2章 改造人間爆誕!!
――★前回までのあらすじ★――
職を失い、バイクで旅に出た浄。
夕方の牧場でUFOにさらわれる。ヤバイ。
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暗闇の中、声が響く。
「おいっ!大変だ!人間が紛れてるぞ」
「何だと?…ヤバいな。牛と一緒に吸い上げたか。状態は?」
「牛が暴れて、人間の方はかなりのダメージだ。すぐに治療しないと」
「この惑星の人間を、死亡させたら大事だぞ。いそげっ‼」
「スキャン終了。ダメージを確認。これは酷い」
「状態は?」
「全身13箇所を骨折。内臓破裂、右眼球破裂。脳内出血。失血量も多くショック寸前だ」
「大至急、人工血液と修復ナノマシンを注入。骨折部は、形状記憶炭素に置き換えろ。人工骨髄内蔵のタイプだぞ」
「骨折部以外にも損傷があるかもしれん。全ての骨に強化コーティングをしておこう」
「破壊された内臓はナノマシンの修復でいけそうです。右眼球は…網膜まで破壊されています。再生には時間が掛かるかと」
「元通りにはなるんだな?」
「多少の視力低下があるかもしれませんが、修復可能です」
「ふむ。いいぞ。頭部損傷も修復したようだ」
「良かった。これで安心ですね」
「そんな訳あるか。これだけ人間に干渉してしまったんだ。厳罰は確実だぞ」
「どうしましょう。本部に連絡して、指示を仰いだ方がいいですね?」
「勿論だ。この人間は、我々の技術で修復してしまったんだ。最悪、地球上に戻せないかもしれないな」
「本部から連絡来ました。追加で改造を行い、指示を待てとの事です」
「追加改造?本部は何を考えてる?」
「追加の改造箇所は以下の通りです。」
「何だ?この改造指示書は、かなりヤバイぞ。化物を作れって事か?本部に再確認しろ!」
「はい…もう問い合わせています…」
「改造人間計画は、まだ人類には早すぎる…もっと科学が進歩してからでないと…この指示通りならコイツは地球に返せないぞ…」
「確認しました。この指示で間違いないそうです」
「つまり…強大な力を持つ化け物を作って、地球に戻さなくていいって事なのか?」
「この人間の個人情報を取得しました。家族無し、無職。本日住居を引き払い、放浪し始めたばかりのようです」
「ふむ。失踪しても騒ぎにならない人間か…本部はこの人間を使って、何かやらせるつもりらしい…」
「本部の指示は絶対です。すぐに改造手術を始めましょう。追加指示が届きました。以後この件については、ヒルデ、貴方に全権を委任します。地球の監視は私が引き継ぎますのでご安心を」
「…ふむ…分かった。おい。人間。聞こえているのだろう?意識があるのは分かってる。よく聞け。お前のお陰で、私は地球担当からお役ご免となった。こちらが起こした事故とはいえ、全く、いい迷惑だよ。…まぁいい。こうなったら、お前を最強の超人にしてやる。まずは…ゆっくり眠ってくれ」
一方的に会話を聞き、俺は再び意識を失った。
………
……
…
「う…ん」
…
変な夢だったな。
宇宙人とか人体改造とか…奇想天外で少し面白い設定だったかも。
…で、何時間ぐらい経ったのだろうか。
今何時だ?
目を開けると、壁も天井も床も白い部屋に寝かされていた。
「これが噂の『知らない天井』ってやつだな」
あれ?
でも、確か俺…牧場に宿泊したよな?
どうなってんだ?
ゆっくり体を起こす。
ん?
どこだ、ココ。
明らかにログハウス風コテージではない。
空豆のような形のベッドに寝ていた。未来的なフォルムだな。布団は無い。
うーん。寝心地は悪くないな。表面はサラサラしていて、低反発なクッションだ。
さらに周りを観察する。
無機質な白い壁、目に優しい間接照明、心地よい室内温度。
未来を意識したモデルルームか、近未来を意識した映画のセットのようにも見える。
もしかして…‼
夕方の牧場。牛と一緒に吸い上げられた記憶が蘇る。
まさか。アレが本当だったとか?
「おはよう。目覚めたようだね」
背後から声を掛けられ振り返ると、スクール水着の黒髪少女が立っていた。
…は?
…スクール水着ぃ??
しかもツインテール。狙いすぎだろ。歳は…12~15歳ぐらいか?
訳が判らないぞ。
「あの、えーっと。この状況は、どうなってるのかな?」
たしか、UFOに吸い上げられて大怪我したような…まだ夢の中か?
