17章 陽炎討伐
エルフは肩を震わせ号泣していた。
理由は不明だが、エルフは完全に無力化したようだ。
残るは陽炎を含む"賞金首"5人のみ。
よし。やるかっ!
気合い入れに両拳を当てる。
ガチンっ!!
グローブの甲に縫い付けられた金属がぶつかり、大きな火花を散らす。
おぉっ!!派手だ。
「お、お前は、何者だ? エルフに何をした?」
男が額に青筋を立て、激昂している。
『この男が陽炎こと"アントン"です』
イリスが、視界に映る男達にマーキングを付けた。
激昂した男の頭の上に、緑字で陽炎と表示される。
一番奥に偉そうに座ってた奴だ。
職業は…えーっと"暗殺者"…か。
うん。よく見れば、強そうにも見える。
筋肉は少ないが、鍛え抜かれた細身の体。実力は有りそうだ。
地下に籠もっていても、体は鍛えているのだろう。
「返事なし、か。どうやって着替えたか知らんが、そんなのでビビると思ったか? 早着替えは、見世物小屋だけで済ますべきだったな。エルフは騙せても俺達は騙されないぜ」
俺はあえて無視した。見下された方がやりやすい。
この世界で初めて"変身"する人間を見たんだ。知らなくてもしょうがない。
これから"変身"する人間の"強さと恐ろしさ"を思い知れ。
返事が無い事に調子に乗ったのか、陽炎は喋り続けた。
「知らないようだから教えてやる。俺達はこの国最強の傭兵団だ。どんな商団だって俺達に護られれば、好きな国に行けるんだぜ。強さを知らないとは憐れだねぇ。そんな俺達を相手にしようとは…お前は馬鹿か?」
傭兵団とは笑わせる。
実際は護衛隊と名乗り、護るべき商団を"喰い物"にした盗賊団の癖に…
「あれあれー。俺達の強さを知ってビビっちゃったかー?」
「ここまで言われて何も言わないとは…臆病者は図星か? ふふん。コイツ見掛け倒しだぞ」
「エルフは使えんし、俺達で殺るか。手間掛けさせやがって…そのスカした仮面の下は、ブルってるんじゃねーのか?」
「面倒臭えな。俺が相手してやんよ」
魔術師と思われる男が、高速呪文を唱えた。
「でたー!魔術師アーロンの爆炎魔法!!終わったよお前!!」
「アーロンの魔法?じゃあ瞬殺じゃねーか。いたぶって殺すほうが面白いのになぁ」
「こいつウザそうだから、早く済んでいいんじゃね?」
アーロンとやらの呪文が唱え終わる。
「-・・…-地獄の業火!!」
爆炎の奔流!おぉ。これは凄い!
エルフの炎矢よりも数段強力な"地獄の炎"だ。
イリスいけるか?
『はい。余裕です』
連続した炎の奔流は、サンドバシリスクの放つ火球と違い、弾き返せない。
俺がイリスに聞いたのは、炎に焼かれても平気か?という意味だった。
俺は男達に向かってゆっくり歩き出す。
ゴォッ!!
視界が急激に明るくなる。
全身に叩きつけられる炎。
まさに業火だ。
風圧は感じるが、熱は特に感じない。
視界は白く灼け、何も見えなくなる。
しかし、ロックオンされた男達の位置は、ガイドと共に常に表示されていた。
白い業火の中、男達の笑い声だけが響く。
奴らは、俺が無抵抗のまま、炎に飲み込まれたように見えるのだろう。
「コイツ馬鹿だったなぁー。地獄の業火に焼かれるとは、助かる訳ないのになぁ。あひゃひゃひゃ」
「早着替えトリックでビビらそうなんて、甘すぎなんだよー。今頃灰になってんぜ」
俺はゆっくり前進を続ける。
「さてと、次は…エルフらに罰を与えないとな」
「全くだ。肝心な時に戦えないクズは、体に教え込まないとな。今日は眠れねーぞ。うひひひ」
うわぁ…ドン引きレベルの悪党だわー。コイツら。
『浄様。この不快な輩をヤっちゃって下さい』
イリス。了解だ。
『まもなく炎が弱まります』
眼の前の炎が薄れる。
「おいっ!見ろ!!」
業火を潜り抜け、男達の前に姿を現す。
炎に巻かれた甲冑は…無傷!
ヒルデの改造が効いてるな。
「ひぃっ!何で生きてる?」
「馬鹿なっ!!2000度を超える炎なのにっ!!」
「ば、化物だぁーー!!」
男達の悲鳴!
