11章 黒き戦士誕生!
――★前回までのあらすじ★――
浄が惑星マリアに最初に降り立った頃、
衛星軌道上からヒルデは熱い視線を送っていた。
彼女の想いは届くのだろうか?
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ガタン、ゴトゴト。
ガタゴトと進む馬車。
いてて…腰が痛いな。
ゼルとハルが交代で御者をしてくれたが…俺も、馬車の操縦を出来ないとなぁ。
『浄様には、“ベン・ハー”がインストールされておりますので、馬車の操縦が可能です』
イリス。それなら早く言ってくれよ。二人にだけ苦労させて悪いだろ?
『大変申し訳ありません。以後気をつけます』
それじゃあ、御者を交代してもらうかな。
と、その時。
ブーブーブーっ!
何この音っ!電子音?
『浄様。異常事態発生です』
イリスの警告と同時に、右目網膜にマップが表示される。
『2km先で、商人の馬車が、盗賊の集団に攻撃されています。どうしますか?』
どうしますかって…
ヴォンっ!
衛星軌道から撮影されたのか、ライブ映像が表示された。
そんなの、助けるに決まってるだろ。
「ゼル、ハル。この先で盗賊が、商人の馬車を襲ってるらしい」
「何ですと、それは本当ですか?」
ゼルは前方を見渡すが…何も見えない。
「ジョー様は、見えない場所が見えるのですか?」
ゼルは呆れるように驚いた。
「なんと凄まじい。千里眼ですな」
「あわ、あわわわ…」
ハルは、盗賊と聞いただけで真っ青になって怯えている。
村での生活で、盗賊の怖さをよく知っているのだろう。
状況は一刻を争う。俺はバイクに手を掛けた。
「馬車だと間に合わない。鉄馬で助けに行く。ゼル、馬車を停めて、下ろすのを手伝ってくれ」
バイクを降ろす間、ハルは村から貰った武具をかき集めていた。さっきまで怯えていたのに。いい子だ。
緊急時を理解してるのか、二人の動きは素早い。
「ジョー様、これに着替えて下さい」
ハルから革の軽甲冑を受取る。
真っ黒な革で出来た甲冑。かなり軽装だが、手から足元まで完全装備だ。弱い斬撃や弓なら、ダメージを抑える事が出来る。
「これは鍛冶用ですが…」
そして、黒革の仮面。
鍛冶仕事で、顔を保護する仮面らしい。通常は戦闘には使わないが、無いよりはマシだ。村長達の好意だろう。
目の部分は丸く金網で出来ている。若干暗くなるが、視界もある。
呼吸も、スリット穴で問題ない。まるでヒーロー物の仮面に見える。カッコいいぞ。
ヒルデが見ていたら、大喜びする部類だ。
「ありがとう。付けていくよ」
有り難く受け取り、装備していく。
「ジョー様。黒衣で首を晒したままですと、目立って狙われてしまいます。何か首に巻いたほうがいいですな」
ゼルが周りを見廻す。
ハルとゼルの視線が、一箇所で止まる。
真っ赤な長いストール。
俺の肩を温め、全裸のゼルの腰に巻いた(…)、思い出深いストールだ。
ハルが小さな声で…
「洗濯したから、大丈夫ですよ…」
と、呟いた。
う、うん。ありがたい。
首に飛ばされないよう巻きつける。
長いストールを背中に回すと、腰までの長さがあった。
結構長いな。ま、いいか。
完全装備でバイクに跨ると、ゼルが馬車内に有った唯一の剣を、俺に手渡してきた。
「ジョー様、これをお使い下さい」
「いや、剣はゼルが使ってくれ。俺はコレでいく!」
ゼルに拳を見せた。
「なんと、剛毅な。武器なしで戦うのですか?」
「あぁ。体一つで充分だ」
ポカンとしたゼルの肩をポンと叩き、俺はバイクを発進させた。真っ赤なストールが長いマフラーのようにたなびく。
完全に"特撮ヒーロー"のようだ。
「私達も後から追いつきますから、無理はしないでくださいー」
ゼルの声が小さくなっていく。
バイクのスロットを開く。
いくぞ!全開だ!!!