夢…だよな…
「一応言っておく。夢じゃないぞ」
何で俺の考えてる事が分かった?
言葉で出たのか?
偶然だとすると、タイミングのいい返事だ。
それにしても…偉そうな喋り方する少女だな。もっと可愛く話せばいいのに。
「先に言っておく。君の思考は、ある程度『私』には分かる。偉そうな喋り方で悪いな。直す気もないから気にしないでくれ」
え゛っ…心が読めるって事か?…嘘臭いけど…先程のタイミングの良い返事を思い出す。
…マジかよ。
「嘘じゃないし、真実だ」
!!
どうやら本当らしい。迂闊な事は考えられないな。
「安心しろ。普段は、心の中を覗いたりしない。今は初対面だからな我慢してくれ」
どうやら、相手は未知の存在のようだ。
言葉遣いも気をつけたほうがいいな。
少女はコクコクと頷いた。あー、今の考えも読まれたのか…
「えぇ。まぁ。分かりました。それより説明して貰えますか?今の状況を」
「ふむ。知りたいのも当然だな。まずは自己紹介させてくれ。私は"ヒルデ"という。この見た目は、君の趣味に合わせてみたのだが、どうかな? 我々の科学技術は、容姿を自由に変えられるのでね」
容姿を変える???
で、この格好なのか…って、えー。俺、ロリっ娘のスクール水着が趣味だっけ?
「趣味かどうかは分からんが、恐怖心は湧かないだろ?」
「えぇ。まぁ…確かにそうですが…で、その…何者なんですか?」
「私か? …君たちの星で言う所の"宇宙人"が正しい認識だな」
え゛ー。この子。自分が宇宙人とか言ってんぞ。
宇宙人なんて本当に居るのか??
俺の考えを読んだのか、ヒルデが即答する。
「君も宇宙人だろ。地球生まれの。地球人だって宇宙人と言えるだろう? 私の場合は、まぁ、|本物の地球外生命体だな」
そりゃ、そうだけど…異星人ですか。あー、はいはい。と納得は出来ないな。
ヒルデはニヤニヤと笑みを浮かべながら、得意そうに話を続けた。
「君の深層心理で、最も警戒しない容姿にしたつもりだが?…変だったか?それにこの格好、動きやすくて悪くないぞ」
ヒルデは、片足を持ち上げ立ったまま開脚する。
…
うっわー。眼のやり場に困るな。
「君は、我々がUFOで乳牛から貴重なたんぱく質を取り出す、重要な作業に巻き込まれ、大怪我を負った」
おいおい。突っ込み所満載だぞ。
「ほう?突っ込み所満載だと?聞きたい事があるなら言ってみろ」
あっ。心読まれるんだったな。
「まず、なんで牛から『たんぱく質』を取り出すんですか?」
「我々には、あの牧場の牛の乳が貴重でね。1年に数回搾乳させて貰っているのだよ」
何それ。牛乳が欲しい異星人?
普通、キャトルミューティレーションじゃないの?
「難しい言葉知ってるじゃないか。あんな牛の内臓を取るような事、今はしないぞ」
今はって、昔はやってたんだな。
ヒルデは肯定するように、頷いた。
まぁ、いい。次の質問だ。
「記憶が確かなら、俺は相当な大怪我を負った筈だ。何故助けた?どうやって?」
凄まじい痛みを思い出す。
あれは死んでもおかしくない。ってか死ぬだろ。
ヒルデはニコリと微笑んだ。うっ‼…可愛いな。
「我々は、この星の進化を見守る監察官だ。適正な進化を誤れば介入して是正する。しかし、基本的には介入は禁じられている」
何??
何を言ってる?
