19章 ギルド再び
ゼルが二人のエルフを連れ出した後、宿にギルドからの連絡員がやって来た。
危なかったな。もう少し早く来たら、ゼルとエルフ達が鉢合わせになる所だった。
一応、この世界ではエルフの奴隷は、かなりの高額資産だ。無許可で奪って逃がせば何か問題になるかもしれない。とりあえず逃がせて良かった。
「ジョー様。先程、賞金首全員の照合と確認が完了致しました。我々としては信じがたいのですが、確かに陽炎とその一味でした」
ギルドの連絡員の口調は、未だに信じられないといった感情が伺えた。正直、俺との接し方を計りかねているようだ。
そりゃそうだ。新人が、やり遂げられる仕事では無いだろう。
「それでですね、現在ギルド内は大変な騒ぎになっておりまして、賞金の準備もままならないのです。本来はすぐにお渡ししなければいけない物なのですが…陽炎の資産を換金してからのお渡しとなると、かなりの時間が掛かってしまいます」
賞金は相当高額なのだろう。
直接動かせる現金が、まだ全て押収出来てないのかもしれない。
そういえば、最初に盗賊を捕らえた時は、賞金も奴等の所持していた武器や馬車も貰えたよな。
なら陽炎の持っている資産も貰えるのか?
その疑問にイリスが応えた。
『マスター。お考えは理解しました。残念ながら、エルフなどの超高額資産は、報酬としては認められません』
なら、やはりゼルにエルフを任せたのは正解だったな。
ギルド連絡員は話続けた。
「そんな事情でして、金品の代わりになる物を陽炎の資産から譲渡しても良いと、特例で通達が出ております」
ん?つまり現物支給もアリって事か。風向きが変わったぞ。一応質問してみるか。
「奴等の資産から譲渡って、奴隷でもいいのか?」
「奴隷…と、いいますと?」
「実は、奴等の奴隷で、エルフが三人居たんだが…捕まえなかったのか?」
「はて。押収物にエルフは居りませんでしたが。記録ミスかな?」
「なら逃げ出したんだろ?俺達で見つけ出して確保するから、それを報酬に出来ないかな?」
「必ず捕まえられるとは限りませんよ。森に逃げたらお手上げですが…そんな物より、宝石とかどうでしょう?良いものが押収されております」
「いや、いい。エルフ三人で手を打とう」
「変わったお方だ。分かりました。特例として奴隷エルフ三名を報酬として認めます。但し、エルフ達の確保はご自身でお願い致します。仮に逃げられても、代替の報酬は無い物とお考え下さい」
「あぁ。それでいい」
俺の言葉を聞き、連絡員がニンマリと笑みを浮かべる。
ギルドとしては、本当に居るから解らない奴隷を報酬に出来るならラッキーと考えたのだろう。
仮に本当だとしても、逃走してしまったエルフの確保など面倒この上無い。
「ご存知かとは思いますが、エルフは高額な奴隷ですので、他の報酬は諦めて頂きますが宜しいか?」
「あぁ。構わない」
「分かりました。それでは明日。三人分のエルフ奴隷譲渡証をお渡しします。まぁ、無事に捕まえられるといいですなぁ」
ギルド連絡員の表情がさらに明るくなった。賞金の準備が必要無くなって、肩の荷が降りたのだろう。
俺が報酬をエルフに選択した為に、陽炎の残りの資産や、渡す筈だった賞金は、全てギルドの資産となる。ギルド連絡員は今にもスキップを踏みそうな勢いで、宿を後にした。
室内が静まり返る。隣の部屋にはユキと、ハルが聞き耳を立てているだろう。
「さて。ユキ。聞いていたな。これで君は自由だ。俺達と一緒に堂々と旅立てるぞ」
バタンっ‼
奥の部屋から、涙でぐしゃぐしゃになったユキが現れた。そのまま俺の胸に飛び込んで来た。
ドンっ‼
強めの衝撃。ユキは泣きながら、頭をグリグリと俺の胸に擦りつけた。
不安だったんだろうな。
後ろでハルも涙を浮かべ立っていた。
「ジョー様。心から感謝致します」
俺はユキの言葉に頷いた。
そして、ハルの方に目配せをする。
「そんな訳でハル。残念ながら報酬はチャラだ。もう暫く君の懐を当てにさせて頂くよ。すまないな」
「いえ。お気になさらずに。ジョー様の好きなようになさって下さい」
宿の中に、優しい光が差し込む。
ハルとユキの涙と笑顔が、どんな報酬より貴重に思えた。