…
……
「俺達『陽炎盗賊団』に逆らうのが悪いんだよー」
「そーゆー事。おい、その女、終わったら俺に回せよ。我慢出来ねーよ。ひひひ」
「もう4人相手して、気ぃ失ってんぞ。息してんのか?」
「俺はよー。反応無くなって、人形みたいなのがいいんだよ。ベトベトなのは頂けないがなぁ」
「おい。商人のオヤジの首切ったら、刃が欠けちまったよ。最悪だぁー」
…
……
少年は、馬車の布袋に隠れて、ガタガタと震えていた。
商人を護る護衛隊が、まさか盗賊団だったとは…父は首を斬られ、母は男たちに嬲りものにされた。
残されたのは、隣の布袋に隠れた姉と、自分だけだ。
「さてと、お荷物でも確認するかねぇ」
馬車の中に、盗賊が入ってきた。
もう終わりだ。
震えを止めようとしたが、さらにガタガタと震えてしまう。
その時。
「もう止めてよっ!」
姉が袋から飛び出した。
「おぉ?そんな所に隠れてたのか?ちびっと歳は足りないが、ギリ楽しめる体か?」
「きゃあ!」
悲鳴!
姉さんが危ない。
「わぁぁぁー!」
小さいナイフを取り出し、僕は袋から飛び出した。
そして目の前の男の足に、ナイフを突き立てる。
ガキンっ!
男の足は鎖で防御されていた。
「おー。危ねぇ。もう一匹居たか。コイツはガキ専門の奴に売るか?」
男に首を捕まれ、姉と僕は馬車の外に引き摺り出された。
もう、死んじゃうのかな。
その時、遠くから謎の音が…
ゥー…
「何の音だ」
盗賊の一人が辺りを見渡す。
ヴーっ!
音が大きくなる。
ヴァン、ヴゥーン!
そして空中に飛び出す黒い影!
…
黒い人?
影のように黒い人…
その首からは、真っ赤な布がはためく。
乗ってるのは、黒い馬?
違う、黒い塊に男は乗っていた。鉄の馬?
「な、何だコイツ?」
「ヤバそうだぞ、戦闘準備だっ!」
黒い人は、鉄馬から飛び降りながら、盗賊の一人を蹴り飛ばす。
速度の乗った、強烈な蹴りだ。
蹴られた盗賊は、口から血を吐き出しながら、大きく吹き飛ばされた。
…盗賊は立ち上がらない。白目を剝いて気絶している。
黒い人、いや、黒い戦士はクルクルと空中を回転した。
鉄馬は自然に止まり、その上に、戦士はストンと立った。
両手を広げ、十字に立っている。
その姿はまるで…
神か…それとも…悪魔?
日差しが黒い人に降り注ぐ。なんと神々しい…。
…
……
………
ほんの少し前。
…
イリス。あとどれぐらいた?
『間もなく視界に入ります。子供が馬車から降ろされました。非常に危険です。急いで下さい』
と、同時に視界に馬車が見えた。
瞬時に状況を把握する。
倒れている女性は裸だ。胸糞悪いが、何が起こったか予想出来る。
首を斬られた死体。
転がった頭に、欠けた剣が刺さっていた。
そして涙を流しながら髪を捕まれ、引き摺られる少年と少女。
これは映画やアニメじゃない。本当の惨劇だ。
凄まじい嫌悪。そして…
やべぇ。怒りがコントロール出来ない。
右目の網膜に、敵と被害者が、色分けマーク表示される。
敵は赤。被害者は緑。
『バイクの操作を自動にします。浄様。あんな奴ら、さっさとヤって下さい』
イリスの語気にも怒りを感じる。OK。遠慮は無用だ。
『スーパースタント、起動』
バイクから飛び降りながら、盗賊の一人の下半身を蹴る。
ゴキンっ!
盗賊の背骨が砕けた感触。
殺すつもりは無いが、手加減無用だ。
反動で回転ジャンプし、バイクの上に立つ。
周りの盗賊たちは、何が起こってるのか理解出来ずにいる。
俺は|両手を広げ、武器を持たない事をアピールする。
「さぁ!ヤろうか!」
『カンフーマスター、起動』
ハッとした盗賊の一人が、剣で斬りつけてくる。
対して、全力の回し蹴り。
刃の根元を、横から蹴り飛ばす。
キンっ!
剣ごと吹き飛ばすつもりだったが勢いが鋭すぎて、刀身が折れて飛んでいった。
残った柄だけを握り締め、ボー然とする男。手刀で手首を叩く。
ボキンっ!ズバっ!
両手首を折り、痛みで倒れ込む男の足を踏みつける。
バキっ!
両手両足を折られた男は気を失った。
ヒュン!
飛んできた矢を、軽く避ける。
遅い!遅すぎる。この速度の矢なら手で掴めそうだ。
アーチャーの正面に立つ。
「ここを狙え」
俺は胸をトントンと指で叩く。
ヒュンっ!