「まぁ、聞け。特に人間に対する介入は厳罰だ。人間同士が戦争を始めたり、災害で大勢が亡くなろうとも、我々は観察するのみだ」
「最後に進化に関する介入したのは、ネアンデルタール人が人族の長になろうとしたのを阻止した時か」
難しい話だ。
「ホモサピエンスに知識を与えて進化を促した。君達はよくやってくれたよ。ネアンデルタール人は駆逐され、ホモサピエンスが人類の主となった」
つまり、人類の進化の影に、ヒルデ達のような異星人が居たって事だな。
「そうやって大事に育てた人類だ。一般人であれ、我々の法により保護されている。我々が介入したせいで死んでしまえば、私の首が飛ぶ。だから全力で助けた」
成る程ねぇ。
「納得したようだな。話を続けるぞ」
ヒルデはペタリと床に座り、股割きを始めた。食い込むスク水。むぅぅ。
またしても眼のやり場に困るぞ。
「君の個人情報は、日本国からアメリカ国防総省へ送信され、我々に提供された」
我々…ね。そりゃそうだよな。これだけの事が出来るのなら、個人ではなく組織だろう。
ヒルデの開脚がさらに拡がる。
それにしても…目の毒だ…
俺はなるべくヒルデの股関節を見ないように会話を続ける。
「人間に介入しないんだろ?なんでペンタゴンと繋がってるんだよ」
見ないようにしても、どうしてもヒルデの食い込みに眼が行ってしまう。
その視線を感じたのか、ヒルデはニヤニヤと笑っている。
「浅知恵だな。人間。いや橋越 浄君。一部の政府と我々は意志を共有しているのだよ。しかし、我々からは介入はしない。これは鉄則として、ペンタゴンにも伝えてある」
ヒルデは、饒舌に喋り続ける。
「人間にとって、我々は神に等しい存在だ。我々を崇拝し、君達の国が勝手に協力してくれるのだよ。使わない手は無いだろう?」
アメリカのホーミー空港とか、政府と異星人が結託してるとか、過去の文明が異星人と交流があったとか、都市伝説レベルで噂は絶えないが、一部は本当だったんだな。
「で、俺が身寄りの無い、都合のいい人間と知った訳だ」
殺す訳にはいかないから、生かしたまま連れ去った。
俺は、居なくなっても騒がれる事もない人物だ。そんな所だろう。
基本、独りぼっちだもんな。俺。
…ん?
ヒルデは一瞬悲しそうな表情を浮かべた。
心を読まれたか。変な同情でもされたかな。
「本来なら地球に戻してやりたい所だが、君の命を救う為に、地球人より優れた肉体を与えてしまった。君を地球に戻したら、コミックのヒーロー誕生になってしまう」
確かにヒーローみたいな肉体を持った人間が現れたら、あっという間に捕まって、人体実験の材料だな。それは困る。
地球に戻れないか…参ったな。何も未練は無いが、戻れないとなると寂しいもんだ。ってか…
「俺はどうなる?」
「君は、追加で改造手術を受けた。新たな星で暮らす為のね」
ヒルデは、四つん這いになり、わざとらしく尻をコチラに向ける。
「新たな星で暮らす?」
「君が新たに生活する星は、君の居た地球より、文明レベルは劣っていてねぇ。中世ヨーロッパぐらいかな」
ヒルデは四つん這いのまま片足を上げる。水着越しに割れ目が露になる。
くっ!視線が泳いでしまう。
「浄君は、ライトノベルとか読んだ事はあるかな?」
「えぇ。まぁ少しは」
「なら話は早い。異世界召還と同じだよ。君には生きて貰わないと困るからね。当然チートだって必要だろ?…だから改造手術を施した。分かるね」
成る程。ノベルでよくある『異世界召還』と考えれば分かりやすいな。
「認識が早くて助かるよ。浄君」
ヒルデは立ち上がると壁に手を置いた。壁が開き、モニターと大量のDVD が並んでいた。アニメから洋画まであらゆるジャンルが網羅されている。凄い量だ。趣味だとしたら、相当なオタクだな。
ヒルデは、その中から80年代のカンフー映画を取りだし再生した。
「で、俺にはどんな能力が追加されたんだ?」
「まずは、修復ナノマシンを注入した。これは破損した肉体を、高速かつ自動的に修復する。かなりの優れものだよ。多少バラバラにされても修復可能だ。但し、死者を復活させる事は出来ないから注意が必要だぞ」
「もし異世界で死んだら…?」
「終わりだ」
そんな…冷徹だな…
ヒルデはカンフーのポーズを取る。手首が蛇のように動く。蛇拳か?
なかなか鋭い動きだ。80年代のカンフー映画は結構好きで観ていたからな。何となく分かる。
「骨は折れたり砕かれてもすぐに修復するし、神経の伝達速度、思考速度に至っては、|非常時
《・・・》には300倍まで引き上げられる」
なんか、ヒルデの顔が赤い。酔ってるようにも見える。そんなにカンフーが好きなのかな?
「追加改造手術では、筋力の速度と力の増強。さらに耐久性の向上。呼吸器系の強化。多少の毒霧でも生存可能だ。皮膚も強化されてるぞ」
ヒルデは酔ったようにフラフラしだした。
ズビシっ!!
時折、鋭い突きが出る。あ、これは…酔拳か?