「鋼鉄も溶かす、地獄の業火だぞっ!なななな、何で焼かれない!!」
「何かの間違いだっ!もう一度っ!!」
再び業火で焼こうと、魔術師が構える…が、遅い。
『床運動マスター・起動』
「とぅっ!!」
シュっ!クルクルっ!!
俺は軽くジャンプしたつもりだったが、見事な宙返りが決まる。
眼の前に現れたのは、魔術師の驚愕した顔。
また魔法を撃たれたら面倒だ。
ガシっ!!
ロッドを掴む。
拳で叩き折ってやる。
「馬鹿がっ!このロッドは術者以外が触れると、呪われるのだよ。貴様、即死だ!」
えーっと。
得意そうにしてる術者が可哀想になってきた。
何ともないんだが…
「しかも、ロッドには何重にも強化魔法が掛けてある。折れる訳がなかろう!」
バキンっ!!
魔法で何重にも強化されている筈のロッドは、いとも容易く折れた。
強化された強度を、はるかに上回る力で破壊すればいい。
そうすれば、割り箸を折るような容易さだ。
『浄様にはいかなる呪術も通じません。強化魔法も無意味です』
ですよねー。
「あぁぁぁっ!俺の考えた最強ロッドがっ!!」
嘆く魔術師の両肩を掴み…
「うわっ!ひっ!やめろぉぉぉぉっ!」
バキバキ…
「うっぎゃぁぁぁぁっ!」
肩の骨を粉砕する。
『浄様、後方から剣士が接近。注意して下さい』
剣士は放置して、先に両肩を潰した魔術師を終わらせよう。
バキんっ!!
絶叫する魔術師の背中に蹴りを入れると、意識を失い倒れ込んだ。
じょジょジョじょー…
魔術師の股間が濡れて、水溜りを作る。
あーぁ。失禁&失神だな。
「化物がぁっ!!喰らえ!超武雷神斬っ!!」
ガツン!
俺の頭部に剣が叩き込まれた。剣士の渾身の一撃なのだろう。
勢い余った剣は、俺の肩に食い込む。
『無傷です』
イリスに言われるまでもない。
痛みも、衝撃すら感じていない。
「斬撃強化を掛けた俺の一撃が…」
『カラテマスター、起動!』
振り返りざまに、水平瓶斬り!
刀身に水平チョップを当てる。
キンっ!
「えっ!?」
剣士が驚く。
鍛え上げられた剣が音を立て折れた。
ヒュンっ!
クルクルっ!カッ!
折れた剣先はクルクル回り、陽炎の鼻先をかすめ、壁に刺さる。
「ひっ!」
固まる陽炎。
「ありえんっ!この剣はミスリルだぞっ!」
そんな事言われても、折れたんだからしょーがない。
信じられないといった表情だ。
剣士の腹部目掛け、抜き手を放つ!
ズボんっ!
甲冑の隙間を折り曲げ、剣士の腹部に手刀がめり込む。
「ひぐっ!げげげげーっ!」
吐き出す剣士。抜きざまに肋を内側から数本折る。
ボキンっ!グキっ!
「ひゃぐぅぅぅぅ!」
吐瀉物を撒き散らしつつ悶絶失神する剣士。
「おいっ!おまえら、まとめて掛かれっ!!」
陽炎の命令に、男2人は顔を見合わす。
明らかに、恐怖で腰が引けている。
爆炎の中から脱出し、次々に無言で倒していく様は、まるでホラー映画のように見えるかもしれない。
そろそろキメないとな。
「貴様らの、数々の悪事…許せんっ!」
俺が言葉を発する事で、「自分が正義のヒーローです」アピールになる。
残った男2人は、やけくそ気味に突っ込んできた。
両手剣とスティレットだ。
「このぉっ!とぅっ!」
前方に軽くジャンプし、先頭の男と間合いを一気に詰める。
同時に強力な回し蹴り。一周目!
キンっ!
両手剣を蹴り飛ばす。
高速の回し蹴り"二週目"が襲いかかる!
ドカんっ!
先頭の男は10メートルほど吹っ飛び、壁に激突。動かなくなる。
回し蹴りは三週目に入り、後ろの男を蹴り飛ばす。
バキんっ!
