15章 メタモルフォーゼ!!
『浄様。大変長らくお待たせしました。ポスパのスキャニングを完了致しました。街に滞在する全ての人物の行動、現在地を表示可能です』
おぉ。イリス待ってたぜ…っていうか、凄いな。
全ての人間の行動をリアルタイムで把握かよ。
『お褒めの言葉。有難うございます。早速ですが…』
あぁ。"陽炎"の居所を教えてくれ。
『"陽炎"本名"アントン"は、先日確保した"陽炎盗賊団"の残存兵に護られ、街中心部の教会地下に匿われております』
うっわー。陽炎さん本名バレてやんの。アントン君w…恥ずかしいなぁ。
「ゼル。陽炎(笑)の居場所が分かったぞ」
「もう判明したのですか。流石ですな。で、一体どこに…」
「街の中心部にある教会だ」
「なるほど…教会とは、奴らも考えましたな。賞金首が隠れてるとは思いませんからなぁ」
「それだけじゃない。奴は、例の"陽炎盗賊団"のボスらしい。今も残存兵力が教会を警備してる」
「そりゃあ、厄介ですな。何人程居るのでしょう?」
『解答…教会を警備する兵力は15名。内"陽炎"を含む5名が賞金首です』
イリスの即答。
「15名だそうだ。しかも賞金首が5人居る」
「それなりの手練れでしょうなぁ。腕がなりますぞ」
ゼルは嬉しそうに剣の研ぎ具合を確認する。
そんなに鋭くしたら、簡単に殺してしまいそうだ。
「おぃおぃ。今回は、殺さず捕らえる予定で行くぞ。徹底的に戦闘を演出して、奴らに恐怖を植え付けてやる」
ゼルは俺の言葉を聞き、笑顔のままブルっと震えた。
「ジョー様がそんな事を言い出すと…何をなさるか楽しみ過ぎて、身震いしてしまいます。」
「まぁ、見てろ。ゼルは俺の後方支援を頼む。殺さない程度に痛めつけて構わん」
「殺さない程度ですか…まぁ、出来る限り努力致します」
「ジョー様。私は何をすれば…」
ハルも張り切っている。
「危ないから、ハルは宿に待機して…って凄い顔だな。不満か?」
「不満ですぅ。私だって役に立ちたいので、連れて行って下さいぃぃ」
へぇ。ふくれた表情も、なかなか可愛いな。
「うーん。しょうがないなぁ。じゃあ手伝ってくれ。だけど、本当は連れて行きたくないんだ。特に今回は危ないんだぞ」
「構いません。危険は承知です。周りには十分注意しますから」
「わかった、分かったよ。じゃあ教会の外で隠れていてくれ。怪我したら回復してもらう。捕縛した敵もある程度は回復させたいし…頼めるか?」
「はい。分かりました。回復サポート頑張ります」
イリス、ハルを常にモニターしてくれ。
万が一、ハルに危険が迫ったら戦闘中でも構わない、すぐに教えてくれ。
『畏まりました。浄様』
戦闘は教会内になるだろうし…これでハルは大丈夫だろう。
ゼルはどこからか用意したのか、サビが浮いた鉄製の甲冑を身に着けていく。
鉄製で肉厚だが、甲冑はかなり重そうだ。
さらに、錆だらけでボロすぎ。売り物に出来ないレベルだ。
そう言えば、防具屋の前に"ご自由にお持ち下さい"の鎧や兜があるらしいから、それを拾ってきたのだろう。
俺に金が無いせいで、ゼルには苦労かけてるなぁ。反省だ。
今回稼いだら、真っ先にゼルの装備を整えよう。
宿屋を出ると、辺りは暗くなっていた。
『浄様、宿屋の前から付けて来る人物が居ます』
っ!!
誰だ?
『ギルドで絡んできた男の一人です。データには有りませんが、陽炎と繋がってるかもしれません』
ふむ。その根拠は?
『私達がギルドを出た後、一度教会に"連絡"に行き、その後…宿の前で見張っていたようです』
俺達が陽炎を狙ってる事を密告したのか?
どうする…捕まえるか?
「ゼル…聞こえないふりをしながら、俺の話を聞け」
俺は、ゼルにしか聞こえない程度の小声で話しかけた。
ゼルは沈黙したまま、俺の後をついてくる。
「追跡者が居る。ここで捕まえてもいいが、このまま放置して気付かないフリだ。後で合図したら真っ先に追跡者を確保してくれ。分かったら咳払いを頼む」
「ウエッホン!」
わざとらしいゼルの咳払い。OKだ。
そうこうしてる内に、教会前に辿り着いた。
後ろの追跡者の様子が変化した。
明らかに慌ただしい。
迷いなく教会を目指した時点で、俺達が陽炎の居場所を知っていると理解したようだ。
早く教会内に居る仲間に知らせたいだろうな。「緊急事態だっ!!」ってね。
あ、でも…魔法で連絡されたりしないかな?