「脳内に空白記憶域を追加。そのスペースに各種格闘技、スポーツ技術、戦闘技術、星の情報、あと、非常時の我々への通信機能をインストール済みだ」
各種格闘技の中には、80年代映画のカンフーが絶対に入ってそうだな。
「他にも、色々と役立ちそうな技術はインストールしておいたぞ」
全然実感が湧かないが、俺の頭の中に、色々な情報や技術が入ってるらしい。
「あと、耐魔法能力…」
魔法?魔法だって?
「驚いたみたいだな。君が行く星マリアは、魔法が存在する星だ」
マリア…?
星の名か。人の名前みたいだ。
「そう。マリア星は、剣とモンスターと魔法がある、ファンタジー満載な星なんだよ。君の想像するファンタジーと同じと思っていい。説明が省けるからね」
「判らない事や、疑問は脳内の自立型AIに聞けばいい。考えるだけで答えてくれる。とても役立つ秘書みたいな奴だ」
分からない事も、脳内で答えてくれるのか。
「今は機能は停止しているが、地上に降りれば起動するぞ」
ふむ。自分の体については大体理解した。
しかし…目的は?
「俺は、マリアに行って、何をすればいい?」
「今後はマリア星は実験、監視対象だ。我々とは違う別の生物が特別な力を使い、この星にどのような影響を与えるか…当然、誤った進化は是正しなければならない。そこで君には、この星の監視及び進化を任せたい。君の好きなようにこの星を導いてくれ。楽しそうだろ?」
「俺が、マリア星で好き勝手したら、アンタらが介入した事と同じにならないか?」
「我々が、直接介入する訳じゃないから問題ない。これは実験なのだよ。我々以外の知的生命が、果たして、星の導き手になれるかどうかのね」
星の導き手…ねぇ。
「まぁ。分かった。俺はやるしか無いんだろ?兎に角、好きにやらせて貰うよ。まずい行動があったら注意してくれ」
「それは心配いらない。何するも君の自由だ。その結果、この星がどうなったか…その結果が欲しいのだから」
実験か。なるほどね。
「あと、浄君、君の右眼は完全に潰れていてね、修復は可能だったが、今は代わりの眼が入れてある。ステータス情報や、サーチ機能が付いてる。ゲーム画面みたいなものだよ」
意識を集中すると、目の前に視界合成された文字やバーが現れた。
あー。異世界物によくあるステータス画面なー。
「早速、ステータスを見るといい。マリア星でのレベル表記に合わせてある」
俺のステータスは、っと…
そう考えただけで、右目に表示された。
レベル1(MAX)
攻撃力99999999
防御力99999999
魔法力99999999
素早さ99999999
なんだこの数字は…全くわからんぞ。
「この星最強の戦士で、攻撃力は5000程度だ。言っておくが、その数字は桁が足りずカンストしてるからな。実際はもっと上だぞ」
「なっ。メチャクチャじゃないか、いくらチートでもやりすぎだ」
ヒルデはケラケラ笑う。
「当たり前だ。星一つ自由に出来る能力だぞ。ただのチートと一緒にするな」
さらにヒルデは続けた。
「レベルアップだの何だのと煩わしい作業も必要ない。自分の能力を使いこなすまで時間が掛かるだろうしなぁ」
「安心しろ、強すぎる力は、クシャミ一つで国が滅ぶ。だからAIが、普通の人間として自動制御してくれる。必要な時に必要な分だけ力が発揮出来るようにね。握手した相手が吹き飛ぶのは見たくないだろ?」
ヒルデが壁を丸く撫でると、窓が現れた。
外には地球に似た青い星。
ここ、宇宙船の中だったのか…しかも飛んでる。全然揺れてないぞ。重力だってあるのに…本当に…
ヒルデの顔を見る。
本当にこの人、異星人なんだなぁ。
ふいにヒルデが近づき、俺の手を握る。
「なっ、なんだ?」
「そろそろ時間だ。名残惜しいが、降りて貰うよ」
「まっ、待て、心の準備がっ‼」
「心の準備?
よく言うよ。私の体を、たっぷり観賞してた癖に」
「なっ、違うっ」
チュっ。
ヒルデの不意討ち。
唇を奪われた。
「今までは、君が居なくなっても探す人は居なかったかもしれない。だがこれからは違うぞ」
ヒルデが微笑んだ。
「君が居なくなったら、私が寂しいからな」
ブツンっ。
意識が途切れた。
…
……
いよいよ大改造です。
浄君の体には様々な秘密が満載です。
ただのチートと思うなよ。デュフフフ。
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