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23章 勇者対勇者

 「それじゃあ、みんな準備はいいか?」


 馬車に荷物を積み込み、ガイナスへ出発しようとした頃、陽炎盗賊団から助けた姉弟が、手に小さな袋を持ってやってきた。


おっ。見送りに来てくれたのか。


 「おぅ。元気かぁ。姉弟(キョーダイ)


弟が膨れっ面をしているが、目が笑っていた。


「『おぅ。キョーダイ』じゃないだろ。兄ちゃん。俺達の名前知らないんだろう?」


そう言えば、名前を聞いて無かったな。


「姉ちゃんなんて、私の名前に興味ないのかなぁって、ションボリしていたんだぜ」


それは悪い事をした。

 

『姉がエリーで、弟がルーカスです。ジョー様』


そう言えば、この街は一度イリスが検索(サーチ)したんだったな。ナイスフォローだ。イリス。


って、どっちが誰だっけ?


ピコン‼


丁寧(ていねい)に、姉弟の頭の上辺りに緑色で、二人の名前が表示された。網膜投射だから、他の人には見えない。


「そんな事ないさ、ルーカス。俺はちゃんと二人の事知ってるぞ」


「ど、どうして、俺の名前を…あ、誰かに聞いたんだなー」


弟の顔が笑顔になった。

ま、そうしておこう。


「エリーも、ちゃんといい子にしてるんだぞ」


ボッ‼


まるでそんな音がしたように、姉のエリーは赤面した。

ありゃ、レディの名前を呼び捨てはマズかったか?

可愛いもん見れたな。


そして、(エリー)は黙って袋を手渡してきた。


「これは?」


俺が袋の中を確認すると、金色の角印?のようなものが現れた。

何これ?


「おぉ。商人の通行手形ですな」


ゼルが驚いていた。なんでそんなに驚くんだ?

なに、そんなに貴重なものなの?


