識に自分の唇に触れる。
「うーっ。初めてのキスだったんだぞ」
独り言を呟いた。
この歳でやっとファーストキス卒業か…
しかし相手が宇宙人とは思わなかったな。
ヒルデの最後の言葉を思い出す。
『君が居なくなったら、私が寂しいからな』
そうか。俺が居なくなると寂しい人(?)が、出来た訳か。
悪くない気分だ。
なんか…心が軽くなった気がする。
さて、と。
周りを見渡すと、一面の岩肌と砂漠。
所々サボテン風の植物が生えてる。植物はそれぐらいか。
スゥー…ハァー。
うん。
呼吸は苦しくないな。窒息の心配はなさそうだ。
気温は30度ぐらいか?
スッ!
大岩の影に手を置く。
ふむ。日陰なら涼しいな。湿度は高くない。
しかし、あまり長時間居られる場所じゃないのは確かだ。まずは水を確保した方がいい。
昔読んだサバイバルマニュアルを思い出す。
それじゃ、どこに行こうか?
ピピッ!
脳内に響く電子音。
『浄様。初めまして。自立AI ナビゲーターです』
知的な女性の声だ。頭の中にインストールしたっていうAIか?
『左様で御座います。浄様。これから浄様に役立つように頑張りますので、宜しくお願い致します』
おぉ。考えるだけで、会話が成立してる。
『はい。声に出さなくても、考えるだけでお応え出来ます。私の声は、周りに聞こえる事はありません』
そうか。それじゃ、まずヒルデと話させてくれ。
『申し訳ありません。基本、惑星外通信は、こちらからは出来ません』
つまり、ヒルデとは自由に会話出来ないって事か。
『左様で御座います』
向こうは、ずーっと観察してるんだろうな。
まぁ、一人ぼっちよりはマシか。
『浄様、これから如何致しましょう?』
そうだな。
まずは、水を確保したい。
『浄様の肉体は以前の肉体に比べ、水分やカロリーを摂らなくても、生命活動が維持されるように魔力によって調節されています』
いや、でも実際に|喉が渇いてるんだけど…
グゥゥゥゥゥ。
腹も減ってるし。
『喉の渇きや飢えは、普通の人間と同じです。特に活動には影響はありませんので、我慢するのが良いかと思われます』
死なないから我慢しろって事か。ひでーな。
『他に御用は御座いますか?』
そうだな…あとは…
AIである君に"名前"を付けようか?
『私に名前ですか?浄様は変わってますね。ふふふ』
お。笑ったぞ。人間みたいだ。
んーっと。名前…名前。
「よし。決めた。君の名前は『イリス』だ。神々からの伝令を伝える虹の女神だな」
俺はワザと声に出した。
誰かと話してる気分になれる。
『イリス…素敵な名前をありがとうございます』
イリスの声が嬉しさで弾んだ。
で、イリス。ここから一番近い村とか街は何処にある?
まずは活動拠点を作らねば。
『西に100キロ程行くと、メーネ村があります』
は?100キロ?遠くない?
『はい。ここは人が近づかない死の砂漠の中心部ですから』
死の砂漠?
ヒルデの奴。なんて場所へ降ろしやがったんだ。
『ご安心下さい。今、乗り物をご用意致します』
ブンッ!
電子音と共に、目の前に黒いバイクが現れた。
これは、俺の愛馬(50cc)じゃないか。
若干形は変わってるが…
『浄様のバイクを改造致しました。燃料は、搭乗者の魔力を吸い上げて走ります。
浄様の魔力量なら永遠に走れますね』
イリスは言葉を続けた。
『自己修復機能と自動バランサー、各種部品を強化してあります。砂漠や岩場でも走行可能です。自己修復機能ですが、粉々に壊れるような破壊は修復できませんのでご注意下さい』
スゲーぞ。異星人。科学技術がハンパねーな。
これは異星人の介入にならんのかねぇ。まぁ、いっか。
『さぁ。行きましょう、浄様』
俺の右目網膜にマップと矢印が表記された。メーネ村まで101キロらしい。
キュルル、ブォン!
エンジンを掛ける。
なんか違う。原付のエンジン音じゃねぇな。
きっと魔改造されまくりなんだろうな。
ドッドッドッドッ!
バイクを走らせると、思った方向に自由に走れる。
速度を維持したまま、岩と岩の間も軽々飛び越す。
俺は暫く、モトクロスのようなツーリングを楽しんだ。
…
……
さて、と…結構走ったな。
村まであと…20キロか。
『浄様。問題発生です』
問題?何?
『サンドバシリスクの群れに囲まれています。恐らく浄様を獲物として狙っているのかと』
え?そのサンド何たらは、強いの?
『サンドバシリスクです。大型のトカゲで、かなり獰猛です。しかし、浄様から比べれば、ゴミ、いえ、塵や埃レベルかと』
じゃあ無視する。喉乾く事したくない。
『それはいけません。メーネ村まで付いてきたら、大災害になります。村人を殲滅したいなら別ですが。如何いたしますか?』
いやいや、村人殲滅したい訳ねーじゃん。
うーん。絶対に勝てるんだな?
『浄様なら楽勝です』
その言葉、信じるからな。
俺はバイクを停めた。
大量のモンスター相手なら、強力な魔法で一掃だな。
俺は、格好つけて構えた。
…。
はぁぁぁ。
呼吸と精神を統一する。こんなモンかな。
で…???…魔法ってどうやるんだ?