『正解です。追跡者は、以心伝心の魔法を所持しています。先程、教会内の仲間に連絡したようです』
イリス、そこまで分かるんだ?
ってか、早く教えてくれよぉぉぉ。
まぁいい。行動開始だ。
「ゼル。出番だ。後ろの追跡者を捕らえてくれ」
「御意!」
シュッ!
重い甲冑を身に着けてるとは思えない速さで、ゼルは後方の闇に消えた。
「き、貴様っ!ぐぇぇっ!!」
ゼルとは違う男の声。
「浄様。追跡者の確保、完了しました」
手ぶらでゼルが戻ってきた。その間およそ1分程か。
その間に、ゼルは追跡者を無力化、確保した訳だ。
やはりゼルは、恐ろしく強い。
魔力が回復し、本来の勇者レベルになったら、とんでもない強さになるだろう。
頼りになるな。
「逃げ出せないよう完全拘束し、ハルの所に置いてきました」
ハルが見張りか…今頃、追跡者の回復処置をしてるだろう。
ゼルの拘束なら、逃げ出せないだろうし安心してもいいかな。
『ハル様は現在、追跡者の回復処置を行いつつ、LV1程度の自白魔法を掛けています』
イリスの言葉に驚く。
へぇ。自白魔法なんてあるんだ?
魔法は何でもアリだな。
『自白魔法は、一部の魔族が使える低級特殊魔法です。ハル様は元魔王ですから、この程度の低級魔法なら契約なしで使えるのでしょう』
ハルにも、色々隠し技があるわけね。なるほど。
それにしても魔法で自白させるとは…驚きだ。
地球ではチオペンタールナトリウムといった、自白剤が有名だが…それぐらいの効果があるのか?
『はい。薬剤と違いある程度、指向性を持たせて、特定の情報を引き出す事が可能です』
ハルは追跡者から、イリスでも分からない情報を引き出そうとしてるのだろう。
ここはハルに任せておくか。
「ゼル。教会に入るぞ」
「仰せのままに」
俺とゼルは教会の扉を開けた…
ギィィィィ
重い木扉が開く音。
教会内部は広い。
中央最奥には、女神像が設置してある。
この星の神なのだろう…何となくヒルデに似てる像だな。
その女神像の前に、神父が立っていた。
「おやおや。こんな時間に礼拝ですか?」
穏やかな声と、わざとらしい微笑み。
営業をやっていた俺は、この笑みを知っている。
この手の微笑みは、人を安心させる効果がある。
あの牧場で見た、満たされた笑顔とは違う。
『浄様。気づいてますか?』
あぁ。分かってる。神父は、陽炎の仲間だろ?
第一、陽炎は教会を隠れ蓑にしてるんだから、神父は仲間なのは当然だな。
『その通りです。お気をつけ下さい。神父は投げナイフと短剣を装備しています』
はい。黒確定。聖職者が刃物かよ。まぁ、遠慮はいらないな。
「神父様、お騒がせしてしまい申し訳ありません」
ゼルが前に進み出て、神父の前に片膝を付く。
ガチャ。
重々しいゼルの甲冑が、地に触れ音を立てる。
ヤバい。
ゼルは気付いてないのか?
『警告。浄様。周囲に9名隠れています』
イリスの警告。神父を入れて10名か。
多いな。
「お気になさらずに。神は、迷える子羊に対し…いかなる時でも、門戸を開けておられます」
神父は、ゼルの頭に手を触れようとした瞬間!
ギィんっ!!
激しい金属音。
神父の手には、いつのまにか現れた短剣が握られていた。
それをゼルが、手甲で弾き返した音だった。
達人になると、殺気に対して自然と対応してしまうらしいが、ゼルもその部類なのだろう。
「神の名を語り、短剣で迷える子羊を殺めるのが、神父様のお仕事ですかな?」
ゼルは、スックと立ち上がると剣を構えた。
「んー。お強いのですねぇー。面倒です。非常に面倒だぁー。素直に殺されれば良かったものを…面倒すぎる、めんどうー。いひひひひーぃ」
神父が本性を現した。
シュっ!
キィンっ!
投げナイフが、ゼルの前に落ちる。
ゼルの高速の剣戟が、投擲されたナイフを撃ち落とした。
速い!!
