0章 衛星軌道にて。
地球衛星軌道上。
母艦の甲板上で俺は胡座を組んだ。
艦に発生した弱い重力で、体が浮くことは無い。
俺は地球を背に、漆黒の世界を睨む。
地球の青い光が俺の周りを照らす。
俺を包む軽装外骨格は、体温を維持していたが、若干暑い。汗も滲む。
これは、緊張してるのか?
落ち着け…落ち着け…
すぅー。はぁー。すぅー。はぁー。
俺は深呼吸をした。
宇宙船外で活動出来るよう、艦の外周をグルリと空気の層を形成してある。
温度や放射線も自動で調整され、過酷な宇宙環境が快適な空間となっていた。
これらの機能は船外の点検修理に使うが、密閉された艦内のストレスを発散するのにも役立っている。
『浄様。間もなく第一波が到着します』
頭の中に響く、俺の名を呼ぶ声…イリスか。
イリスは、俺の脳内に組み込まれた、知的エージェントだ。
あらゆる面で俺をサポートしてくれる。
『第一波の数は30。亜高速で地球に衝突します。一つでも撃ち逃すと…地球は終わりです』
ふん。上等だ。イリス。最初から全力だ。サポートを頼む。
頭で考えるだけで、イリスとは会話が成立する。勿論、脳内会話なので誰にも聞こえない。
『畏まりました。地上の迎撃部隊は如何致しますか?』
地上は、仲間に任せる。
地球でも遠慮はいらない。
マリア星と同じつもりで、最強魔法を撃ち込め‼
『迎撃部隊に伝えます』
後ろに控えていた少女が、待ちくたびれたように話し掛けてきた。
「なぁ、浄。地上への命令は済んだのか?
ずっと黙り込んでいたが…」
独特な口調で、少女は俺の手を握る。
まだ幼さの残る顔、心配そうに俺を見つめていた。
「ヒルデ。そんな心配すんな。大丈夫だ。
お前の科学力と、俺の魔法は…無敵だ」
少女の手は震えていた。思わず強く握り返す。
少女は震える声で呟いた。
「あ、あぁ。錠、わかっている。こ、怖い訳じゃない。これは…そう、武者震いだ」
ヒルデの見た目は、美しい少女だ。
その見た目に反し、年齢は成人女性を遥かに超えているらしい…
全く、疑わしい幼さだ。
「浄。心配するな。お前の強さは、わたしが一番知っているからな!
お前は最強だ‼」
自分は緊張と不安で仕方ない癖に…優しいヤツだな。
『そうです。浄様に懸かれば、高速で飛来する物体すら、埃か塵かと。私の誘導で、全弾撃ち落としてみせましょう』
過度なヒルデとイリスの期待を背に、俺は立ち上がる。
「それじゃ、ご期待に応えますか」
少し前まで、この地球で職を失った俺が、全人類を護る為に、少女と二人、宇宙を凝視している。
全く…人生、何があるか分からないな。
『…っ!!
4時の方向、急接近する物体の炸裂を確認。目標数は…200に増えました!!』
物体?
例の隕石群だな。地球着弾前に分裂するとは…本気だな。
『物体を隕石群と仮定。接触は30000ms後。』
暗闇に向かい、衝撃波の魔力を放出する。
ズオッ!!
200程度なら、個別に破壊可能だが、衝撃波ならまとめて破壊可能だ。
放たれた衝撃波は扇状に拡がり、隕石群へ進行する。
安全の為、隕石群に接触後、衝撃波は霧散するように設定済みだ。
でないと、迎撃後に衝撃波は推進し続け、巨大宇宙災害になりかねない。
そろそろ、衝撃波が隕石群を破壊する筈だ。
『緊急事態です。隕石が解除魔法を展開』
「なにぃっ?魔法だって?隕石じゃないのか!?」
『衝撃波の魔法を解除されました。迎撃に失敗。
間もなく本艦に接触します!!』
全く、本当に…人生って奴は…
何が起こるか分からないなぁっ‼
「んの野郎ぉぉぉっ!!落としてやるっ!!」
両手に魔力を装填する。
特大魔法を打ち込もうとした瞬間…
「そうムキになるな。らしくないぞ」
耳元に響く、優しい声。
そして、俺の手に重なる、白く華奢な手。
過度な興奮状態から醒め、冷静になる。
ヒルデの声は、鎮静効果を与えてくれる。
「そうだ。落ち着いて、よく狙え」
微かにヒルデの声は震えていた。
緊張してるようだ。
『浄様。今です!!』
「おうっ!」
イリスの声に合わせ、貫通力の高い魔法を発動する。
今度は消させねぇよっ!!
発射により全身から巨大な魔力が喪失した。
ズオォォォォォッ!
巨大な爆発と閃光。
あの時、俺がこんな事になるなんて…予想もしてなかったな。
……
………
このプロローグから分かるかと思いますが、普通の異世界モノじゃないです。次章から、時が巻き戻り、異世界転移シナリオが始まりますが、どうやってこの0章まで辿り着くか、お楽しみに。
悪い事一杯考えてますよー。