『浄様は、まだ魔法契約をしておりません』
魔法契約?何それ?今すぐ出来るの?
周囲がドスドスと揺れ始めた。急げっ!
『出来ません。まず教会で契約を行わないと…』
教会ぃぃぃ?んなモンねーよーっ!!
ドカァっ!
岩を突き破り巨大なトカゲが現れた。大きさは15メートルぐらいか?
「で、でけぇっ!逃げるか?」
サンドバシリスクは、口を開き…
…ゴクリ…
火球を放った。
「おい、まてぇぇぇぇっ!!ひぃぃぃ?火ぃ?」
『浄様、弾いて!』
咄嗟に俺は、火球を殴っていた。
バチィッ!!!
え…えぇぇぇ? は、弾いた?
ドーンっっ!!!!
弾かれた火球は、別の個体のバシリスクに命中した。
炎で周囲が燃え上がる。凄い熱だ。
『浄様の対魔法防御は完璧です』
なら弾かなくても…
『全身で受け止める危険より、安全に弾く癖をつけた方がいいです』
分かったよ。
さっきは、たまたま弾き返せたが、そう簡単に…
バシッ!バシッ!バシッ!
俺はバシリスクが吐き出す火球を、次々に弾き返す。
え?
弾かれた火球は、別のバシリスクに着弾する。ダメージはそれほど無いようだ。
流れるように手足が動き、的確に火球を弾く。
えぇぇ!!何これ。何でこんなに動けるんだよ。
まるでカンフーのような動き…カンフー、カンフー…あ。ヒルデの奴。
『カンフーマスター、起動中です』
ふん。そういう事か。で、ご自慢のカンフーで、15メートルの化け物倒せるのかよ?
『浄様なら可能かと』
徒手格闘戦で巨大モンスターの群れを退治かよ。ったく。
バシリスクの突撃を紙一重でかわしながら、手刀を腹部に当てる。
ザクっ!
バシリスクの腹部が裂け、内臓が飛び出す。
ブチャリ、ベチャッ!!
ぐ、グロいな…
秒数にして3秒程。巨大なバシリスクを瞬殺だ。
手首をヘビのように動かし、構えた。
おぉぉぉ。体が勝手に動くぞ。
あぁ…これは、映画で観たぞ。蛇拳だな。
ありがとう。ジャッ○ー。
カンフー映画の俳優を思い出しつつ、自由に動く。
『さすが浄様。あと12匹です』
あと12か。キツいなー。
突っ込んで来るバシリスクを避けつつ、切り裂いたり、蹴りで粉砕していく。
何せ飛び道具が無い。手足の長さが、俺の攻撃範囲なのだ。
チクチク、チクチクと少しずつ倒していく。
6匹倒した辺りで、残りのバシリスクは逃げ出した。
ふぅ。終わったな。
ベチャ…グチュ…
あーぁ。全身血塗れだ。
バシリスクの死体と内臓で辺り一面、真っ赤に染め上がっていた。まるで凶戦士が暴れた跡だな。
『倒したバシリスクはどうしますか?転送可能ですが…?』
転送?
バイクが現れた時の事を思い出す。アレか?
『はい。大きい荷物も、一瞬で格納出来るよう、円盤の倉庫を使えます。ぜひご活用下さい』
バシリスクの死体は生物だけど、転送していいのかよ?たぶんスゲー臭いぞ。
『収納時は、衛生上のチェックがされます。生物などの死体等は、転送と同時に瞬間冷凍され、取り出す時は瞬間解凍されるので鮮度は維持されます』
熱々の食べ物とか"保存"したらどうなる?
『瞬間冷凍されますが、"取り出す"時に転送時の温度まで解凍・過熱されます』
って事は、熱々のスープを保存したら、冷凍保存されて…取り出すときには加熱されて取り出せるって訳だ。食料保存が出来て、調理の手間も省けるな。こりゃあ便利だ。
『ちなみに、物や道具も、円盤内の衛生上、一度殺菌されてから収納されます。伝染病予防の為の処置ですのでご了承下さい。尚、生きたままの動物等は保存できません』
ふーん。便利だな。
異世界モノでよくある、収納魔法の設定と同じと考えればいいか。
『浄様が考えてる無限ストレージではありませんので、容量限界にご注意下さい』
えっ。限界あるの?
『はい。このバシリスクなら100匹程度ですね』
15メートル程度の個体を100匹ぐらいか。かなりのスペースだ。まぁ、困る事は無さそうだ。
『あと、浄様の考える時間停止付き無限ストレージは、一部の賢者が使える特殊技能です。残念ながら現在の浄様には使えません』
だからヒルデが、円盤のストレージを貸してくれた訳か。
べチャリ。
うわー。体が血塗れで気持ち悪い。
今はとにかく、一刻も早く村に行って、体を洗おう。
水も飲みたいし。
サッサと手早くバシリスクを転送すると、俺はバイクに跨がり走り出した。
…
……
素手で巨大バシリスクに挑む浄△。
はい。オイラ、1980年台のカンフー映画、ホラー映画、アクション映画大好きっ子です。
戦闘シーンは、病院のベッドの上、手術したての体でキャッキャウフフしながら書きました。
楽しんで頂けたら嬉しいっス。
ブックマークが増える度、「あっ、また一人増えた。ありがとうございますー」とモニターに感謝の言葉を述べています。
感想・評価も大歓迎というか、大感謝です。ぜひぜひ宜しくお願い致します。