『はい。商人でそれなりに身元がハッキリした者でなければ、持つ事さえ出来ない、貴重な通行パスです』


「兄ちゃん達、今度はガイナスに行くんだろ?それを持っていけば、入国時に信者の列に並ばなくて済むよ」


商人専用パスか。別にイリスと俺の能力なら、忍び込むぐらい出来るけど…ありがたくお借りしよう。


「ありがとう。用事が済んだら返しに来るよ」


「あったり前だろ、必ず返しに来てくれよ。お礼に姉ちゃんとデートしてもらうんだから」 


ピクリっ‼


一瞬、ハルとユキの眉が動いた。


「あぁ、分かった。帰ってきたら、皆でパーティをしよう」


『ジョー様。衛星軌道上から、熱い視線が送られてますよ』


あー、はいはい。そっちのロリっ娘は無視で。


「…ジョー様。そろそろ行きませんと」


ゼルに急かされ、馬車に乗り込む。


「それじゃあ、行ってくる‼」


俺の言葉に、二人は手を振って応えた。



……


「あー。まだ手を振ってますよ。ジョー様」


ハルが、小さくなった姉弟達に分かるよう、大きく手を振り返していた。


「住み心地の良い街でしたな…ジョー様」


「あぁ。ゼルも毎日散歩してたもんな」


「散歩と言いますか、実は…」


そう言いながら大きな袋を取り出すと、俺達の前に置いた。


ガシャン‼


「随分と重そうな袋だな」


「はい。失礼かとは思いましたが、パーティを組むに辺り、最低限の装備は必要かと思いまして、揃えさせて頂きました」


袋の中は…ハルが使えそうな魔法杖や、木製の小さめな弓も入っていた。


ユキが弓を手に取ると…


「あっ。この弓、かなりくたびれてるけど、単素材じゃなくて二種類の木材を組み合わせた複合素材の弓だ」


ボロくても、ゼルが選んだ武器や防具は、悪いものでは無いらしい。


「ユキ殿が持ってる長弓には敵わないが、室内や洞窟なら、取り回しのしやすい小型弓の方がいいと思い、勝手に用意させて貰いました」


ハルも小型な魔法杖を腰のベルトに差す。

身構えて、サッと腰から引き抜きまたベルト戻す。

早撃ちの練習みたいだ。


「ちなみに、申し訳ありません。ジョー様の武器防具は、今の装備以上は望めないかと」


ヒルデの作ったチート防具ならそうだよな。


「いや、気持ちだけで充分だよ。ありがとう。ゼル」


ゼルなりに、パーティの強化が必要と考えていたのだろう。俺には判らない事を、こうやってフォローして貰えるのは正直ありがたい。


ゼルだって、俺と同じく懐は寂しい。そんな中、できる限りの強化を考えてくれたのだ。ひたすら感謝しかない。


シッカリ稼いで、皆を楽にしないといかんなぁ。


そんな事を反省しつつ、旅は順調に進んだ。



……


3日後。


俺達は、ガイナス近郊まで辿り着いた。


『ジョー様。お知らせしたい事があります』


どうした、イリス。異常か?


『はい。ジョー様。ガイナスのサーチを開始しようとした所、異常に魔力反応の高い生物が見つかりました』


生物?


『現在、詳細を調査中…結果出ました。生物は……人間です』


場所は?


『この先、1km付近。既に待ち構えています』


「それって、向こうから来てくれたって事か」


暫く馬車を走らせると、前方に人影が見えた。

甲冑を身に付けた女が先頭に、その後ろに同じく甲冑を身に付けた男が3人。


馬車を停止させると、甲冑の女が声をあげた。


「お前達、ついに姿を現したな。この魔王の犬共め‼」


女戦士が、俺達を睨み付ける。まるで(かたき)だな。

それに魔王の犬とは、意味が判らない。


「あの、申し訳無いが、何か勘違いしてるようだが…」


俺の言葉に女戦士は怒気を強めた。


「ふざけるな‼魔王、貴様‼後ろに隠れてないで出てこい‼」


怒りの視線は、俺を通り抜け後ろへ注がれる。

視線の先には…


ハルが居た。


そう。あの女戦士は正しい。

ハルは魔王の生まれ変わり。

それをどうして、あの女戦士は知っている?


「お前、今噂の『神に召喚された勇者』か?」


俺の質問に、周りの戦士が応えた。


「ミサ様は、日出ずる国から召喚されし、勇者様だ。魔王に仕える木っ端が…勇者様に話し掛けるなど、図々しい!さぁっ!抵抗せずに投降しろ」


日出ずる国…ミサ様、ね。

もしかしたら、本当に召喚された勇者なのか?


『あり得ません。彼女はこの星の人間の筈です』


俺はイリスの言葉を無視して、勇者を名乗る女に話し掛けた。


「随分と好戦的な勇者じゃねぇか。日本人らしくねぇーな」


『日本人』と聴いた瞬間、勇者ミサの眉が、ピクリと動いた。

これは、本当に当たり(ビンゴ)か?


痺れを切らした取り巻きの戦士達が、一斉にハルへ向かって斬りかかる。


ガィンっ‼


無骨な鉄音。


剣撃を止めたのは、武骨なゼルの大剣だった。


「勇者殿、私がお相手致そう」


ゼルの眼がギラリと光る。

戦士たちは気圧され、後ろへ下がる。


「ふん。大した眼力だ。相手してやるよ」


スラリと刀を抜く勇者ミサ。  

勇者対勇者の闘いが始まった。



……










いや、寒いですね。

ブクマや感想大歓迎っす。

召喚されし勇者ミサとは何者なんでしょうね?

自分はゲーム作家なので、いずれ、本作品をノベルゲーム化しようと考えています。

製作当初から、普通の異世界転生モノは作るつもりが無かったのですが、まだその方向性を表現しておりません。

なので、少しだけ最初にネタバレしようと、0章を追加しました。

これで本作品が通常の異世界転生モノとは違うと分かるかと思います。

この方が盛り上がるかと。


さて、次回は…ミサがいかにして勇者になったのか紐解きたいと思います。



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