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14 ケモノたちの静かなたたかい④

「……とにかく。怖いんですよ、埴生の雰囲気が」

 二月上旬も後半の、昼休み。

 春を思わせるのどかに明るい陽射しの下、グランド横の金網フェンスの前でしゃがんでコーヒー牛乳を飲みながら尊たちは、うつむき加減の倉田から話を聞いた。

「ナンちゅうのか。ナンかの間違いで魔王がとり憑いてしもた勇者、みたいな感じっちゅうか。元々顔もスタイルもエエ奴やからか、不健康そうに痩せて、暗ーいオーラまき散らして席に座ってるだけでも、異常に迫力があるんですよ」

「おうおう、魔王がとり憑いた勇者って……」

 大袈裟やな、と言いたそうに川野が茶々を入れるが、倉田は真顔で首を振る。

「先輩方も見たらわかります。アイツ、多分やけど復讐の鬼になってるんとちゃいますか?」

「復讐って。林のことシメるつもりなんか?埴生は」

 田中が訊くと、やや顔を強張らせて倉田は再び首を振る。

「林みたいな小物相手のオーラやないですよ、アレ。そもそもアイツ、林なんか徹底的に無視してますし」


 校長室への呼び出しがあった次の日からしばらく、林は学校を休んでいたそうだ。

 あの日の夜、林は突然ひどい熱を出し、身体が痙攣し始めたのだそう、親があわてて救急車を呼ぶ騒ぎになって、ちょうど埴生が退院するのと入れ違うように入院したのだそうだ。

 ストレスによる心身症だろうと診断され、三日ばかり入院していたという話だ。

 だが、それをきっかけに林の親子間で話し合うことが増えて、不仲が少し改善されたらしい。

 症状がどうにか落ち着いてきた今日、林は久しぶりに登校してきた。

 登校後すぐ、林は埴生に会いに来た。詫びを言うつもりだったのだろう。

 が……、ブリザード級に冷たい目で埴生からにらまれた後、林は完全に存在を無視されている、と。

「……自業自得やから同情しませんけど。それでも、ちょっと気の毒なくらいしょぼくれた顔でアイツ、自分のクラスへ帰っていきよりました」

 倉田は言い、口を引き結んだ。

 言いたいことを色々こらえている、そんな表情だ。



 あの件の真相を、尊たちは後輩連中にくわしく話さなかった。

 ただ、この件はもう終わったのだから絶対に蒸し返すなとは、強く言っておいた。

 少なくとも入院中は、後輩たちも林と普通に付き合っていた様子だったが、事の真相というのはどこからともなく漏れてくるものだ。

 林が、休み明けから妙にきちんと制服を着て登校してきた姿を見て、後輩連中は漏れ聞くあらましと、林が先輩方から縁を切られ、追放?されたのは本当らしいと覚った。

 林は自分からヤンキー仲間と距離を置くようになり、ヤンキー仲間はもっと林から距離を置くようになった。

 脱色した髪はそのままだったが、林がヤンキーをやめる方向へ舵を切ったと誰の目にもはっきりわかった。

 尊を始めとした先輩方に多大な迷惑をかけた林を、皆で一発ずつぶん殴ってやるべきだと言う者もいたらしいが、『終わったことは蒸し返すな』という先輩命令を、連中も一応順守しているようだ。


 倉田は佐々木と同じかそれ以上、林と仲が良かったから、色々と複雑だろうなと尊も思うが、この件に関してはどうしてやることも出来ない。



「闇堕ち勇者を正気に返すんは……」

 空になったコーヒー牛乳のパックをひょいと投げ、尊は苦笑いする。

「闇堕ちのきっかけをぶっ壊すしかないんやろうなァ。……俺、アイツにどつかれてくるワ」

 ギョッとした目を向けるツレ二人と倉田へ、尊は真顔で繰り返す。

「どつかれてくる。まあ、それでホンマにあいつの気が済むかどうかは五分五分かなと思うけど。ちょっとは憂さ晴らしになるやろうし」

「せやけど、何もお前だけが……」

 川野が言いかけると、尊は首を振る。

「いや、俺だけで済むかどうかはワカランで。場合によったらあの日の四人、全員ボコボコにせんとアイツの気が済まん可能性もある。せやけどまあ、その時はその時や。その時に対策考えたらエエ。……まずは。アイツの気が済むまで、俺をボコボコにしてもらお」

 アイツにとってこの事件のシンボルは、多分、俺やから。

 静かにそう言う尊を、みな黙って見ていた。

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