「はっ!」
気合いと共に、弓を掴む。
俺の胸の直前で、矢は止まった。
『ダーツプレイヤー、起動!』
一瞬で、掴んだ矢を投げ返す。
「グガァァッ!」
アーチャーの肩を矢が貫く。勢いが強すぎて、腕が千切れ掛かりブラブラと垂れ下がる。
『カラテマスター、起動』
力強い下段蹴りで、アーチャーの足を圧し折る。
振り返りざま正拳突で斬りかかって来た男を撃ち抜く。
一撃、左肩。二撃、右肩。
粉砕骨折だな。
『カポエイラマスター、起動』
足で男の左足を蹴り上げる。足技に特化した格闘技だ。狙いは外さない。
男が、勢いよくクルクルと宙を舞った所を、回転蹴りで、正確に右足を蹴り折る。
回転が宙で停止し、そのままドサリと地に落ちた。
「や、ヤバいぞ。に、逃げろ」
残り4人の盗賊が馬に跨がろうとする瞬間。
『ウォーターカッター、起動!』
シュンっ!
ズバっ!ズババッ!
足首から下を切り飛ばしていく。
「ひゃぎぃっ!」
「ハガァッ!」
奇声を上げる盗賊達。
ドサっ!
ドカッ!
ドチャっ!!
足首を切り落とされ、鐙に踏ん張る事が出来ずに、落馬していく。
「これで、全部か?」
『はい。全ての盗賊が無力化されました』
イリスの報告を聞き、急いで裸の女性の元へ駆け寄る。
少年と少女が、女性に縋り付いていた。
「お母さんーっ!」
そうか。この女性は、この子達の母親か。
『残念ながら、既に事切れています』
「ウォーター」
裸の女性を優しく洗い流す。
「ひぐっ!うぅっ。ありがとうございます」
姉と思われる少女が、布で汚れを拭き取っていく。
「お父さん…」
弟と思われる少年は、父親の亡骸の前に跪いていた。
そこへゼルが馬車でやってきた。
「哀れな…」
ゼルは少年の父親の亡骸から、剣を引き抜く。
「うわぁぁー!」
少年は、ゼルが引き抜いた剣を奪うと、無力化した盗賊に剣を向ける。
「気持ちは分かるが、やめておけ」
俺は、自分が驚くぐらい冷静な声を出していた。
「見ろ。こいつらは二度と戦えん。これから、生きたまま地獄のような贖罪の日々を送らせるんだ」
ゼルが周りの盗賊達の様子を見る。
「ジョー様。小奴ら、全員生きているのですか?」
「あぁ。致命傷は与えていない。放っておけば絶命するが、今から治療すれば助かるだろう」
俺は片膝を付き、少年の顔を正面から見据える。
「どうしても我慢出来ないなら、このまま奴らを捨てていけ。そうすれば夜には全員死ぬ。お前が、自ら手を汚す必要は無い」
俺は言葉を続けた。
「だが、こいつらを生かして償わせたほうが、ずっと長く苦しむ事になる。ここで始末すれば、奴らは早く楽になるだけだぞ」
少年はコクリと頷く。
「どちらを選ぶか、君たち姉弟で決めろ」
俺は立ち上がり、盗賊達を拘束する。
馬車から降りてきたハルが、盗賊達に簡単な止血程度の治癒魔法を唱えていく。表情は…明らかな嫌悪だ。
姉弟が頭を下げた。
「黒い戦士様。奴らは生きて償ってもらいます」
本当は、今すぐ殺したいぐらい憎いだろうに。
二人の心の強さに感心する。
ゼルは馬車に、盗賊達の乗っていた馬を繫げていた。
「よく言った。小奴らは、この不自由な体で、罪人奴隷に落とすほうがいい」
ゼルの言ってる事は、遥かに残酷だった。しかし、死刑より苦しい罪人奴隷の日々こそが、奴らの罪に対して正しい選択に思えた。
俺達は姉弟を馬車に乗せ、馬車を二台引きにして街へと向かった。
…
……
ついに浄君が黒いヒーロー姿に。赤いマフラーがなびいてカッコいいです。
本領発揮はまだまだですが、少しずつヒーローの片鱗が見え始めます。
現実世界
眼の手術のおかげで、右眼の視力低下が収まりました。ただ、視差が酷くて眼が慣れていません。キャッチボールは出来ないですねー。こりゃ。