神父は、ゼルから離れ物陰に隠れる。
投げナイフの音を合図に、周りから男達が現れた。
手には、剣や鎖、魔法杖も見える。
実にバラエティ溢れる敵だな。
「神父様の仲間…ですかな」
ゼルは呟くと、男達に向き直る。
スススっ…
流れるような所作で、ゼルはユルリと動き出す。
まるで、気の合う友人に近づくような何気なさだ。
ゼルに注目していなければ、動き出した事すら気付かないかもしれない。
そして一気に間合いを詰め、剣で横薙ぎにする。
スッ!
二人の男の太腿からジワリと血が滲み…一気に溢れ出す。
ブシュウゥゥゥ!
「うわぁぁぁ。血がぁっ!血ぃぃぃぃ」
「あれっ?何で俺…血が…痛くないのに…あれ?」
2人の男の足は切断され、前のめりに倒れ込んだ。
恐らく状況すら飲み込めていないだろう。
大腿部の動脈が切られ、大量出血だ。
すぐにハルが治療しないと…死ぬな。
ゼルが執拗に剣を研いでいた理由が分かった。例え古い剣でも、念入りに手入れをすれば、斬撃音すら出さない恐ろしい切れ味になり得るのだ。
ゼルの動きは止まらない。クルリと踵を返すと、下から上へと剣を突き上げる。
スっ!!
音のない刺撃!
同時に2人の男の大腿部を貫く。
またしても太腿の動脈狙いだ。
ゼルが剣を引き抜くと、吹き出す血飛沫。
バタリと倒れ込む男達。
えーっと。俺、何もやってないんだけど…
ゼルは次々に、男達の太腿動脈を切り裂いていく。
攻撃魔法も飛び交うが、ゼルが剣を振るうと"剣気"だけで魔法が掻き消された。
あの程度の魔法では、ゼルに効果ないな。
男達は動揺し、恐怖し、パニックが伝染していく。
多勢で囲んでいた筈の男達は、我先にと出口に殺到し、逃げ出そうとするが、ゼルが効率よく狩っていく。
ははぁーん。分かった。俺出番ないわ。コレ。
倒された奴らも、失血死する前にハルの魔法が間に合って治癒できるな。
物陰で様子を伺っていた神父は、瞬間的に形勢が逆転した事を察し、女神像の裏に隠れた。
『浄様。隠し扉が開きます』
イリス指摘通り、神父は女神像裏にあるボタンを押し、地下へと続く"隠し扉"を開いた。
ここは、俺の出番は無さそうだし、神父の後を追うか。
「ゼル!ここは任せた。制圧したらハルと合流しろ。殺すなよ」
「御意っ!」
威勢のいいゼルの返事を背中に受け、俺は隠し通路へと入る。
…
……
下へと続く長い階段が見える。相当深い地下だな。
『この先に、5人の賞金首と神父が居ます』
ふむ。陽炎は?
『はい。確認出来ます。ただ…』
ただ、何だ?
『人間ではありませんが、エルフの奴隷を連れているようです』
エルフって、あのエルフか?
耳の尖った、色白の美男美女を想像する。
『はい。浄様の想像通りのエルフです。愛玩奴隷として身の回りに置いていたようです』
人質か?何故早く教えなかった?
『人ではありませんので、お伝えすべきか迷いました。この世界では、エルフと人間は不仲故、モンスターに分類してもおかしくありませんので…』
そういう事か…で、エルフを盾にしているのか?
『はい。扉を開ければ分かります。エルフは武装しています。魔法火矢に気をつけて下さい』
「面倒です。全く面倒な事になりましたぁぁぁぁ!!」
そう絶叫しながら、神父が扉を開けると…
ヒュン!ヒュヒュンっ!
ドっ!!
エルフの放った"火矢"が神父に突き刺さる。
「ひぁぁぁぁっ!」
ゴォォォォォォっ!!
神父は絶叫と共に炎に包まれた。
一瞬で火達磨か…かなりの火力だ。
ただの火矢じゃないな。爆発的な燃焼魔法が練り込まれている。
当たれば黒焦げだ。
神父の体は消し炭になり、床に散らばる。
凄まじい熱風の中、エルフ達が弓を構えてるのが見える。
エルフの数は3人。全員裸の女だ。
その3人の後ろに、椅子に座りニヤニヤする男の姿。取り囲むように剣や杖を持ち様子を伺う男達。
エルフの奥に居る奴らが、ターゲットだな?
『はい。正解です。エルフ達は、強制魔法で奴らの命令に従っているようです』
ふむ。無理矢理戦闘させられてるのか…哀れな。
エルフか…殺したくないな。
ヒュン!ヒュッ!
火矢が飛んでくる。
『ニンジャ上忍、起動』
パシっ!