…
……
翌朝。
ゼルはエルフを森に逃して、明け方に帰ってきた。
徹夜で対応させてしまった。会社ならブラック決定だな。
とりあえずゼルには休息を取ってもらって…と。
俺は食堂へ向かう。
この宿の食事は、質素ながらもバランスの取れた料理で、味も悪くない。
食堂につくと、ハルとユキが食事を摂っていた。
ハルは、ハフハフと目玉焼きを幸せそうに食べている。
砂漠鳥の卵らしい。殻の色は緑でグロテスクだか、中身は鶏の卵と変わらない。ただ、鶏の卵3個程の大きさなので、一つで十分な大きさだ。この卵は天然モノらしく、味わいも濃厚で硬めのバケットに合う。
硬いが麦の香りの強いバケットと、トローリ黄身が溢れる目玉焼の取り合わせは、地味な食事を何倍にも引き上げていた。
「そんな事ないよー」
「えー本当ですかー?」
ハルとユキの会話が弾んでいる。
女同士、いつの間にか仲良くなったようだ。一緒の部屋にしたのは正解だな。
ハルはシッカリとユキの様子を見てくれている。
「二人共、おはよう」
「ジョー様。おはようございます」
ハルは昨日の疲れを微塵にも感じさせない、爽やかな笑顔だ。
「おっ、おはっ…よぉござぃます。ジョー様…」
対してユキは、顔を真っ赤にして下を向いている。
何を照れてるんだろう。
チラリとユキの様子を見る。
外傷は、ほぼ完治したようだ。きっと、ハルが夜を徹して治癒してくれたのだろう。
しかし、心の傷はどうだ?
今はハルと、笑顔で会話しているが、ユキの体験した生活は地獄だった筈だ。
すぐには治らないかもしれない。
しかし、少しずつ良くなるよう見守っていこう。時間が、彼女を癒してくれるだろう。
「あ。ジョー様。先程、ギルドから連絡があって、証書が出来たからいつでもお越し下さいと言ってました」
「あぁ。分かった。じゃあ、ハルは旅支度を整えておいてくれ。ゼルは寝てると思うから起こすなよ」
「はい。分かりました」
ハルはにこやかに微笑むと、旅支度を整えに部屋へと戻る。
「ユキは俺と一緒にギルドに行くぞ」
ユキの肩に手を乗せると…
ビクッ!!
ブルブル…
震えてる?
捕らえたエルフ。しかも陽炎の奴隷。
ギルドに行けば、持ち主が変わった哀れな玩具として見られるだろう。
「大丈夫だ。俺が居る。怖いだろうが、信じて欲しい。あと、一つだけお願いがある」
「ジョー様の願いなら、何なりと」
そう言いながらも、ユキの顔色は真っ青だ。
「怯えるのは構わない。ただ堂々としてろ。ユキは何も悪くない。分かるな?」
「堂々と?奴隷なのに?」
ユキの質問に俺は笑顔で応える。
「ユキは、俺の奴隷なんかじゃない。周りが何と言おうと、俺と共に旅する仲間なんだ」
「仲間?」
「そうだ。仲間としての誇りを持って欲しい」
ユキの表情は笑顔だが、ブルブルと震えは大きくなり涙が溢れ始める。
「お、おい。どうした?やっぱりギルドに行くのは辛いか?」
ユキはブンブンと顔を横に振った。
「違います。エルフは誇り高き種族。奴隷に堕ち、誇りを踏みにじられ、私の心は死にました。だけどジョー様は…再び、私に誇りを与えて下さった。その事が嬉し過ぎて…」
言葉に詰まるユキ。
気持ちは充分伝わった。気合い入ったぜ。
数時間後。
顔色が良くなったユキは弓を背負い、俺と共にギルドの扉を開けた。
そこには誇りを失くし、奴隷となった哀れなエルフは居なかった。
ギルド内に居た冒険者達は息を飲んだ。
たった1日で陽炎を壊滅させた男と、同様に肩を並べる美しいエルフの姿に。
「奴が陽炎を…信じられねぇ」
「おい。あのエルフ…逃げたっていう奴隷の?」
「馬鹿、滅多な事言うな。あのエルフ…目が死んでない。ありゃあ奴隷なんかじゃねぇよ。下手な事言うと殺されっぞ」
俺達が、受付カウンターに進むと皆が道を開ける。
「さて。ユキ行こうか」
「はいっ‼」
俺の隣には、誇り高きエルフが微笑んでいた。
…
……
続きを書くのにかなり時間が開きました。
すみませんです。
個人的な事で、多忙を極めておりました。
さらに本作の重要なプロットで、かなり悩んだ事がありました。
肝の部分なので、どうすべきか悩んだのですが、今は心定めて製作していきます。