三周の遠心力をたっぷり載せた蹴りで、前の男と同じように壁に激突し動かなくなる。
やべ。強く蹴りすぎたかも。
急いで治療しないとヤバそうだ。
俺は、振り返り声をかけた。
「よぉ。アントン。そろそろ観念したらどうだ?」
ガクガクと震えだす陽炎ことアントン。
「何故…その名を知っている…誰もしらない筈だ!!!」
思わず笑いが込み上げる。
「ククク。強さを知らないとは憐れだねぇ。なぁ、アントン」
「な、何者か知らないが、好き勝手出来るのも今の内だ。考え直せ。遅れているが間もなく仕事を終えた陽炎盗賊団が帰ってくる。そうしたらお前、終わるぞ」
あぁ。俺達がこの街に来る途中、殲滅した盗賊団のことか…
「盗賊団なら、帰って来ねーよ」
「何故そんな事を…まさか…」
アントンの顔が青くなる。
「ご明察。その"まさか"さ。奴らなら、もう捕まってるよ」
「ひいっ!!なななな、何者だ、いや…どちら様でしょうか? 何か目的があれば仰って下さい」
アントンの凶悪なオーラが、みるみる萎えていくのが分かる。
「目的ぃ?んなモンねーよ。悪さする奴を許せないだけさ」
そう言いながら、俺はアントンに近づく。
「じ、自首します…自首しますからぁ。なーんてなッ!」
そう言いながら、アントンの手の中に鋭く研がれた三角形の金属片、通称「隠器」がチラリと見えた。
隠器には毒が塗ってあるに違いない。暗殺者の割にセコいやり方だ。
ドカンっ!
強烈な前蹴りで、アントンの股間を蹴り潰す。隠器は衝撃でカチャリと落ちた。
「ひゃぎぃぃぃぃぃっ!!!!」
アントンは泡を吹いて倒れ込む。激痛で気絶したようだ。
ふぅ。
『完全制圧完了です。ターゲットを含め全員生存を確認』
今回も"殺さず"に済んだか。
『浄様はお優しいですから』
イリスは、俺が甘いと言いたそうだな。
『そんな事はありませんが…不殺に、全てを解決出来るとは限りません』
分かってる。あれだけモンスターを殺してるんだ。
いつか、人や知的生物を殺す日は来るんだろうな。覚悟はしてるんだ…
『出過ぎた事を言いました。申し訳ありません』
あぁ。イリス気にするな。
「終わったようですな」
ゼルが現れ、賞金首達を拘束していく。
「もぅ私、魔力枯渇寸前ですぅー」
そう言いつつも、ハルがテキパキと、賞金首に治癒魔法を掛けていく。
あとは…っと…
頭を地につけ、号泣するエルフ…
ファサっ。
近くの布を掛けてやる。
裸だと目を合わせづらい。
「武装解除!」
俺の言葉に反応し、イリスが軽装甲冑を転送する。
通常の服装に戻った俺は、エルフ達に話しかけた。
「大丈夫か?」
「はい。神様…助けて頂き、ありがとうございます」
エルフの一人が顔を上げる。
う、美しい。
エルフは美形が多いってのは本当だったか。
「俺は神なんかじゃない。名前はジョー。人間だ」
手を差し出す。
それを恐れ多いといった風に顔を横にふるエルフ。
「いえ、貴方様は神様です。一瞬で顕現されたあの姿。そして…あの強さと、私達を助けようとする優しさ…例え人間だったとしても、私にとって貴方様は神と同じです」
エルフの美しい顔が、眼を赤く腫らし、かえって艶めかしい。
瞳からはボロボロと大粒の涙が流れている。
余程辛かったのだろう。可哀想に…
「ジョー様、エルフをこのままにしておくと、また捕まって奴隷にされてしまいます。森に帰してあげないと…」
ハルの意見に賛成だ。
この現場は間もなく、ギルドから警護と確認の連中が来る。
現場にエルフが居ると、陽炎の財産として"接収"されてしまうかもしれない。
「分かった。エルフたちに布か服を。宿に連れて行く」
心配そうにしていたハルの表情が、一気に明るくなる。
後始末はゼルに任せ、俺とハルはエルフを連れ、宿に戻った。
…
……
陽炎との戦闘シーンです。
本当はもっと色々やりたかったのですが、次の戦闘までお預けでヤンス。
ブックマーク、レビュー(最新話後ろに評価欄があります)、ご感想頂けると超嬉しいです。モチベーションアップにご協力くだちゃい。
まだ物語前半ですが、本当に書きたい内容まではまだまだ掛かりそうです。
それまでは、普通とちょっと毛色の違う異世界モノとしてお楽しみ下さい。
この物語は、予想を遥かに超えた展開を目指し突き進んでいきます。
私事ですがー…
社員登用合格しましたー。ふぅ。
試用期間3ヶ月を過ぎると、比較的自由時間が多い仕事なので、更新がんばりましゅ。




