13 すべてが明るみに④
林はあからさまに怪訝そうな、どこかきょとんとした顔になった。
今回のこと――埴生に対してやった、非常に微妙な、わかりにくいカツアゲ――で尊に叱られるのは、ある程度こいつも想定していただろう。
が、そのことが何故『ヤンキーやめろ』につながるのか、理解出来ないようだ。
尊は深いため息をひとつ吐き、改めて林の目を見た。
困惑が混じった、落ち着かない怯えたような目。
晩秋のゲームコーナーで初めて林に出会ったあの日のことを、尊はふと思い出す。
「あのな」
それこそ噛んで含めるように、尊は説明することにした。
「ヤンキーっちゅうのは要するに、ワル……早い話が、やーさんとかとおんなじような連中やと、フツーの人間には思われてるねんで?悪どいことも平気でやる、面倒くさいことは暴力で解決する、そういう連中やと思われるてるねんで、お前ちょっと忘れかけてるみたいやけど」
林の目に、困惑の度合いが強まった。
「冷静になって思い出してみい、俺が初めてお前と会うた時のこと。お前は俺が近付いてきた時、とっさにブレザーのポケットにナンか隠したやろ?多分やけど小銭かメダルかを、俺……つまり有名なヤンキーの先輩に、全部盗られんよう隠したんやろ?」
林はしばらくぼんやりと考えていたが、アッと小さくつぶやき、顔色を変えた。
思い出したらしい。
「実際に悪どいことやってるかどうかは、はっきり言うて関係あらへんねん。ヤンキーってのはワルやとパンピーに思われる……思われるのを承知で『ヤンキー』やってる、アホのことや。お前がそうやって、髪の毛染めたりタバコ吹かしたり、誰彼にメンチ切ったりとゆう行動で、お前自身がいくら根はマジメやったとしても、見てくれと行動だけでワルやと決めつけられてしまうんや。例えば……学校でちょっと有名なヤンキーの先輩の名ァ出して、その先輩が金に困ってるとか何とか、におわすだけで相手にカツアゲやと思われてしまう程度には、な」
「……え?あ……えと、その」
急に林の視線が揺れ始めた。
今までヤツはそんなこと、まったく考えてなかったに違いない。
「……お前が。ただの気の弱いパンピーのままやったら、たとえおんなじようなことを言うたにしても、埴生はカツアゲやとまでは思わんかったやろうな。最低でも俺の名ァは出さんと、知ってる先輩が困ってるねん程度の話だけで止めてたら。埴生もここまで警戒したり、お前とカネで縁切りしようとまではせんかったかもしれへん。まあ……どっちにせよ。今更な話やけどな」
混乱した目をこちらに向けている憐れな少年へ、尊は、淡く優しく笑んだ。
「そんな色々がお前はわかってないし……わかる、ある種の才能というか感性というか、上手いことよう言わんけどそういうのんがなさそうや。それは別に悪いことやない。多分本来のお前には、必要ない才能なり感性やと思うねん。でもそう言うヤツは、ワル……ヤンキーは、やめといた方がエエと俺は思う」
林の目から光が消えた。
ヤツは尊へ向かってのろのろと頭を下げ、ゆっくりきびすを返して校門へと向かった。
その後ろ姿があまりにも寂しそうで、走って追いかけていきたいような衝動に駆られた。
しかし尊はその場にとどまったまま、金網フェンスにもたれて黄色く染まった夕暮れの空を見上げた。
(ヤッちゃん……)
深呼吸をくり返しながら、尊は心の中で泰夫へ話しかける。
(ヤッちゃん、つまりこういう状況が、『己れの不徳の致すところ』……っていうことなんやなァ)