矢を掴みエルフの前の床に投げ返す。
爆発的燃焼のスイッチは鏃だ。
矢の軸を、掴む事は出来る。
ドオンっ!
エルフの前で火炎が上がる。
今なら、奴らの目の前は炎で見えない。
やるなら今か?
『浄様。打ち合わせのアレ、やりますか?』
あぁ。
『今すぐ可能ですが、ヒルデ様からアレはスタートまで少し待てとの事です。ポーズをとったままお待ち下さい。合図したら例の掛け声をお願いします』
えぇぇぇ。何する気だよ。
よくわからないが、俺は仁王立ちのまま待つ事にした。
♪~♪~
な、何だ?音楽が流れ始めた…何これ…どこから…
「♪愛する者の居ない、地球を捨てた♪」
う、歌ぁ???
「♪違う宇宙の下で、もう一度生きよう♪」
炎が少しずつ薄れていく。
「♪灼熱の風、切り裂く拳、幻影と踊る♪」
前方の様子は…全員ポカーンとしている。まぁ。そうだろうよ。
調子に乗ったように、さらに頭に響く曲は段々と大きくなっていく。
ここはヒルデの好きにさせてやろう。
とりあえず、俺は炎の中で格好良く立っていた。
「♪触れた唇の冷たさが、君の弱さを知った♪」
「♪自らに枷、重き大地、身動き取れず♪」
ってか、ヒルデの奴、フルコーラス流す気か?
「♪足掻く、足掻く、足掻く♪」
「♪血と涙混じり合い、泥にまみれ♪」
エルフは呆気にとられてる…いや違う。
目を「カッ」と見開き、俺を凝視している。
あ、あれ?エルフの様子がおかしいぞ。
「♪目を閉じると…君は言った♪」
「♪貴方が居ないと寂しい♪」
完全に固まったエルフの瞳に…"涙"が流れた。
えぇー…
「♪自らの枷、絡み合って、体に溶ける♪」
「♪壊す、壊す、壊す♪」
一体エルフに何が起こった?
「♪凍りつく血の叫び、虚空に消え♪」
「♪鎖を絶ち…君を抱いた♪」
男達は、直接頭に響く曲と歌に動揺してキョロキョロしている。
「♪貴方が居ないと寂しい♪」
『浄様。そろそろです』
ヒルデの合図だ。
俺は片手を上げ、ゆっくりと拳を作り…
胸に下ろす。
「♪逃げられない希望♪」
「♪消え去らない野望♪」
そして両手を広げた。
「♪全てに立ち向かおう♪」
本当にヤルのか?やっちゃうのか?
俺は自問自答しつつ…
よし。今だ。
「変ー身!!」
叫んでいた。
俺の"合図"に反応し、全身に光の粒子が降り注ぐ。
瞬間的に、熱風が上昇気流を作り…
0.02秒で装着された、黒い軽甲冑が鈍く炎を反射し、赤いマフラーが上へとたなびく。
その姿がスローモーションのように再生される。
「ブラックナイツ!推参!」
ギィーンっ!
ナゾの効果音と共に、仮面の眼が赤く光った!!
ヒルデの魔改造か…
エルフ達はヘナヘナとへたり込む。
弓は打ち捨てられ、顔を覆い、号泣している。
えぇぇぇぇ。何が起こった???
いや。マジで。
…
……
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一人増えるたびに、超モチベーションが上がりまくりです。
制作の糧になっておりますぜ。兄貴ぃ。
そんな訳で、ぜひぜひ宜しくお願い致しますー。
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メタモルフォーゼ(ブラックナイツ変身のテーマ)
作詞 ヒルデ 作曲 イライザ
愛する者の居ない、地球を捨てた
違う宇宙の下で、もう一度生きよう
灼熱の風、切り裂く拳、幻影と踊る
触れた唇の冷たさが、君の弱さを知った
自らに枷、重き大地、身動き取れず
足掻く、足掻く、足掻く
血と涙混じり合い、泥にまみれ
目を閉じると…君は言った
貴方が居ないと寂しい
自らの枷、絡み合って、体に溶ける
壊す、壊す、壊す
凍りつく血の叫び、虚空に消え
鎖を絶ち…君を抱いた
貴方が居ないと寂しい
逃げられない希望
消え去らない野望
全てに立ち向かおう
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ヒルデの暴走により、変身シーンに曲が流れる仕様に。
ヒルデ…恐ろしい子。
この時、エルフの心境に何が起こったのか。
次の章で明らかになります。
もう一度いいます。ヒルデ…恐ろしい子。
私事通信。
正社員になるお仕事の面接に行ってきました。
比較的時間が取れる仕事なので、合格したらガンガン活動しますよー。
受かってるといいなぁ。




